HEAD研究会総会シンポジウム2022 『 ポストコロナ時代のHEAD研究会 』 — 松村秀一に聞く12の未来

manabu synbori
HEAD Journal
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Aug 24, 2023

一般社団法人HEAD研究会 副理事長 山本想太郎

2022年5月25日に、本年度のHEAD研究会定時社員総会がオンライン形式にて開催されました。次世代にバトンを渡したいという松永安光理事長の意向を受けた新役員理事体制が承認され、HEAD研究会としても大きな節目となる総会となりました。なお松永氏には今後も特別顧問として理事にとどまっていただく予定です。

HEAD研究会 新役員理事体制(敬称略)

代表理事(3名)

松村秀一(理事長、新任)、新堀学(副理事長、新任)、山本想太郎(副理事長、新任)

常務理事(4名)

清水義次(留任)、長屋博(留任)、橋本宣樹(新任)、山代悟(新任)

引き続いて行われた総会シンポジウム『 ポストコロナ時代のHEAD研究会 』では、新理事長の松村秀一氏による就任挨拶、続いて松村氏と各タスクフォース(以下「TF」)の代表者たちが、これからのHEAD研究会の活動についてトークセッションを行いました。以下にシンポジウムの内容概要を記します。

オンライン総会の様子

代表理事就任挨拶「HEAD研究会新たな10年(2022~)」(松村秀一新理事長)

理事長就任にあたり、まず松永氏が理事長を務めた14年を振り返り、その精力的な研究会への参画に敬意を表したいと思います。そして今後のHEAD研究会のヴィジョンとして、これまでのあり方を継承した3つのキーワードをここに示します。

①ひらかれた「場」

さまざまな活動が展開されるHEAD研究会が、あらゆる立場・年齢の会員にすべての活動がひらかれ、常に何か情報を得たり活動を展開したりするチャンスがある場であること。

②自分もひとも育つ「場」

会への主体的で継続的な参加を通して、自身、および他の会員の活動や、そのネットワークの広がりを生みだし、成長できるような場であること。

③フラットな社会構造の先端

情報の重要性が際立ってくるこれからの時代、社会構造はよりフラットな性質を帯びてくると思われる。元々フラットな組織構造であったHEAD研究会はその特質を活かした活動の先進的な姿を発信したい。

セッション① 山代悟(国際化TF)×山本想太郎(建材部品TF)×松村秀一「建築界全体の価値を高めるための視野の広がりへ」

・国際化TFは「木をめぐる国際化」をテーマに、大規模木造建築の登場、ウッドショックなどさまざまな変化のなかで、国産材の使い方や輸出を含めた日本の山林や林業への働きかけ方を探っている。また今後、木材以外の国際化についても研究対象として検討したい。(山代)

・昨今の建設単価の異常な高騰は、コロナ、戦争、原油高、円安などの影響のなかで、日本の建築界に元々あった構造的な歪みが顕在化したものと思われる。これからはより「なぜ建築をつくるのか」が問われ、何もしなくても建築やその部品である建材の市場が保たれるというものではなくなっていくという問題意識で議論をしていきたい。(山本想)

・2015年に「廃棄物に関するシステム、および『モノ:ファクトリー』」でHEADベストセレクション賞(現、みらいのたね賞)を授賞した株式会社ナカダイを最近見学した。これからは「解体」の技術や社会システムと、「建てる」という行為をより深く結びつけていく必要があるのではないか。またこの建築家という職業の2名がこのような社会的な問題に言及していることが示すように、これからの時代は、激変する社会情勢のなかで自分や自社の価値だけを見つめるのではなく、建築界全体の価値を高めるためにはどうすればよいかというところへと、より視野を広げていく必要があるのではないか。(松村)

セッション② 新堀学(情報プラットフォームTF)×宮崎晃吉(リノベーションTF)×松村秀一 「既存の専門性をこえた新しい職能のために」

・情報TFでは学生事務局の参加活動として「HEADジャーナル」というWebメディアによる、HEAD内外もつなぐことを意識した情報発信を行っている。今後どのようにこの活動を拡げていくべきか。(新堀)

・リノベーションを「社会環境の再編集」と再定義してみると、建設にとどまらない総合的な価値創造のありかたが見えてくる。そのような役割を担う人材も表れてきているが、まだきちんと名付けられた職能ではない。「建築家」という職能名を持っていることが足かせになったりもする。このような職能の可能性について考えたい。(宮崎)

