なぜ自治体でクラウド活用が進まないのかを考察してみた 最終夜

クラウド使ってるとレイテンシ気になるよね。こんばんは、いろんな人にアドバイスされまくりの山形です。

※この記事から来られた方はぜひ第1夜からご覧ください。第1夜はこちらから。

第1夜では、自治体は「えもいわれぬ不安」でクラウドを利用できないので、「えもいわれぬ不安」を明確化=リスクを明確化するところが重要じゃ無いか。という話題。

第2夜では、ざっくりとでも、リスクを明確化してみて、クラウドの方が安心っぽいよ?と提示してみても「えもいわれぬ不安」は結局払拭できないのでは無いか。という話題。

という旨の話を書いてきました(つもり)。

これらの話は、ワールドカフェ(&本シリーズ)の題材「自治体でクラウド活用が進まないのか」とその導入部分で出た話題を僕の実務経験ベースで、掘り下げたものであり、これらをまとめると、

結局自治体では、いくら理論上の安全性や考えを提示したとしても、

  • 「そーいうのわかっていても不安なものは不安なんだよ」
  • 「そっちの方が安全だっていっても怖いものは怖いんだよ」

となり、「実例教えてくれよ!!」「大丈夫だっていう前例あるのかよ!!」という方向へ進み、結果導入できないが答えとなりそうです。
えー!!それが結論!?

実は、僕ら、すでに「クラウドってる」んだ

よくわかります。僕もそうでした。
実は、当町では、いまから5年ほど前からインターネット接続系ネットワークをフルクラウド化(インターネット分離前は一般業務すべて。あの頃は便利だったな・・・)している団体であり、すでに「えもいわれぬ不安」を自己払拭しています。これ、前例になりますか?

「えもいわれぬ不安」を払拭できた要因のひとつは、第1夜でも少し触れた、東日本大震災。
大きな被害こそありませんでしたが、当町でも避難所の開設を行い、そこには止まってしまった特急の乗客や、低地の住民の方々など、多くの避難者が訪れ、具合の悪くなる人や食事、それらの連絡を本部としたいのに、通じない電話、携帯メール。

が、その当時、僕と上司はBlackBerryを持っており、避難所の僕と本部にいた上司はBBM(BlackBerryMessenger)でやりとりができました。インターネット最高かよ(正確にいうとBISだけど)。

その後、被災団体のサーバーが流された話、データが消えた話など多くの事例を聞き、僕たちは一気にクラウド志向へと変化(当町活火山を抱えているのも大きい)、「もしこうなったらどうするの?」という職員の不安を一つづつ払拭していきました。

いかがでしょう。当町では、すでに活用5年が経過し、不安払拭の足がかりになる事例・前例・実績があります。なんなら意思決定した詳細のプロセスまですべてお伝えできますが、これも

街の規模が違えば「それはあなた達の町だからできたことだよね」と言われるのがオチです。(自治体あるある)

それもそのはず、団体の規模によっては、その意思決定のプロセスも違いますし、置かれた環境(災害が多い少ない)によっても違います。規模が違う前例は前例にあらず(参考にはするけど)。

こんなことから、もし「えもいわれぬ不安」を自己払拭しようとしても、解決に至る頃には時代が進みすぎているということも多々あるのではないでしょうか。

これまでは長い前置きでした

そろそろ読んでいるかたもイライラして来たのではないでしょうか。
八方塞がりで、「本当にやる気あるの?」「やらない理由を探しているんじゃないの?」と思わず言いたくなって来ましたよね(笑)
ただ、あたたかくそこは見守ってください。

自治体という組織は、住民のみなさんの情報を取り扱うという責任感から、トラブルを極端に避ける傾向にあり「超強力に石橋を叩いて渡る」ことをします。もっというなら、「石橋を叩いて壊して渡れない」ようにすることに慣れてしまっています。

※これに対する批判をするのは簡単ですが、多分これって、これまでの社会がそうさせて来た結果なんじゃないかなぁと思います。だって、日本全国どこの自治体でもこれらの事例「あるある」すぎますよね。

