オープンデータと、次の一歩

Yasuto FURUKAWA
howmori
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13 min readJul 17, 2018

先日、札幌にて台湾と学ぶ “オープンデータ次の一歩”というMeetupを開催しました。参加したいけどいけない!中継はないのですか? というお声も多々いただきましたので、Mediumにてその様子をざっくりですがお届けしたいとおもいます。

20人くらい集まりました、ありがたし。

オープンデータの「次の一歩」はとてもむつかしい問題です。

法律はできたし、大事なのはわかってて、2020年までにやんなきゃいけないけど、理解してくれたり応援してくれるひとは少ないし、スキャンpdfしか集まらなくて…などなど、担当になった方はいささか重い気分になりがちかもしれません。

では、世界でも最先端レベルといわれる台湾はいったいどんな状況なのでしょうか。

今回のメインスピーカーはG0vOpenStreetMap台湾などといったオープンコミュニティの一員であり、台湾政府や国内産業とともにオープンデータ・オープンガバメントを支えてきたDong-Po Deng(ドンポ)さんです。
わたしとドンポさんは数年前からちょくちょくお会させていただいていまして、2015年にはOpenStreetMapに関するMeetupを北海道大学で開催しました。そのときのMeetupではさまざまな学生や技術者の参加があり、こんどはOpen Dataを軸にあんなのまた開いてみたいねえ…という話を昨年くらいからしていました。

また、今回とくに強い動機になったのは、わたしが秋に台湾での実情を垣間見たり、ドンポさんと情報交換していたときに、世界的にも進んでいると言われる台湾でもレガシーなシステムや伝統的な人と日々対峙しているという話があり、お互い学びあえるところがあるはずだという出発点でした。

以前ドンポさんからもらったメッセが今回のきっかけ

そしてドンポさんが今年7月7日のオープンソースカンファレンスHokkaido2018に参加されることになったことを契機に、Code for Sapporo / MIERUNE Inc.の共催で「台湾と学ぶ “オープンデータ次の一歩”
What is next step in Open Data ? / Meetup Taiwan
」として7月9日にMeetupを開きました。

会場は札幌駅すぐのコバル計画。Meetupにはちょうどいいすてきな場所でした。小さなイベントやドロップインにもおすすめ

当日は急なお誘いにもかかわらず、20名ほどの(日々オープンデータと格闘している)行政や大学・民間の方々が参加してくださり、リラックスできる雰囲気のおかげて、質問やコメントが活発に出るなど濃密なMeetupが開けたと思います。いい場所ってだいじですよね。

今回のMeetupでは、オープンデータをめぐる台湾と北海道・札幌市での現状や課題を共有し、次の一歩に触れることができれば、というゴールを設定しました。

まず、わたしがイントロダクションとして、日本と台湾の現状をざっくりと共有しました。

わたしは a.k.a 「”餅から米をつくる” のはもう疲れたよママ…」を説明(米食仲間なのでウケてた)

そのあと。北海道大学の森先生・札幌市役所の工藤さん・北海道庁の喜多さんにもお忙しい中(赤裸々な)話題提供をしていただき、ドンポさんとNational Applied Research LaboratoriesのSteven Shiauさんに台湾のお話を伺いました。

北海道大学大学大学院工学研究院 森先生 スライドはこちら

トップバッターとして北海道大学の森先生からは、人口動態や都市計画データをもとにQGISやRを用いて北海道内での住環境や収入の多くが冬季の燃料費に消えてしまう Fuel Poverty(燃料貧困)に関する研究などの紹介をされました。Fuel Povertyはヒグマに並んで北海道ならではの地域課題としてわたしも関心があります。

なお、この中で森先生は「札幌市が設置して、その第三セクターが販売している高価な気象センサーデータがオープンにならないかしら…」という要望をされました。するとすかさず会場にいた札幌市役所の方から「近日中にオープンデータとして公開されますよ!」と嬉しい反応があり、Meetupならではのホットなコミュニケーションが生まれたのはとても良かったです。

札幌市ICT戦略推進担当課 工藤さん スライドはこちら

札幌市役所でオープンデータの推進などを担当している札幌市ICT戦略推進担当課の工藤さんからは、札幌市役所での状況について、いらすとや(!!)を駆使して説明がありました。そこでは、2015年から札幌市がオープンデータに取り組み始めたいきさつや、プラットフォームの構築、そして市役所内でもオープンデータを高度に活用できる人材づくりなどのお話がありました。工藤さんは6月のCode for Japanのデータアカデミーエッセンスにも参加してくださり、今後も庁内でのレベルアップが期待されます。