・以前、清水義次氏は自ら「バクテリア・サイズ・シンクタンク」と名乗っていた。個性的な職能に印象的な言葉をつけることは効果的。それに併せて、仕事に対するフィーをどのように得られるようにするかという工夫も必要だろう。その背景として必要なものはやはり、既存の発注形態に縛られないフラットな社会構造だと思う。そこでは情報の共有というプラットフォームが、現代の専門分化社会をのりこえていくために機能することになるのではないか。(松村)

セッション③三沢亮一(ライフスタイルTF)×山本圭介(アートTF)×松村秀一 「生活文化の深まりと『遊び』」

・個人のライフスタイルはコロナで大きな影響を受けた。リモート会議などでは個人の生活も垣間見え、その住空間やライフスタイルがパブリック性を帯びてきた。SNSの情報発信も含めて、そのような意識を持っている人と、ライフスタイル塾で情報交換をしている。また建材メーカーとも協働し、仮想空間におけるライフスタイルの提案、ショウルームのようなシステムも考えている。(三沢)

・アートTFではアーティストのシンポジウムとともに参加者に実際に作品を製作してもらうワークショップも行った。その素人の創作欲には大きな可能性を感じた。また材料に精通したアーティストの製作する建築部品(雨樋画像を紹介)にも、既存概念を超える可能性を感じる。これらの「一品生産」の可能性を意識しつつ、活動を展開してみたい。(山本圭)

・コロナ禍に海外のミュージシャンたちが自宅から演奏配信している動画を見て、日本で洋室と呼んでいるものの文化的貧弱さを痛感した。映像配信に堪える部屋に住む日本人がどれだけいるか、ということは結構重要な問題なのではないか。また、アート的な制作活動の本質は「遊び」だと思う。DIYもそれに通じるものだろう。生活にも密着する文化的な行為として、やりたいこと、表現したいことに専心するということが、建築が建ちにくい現代、注目されるのではないか。(松村)

セッション④ 竹内昌義(エネルギーTF)×山代悟・森山充(市民防災TF)×松村秀一 「生活に直結する問題に対する市民の力の重要性」

・本日「建築物省エネ法」が衆議院を通過した。昨今の電力逼迫も受けつつ、脱酸素社会に向けての建築はどうあるべきか。自分は断熱住宅に取り組んでいるが、そのエネルギー的な波及効果は例えば入浴の必要性も減るなど多角的。またそれを作るコストは、結果として削減できる消費エネルギーに比べて何分の一レベルで小さい。「みんなでやる断熱DIY」をはじめとして一般市民の環境問題への意識は高まっているので、これは広く一般に開かれた議論としていきたい。(竹内)

・市民防災TFは令和元年の台風19号による千葉県、南房総の被害への対応の取り組みをきっかけに、屋根を中心として応急処置の方法を研究している。メンバーである田島ルーフィングの粘着シートを用い、宮城・福島の地震対応でも、一定の手応えはもちつつあるが、現在の対処療法から一歩先に進めることも含め、今後の研究の広げ方について議論したい。(山代・森山)

・建築と環境・エネルギー問題を検証する時、それをどのような範囲まで広げて議論するかが難しい。しかし電気代の値上げなどはすべての人の生活に直結する大きな問題であるし、「みんなでやる断熱DIY」をはじめとした一般に開かれた活動は面白い。防災への備えについても同じだが、一般市民の力は重要。生活者の限られた予算のなかで、実際にどのくらいのことができるのかという情報やコンサルティングがあるとよいように思う。(松村)

セッション⑤ 荻野高弘(フロンティアTF)×水上幸子(オープンプロセスTF)×田島則行(コミュニティアセットTF)×松村秀一 「これからの『場』のかたち」

・フロンティアTFではいままで「7つの予言」「シゴトオルタナティブ」など、何かを建てるというよりは「場づくり」ということを中心に議論してきた。今後の活動展開を考えるにあたり、コロナを経たこれからの「場づくり」について意見を伺いたい。(荻野)

・これまでのまちづくりはすごく「強い」人が引っ張って展開されていることが多かった。しかしその背景にいる日常生活者の人々、女性や学生などの活力がこれからクローズアップされていくべきではないか。そのような力を建築産業でより生かす可能性について意見を伺いたい。(水上)

・コミュニティ・アセット(空き家や空き地・遊休不動産などを活用し、公共的な役割を担いつつ自立性・持続性のある活動を行えるような、コミュニティ再生/活性化の拠点となるアセット(不動産/財産/建築/空間))をテーマとするTFを新たに立ち上げた。今や全国には数多くこのようなアセットがあり、それに携わる人がいる。7/1には、その中からHITONOWAの荒昌史氏、MORIUMIUSの油井元太郎氏を招いて立ち上げ記念シンポジウムを行う。(田島)