叩いて壊して渡らないので、「やらない批判」に対する耐性はたくさん持ち合わせますが、「やった後に発生したトラブルに対する批判」への耐性を多く持ち合わせていません。

このため、明確なリスクとそれの回避方法を提示しようが、他の団体の成功事例を見ようが、「完全一致した事例」がない限り、「えもしれぬ不安」を払拭することはできない。

解決のためのきっかけを考えて見ようぜ

少しづつ作られて来た文化を、いきなり、180度変えろというのは、とても難しいものです。ここに至るまでたくさんの経緯があったはずですから。じゃあどうするのか。

以上を踏まえた上で、どうすれば、「少しでも」スピード感を増した変革を行うことができるのかをワールドカフェで考え、出された意見を紹介していきたいと思います。

  1. トラブルとリスクのしきい値を作る
    僕、これ、すごいいいアイデアだなと思いました。「えもえわれぬ不安感」とは「なにかあったらどうしよう」が強いため、例えば
    「◯◯人+個人情報か否か+直接的な被害の有無」により、「本人に謝罪・マスコミに公表・なんらかの補償」というような「しきい値」をどこかが明確化すれば(それが国なのかどこなのかは別として)、自治体の気持ちは楽なのかもしれません。
  2. クラウドサービスの安全性をスコア化
    さまざまなクラウドサービスが生まれては消えてを繰り返していますが、どこのサービスがどれだけ安全なのか、その対策はどうなのか、継続性はどのくらいなのか、などをスコア化できれば、例えば「個人情報を扱うような業務はこのスコア以上」、「一般的な業務はこのスコアでも大丈夫」といった判断がしやすいかのしれません。
  3. 自治体クラウドを再定義
    自治体クラウドの本質はコミュニティクラウドで、要は「特定業種」に向けたサービスを提供するようなもの。このサービス提供は民間事業者が独自でやっても構わないはずです。
    しかし、現在の「自治体クラウド」の定義では、複数団体による「共同契約」が必須であり、この制約のせいで、特に基幹系などでは「共同で基盤を構築」といった「共同構築したサーバをホスティング+保守契約」的なものになってしまっています。(ちなみに共同契約したからといって必ずしも全てがローコストに抑えられるとはかぎりません。)
    「クラウド」は導入難しいと言っても、「パブリッククラウド」が難しいと言っているのか、「共同契約」ができないから「自治体クラウド」が難しいと言っているのか、みきわめが必要かもしれません。
  4. 事例がないなら事例を作ってみる。そうバーチャルでね。
    こちら、1に関連するのですが、バーチャル空間で「仮想市町村」を立ち上げ、様々な生活やトラブルをシミュレーション・事例を蓄積し、リスクを視覚化、しきい値の参考にするというものです。これもすごい面白いんじゃないかなと思います。
    当町でも、LINE botを作成した際に、ペルソナをつくり、どんな質問がくるのだろうか、それはどのような言葉で、といったシミュレーションを行いましたが、非常に有効な手だと思います。

以上のような取り組みを行うことができれば、もしかしたら自治体の「えもいわれぬ不安」を簡単に払拭することができるようになるのかもしれませんね。

しかし、これらも全ては他力に頼った形のようにも見えます。
本質的には自分たちの組織の「しきい値」をしっかりと定め、「石橋を叩いて壊す」ことがない行政運営が必要なのではないでしょうか。

なんでこんな記事書いたの?

今回、ワールドカフェで「クラウド」を題材としたのは正直たまたまだったんですが、その話の中で僕の中のモヤモヤが明確になり、そして、それを「もしかしたら」変えられるかもしれないと思い、3夜に渡り、考えをまとめ、アイデアを紹介させていただきました。

そもそもの僕のモヤモヤは普段とのギャップです。

職場外、僕らハウモリでは、いろんな場所に散らばったメンバーやサポーターが、当然のごとくSlackやメッセンジャー上で常に打ち合わせ。

思いついたアイデアがあればAzureやAWSでサクッとサービスを立ち上げ、ノンコーディングでbotを作ってみたり、技術者でも無いのにこんなことができるのは全てクラウドサービスと先人たち(インターネット上の)の恩恵です。世界はこんな風になっている。

さらに、僕の後輩(20代前半)なんかは、基本がすでに「デジタル」であり、彼らの発想に学ぶことも多い。

こんな世界になっているにも関わらず、なぜ自治体は変わろうとしないのか。なぜ変えられないのか。いつまで僕たちは古い考え方のままで物事を「変革」させようとしているんでしょうか。「紙での業務をデジタル化」なんて言ってたらなんにもできませんよね。

ただ、そんなことを一方的に言っていても、変わらないのが悪いと批判しても、何も変わりません。
そのもどかしさと、どうしたらいいのだろうということでずっとモヤモヤしていました。

しかし、今回の話の中で多くのアイデアや様々な考え方を学ぶことができました。これがあれば、なにかできるかも。

というか、やりましょう。

特に、当町のような小さな町(15,000人程度)は、より「クラウド思考」へと考え方を変化させ、時代に合わせた手法で行政運営をしていかなければ、今後成り立っていかないのではないでしょうか。
クラウドへ向かうということは、小さな町にとってはリスクではなく、チャンスしかありません。

でも、僕もすでに頭が凝り固まって来ているので、デジタル社会で本当に変えられるのは次の働き盛りの世代。彼らのサポートをできるようになればいいなあと感じる今日この頃です。

おわり

※現在はnoteで記事を書いています。合わせてどうぞ

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山形巧哉 | Takuya Yamagata
howmori
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「北海道森町」をきっかけに集まった多様なメンバーが、自由に活動している「クリエイター・コンプレックス」な「ハウモリ」を運営してます。それぞれがそれぞれのフィールドを持ち、とにかく「楽しくてカッコイイ」をモットーにしてます。あと、謎の肩書き「行政アーティスト」