BELS制度がもたらす恩恵と影響(2)

BELSセミナー第一回『BELSってなに?』

Morimoto Tenki
HEAD Journal
7 min readNov 18, 2019

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出演者:晝場貴之・小原隆・竹内昌義・佐々木龍郎・丸橋浩

日時:2017年6月27日(火)18:30~

場所:3331 Arts Chiyoda

登壇者の小原隆氏(株式会社日経BP社)

前回に引き続きHEAD研究会エネルギーTF主催で開催されたシンポジウム『BELSってなに?』より、株式会社日経BP社小原隆氏のレクチャーを以下の軸に沿ってレポートしていく。

・変わっていく建築家

・ビジネスとしての省エネ

従来の建築家

「寒ければ重ね着すればよい、暑ければ我慢すればよい。」

「設備の仕事だから自分には関係ない、意匠をやっているんだから何を言っているんだ。」

「義務化なんて横暴だ」

「性能じゃなくてデザインで勝負したい」

レクチャーは省エネ義務化について、建築家が一般的に抱く感想から始まった。実際にセミナーに来場した聴衆の中で、省エネ計算をしている人は一名のみであった。

果たしてこのままでよいのだろうか。前回に引き続きBELSの背景を見ていく。

なぜ今省エネ計算するのか

省エネ基準というものは年をおって強化されている。しかし今までは義務ではなく努力義務に留まっていた。その結果、軽断熱住宅が世の中には溢れ、無断熱住宅は全体の4割程度まで膨れ上がってしまったそうだ。

その間にもエネルギー消費量はビルで3倍、住宅で2倍にもなっている。

2016年に締結されたパリ協定では、これらを2030年までに26%も削減しなければいけない。2020年の義務化にむけて様々なことに取り組まなければいけない状況になってきている。

<実際に省エネ計算を取り入れ始めた著名建築家>

建築家の堀部安嗣氏をご存じだろうか。建築を学んでいる学生では知らない人はいないであろう堀部氏は、モダンな和風住宅を多く手掛けている。しかしそのイメージからか、住環境に配慮する建築家というよりは、自然環境に委ねた住宅を建てているであろう建築家だと推測していた。

しかし、実際はそうではなかった。自社で省エネ性能を計算を行い、自社の設計は基準値に対してどの項目でどのように工夫しているか、わかりやすく説明していた。

小原氏が堀部氏へのインタビューをした際にはこう言っていたそうだ。

私は間違っていました。

「以前は断熱性能を高めた住宅は壁厚、屋根は厚くゴテゴテしている。あまりいい印象を持っていなかった、しかし、不十分な断熱気密性能を補うためにエアコンを各部屋に入れて室外機が戸外にずらりと並ぶという状況のほうがかっこ悪いんじゃないか、そう考えるようになりました。」

「設備の大きさも小さくなり、温熱環境のムラが減るので、空間としては小さくても部屋の稼働率が上がり、実感として広々とした家になる。温かい部屋と寒い部屋を作ってしまうと、皆温かい部屋しか行かなくなるんです。寒い部屋を使わなくなることのほうが無駄じゃないかと思います。」

堀部氏のコメントはとても核心をついているだろう。もともとデザイン性の高い建物を建てる建築家だけに、話す言葉の重みがあると感じた。さらに聞いていて期待のできるコメントがあった。

「省エネ計算はそれほど手間ではありません。一回実行してしまえば、あとは楽です。」

実際に先陣を切って省エネ計算を取り組んでいる建築家が“手間ではない”と言っているのだ。今こそ重い腰をあげて、省エネ計算へ取り組んでみるべきなのではないのだろうか。

省エネ計算はビジネスになるのか

冒頭に挙げた典型的な従来の建築家は、クライアントのニーズ(暑い、寒い、まぶしい、暗い、乾燥やカビなど)に対して、「複層ガラス」や「庇」など言葉巧みに説明するのだそうだ。

しかし、実際問題それで納得できるかというとどうだろうか。もはや、Ua値や一次エネルギー消費量などを計算せずに安心感を与える説明することは難しいだろう。

ほとんどのBELS取得物件が★5つである現状

BELSにおいて大事なことは、住宅環境性能を引き上げることよりも、使いこなして、説明材料として使えるようにすることなのではないだろうか。では、ここからはBELSを使ってどのように説明していけばよいのだろうかについて記していく。

新しい設計手法

従来では、設計→省エネ計算→環境性能を確かめて説明をする、というスタイルが一般的であった。フレミング曲線を見ると、時間がたつにつれ変更の影響力は下がり、変更のコストが上がっていく。従来のやり方では採算があわない。

そうではなくて、これからはまずクライアントのニーズを聞く。住宅のイメージと共に、光熱費、暑がりか寒がりかなどを聞いたうえで、断熱材の厚さなどを決め、方針を決めたうえで設計に取り組んでいく。こうすることで省エネ計算のハードルは下がる、と小原氏。

「そういう意味で、性能に強くなればデザインで勝負できる。だから意匠設計者が省エネと関係ない時代ではない、ということです。」

新しい職業の出現

建築士がいざ省エネ計算をする際に、二つの選択肢がある。自社で行うか、外注するかの二択だ。自社で行う分は置いておいて、外注はどこに頼めばよいのだろうか?設備設計事務所、申請サポート会社、建材設備メーカー、建材資材商社など、他にも工務店や専門工事会社などもあり得るだろう。しかし上のいずれも既に手いっぱいであったり、工務店にはスキルがあるのかの見定めも必要になってくる。

そこで現れるのがエネルギーエージェントである。

実際にドイツでは建築物理士という肩書である職業だそうだ。建築物理士なしでは建物が建たない状況だという。

取り組む業務の例として、熱負荷のシミュレーション、断熱材の厚さの概算や設備機器の選定、省エネ計画書の作成、BELSの申請なども行う。設計段階ではプランニングについても意匠設計者と案を出し合うこともあるだろうし、引き渡し後の運用アドバイスもあるだろう。

「3年後(2020年)にはこういう職を待っています。大学の設備系の教育も変えていかなければならないと思います。」

「外皮計算できて省エネ計算もできてプランニングもわかる、建築と設備を兼ね備えた人材がとても重要になると思います。」

こうして大盛況のうちに小原氏のレクチャーは終わった。小原氏が重ね重ね伝えていたことは、とにかく省エネ計算しなければ何も始まらないということだ。もうすでに始める人は始めている省エネ計算。来たる2020年の省エネ義務化に向けて、すぐにでも始めることが吉だろう。

次回は小原氏のほか、前回の記事で挙げた晝場氏、さらにはHEAD研究会エネルギーTFより、竹内氏、丸橋氏、佐々木氏の三名を加えたディスカッションの様子をレポートしていく。

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