みらいのたね賞2019報告

「建材の新世代へ」

manabu synbori
HEAD Journal
11 min readDec 27, 2019

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みらいのたね賞ロゴマーク

・シンポジウム

日時:2019年11月14日(木) 14:00~15:45

場所:東京国際展示場「ジャパンホーム&ビルディングショー」講演会場

登壇者:ゲスト選考委員:原田真宏(マウントフジアーキテクツスタジオ)、永山祐子(永山祐子建築設計)

選考委員:松永 安光(一般社団法人HEAD研究会 理事長) 山本想太郎(山本想太郎アトリエ)

コメンテーター:松村秀一(一般社団法人HEAD研究会 副理事長、ジャパンホーム&ビルディングショー実行委員長)

オフィシャルHP http://www.jma.or.jp/homeshow/mirai/index.html

選評HP http://www.atyam.net/head/head_best.html

みらいのたね賞について

「みらいのたね賞」は、一般社団法人日本能率協会が主催する日本最大級の建材展示会である「ジャパンホーム&ビルディングショー」のオフィシャル・アワードであり、「優れた建築を生みだすことに貢献しうる優れた製品、未来への布石となる製品」を毎年選定、表彰しているものです。HEAD研究会の建材TFが企画・選考の協力をおこなっています。このたび、2019年11月13日から15日に東京国際展示場で開催された「ジャパンホーム&ビルディングショー」において、2019年度選定製品の発表シンポジウム、および会場内の受賞製品の企業ブースを巡るツアーが開催されました。

同賞は前身となる「HEADベストセレクション賞」から数えて今回で9回目を迎え、これまでに94製品が選定されました。本年度の賞運営においてまず印象深かったのは、賞の知名度がかなり上がってきており、業界に浸透してきているという点です。これまでも建築知識、日経アーキテクチュアといったメディアで紹介されてきましたが、本年も会期前に「新建ハウジング」誌に賞の紹介記事が掲載され、それを見て会場を訪れたという方もいらっしゃいました。また会場内の企業ブースを回っていると賞のロゴマークを記した製品パネルやパンフレットをしばしば見掛けるようにもなりました。本年、会場内ツアーへの参加者が大きく増えたこともそれを象徴しているように思います。

また本年度のゲスト選考委員には原田真宏氏(マウントフジアーキテクツスタジオ)、永山祐子氏(永山祐子建築設計)という近年活躍が著しい実力派の建築家2名をお招きしました。お二人が書かれた選考基準は、現代の建築デザインの感性をよく示すものとなっています。

シンポジウム登壇者 左より、山本想太郎、松永安光、永山祐子、原田真宏(敬称略)

<原田真宏氏による選考基準>

「風景」をつくる材料

材料が建築をつくり、建築は風景をつくる。つまり、Japan Home & Building Showに集まる皆さんの材料は、私たちの日常の風景そのものを生み出す、根本的で重要な単位なのです。ですから、材料単体としての性能に収斂するだけでなく、それを前提としながらも、周囲の環境と良き関係を取り結べるような材料が、私たちの風景をより豊かにするものとして目指されるべきなのではないでしょうか。また風景とは外観のみに終わらず、たとえば「生活景」という建築の内外にまたがる領域にまで浸透していく、境界のない考え方でもあります。材料単体を眺めるだけではなく、広々と連続する「風景」という視点に立って、これに寄与する材料を顕彰したいと思います。

<永山祐子氏による選考基準>

“美しさ”を生み出すもの

建築は構成される材料によってその有り様を変えます。材料は環境に呼応し、私たちと環境との間を取り持ち、様々な関係性を作り出すとても大切な構成要素です。時には材料から建築を考えていくこともあります。今回は特にその関係性の中の“美しさ”を選考基準としたいと思います。美しさには色々な規準がありますが、人間の5感に訴え、本能的な驚きと喜びを与えてくれるもの。それは建物のインターフェースとして見た目の美しさもありますが、私たちと環境との美しい関係性を築いてくれるかもしれません。そんな未来へのワクワクを生む“美しさ”を作り出すものに出会えるとことを期待しています。

2019年度受賞製品の紹介

・「住宅用安心給電キット」株式会社あかりみらい

http://akarimirai.com/teidensinaiie.html

EV、HV車などのバッテリーから給電し、住宅内の専用コンセントから電気を使用できるようにするシステム。災害などの緊急時における電力対策が、十万円程度の工事費用でできる。

・「アップルゲートセルロース断熱」株式会社アップルゲートジャパン

http://applegate.co.jp/

セルロースを多く含むリサイクル新聞紙を特殊な技法で吹き付ける断熱材。防火性・防音性・結露防止・健康性などにも優れた、高性能なエコ素材。

・「木十彩 KITOIRO」株式会社ウッドワン

https://kitoiro.com/

木目を際立たせた浮造り仕上げのニュージーパイン材をベースに、豊富なカラーラインナップの鮮やかな色が木目を生かしながら塗装された内装製品。セミオーダーも可能。

・「アルミニウム吸音材 カルム」エヌデーシー販売株式会社

http://www.ndc-sales.co.jp/calme.html

アルミニウムを焼結した多孔質の薄板による、壁面や天井面の仕上げ材。背後の空気層やグラスウールの併用によって吸音仕上げ面とすることができる。高級感があり、耐水性も高い。