・「場づくり」の例として、久留米の団地で造園・大工などの専門家と住民のコミュニティを形成することで一切工事費をかけずに家賃を上げられるかという吉原勝巳氏による試み、鹿児島の頴娃町(現、南九州市)においてコミュニティ大工として空き家を再生している加藤潤氏による試みなど、ものづくり技術と住民を掛け合わせる手法の動きがあり、興味深い。女性の参画については、これまで大工の女性へのインタビューを行ってきたが、工務店という職場環境の変化を感じている。今後、女性大工の集まるイベントも計画中。コミュニティ・アセットについては、先ほどの「場づくり」の例などいろいろ面白い活動が始まっているので、果たしてコストを含め今後どのように成果が出てくるか、注視したい。(松村)

セッション⑥ 権藤智之(ビルダーTF)×倉内敬一(不動産マネジメントTF)×松村秀一 「施工業、不動産業の次の展開」

・設計と施工の両方を手掛けるような業態が増えている。元々、設計、施工という出自によってどのような違いが出てくるのか、気になっている。(権藤)

・地域や賃貸住宅の現在の課題として、居住者の高齢化や一人世帯、空き家、既存建築の老朽化などがあるが、これらの時代の変化に、福祉の観点も含め社会も不動産管理も追い付いていない。また一歩先の話としては、地域の価値の向上という課題もある。今期はこれらのことを議論していきたいと考えているので、意見を伺いたい。(倉内)

・設計、施工という出自の違いにより課題は異なるが、結局は、技能者の育成ができるかどうか、それが継続できるかどうかが重要であると思う。施工者もその職能について解体的に見直さなければならない局面が訪れているかもしれない。不動産については、社会的弱者と空き家をマッチングし、その居住者にリノベ工事もしてもらうというような取り組みをしているリノベートジャパンという若い会社があり、福祉と不動産を組み合わせた動きに新しい動きを感じている。また地域というキーワードはビルダーと不動産マネジメントTFで共有できると思うので、HEADのなかのネットワークで今後も議論できればと思う。(松村)

セッション⑦ 学生事務局×松永安光(前理事長)×山本想太郎(副理事長)×新堀学(副理事長) 「学生会員より、松永安光前理事長への質問」

・コロナで研究会活動が制限されたときの思いを伺いたい。(学生事務局、川村)

・HEAD研究会は発足当初から学生事務局の活躍にも支えられてきた。今回の局面でも技術的な面など大変助けられた。またこれまでの事務局出身者たちもその経験を活かして社会で活躍している。この学生事務局システムはとても上手くいったと考えている。(松永)

・学生事務局から社会に出たらどのように活躍してほしいと考えているか、伺いたい。(学生事務局、鈴木雄)

・HEADの学生たちは、私も含め大人が思いもつかないようなことを積極的にしており、大変頼もしい。こちらの想像を超えているので、社会に出てもそのままの勢いで思うように進んでほしい。(松永)

・「HEAD研究会に今後どのようになってほしいかのヴィジョン」を伺いたい。(学生事務局、長尾)

・HEAD研究会には多様な職種の人々が集まり、さまざまな問題に取り組んでいる。それぞれが、そこからいろいろなことを汲み取っていってほしい。(松永)

<総括>

・HEAD設立時よりこれまで、そこで展開される多様な活動のどれに対しても、深く興味をもって精力的に参加する松永氏の姿を見て、その「面白がる力」に感銘を受けてきた。今日、松村新理事長から「ひらかれた『場』」、「フラットな構造」といったHEAD研究会のあり方が示されたが、そのような場や構造は、そこで巻き起こる多くの事象を楽しみ、「遊ぶ」ような気持ちで積極的に参画する人々がいてはじめて成立するものであり、それを松永さんはまさに身をもって示されてきたのだと思う。

本日いろいろなTFの方から示されたエネルギー、経済、地域、情報化、防災といったそれぞれ重要な課題も、原理的に相反するところもあり、建築や都市の未来像として一つに収束していくようなことはできないだろう。そのような複雑な状況のなかで必要となるのは、錯綜するさまざまな文脈を自分なりの感性で実感し、そこからぼんやりとでも自身が正しいと思うヴィジョンをつかみ取っていくことではないだろうか。HEAD研究会は楽しく、それができる場であってほしい。自分もそのために努力していきたいと思う。(山本想太郎)

・コロナ禍の間は制約も多かったが、ひらかれた「場」で、さまざまな知見をもった人々が直接会い、それぞれの世界を広げていくことができるというHEAD研究会を、これからの10年、また展開していきたい。今後も皆さんの積極的な参加をお願いしたい。(新堀)

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一般社団法人HEAD研究会理事・新堀アトリエ一級建築士事務所主宰・一般社団法人住宅遺産トラスト理事