マクロビオティックの系譜をたどる

調査レポートvol.3 (1)

マクロビオティックの系譜をたどる

Haruna Watanabe
9 min readDec 27, 2020

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現地レポートvol.3 ではマクロビオティック(以下マクロビ)の食品卸会社2社の直営店に行ってきました。これまで見てきたスーパーと比べると日本の伝統食品(醤油や味噌など)をはじめ、国産の食材が多く取り揃えられているという特徴があることがわかりました。
今回の調査レポートでは、マクロビとは何か?環境保全型農業とどういう関係があるのか?について⑴, ⑵に分けて深堀していきます。

◆目次
(1)マクロビオティックの系譜をたどる
 1. マクロビとは
 2. マクロビの系譜
 注釈・参考文献
(2)マクロビオティックから環境保全型農業を考える
 1. 現代的解釈
 2. 環境保全型農業との親和性
 3. 調査レポートvol.3⑴⑵を通して
 参考文献
  編集後記

1. マクロビとは

マクロビオティックという言葉は、
macro(大きい・長い)+bio(生命)+tic/tique(術・学)
という意味に分けられ、西洋医学の父といわれるヒポクラテスが、「偉大な生命」「長寿」という意味であるマクロビオス(makrobios)という言葉を使ったのが最初といわれている [1]。

また、マクロビを確立したことで知られる桜沢如一は、著書「魔法のメガネ」の前書き「自由と幸福のカギ」において、
幸福になるためにはまず健康になること、そして、その方法の中で最もやさしいものがマクロビオティック(正食)
だと書いている。桜沢が提唱したマクロビは、長く幸福に生きるための考え方と技であるといえるだろう。

一方、インターネットで検索して出てくるマクロビは、考え方というよりも、その技(食事法)に着目した説明が多い。ここでは、オーサワジャパンとムスビガーデンの関連組織である、日本CI協会と正食協会の説明を引用する。

・日本CI協会
マクロビオティックとは、長寿法を説くものであり、人と生き物と環境のバランスを保ちながら健康の根源を支えるものです。
ストレスの緩和と栄養のバランスを大切にし、正しい生活と食事から健康を維持し体質を改善します。(出典
・正食協会
マクロビオティックは、日本人が提唱し根づかせた食生活の智恵、あるいはライフスタイルです。
(中略)
昨今、世界各地で「長寿村」と呼ばれる集落や、その食事が注目されることもありますが、それは、それぞれの土地で伝統的に続けられてきた、土地や環境に合わせた食生活、すなわちマクロビオティックなのです。(出典

桜沢如一と後にその考えを踏襲し各地で普及活動をしていた人物によって手法は若干異なり、時代ともに変化しているが、基本理念は共通である。

では、誰がどのように、世界各地でマクロビを広めたのだろうか?

2. マクロビの系譜

先ほど紹介した桜沢如一がマクロビの道を行くことになったきっかけは、18歳で結核に侵され、石塚左玄の「食養論」に出会って健康を取り戻したことだそうだ。桜沢をはじめ、マクロビを日本と欧米で広めた人物を軸に、その系譜を整理してみる。

2–1. 養生訓・食養論とマクロビへ

貝原益軒(1630–1714)
黒田藩(福岡県)出身
医学、本草学(薬学)、儒学、地理・歴史と広い学識をもつ。84歳の時に一般向けの生活心得書として「養生訓」を執筆した。

桜沢は、著書「魔法のメガネ」で、自身のマクロビ研究は江戸時代の学者・貝原益軒が切り開いてきた道、「養生」を踏襲していることが述べられている([2] p.29)。また桜沢は軍医・石塚左玄の「食養」も参考をしていることでも知られているが、石塚もまた、養生の影響を受けているひとりであったそうだ [3]。

貝原益軒の著書「養生訓 [4]」全8巻のうち、3,4巻が飲食に関する内容である。桜沢はそこに書かれている食べ物の選び方(*1)を参考にしたのではないか。

2–2. 欧州でのマクロビのはじまり

桜沢如一(1893-1966)
京都府出身
病気がちだったが、18歳で石塚左玄の食養により健康を取り戻す。
36歳で「無双原理」を広めるため渡仏。以後国内外でマクロビを広めた。マクロビ運動だけでなく、思想家、哲学者、平和運動家としての活動も積極的に行っていた[5]。
海外では、George Ohsawaとして知られている。

貿易商だった桜沢は36歳(1929年・S4)でシベリアを横断し、単身パリへの無銭旅行を決行した。ソルボンヌ大学、パスツール研究所で学ぶ一方、新聞雑誌に論文を発表。2年後の1931年にはフランス語で「東洋の哲学及び科学の無双原理」と「花の本」の2冊を出版するなど普及活動を行った。フランスからは1935年に帰国したが、第二次世界大戦後、アメリカ、インド、ベルギー、スイス、ドイツ、スウェーデン、イタリア、イギリスなど欧米各国で講演活動を行った。
1956年、25年ぶりに渡仏した時に欧州に、かつて自分がまいたマクロビ文化の種が芽を出していることに驚いたという。
(参考:[5])