・「摩擦ゲンシンパッキンUFO-E」SMRC株式会社・岡田工業株式会社

https://www.smrci.jp/

木造住宅の基礎パッキンをこの製品にするだけで、地震時に金属の摩擦抵抗によって揺れを軽減する。工期やコストに大きな影響なく、一定の地震対策ができるという製品。

・「鉄筋コンクリート乾式外断熱『ガンバリ工法』」元日マテール株式会社

https://premium.ipros.jp/gantan/product/detail/2000454529/

建物内側から外断熱打ち捨て型枠を建て込める工法システム。工期・コストの合理化だけでなく、外足場不要のため、狭隘敷地で境界ぎりぎりに外壁をつくれるというメリットがある。

・「エレベーター用 デザイン保護シート」クリーンテックス・ジャパン株式会社

https://jmacv.herokuapp.com/jhs2019/webguide/detail?exhibitorid=115589&is_exhibitorslist=true

エレベーターの内壁用の保護クッション・シートを、オーダーで自由な柄にデザインできるという製品。事実上の「生活景」となっている保護シートに美観と自由度をもたせる製品。

・「まちかどシート」株式会社新建新聞社

https://www.shinken-store.com/

工事の仮囲いシートに、イラストレーターやグラフィックデザイナーによる絵をつけ、都市景観に配慮できるようにした。小規模な現場でも手軽に使えることを目指した仮設資材。

・「ティ・バランス」株式会社ティ・カトウ

https://www.t-kato.co.jp/products/t-balance.html

油圧ダンパーを内蔵したテーブル脚のアジャスター。床面の凹凸を完全自動で吸収し、テーブルのガタつきを一瞬で安定させる。床面テクスチャーの自由度にも貢献しうる製品。

・「NALEXIBLE 天然石シート」株式会社ユータック

https://www.utacjapan.com/

天然石の表面を剥離させて、内装用の薄いシートにした製品。自由にカットしたり曲げたりできる。さまざま建築部位や家具に用いることができ、石の表現の可能性が広がる。

・「吉野プレミアムシート」「吉野杉木口スリットパネル」一般社団法人吉野かわかみ社中

https://yoshinoringyo.jp/

日本の最高品質の材木として名高い吉野杉を薄く剥いた「突き板」をアルミで裏打ちし、汎用性の高い仕上げシートとした製品。吉野の林業の未来を見据えた開発姿勢も評価された。

見えてきた建材の新世代

11月14日のシンポジウムでは、各受賞企業への賞状授与のあと、国土交通省住宅局住宅生産課建築環境企画室 成田潤也室長、経済産業省製造産業局生活製品課住宅産業室 縄田俊之室長による応援演説、そして今回の選考委員一同によるトークセッションが行われました。

トークセッションでは、今回の受賞製品への選評コメントを中心としつつ、話題は現在、そしてこれからの建材への希望と展望へと発展していき、なかでも今回のゲスト選考委員である原田氏、永山氏による、建材に対して非常に自由に向き合うような言葉が印象に残りました。木や石などの素材そのものの特質すべてを表現することに拘らず、感覚的に面白い、美しいと思えるものなら肯定する姿勢(「木十彩 KITOIRO」「NALEXIBLE 天然石シート」「吉野プレミアムシート」)、さらには建材という枠組みも超えて生活の風景のあり方に関わるものへの注目(「エレベーター用 デザイン保護シート」「まちかどシート」「ティ・バランス」)、そして機能材料やインフラが建築の美の背景にあるという視点(「住宅用安心給電キット」「アップルゲートセルロース断熱」「アルミニウム吸音材 カルム」「摩擦ゲンシパッキUFO-E」「鉄筋コンクリート乾式外断熱『ガンバリ工法』」)などに、最先端の現場で建築デザインに取り組む両氏ならではの現代的な感性を感じることができました。原田氏の「保護シートがデザインできれば、エレベーター内装をもっと建築デザインに近づけられる」、「テーブルさえガタつかなければ床をもっとテクスチャーのある素材で仕上げられる」といった発想や、永山氏の、彩色された木材を「木の美しさが進化している」とする感覚などはとても刺激的でした。

そのような自由な感性はもちろん、これらの製品を生み出した各建材メーカーも同じく持っているはずです。今回選ばれた製品はいずれも過去の建材の概念にとらわれず、それでいて単なる思いつきの安易さに陥らない、製品としての深みを感じさせるものばかりでした。シンポジウムの最後を締めた松村秀一氏による、「原理主義的でない、建材の新世代を感じさせるような受賞製品だった」という感想が、みらいのたね賞2019とこのシンポジウムを鋭く総括していたように思います。

(山本想太郎 山本想太郎設計アトリエ<HEAD研究会建材部品タスクフォース委員長)

・ツアー(みらいのたね賞2019を受賞した製品の企業ブースを巡る会場ツアー)

日時:2019年11月13日、14日、15日

場所:東京国際展示場「ジャパンホーム&ビルディングショー」会場内

ツアーガイド:みらいのたね賞2019 選考委員

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manabu synbori
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一般社団法人HEAD研究会理事・新堀アトリエ一級建築士事務所主宰・一般社団法人住宅遺産トラスト理事