森町に先人のキロクをインストール

Atsushi Mizuyama
howmori
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11 min readNov 27, 2018

平成30年11月2~3日、立正大学地球環境科学部による古写真のデジタルアーカイブとその地図化を行うイベント「街を知り、街をつくる。」が北海道森町で開催されました。
この取り組みの様子を北海道森町というキーワードの元に集まったクリエイター・コンプレックス「ハウモリ」のメンバーとして運営に携わりました水山淳史が、ざっくりと報告します。

〜まず、はじめに〜
このプロジェクトは、立正大学の学生が北海道森高等学校の学生とともに、町の古写真をデータ化しインターネット上に位置情報と共にアーカイブするという取り組みです。学生たちが、この活動を通じ、町の歴史や文化、まちづくりの考え方などを、主体的・能動的に学ぶことをその目的としています。

プロジェクトの始まりは、森町に現存する古写真をインターネット上にアーカイブする取り組み「キロク乃キオク」を、地域連携フィールドワークという枠組みの能動的な学習(アクティブラーニング)の題材にさせてもらえないか、という三島さんの相談でした。

「キロク乃キオク」は平成28年8月にハウモリ主宰の山形巧哉が、石川初さんが行なっている古写真を現在の風景になじませて撮影する「時層写真」に魅了され、いても立ってもいられず勢いではじめたものです。それは、町の古写真や時層写真のみならず、テキストや画像資料など、残された記録をデータ化し、オープンな資産として地図上に視覚的にアーカイブし、共有していこうとする取り組み(作品)であり、そのアウトプットの場がウェブサイト「キロク乃キオク」です。平成30年9月からは、東京大学大学院の渡邉英徳教授が公開しているヒロシマアーカイブオープンソース版を導入し、3D表現される地形情報上への古写真の配置が可能になりました。

三島さんの提案からのプロジェクトの立上げと、実際に古写真アーカイブ活動を実施するイベントの開催決定までには紆余曲折がありましたが、主催は立正大学地球環境科学部、地元森町サイドからのサポートとして我々「ハウモリ」が参画し、森高校の学生さんは課外活動として参加するというスタイルでイベントを開催することになりました。また、開催にあたり北海道森高等学校、森町、森町教育委員会、森町社会福祉協議会のフルサポートを得ることができました。また、NoMapsの連携事業として登録もしていただきました。
活動に必要な機材は、立正大学のリソースを活用することとし、iPad15台、ポケットwi-fi、プロジェクタ、スキャナなどが持ち込まれました。

イベントの日程は2日間。
初日の11月2日は北海道森高等学校において、高校生にこの企画の趣旨説明等を行うインプットセッションを行います。さらに町内で撮影された思い入れがある古写真を選定しデジタル化を行う予定です。選ばれた写真は翌日のフィールドワークにも用いられます。
2日目の文化の日11月3日は、フィールドワークセッションとして森町内の古写真が当時撮影された地点に行き、現在の写真と座標のデータを収集します。さらにその日のうちに収集した写真に位置情報を付与し「キロク乃キオク」上での公開まで到達してしまう欲張りな内容なのです。

〜11月2日〜
今回学内での参加呼びかけに応え、森町を訪れた立正大学の学生は全部で5名。
前日の11月1日からそれぞれ森町入りしており、講義を受けた後新幹線に飛び乗り深夜に到着した学生は、せっかくの北海道の景色を楽しむこともできず、暗闇の中、ワンマン各駅停車のJR車両に1時間揺られ、やっとホテルにたどり着いていました。さぞかし不安だったに違いありません。
16時から森高校にて高校生に趣旨説明を開始。
参加した高校生は6名。三島さんから趣旨説明、山形さんからキロク乃キオクの解説、立正大生の田嶋(タシマ)さんから銀塩写真の解説を全部で30分ほどしていただくと、高校生6人は「とんでもないところに迷い込んだ」という顔をしていました。
が、明日のフィールドワークで使用するイチオシの写真を選んでもらうため、テーマごと10冊にまとめられた約2,000枚の古写真を実際に見てもらうと、徐々に興奮していく高校生…と先生達。
現在の森町に面影を感じる写真が多くあったのか、「昔はこうだったのか」という声が上がり、写真に散りばめられた情報をなんとか読み取ろうとまじまじと見つめる姿が見られ、熱気を帯びていきます。
そんな光景に、ひそかに感動する山形さん。きっと町内に住むレジェンドたちが見たら古写真一つ一つを解説したくなってたまらないでしょう。
森高生は、立正大生のサポートを受けながら、自分の胸にグッときた写真をiPadでスキャニングしていきます。
最後まで参加してくれた3名の生徒には、選んだ写真をプロジェクターで投影しながら、なぜグッと来たかを説明してもらいました。これがまたよい。
一人の人間が過去に思いを馳せ、グッと来た写真、みんながグッとこないわけがない。
現代に生きる高校生が森町の記録をもとに想像を膨らませ、写真の場所を探り、当時生きていた人の思いを妄想するうち、撮影された日の空気までもが流れてくるようです。

