BELS制度がもたらす恩恵と影響(3)

BELSセミナー第一回『BELSってなに?』

Morimoto Tenki
HEAD Journal
12 min readJan 23, 2020

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出演者:晝場貴之・小原隆・竹内昌義・佐々木龍郎・(司会)丸橋浩

日時:2017年6月27日(火)18:30~

場所:3331 Arts Chiyoda

前回に引き続きHEAD研究会エネルギーTF主催で開催されたシンポジウム『BELSってなに?』より、日本ERI株式会社、晝場貴之氏と株式会社日経BP社、小原隆氏らの講演の後に行われたトークセッションについてレポートしていく。

登壇したのは、晝場氏、小原氏に加え、HEAD研究会エネルギーTF委員長、建築家の竹内昌義氏と委員である建築家 佐々木龍郎氏、司会は同所属の建築家 丸橋浩氏が行った。
(なお、文中の制度の状況についての記述は平成29年6月時点の内容となっております。その後の運用、改正については諸関係にご確認ください。)

左より丸橋氏、佐々木氏、竹内氏、晝場氏、小原氏

トークセッション:BELSにとりくむ考え方

トークセッションはBELSを取得した住宅についての質問から始まった。

Q1:BELS を取得したほとんどの住宅が5つ星で、3つ星、2つ星を取得している住宅というのがほとんどない状況がありますが、そういう状況であれば5つもランクは必要ないのではないですか?もしくは基準を引き上げなければいけないのではないでしょうか?それについて国はどう考えているのでしょうか?

(晝場)そもそも星1つというのは、設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量を越えてしまうことであり、現状では建てることができない住宅です。なので新築は星2つ以上は決まっています。

国交省というのは何かの基準、法律を作ってどこかしらの会社が倒産することがあってはならない省庁なので、基準を緩く作りがちです。それが今の星のレベル感だと思います。経産省の話では等級5、6が出るのは2040年以降と聞いています。

義務化だけだと最低レベルでしかないですが、BELS による見える化をすることによって、いいものじゃなければ見せる価値がないわけですから、そういう意味でBELS というのは、星の数にとどまる話ではなくて、二酸化炭素を何%削減するか、断熱性能も書いてありますから Ua値がいくつくらいなのか、加えてこのくらいの光熱費を削減できます、という「一つのネタ」だけかなと私は思っています。

(小原)平成28年4月から省エネの義務化が始まったんですけれども、
2000㎡以上の非住宅を対象にした規制は、ほぼ100%適合しているんですね。
だから義務化しても誰も文句言わないだろうという状況で始まってます。
規模が小さくなるほど、どんどん減っていきます。
住宅に至ってはもっと少ない状態です。

4月以降は300㎡以上に対しては届け出に対して命令することができるようになり、厳しい態度を行政庁はとっていくことができるようにしました。
なので300㎡以上で省エネ基準を遵守しない建て主に対しては行政が強い態度で出てくる可能性があります。

適合率をあげていかないと、義務化に結び付けていくということができませんので、まだまだ低い基準にも満たないような状態で申請を出してくるような建築主に対しては、行政も強い態度に出ることができますので、これからは色々変わってくると言われています。

Q2:BELS を普及するためのことを考えたときに、住宅は一年たって 1 万軒ちょっとに留まっており、また非住宅はそんなことはないというような状況の中で、それを引き込んでいくにはどうすればいいのか?どういう障壁があるのか教えていただけますか?
また、省庁が色々あってそれぞれ別々に補助金を出していて、縦割りになっているので、それも足かせになっているのではないかというところも見え隠れしたんですが、その中で BELS はどのようにブレイクスルーできるのかお聞かせください。