また、原課とのたいへんなやりとりに関するスライドはドンポさんのFacebookですぐ紹介があり、台湾の方がたくさんのいいね!とともにコメント欄で「私達のところ(台湾)でも同じような会話があるよねー」と同感しているのがとても面白かったです。

北海道庁情報政策課 喜多さん スライドはこちら

次にQGISに関する著作などでおなじみの北海道庁の喜多さんからは、北海道庁でのオープンデータに関する取り組みの紹介がありました。「北海道庁はまだ札幌市役所さんの3年ほど前ぐらい状況ですが…」と喜多さんは謙遜しつつも、以前から組織内でオープンデータに関する自主的なグループを立ち上げたり、今年度から北海道庁のオープンデータの中心的な部署に参加することになった喜多さんの功績は北海道全体にとって計り知れないものがあります。

喜多さんからは、現在はオープンデータリンク一覧サイトとなっているが、ポータルサイトの準備をすすめており、小さな市町村も登録しやすくすることや、オープンデータ化を進めたことでひなたGIS北海道の道有林情報日本海津波浸水想定が閲覧できることになったことなどが紹介されました。

National Applied Research Laboratories(NARLabs) Steven Shiauさん スライドはこちら

台湾の財團法人國家實驗研究院 National Applied Research Laboratories(NARLabs) のSteven Shiauさんからは、NARLabが展開している台湾のデータプラットフォームであるData Marketについての紹介がありました。このプラットフォームにはオープンソースのClonezillaなども活用されており、政府のオープンデータだけでなく、気象データ、音声データ、衛星データ、またNon-open Data(犯罪・賃金体系などに関わるデータ)も格納されているそうです。もちろん後者は強固なセキュリティで隔離されていますが、施策決定のための国家的な研究に用いられているそうです。

また、StevenさんのチームはOpenStreetMapデータのキャッシュも担当されていて、日本を含めたアジア地域からのアクセスも随時管理してくださっています(ポケモンGoがリリースされた直後、ポケモンの位置検索サイトがOpenStreetMapを使っていたため、キャッシュサーバーが火を吹いてすぐ復旧させたときは死ぬかと思ったというお話がさいこうでした)。

Dong-Po Dengさん スライドはこちら

ドンポさんからは、Open data and CivicTech: An experience
and practice in Taiwan
というタイトルでOpen dataとシビックテックをとりまくここ数年の台湾の状況と事例紹介についてお話してくださいました。

過去の台湾では、公務員・専門家・IT技術者・NGOなどとの協働がほとんどなく、これらをつなぐG0vなどといったシビックテック組織が成長してきたという背景があります。現在G0vのSlackには公務員から開発者までさまざまな属性の市民が2300人も参加しているそうです。とくに最近では「デザイナー」の役割が高まっており、プロジェクト設計やデータの可視化に彼らはさまざまな貢献を果たしているそうです。

g0vの構成(ドンポさんのスライドより)

台湾でのOpen Data活用の一例としてドンポさんから紹介があったのは、台湾政府によるTAPという食品トレーサビリティーのシステムについての事例でした。台湾では2011年頃から立て続けに廃油などを材料にした偽装食品が流通し大きな社会問題となった背景をもとに、政府は食の安全を確保するため、Linked Open Dataと大規模クラウドシステムを活用したシステムを構築しました。
認証を得たレストランのメニューやスーパーに並ぶ食品にはTAP(產銷履歷農產品標章)のマークとQRコードが表示されており、消費者はそのQRコードを読み取ることで、生産地、生産者情報、農薬履歴、肥料履歴、加工工程などまでリンクで参照できるようになっています。このベースにはJSON形式で毎日提供される政府の生産履歴OpenDataが活用されています。

※なお、TAPの詳細な解説は2018年3月に出た日本貿易振興機構(JETRO)による報告書「日本食品消費動向調査 台湾」のP11・17に記述があるので、ご興味のある方はこちらもどうぞ。また、この報告書は台湾の食文化に関する考察も記述がけっこうあって、台湾の食べ物がすきなわたしは大変タメになりました。
TAPのデモ動画。レシピ→食材情報→産地→販売店までLODで辿ることができる(設定→字幕のところで日本語字幕表示も可能)

