悪いのはあなたではなく、使いづらいシステムだ

Hiroki Sunagawa
howmori
Published in
6 min readMar 3, 2018

筆者は現在神戸市役所で、任期付きのICT業務改革専門官として働いています。名前の通り、基本的には庁内のICT環境整備のお手伝いや、業務改革プロジェクトに従事しているのですが、その他にも「働き方改革」の意識醸成として庁内メディアの編集者兼ライターなどもやっております。今回は、庁内むけに執筆した記事を、howmoriメディアに転載する形で寄稿します。howmoriのフォロワーは公務員の中でもITリテラシが高い方々だと予想されますので、周囲におられる「ITは苦手だから、、、」と呟く方々にお勧めいただけると幸いです。

ICT専門官でも使いこなせないシステム

「あぁぁぁぁぁぁっっっっっ! なんじゃこりゃ!!」

神戸市役所に来て、何回私は叫んだことでしょう。

  • CMS(ホームページ作成ツール)の動作はもっさりしていて、画面が固まり、入力していたデータが飛んでしまうことはザラ。
  • 文書管理・電子決裁システムは、自分が次に何をすればいいのかわからず、入力項目も何が必須なのかさっぱりわからない。
  • イントラの検索機能は全く使えず、何でこれが検索上位に上がってくるの?ということばかり。
  • 極め付けはインターネット分離。国をあげて働き方改革を推進しているはずなのに、なぜ私たちの仕事を邪魔するの?と思ったことは数知れず。

システムの使い方を調べようにも、マニュアルは要点が分かりづらく、ページ数が異常に多くて途方に暮れるばかり。結局周りの人たちの助けを借りて目的を遂げることになり、組織として極めて非効率です。

一応私は”ICT業務改革専門官”として着任しているので、それなりにICTの知見はあります。その人間が簡単に使いこなせないシステムなのですから、職員の方々もおそらく同様の経験をされたことがあるのではないかと推測します。

もちろんこういったシステムが使われている事情は理解しているつもりです。はっきりと確認はしていませんが、おそらく下記のような理由でしょう。

  • 予算が限られているため、サクサク動作する機器(サーバー、クライアント端末)を導入できていない。
  • ずっと昔に導入されたシステムを、つぎはぎしながらそのまま使い続けている。
  • 庁内イントラに存在する電子データのフォーマットはきちんと統一されておらず、検索エンジンの性能も悪い。
  • 国の指導で急いでセキュリティを向上させたために、使い勝手が悪くなることを事前に予想する余裕がなかった。

とは言え、そこで「はいそうですか、わかりました」と納得するほど私は人間ができておりません。ツールの使いづらさは、業務の生産性を落とすだけではなく、ICTに対するトラウマさえ引き起こすものだと思っています。

あなたが自分のことをITオンチだと思い込むメカニズム

私は民間企業で技術者として働いた後、フィンランドで「デザインの力でICTツールやサービスを使いやすくする」分野を学んできました。この分野は世間では、サービスデザインや、UXデザイン(User Experience:利用者の体験、使う人がどう感じるか)といった名前で呼ばれることが多いです。

優れたUXデザインの例として、iPhoneやLINEが挙げられます。私の母(60代)はWindowsのパソコンに写真を取り込むことはできませんが、iPhoneで撮った孫の写真をLINEで送ることはすぐ覚えました。

結果的に、私の母はパソコン(Windows7)は嫌いですが、スマホ(LINE)は楽しくて好きだと言っています。

つまりUXデザインの良し悪しは、ITを受け入れられるかどうかの決め手の一つなのです。「悲劇的なデザイン(2017年、ビーエヌエヌ新社)」という本が自分のことをITオンチと思い込むメカニズムを分かりやすく説明しているので、下記に引用します。

ユーザーは、製品がうまく使えないのは自分がミスをしたから、あるいは自分の使い方が下手だからだと思いこむ。(中略)たくさんの人が使えているんだから、問題があるのは自分の方だと思いこむ。思いこみは疎外感に繋がり、やがて使い方がわからないつらさや屈辱感を味わいたくないと、テクノロジーを自分から避けるようになる。

市役所の職員、特にベテランの職員の方々はよく「ITのことはよくわからんから、若い子に任せよう」と言っている気がします。もちろん、年齢を重ねるにつれて新しいことを避けがちになるのは仕方のないことです。ただ、UXが悪いシステムを与えられたせいで、働く人たちが最新のITシステムの恩恵を受けられないのは、悲しいことです。

日本においては、官公庁によく出入りしているITベンダーがきちんとUXを考慮したシステムを導入することは極めて稀です。これからの時代は、調達の際にUXの評価指標を入れ込んだり、評価プロセスにユーザーリサーチを盛り込んだりするなど、調達システムの抜本的な見直しが求められるでしょう。

現在神戸市役所ではICT化を推進しており、ご自身をITオンチと思い込んでおられる方々はこれから置いてけぼりにされるかもしれないという不安があるかもしれません。そんな時は、堂々とこう思ってください。

「自分は悪くない、悪いのは使いづらいシステムだ」

もちろん、全員にとって完璧な使い勝手というものは存在しません。これからも新しいシステムが導入されるたびに少なからず苦労されると思います。ただ、世の中の流れ的には、UXデザインがますます重視されています。 例えば、下記のような点を工夫することでUXは向上します。

  • 視認性を配慮したフォント、文字サイズ
  • 注意を引きたい情報”のみ”目立たせるレイアウト、色づかい
  • 文字を減らし、余白をきちんと取ることで、読む前にうんざりさせない
  • 利用者が迷わないための、一貫した情報設計とデザインガイドライン
  • クリックやスクロールを極力減らす
  • ページ読み込み速度を極力高める
  • 利用者のニーズを先回りして提示する(次に何をすべきか、調べさせない)

働き方改革を推進する私たちとしては、今後はなるべく他のシステムと一貫性のあるデザインを採用し、ストレスなく動作するICT環境を整えていくべきだと考えています。ですので、これからは新しいITツールを毛嫌いすることなく、まずは試していただくと嬉しいです。

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Hiroki Sunagawa
howmori

Born in Kobe, Japan. Kyoto University→Panasonic→Aalto University in Finland→City of Kobe→Code for Japan. Embedded Engineer/ICT Strategist/Service Designer.