BELS制度がもたらす恩恵と影響(1)

BELSセミナー第一回『BELSってなに?』

Morimoto Tenki
HEAD Journal
9 min readNov 18, 2019

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出演者:晝場貴之・小原隆・竹内昌義・佐々木龍郎・丸橋浩

日時:2017年6月27日(火)18:30~

場所:3331 Arts Chiyoda

2020年に新築建築物の省エネが義務化される。こうした省エネに関する大きな動きに伴い、建築に関わるそれぞれの業界が今後どのようなかたちで変わっていくのか、どのように対応していけばいいのかを模索するため、2017年の夏に全三回のシンポジウムがHEAD研究会エネルギーTF主催で開催された。その第一回『BELSってなに?』は2017年6月27日(火)3331 Arts Chiyoda(千代田区)にて行なわれた。パネラーに日本ERI株式会社より 晝場貴之氏、株式会社日経BP社より小原隆氏をお招きした。今回は晝場氏のレクチャーをレポートしていく。

登壇者の晝場貴之氏(日本ERI株式会社)

全ての新築建築物の省エネ義務化が2020年に適用されることは学生の私でも知っている。では省エネ義務化とはなんなのか、なんとなく知っている。2020年以降、業界の体制が変わることはなんとなく想像できる。この「なんとなく」をはっきりとさせてくれたのがこのレクチャーであった。

以下の三点を軸に記していく。

・建築物の省エネ義務化とは

・省エネ義務化がもたらす影響

・なぜ今義務化をするのか

建築物の省エネ義務化とは

はじめに、省エネ義務化とは何なのか、について晝場氏による説明を示す。

現在、世界ではプリウスをはじめとするエコカーが売れているが、これはなぜか。それまでメーカーシェアのトップを占めていたガソリン車が、2008年の一時的なガソリン価格高騰を機にエコカーにとって代わられた。それを以降、メーカーシェアのトップは現在までずっとエコカーであるそうだ。

「エコじゃないと売れない状況が車業界では起きています。彼らは『将来かかるであろう燃料代をエンジンに置き換えて』売っています。」

「実際払うお金を誰がとるか、というところをうまくやっているのが自動車業界です。なので『燃費』を公開しているんです。燃費の悪い車の燃費を公表しても誰も買いません。家も一緒です。」

確実に高騰する光熱費

なるほど。ガソリン代を光熱費、車を家に例えると同じと境遇だということだろう。しかし、ガソリン代は一時的に高騰したが、光熱費は上がっているという実感はない。これに関して晝場氏は次のように語る。

「日本では電気エネルギーって水みたいな扱いです。震災のときには一時的に光熱費は下がりましたが、また上がってきてしまいました。光熱費は確実に高くなっているんです。」(下図参照)

「また、電力自由化についても競争原理が働いて価格の低下をもたらすかというと、そうはいかないです。今まで電気代を上げるときに必要だった経済産業省の許可が必要なくなりました。大手10社が一気に価格をあげています。これはいわゆる『談合』です。」

「廃炉費用についても、2月26日(2017年)にでた試算で40兆になるのではないかと言われています。二年前は20兆円、その前は11兆円でした。ある人は60兆とも言っています。これを誰が負担するかというと、東電ではなく電気代に上乗せされて我々が負担します。

これは驚いた。確かにデータを見ると光熱費は上がっているし、電気料金も上がっている。日本における電気は水のようなものだというのは言い得て妙だ。それも原発の廃炉費用も上乗せされているということも知らずにいた。

これからわかることは、ガソリン価格のように急激な変化には私たちは敏感だが、ゆるやかな変化に対しては鈍感である。そして日本の電気代のそもそもが安いことやメディアの報道も一因だろう。これらの情報があってはじめて、エコハウスを買おう、という気がおきるだろうし、情報がない状態で何気なく普通の家に暮らす人が大勢いることも想像に難しくない。

遠くない未来に起きるカーボンプライシングの導入

次の話題は炭素税、カーボンプライシングにうつった。カーボンプライシングは炭素の排出量に応じてお金を支払わなければいけない制度だ。現在東京や埼玉にてトンあたり1000円のカーボンプライシングが導入されている。これに対しスウェーデンではトンあたり15000円払わなければいけないという。また、日本では一家につき年間5000キロワットの電力、炭素量に換算すると3~4トン出しているという。