2–3. 日本のマクロビと卸売り

岡田周三(1905-1983)
正食協会、ムソー食品株式会社の設立者。
大阪を拠点にマクロビの普及活動を行った。

岡田周三は桜沢の門下生のひとりで、大阪を拠点にマクロビ普及活動を始めた。岡田によって正食協会が設立されたのは1957年のことで、翌年創刊した「健康と平和」は、現在も月刊誌「むすび」として発行されている(現地調査vlog で紹介)。

岡田は1969年に大阪市でムソー食品株式会社(現・ムソー株式会社 [6])を設立し、自然食品等の開発、卸売、販売を手掛けている。ムソー株式会社の商品は、ムスビガーデン以外にもナチュラルハウス、ビオセボン、F&F、クレヨンハウスなどのオーガニックスーパーでも買うことができる。1993年には有機農産物認証機関JONA(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)の設立にも参加しており、日本でマクロビ、自然食品を広めた代表的な会社の一つである。

2–4. 米国のマクロビ

久司道夫(1926-2014)
和歌山県出身
東大で政治学・法学を学ぶ。在学中に桜沢の門下生となった。
アメリカを拠点に自然食運動、オーガニック運動を起こし、マクロビの普及・発展に努めた。

東大在学中に桜沢の世界政府運動に関わる。桜沢のもとで1年間勉強し、1949年に渡米。コロンビア大学大学院政治学部に入学したが、世界平和のためには人間性が良くなければならないと思い食へと方向を変える[7]。

1966年、ボストンで久司は妻のアヴェリーヌ(横山偕子)と共に自然食品店エレホン (erewhon) を開業し、有機農業を支援しながら有機食品、豆腐や味噌をはじめとした日本の伝統食品を販売していた [8]。
1978(or77?)年にKushi Institute をマサチューセッツ州で設立し、米国で初めての鍼灸、指圧、マクロビ料理、健康指導の養成コースを企画した [9]。
その後、久司の活動が認められ、1999年6月よりスミソニアン博物館でマクロビと代替医学に関する資料が「久司ファミリーコレクション」として保管・展示されることが決まった。

久司が米国で広めたマクロビが日本に逆輸入される形で広がったのは2000年代以降のことである。著書「久司道夫のマクロビオティック 入門編(2004)」では、政治家やハリウッドスターなど著名人にも実践者がいると主張しており、日本でもマドンナやトム・クルーズがマクロビ愛好家として雑誌等で紹介され、注目が集まるようになった [10]。

【余談】
久司のマクロビは、桜沢と比べて厳格であるがわかりやすいと言われている。例えば、桜沢は油を使った料理に肯定的だが、久司はなるべく油を使わない方が良いとしている [11]。(もともと油や肉類が少ない和食に比べて肉食中心だった米国人の食生活を改善するために油少なめの調理法を広めたのだろうか?)

マクロビの系譜・まとめ

久司がアメリカで広めたマクロビが日本に逆輸入され、多くの人の知られるようになった。そのため欧米で生まれた考え方だと認識されていることもあるようだが、マクロビの系譜をたどってみると、江戸時代から続く「食養」につながっていたことがわかった。また、時代や地域によって、“少しずつ違った手法”で広まっていったこともわかった。

食や農にまつわる環境問題、感染症と目まぐるしく状況が変わる昨今。江戸時代から続く食養・正食を現代的に解釈し、より良く活用することが、先に紹介した人たちがマクロビを通して目指していた幸福を実現することにはならないだろうか。⑵ではこの視点をもって、マクロビオティックと環境保全型農業について考えてみようと思う。

(2)へ続く・・・
※近日公開

注釈

(*1)「養生訓」での食べ物の選び方
・新鮮なもの
・季節にかなったもの
・肉を少量にして野菜を多く
・鮮度の高い魚
・匂いの高い、脂のつよい魚はさける

参考文献

[1] 正食協会HP : https://www.macrobiotic.gr.jp/about/

[2] 桜沢如一(2012):魔法のメガネ:日本CI協会

[3] 並松信久(2015): 近代日本における食養論の展開, 京都産業大学日本文化研究所紀要, vol.20

[4] 貝原益軒著、石川謙校訂(1961):養生訓・和俗童子訓:岩波書店

[5] 桜沢如一資料室

[6] ムソー株式会社HP : https://muso.co.jp/

[7] http://www.ewoman.co.jp/winwin/34/1/1

[8] Wikipedia-久司道夫

[9] http://www.kushimacrobiotics.com/kushi.html : A Brief History

[10] Wikipedia-マクロビオティック

[11] https://www.m-biotics.com/macrobiotic-q/gimon/24macrobiotictigai.html

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Haruna Watanabe

Ph.D. student, majoring in Landscape Architecture, Sustainable food & agriculture / Vulcanus in Europe2018(Belgium)