(小原)省エネに関しては国交省、経産省、環境省が同じ土俵でやってます。だから、あまり縦割りという意識はありません。縦割りで弊害があるという感じはあまりないように思います。
あと、BELS をどう普及させるか、という話ですけれども、不動産市場で省エネ性能が高い建物を高値で売買、賃貸できるっていうかたちをやっていけば、どんどん市場価値が上がっていき、逆に性能が低いものは価値が薄れていくということになっていく。
これはお上が決めることではなくて、市場が決めていくことなので、オーナー側がそういう意識をもってやっていくというのが重要かと思っています。
それにはやはり賃貸が重要だと思います。
一番裾野が広いですし、賃貸で経験することで、次にも同じレベル以上の建築に住みたいとエンドユーザーは思うと思われます。

(晝場)我々よく国交省、経産省に呼ばれるんですね。
日本 ERI はこの業界では NO1らしくて色々きかれるんですが、
国交省は住宅の適判が難しいんじゃないかという話をしているんですね。
なぜかというと、住宅は個人の資産だからです。
個人の資産に対して省エネ基準きちっとやりなさいよ、というのはちょっと横暴すぎるという意見はあります。
こういった状況でなにができるかというと、一つの選択肢としては BELSを導入、 すなわち表示の義務化をしたい、と考えているんです。
表示の義務化をすることによって底上げが図れるのではないか、ということです。

表示の義務化っていうのはおそらく海外をみても有効なんですよね。
ドイツは省エネ基準の適合判定は無いです。表示を義務化することによって性能の競争意識が生まれて、底上げにつながっていると考えられます。そして、それが住宅の資産価値などにつながるんじゃないか、ということを国交省の方も言っています。

社会にBELS、エネルギー意識を根付かせるために

Q3:BELS を導入するにあたって、補助金と紐づいていて BELS を取得するという形が一つあるのかなと思いますが、ドイツなんかは国の政策として省エネが推進され地域経済政策として取り入れられていると思うんですけれども、海外の情報というところでもうお聞かせいただければ。

(晝場)またドイツの話で申し訳ないんですけれども、先程言っていたように2020年からはほぼ0%でなければ新築は建ててはいけない、という世界です。省エネ基準にしても、Ua値は0.3が最低で、それを満たしていないと家を建てられない。これはドイツ全土が対象です。ドイツがいいのは、0.3だと KFW 銀行から補助金が出ないんです。日本では0.87でもお金出ますよね。ドイツは基準からさらに40~50%削減したものについて色んな補助制度がある。だからUa値0.3ってあたりまえなんです。
省エネ基準は飽くまで最低限で、そこから何%クリアしたから補助ということをしないと、ああいった経済成長にはならないかなと思います。

Q4:日本でも自治体で補助金を出しているところがあったので、横浜のほうで携わってる佐々木さんの方から、横浜の事例など教えてください。

(佐々木)今聞いていて思ったのは、BELS を盛り上げていくというよりは、BELS によってなんとなく省エネ住宅という概念が見える化してくる方が正しいんだと思います。
例えばインスペクションとかは、やっていれば説明義務になるんですが、売り主がやることになるとか問題がありそうなんだけど、インスペクションという言葉がなんとなく普通のユーザーの耳に届いてきた。同じように BELS という言葉もだんだんユーザーの方に広がっていく感じがあるので、BELS を盛り上げるというよりは、BELS という出来事を通じて皆さんもこういうことに接点を持てる、というような考え方をしたほうが前向きかなとおもいますね。

3年前くらいから横浜ではエコリノベーション助成という断熱改修の助成が始まっていて、去年から ZEH の助成も置いてるんですけども、だいたい3年間で75棟くらい助成してまして、もうどれくらい削減したのかデータとかもあがっています。ただ、いくら削減しただとか、いつコストを回収できるだとか、そういう話は響かないです。一番響いているのは健康の話なんです。暖かい家は根本的に健康にいいということを多くの先生が研究されてますけれども、実はそういうようなことを伝えるのが結構いいんですね。