電力自由化でアメリカ、ドイツでは事実、電気代が上がっている。ドイツでは2000年より1.6倍にもなったという。日本では再生可能エネルギーの中でも太陽光発電が多いことや、風力発電が乏しいことからも、電気代が大きく上がることは間違いなさそうだ。

「タダで炭素を出せるという世界はおそらく少なくなると思います。おそらく電気代は上がるでしょう。最終的に選ぶのはお客さんなので、しっかりと情報をあげないといけません。いい家を買うと年間のガス電気代が3分の1から2分の1で済みます。トータル30年で同じ金額だったら、どっちに住みますか?私だったら手元に残るいいものを買います。生活の質もかなり違うことも含め、わかってもらうことが必要です。」

省エネ義務化がもたらす影響

「住宅業界はエネルギーを商売にする観点では省エネルギー産業と言えます。家を売っているのではなくエネルギーで商売をしていくでしょう。新電力をやるという意味ではなく、省エネをすることでエネルギー産業に関与していきます。」

「普通の家を建てると、年間25~30万払います。これは地方においては県外にお金が流れていくことになります。しかもこのお金は日本にすら残らず中東に流れていきます。」

「それをいかに我々の商売にするかというと、良いものを建てるしかないです。良いものを建てるとそれは3分の1になります。残ったお金は皆さんの懐に残るでしょうし、業者さんや職人さんにも入るでしょう。そのお金は地域で使われれば地域でお金は回ります。地域経済にかなり力強い影響があると思います。」

事実、これはドイツでは実践され、証明されていることだという。省エネ義務化に関して個人単位ではマイナスイメージなことばかり言われがちであるが、全体への影響はかなり理想的ではないか。良い住宅を、お客さんに情報を示して作ってもらう。そうするとその地域は地域内でお金が循環し、活性化につながる。廃れていく地方の現状に対し、省エネ義務化は少なからず救いとなるのではないかと考える。

我慢の省エネからの脱却

日本においても省エネ義務化が始まったが、やらされている感は否めない。日本の省エネは我慢の省エネと称されるが、クールビズはその最たる例である。我慢の省エネは健康への影響はないのだろうか。

「イギリス健康省が住宅の寒さの健康への影響を調べたものをもとに、どのくらいの室温にすべきか基準を設け改善を目指すような法律があります。21℃が健康な温度、19℃は結構危ない、16℃はおいおいという感じ。10℃は高齢者などにヒートショックが良く現れる温度です。ちなみにフラット35のような次世代省エネ基準が目指しているのは9℃です。これは平成11年に作られた法律なので、当時の状況からすると仕方ないことですが、2020年の義務化も同じなんです。なので、もっと性能の上なものを作っていかなければいけないと思います。」

やはり、と言うより、わかりきっていたことではあるが日本の住環境への意識は世界的にも遅れていると思う。健康は他人事ではないので、お客さんに対しても伝わりやすく、健康面の説明はより積極的に取り入れていくべきだと考える。

なぜ今義務化するのか

これまで省エネ義務化とは何なのか、どのような影響があるのかについて見てきたが、ではなぜ今義務化をするのだろうか。

「最終的に何が言いたいかというと、新築時は費用対効果のメリットがあります。またこれからストックの時代になったとき、ZEHの家ということで買い取り価格が高くなるという時代が来ます。ですのでBELSというのは事業者の皆さんも社会的意義としてとって欲しいと思います。」

「国がここまで力を入れているBELSがなくなると、おそらくこの先、燃費で家を売るということができなくなるんじゃないかと思います。まずはBELSを根付かせて、その上で皆さんがもっといいものをつくればいい話ですので、BELSというものを根気強くやっていただくのが良いかと思います。」

もちろん、政府の掲げる様々な目標を達成するため、といえばそうなのかもしれないが、もっと本質的なところでは、これからの日本における住宅の資産価値を上げるためなのではないだろうか。そのためにも日本人に住宅は財産であることを認知させるきっかけになりうる今回の省エネ義務化には期待が持てるだろう。

BELSの制度そのものの他、普及後のメリットや現状の問題点など、BELSに関する様々な知識を参加者は得られたに違いない。次回は日経BP社の小原隆氏によるレクチャーのレポートをお届けする。

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