小説を書くなら原稿用紙の存在を意識すべき理由

Ken Takeshige
Creativity Magazine
5 min readMay 16, 2016

いまの時代、小説をパソコンで書く人も多いだろう。ところが、こんな時代でも作家は原稿用紙のことを意識すべき理由がある。ひとつは創作のため、ひとつはコミュニケーションのため。詳しく見ていこう。

原稿用紙とはなにか?

小学生の頃、作文を書いたときに原稿用紙を使ったことがあるだろう。

20字 × 20行で400字分のマス目がある紙だ。

懐かしい人もいるだろうか?

普通に生きていれば、小学生以降、目にすることのない原稿用紙だが、これが小説を書く人間にとっては重要な指針になる。

小説の計り方

言うまでもなく、昔の作家は原稿用紙に手書きで小説を書いた。

現代でも手書き作家はいるが、少数派である。わたしが知っている範囲では西村賢太氏や林真理子氏は手書きである(少なくとも手書きで書いていた時期があった)。村上春樹氏も最初の頃は手書きだったと聞く。

さて、そういう手書きで書くのが一般的だった頃、小説の長さは原稿用紙の枚数で数えた。

出版社が作家に依頼するときも「原稿用紙50枚でお願いします」と頼むし、原稿料の計算も「原稿用紙1枚あたり5,000円で — — 」ってな具合である。

その慣習が残っていて、今でも小説の長さは原稿用紙の枚数で数える。

その分かりやすい証拠が、数ある小説の公募新人賞(つまり誰でも応募できる新人賞)の募集要項だ。

「原稿用紙換算で100枚以内とする」

なんて具合に原稿用紙で長さを数える。

原稿用紙とストーリー構成

さて、これを「古い慣習」と切り捨てて、「原稿を送るときに、それくらいの長さに調整すれば良いんでしょ?」とだけ考えるのは良くない。

また、小説の長さを意識せずに書き始めることはもっと良くない(たまに書いてみて、出来上がった作品の長さで応募する賞を変える、という人がいる)。

画家が紙の大きさを見ずに書き始めることがあるだろうか? 紙の大きさが決まっているからこそ、「じゃ、下の3分の1は海にして……上の3分の2は空にして」と構図を考えることができるのだ。

小説にも構図があり、構成がある。

たとえば起承転結でストーリーを考えるとしても「起」をどれくらいの長さにするかは、その全体の小説の長さによって変わる。300枚の小説を書くなら、比較的長めに「起」を書いても良いが、30枚の短編小説を書くなら、さっさと「起」を終えて、物語を転がさなくてはならない。

全体の長さを原稿用紙で数える以上、その中の構図や構成も原稿用紙で数えるべきなのだ。

細かいエピソードの計り方

小説はのっぺりとした文章ではなく、パーツの積み重ねでできている。基本的なパーツを挙げてみる。

会話文

「太郎、どうしたこんな夜更けに」
「いや、眠れなくて……」
「出発は朝早いんだ。寝ておいた方がいい」

地の文

太郎はそのあとも布団に入ったまま眠れずに過ごした。1度この村を出れば、2度と戻ってくることがないかもしれない。そう思うと、最後の夜を寝て過ごす気にはなれなかった。

描写

朝日が昇ってくるのを感じて、みなを起こさぬように外に出た。谷全体に霧が広がり、そこに朝日が当たってキラキラと輝いていた。

こういったパーツを飽きないように、織り交ぜながら小説は進んでいく。そのとき、適当に書くのでは芸がない。当然、書きながら「これ以上の会話が続くと幼稚に見えるか?」とか「地の文が続くから、硬い文章に見える。少し会話を入れよう」などと考える。

こういうときの「長さの目安」として原稿用紙を使うといい。作品によって、リズムというものがある。会話文ばかりの作品もあれば、会話がほとんどない作品もある。交互に均等に出てくるような作品もあるだろう。

慣れてくれば、「感覚」でリズムを作ってしまうことができるだろう。さながら寿司職人が眼をつぶって握っても同じ大きさのシャリを握れるように。

しかし自分の中で軸ができてくるまでは、目安となる物差しを持っておくといい。

「もう原稿用紙で2枚も会話が続いているな」「この段落は、原稿用紙1枚分もある。書き直すか……」といった具合である。

原稿用紙で書くという経験は、これを鍛える上で凄く効果的だ。

手書きで書くのが1番良い練習だと思っているが、パソコンで書くにせよ、原稿用紙形式かそれに近い形で書くと良い練習になる。

「それに近い形式」とはなにか?

ある先輩のプロの作家はワープロソフトを2段組にして、1段あたり40行×20字(つまり原稿用紙を2枚繋げた形)にしているという。それが2段あるから、1画面あたり4枚分を見ながら執筆する。

これによって、全体の見通しも良く、かつ原稿用紙あたりの枚数を意識しながら書くことができるというわけだ。

さらに言うならば、好きな作家の小説を原稿用紙に写してみると発見が多い。どういう文章が、どの程度の長さで書かれているかが一目瞭然になる。

今では形だけの原稿用紙だとしても

と、ここまで書いてわかるように、「原稿用紙」そのものに書く機会は減っていても、原稿用紙を意識しなくて良いという状況ではない。

もちろんウェブ小説などで、原稿用紙ではなく、文字数で数えるケースもあるだろう。

しかし作家同士の会話でも、編集者との会話でも、原稿用紙という言葉は頻繁に出る。

普段から慣れておいた方が良いだろう。

ちなみに余談だが、わたしが書いている《原稿用紙1枚の物語Medium版)》では、行を強く意識して書いている。ものさしとして原稿用紙がつかえないので、より細かいメモリが必要だから。

書いていて「描写が2行も続くのはアウト」といった具合で意識している。

Originally published at kenemic.com on May 16, 2016.

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Ken Takeshige
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小説書いてます。『池内祥三文学奨励賞』受賞。世界旅を終え、作家活動中。 noteやMediumで小説を連載。ブログ『日刊ケネミック』→ http://kenemic.com | Amazon著者ページ→ http://amzn.to/1sh7d1f