日本ってエコポイントに毒されてると思います。省エネ機器を沢山買って、沢山使っているから結局エネルギー使ってるっていうおかしい状況になっています。
3年間くらいアカデミーをやっていてユーザー向けに話しているんですけど、1年目はあまりわからなくて燃費の話をしていたんですけど、全然うけないです。でも健康の話をすると、終わった後にどれくらいダメなんですかという質問を沢山受けた。 BELS をいかに使って省エネ住宅を見える化しながら、省エネのどの部分にフォーカスを当てていただけるかっていうのがすごい大事です。2年目からは補助金の出し方の設計を変えて、窓の改修に集中にしていて、常に断熱まで意識してもらうということをやって、今年4年目なんですけれども。
よく BELS を利用して、長い目で見てどういうことをやっていくと本当に日本人の家にいいのか、ていうのを考えていけるといいと思います。

Q5:先程、産業としてドイツは省エネを推進することで建築業界としての盛り上がりを見せるという話と、一方で国土交通省が工務店をつぶしてはいけないからなかなか性能を上げられないという話が合ってるようでよくわからない。
だったら省エネ基準を引き上げれば工務店に対しても仕事が増える可能性が出てくるわけで。そこがなぜそうならないのだろうか、というのを誰に聞いたらいいのかわからないのですが。

(小原)構造計算書偽装事件があって、確認審査を強化したわけですね。
そこで一気に確認出してもなかなか滞ってしまって、国交省が相当やり玉にあげられちゃったところがありまして。
そういう意味では、省エネというのは唯一の規制なんですね。いままでアメはいっぱい上げてるんですけれども、ムチっていうのはほぼないですよね。なので、省エネ基準の適合義務化っていうのは国交省の人にとってすごいコトなので、できるだけ穏便にすませたい思惑があり、これで工務店業界が半分死滅したなんてなると大変なことになってしまうので、そこはとても気にしている様です。

BELSという制度のいかし方、将来に向けて

Q6:竹内さんは、ドイツに研修にいってらしたので、そのことについて。

(竹内)断熱の基準って建築をやってる方がシミュレーションをやっていくと、新築がまず最初にエントリーモデルとしてあって、どうしたら削減できるんだろうみたいなところからやるんです。色んな情報が増えるのでお客さんの説得がしやすいかなというところです。で、今度それをリノベーションにどうしたら生かせるのかっていうところが考えた方が面白そうだし、ユーザーのためになります。
リノベーションをする前提となる知識は、シミュレーションをしていると身に付きます。なんとなくやってると「あ~」という感じがあって、そんな難しい話ではなくなると思いますね。ソフト買うのがめんどくさいかなとか、それをやるのが大変かなって思うんですけど。そこさえ乗り越えれば、仕事はあると思います。
一個パラメータが増えるくらいに考えるのが健全じゃないかと思います。

(佐々木)でもね、断熱リノベーションの現場にいくと、すごい寒そうな住宅地の真ん中に断熱しましたって家があるんですよ。周りの家は全部寒いけれど、自分の家だけ温かいんですよ。
これ長い目でみると住宅地でそういうの成立するんですよ。自分の家が温かければいいや、という話の先にエリアとしてあったかくなければいけないんじゃないかとか、地域に根差した工務店とか不動産の方は一戸一戸のことも大事だけど、その先の地域で考えるという視点は絶対持っていてほしいなと思います。

適合義務化はいつに?

これにて三回に分けてレポートしてきたBELSセミナー第一回『BELSってなに?』は終了した。セミナーを通じてわかってきたのは、国、行政、不動産、工務店、メディア、それぞれが何かしらの努力をしており、それにはエンドユーザーのBELSに対しての理解と住環境エネルギーに対する興味を持つことが不可欠だということがわかったと言えるだろう。

平成29年には、来たる省エネ義務化に向けてこのような議論をしていたが、結果として義務化見送りになった。見送られた原因としては、 特に住宅についてはまだ業界の認識やコストを吸収する技術などが省エネ基準の適合義務化に達していないことが挙げられている。しかし、それでよかったのだろうか?

今求められているのは制度が成立しなかったことを悲観するのではなく、いま自分でできることを考えることである。セミナーの内容にもあったように、海外で導入されている省エネ表示の義務化をすることで競争意識を生む方法や、住環境と健康の関係性から、住宅の省エネの重要性を説いていく方法など、日本でもできることはあるはずだ。
(森本天希:エネルギーTF)

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