また、台湾政府のオープンデータポータルには4万近いデータセットが登録されていますが、今後は”価値あるデータセット”をさらに増やすことを目指しているそうです。

ここでいう”価値あるデータセット”とは何でしょうか。これらについてドンポさんは、EUのReport on high-value datasets from EU Institutionsを引用して、

 ・透明性に貢献すること
・法的義務を満たすもの
・公務に関わりがあること
・役所のコスト削減に寄与するもの
・ターゲット層に適したデータタイプやサイズであること

…などであると述べました。
この背景には、当初台湾ではポータルのデータセットをとにかく増やすことに注力しすぎたたため、あまり使えないデータセットが増えてしまったという原状があるためです。
昨年台湾で公表されたOpen Culture FoundationのレポートでもOpen Washingと絡めて「データポータルには価値が高いとは言えないデータが半数もある」という指摘があり、台湾では”価値あるデータセット”の課題が重要視されています。

このほかにも、データの質のほかにもドンポさんは単に「データを出す」という目的にのみ固執したり、機械学習やAI(笑)の結果にのみ依存するのではなく、賢明な政府組織は根拠・協働・社会的影響・智慧を勘案しながらデータと意思決定を駆動させていくべきであると指摘されていたのが印象的でした。

データをもとに智慧(Wisdom)まで昇華させていく考え方(ドンポさんのスライドより)

また、札幌市の工藤さんから、職員などに対してオープンデータへの理解をどのように得たり、データ利活用人材育成を行っているか?という質問がありました。
これに対して、台湾ではコミュニティとも協働しながらワークショップ・チュートリアル・フォーラム・ハッカソンを通じてトレーニングを行い、若手職員だけでなく上級職員にもこのようなトレーニングを受けさせているとのことでし)。
また、台湾ではITボランティアの活用も行っているとのことで、重要なpdfなどはG0vのメンバーが主体的にテキスト化しているそうです。

補足:G0vのメンバーはひまわり学生運動などとも関連して社会参加や課題解決に対する意識がとても強いという背景があります。ですので日本国内でもとりあえずボランティアや学生をがしがし投入すればいいじゃんって話じゃないですよ(このへんの台湾の流れはいずれまた整理したい感ある)
懇親会の海鮮!

ということで、予定を超過してあっという間の2時間でした。もうすこし込み入った話とかもできたらよかったなあ…と思っていましたが、そのあとの北の海の幸を前にした懇親会でもとつぜん森の巨人が現れるなど様々な交流がはかれてよかったです。

日本と台湾では共通した課題もあるよ!などという触れ込みでしたが、一部は似ていても、実際に社会実装されたりしていく課程や、より高い次元のオープンにすすめていく実行力、まずはチャレンジしてみる精神、そしてコミュニティとの協働などは、雲泥の差を感じずにはおれませんでした(2-3で華麗な逆転負けを喫しておれたちのやってるサッカーって…と落胆する的なアレ)。

だからといって、XXX市役所はダメだとかこのクサレpdf!とか怒るのではなく、小さくても着実にちょっとづつでも仲間を増やし、手を動かしながら一緒に作り上げれればよいなと思っています。
また、今回参加できなくてここまで読んでくださったあなたの活動に少しでも役に立てれば幸いです。

個人的には、台北以外での活動や、若者の参加、公的機関とコミュニティの関係、役所内でのコンセンサスなど…まだまだ興味はつきません。
また、これは台湾ではコレどうやっているの?どんな人がシビックテックをやってるの?などを聞いてみたかった方もいるかもしれません。そんな方はこの10月には台北でG0v summit 2018があります!。飛行機も高くないですし、ぜひ生で触れてみることをおすすめします。

g0v summit 2018
今回の記事ではCode for Sapporoの鈴木祐亮さんにお写真を提供していただき、石井宏章さんの記録も参考にさせていただきました。ほんと助かりました、ありがとうございました。(そういえばお二人とも3年前のドンポさんのMeetupに参加されてましたね…ありがたや)

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Yasuto FURUKAWA
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GIS Engineer / Organizer 人と位置と科学。Code for Japan/OSGeoJP/MIERUNE/Code for Sapporo/Rakuno Gakuen Univ./CoSTEP04