森高生が選んだ写真たち

森高生の生き生きとした語り口に感化された山形さんや私(水山)は、ついつい森高生の選んだ写真に自分のコメントを重ねることになりました。
森高生の発表を終え、余韻に浸りながら翌日のフィールドワークの行程を確認し、初日を終えました。

〜11月3日〜
午前10時、本日のフィールドワークセッションのベースキャンプである森町社会福祉協議会に集合。
この日のセッションは祝日ということもあり立正大生を主体としていましたが、森高校からも1名の生徒が参戦してくれました。早速、昨日選んだ写真が撮影された場所を探しにいきます。
選ばれた写真には海の向こうに駒ヶ岳を望む工事現場で作業をする男性2名が写っています。昨日の発表が終わった後、これは港での工事の様子が撮影されたもので、おそらく鷲ノ木漁港だろうと見当をつけていましたので、車で森町北部の鷲ノ木漁港へ向かったのですが…んんん? 見え方が全然違う。
これはもっと駒ヶ岳に近いところで撮影したものじゃない?という意見が出たため、南に戻り森町市街地に近い森漁港に向かいました。漁港内で場所を探っていくと突端から見える景色がなんとなく近いような気がしてきました。そこで、ためしに写真に写った男性の代わりに山形さんと&私(水山)が2人で立ってみると…ここですね! 無事にグッときた写真の撮影地点を特定できました。

初日に森高生が選んだ写真

その後、一度ベースキャンプの社会福祉協議会に戻り、森町市街地の徒歩で回れる範囲の古写真を手に現代の森町で写真を撮影していきます。
立正大学の学生も時層写真に挑戦してみますが、なかなか上手に撮れない様子。しかしその難しさが撮影意欲に火をつけるのか各自が試行錯誤しながら時折歓声をあげつつ楽しんでいます。山形さんのレクチャーを受けながら徐々にコツをつかんでいくのですが…次世代の伸びしろは計り知れないものです。いつの間にかこんなおしゃれな時層写真を撮影し、山形さんの心を揺さぶるのでした。

JR森駅券売機前

町内にかつて存在した、マルト本店や長崎屋サンバード、かさい靴店、まりや商会。森町の歴史を残す写真を透かして見える今の森町をiPadや自分のスマートフォンで撮影し、位置情報付きの画像として記録していきます。

マルト本店
長崎屋サンバード
かさい靴店

フィールドワークがあまりに盛り上がり過ぎて予定していた時間を大幅にオーバーしてしまいましたが、社会福祉協議会に戻ってすぐ「キロク乃キオク」に新たな画像を搭載するべく作業を開始します。
会場の会議室の中では、立正大学の5名が撮影した画像から撮影場所の緯度経度情報を抽出し、整理しています。三島さんと山形さんはライブコーディングでデータの修正を繰り返しています。大学生と高校生の若い力を借り、いままで資料室で保管されていた古写真が、撮影当時の風景とその時代をその場所で生きた人々の思いというキオクとして森町にインストールされていくのです。

そして、日がとっぷりとくれた頃、この新しくてちょっぴりセンチメンタルな森町のキロクをみなさんとシェアすることができました。

キロク乃キオク
https://kirokio.howmori.org/

〜プロジェクトを終えて〜
2日間の「街を知り、街をつくる。」を終えて、感じるままに良かった点を挙げてみます。

・他の地域でもすぐにはじめられる
やってみたい!という人、古写真、撮影地点を特定できる地元の人がいればすぐにできるので、全国各地の記録をアーカイブしていけます。「キロク乃キオク」はオープンソースですので皆さんのお住いの地域でカスタマイズ可能です。

・学生間の交流による能動的な学習ができる
都市部の大学生と地域の学生が、自分たちの住む町にかくされている秘密を発見し、テクノロジーと表現の手法を学習・習得し、共有していくことができます。

・シビックプライドにつながる
どんな地域でも人が生きてきた記録は見つかります。地域の記録を発見し、その場所を探し、アーカイブすることで、地域の歴史その積み重ねの先で我々が生活している。地域とのつながりを意識するきっかけとなりえます。

・人が歩く
田舎ではこれがすごく感動を覚えます。森町には大学がありません。休日になると高校生すら歩いていません。まず、人は歩きません。大学がない田舎で大学生が町を歩いている風景は新鮮で見た目から活気がでます。車に乗っていた人たちは100%「なにしてんだ」という顔で通り過ぎて行きますが。

ジロジロ見られるフィールドワークの様子

・多世代と交流できるツールとなる
このプロジェクトは学生だけでは成立しないのが良いところです。必ず地域で暮らしていた方へインタビューをする必要があります。地域に長く暮らしてきた方に話を聞くと、高確率で嬉しそうな顔が見られます。暮らしてきた地域に対してすくなからず愛着があり、自分の愛する地域に関心を持ってくれるひとが現れるのは嬉しいのだと思います。古写真が世代と世代をつなぐツールとなり、今までなかった交流を生みます。

〜これから〜
今回のプロジェクトで「キロク乃キオク」に追加された写真は森町に眠る古写真のほんの一部です。第2弾として、引き続き、立正大学チームが森高校や森町と連携して新たな古写真をアーカイブするべく企画中です。
ハウモリとしては、引き続き「キロク乃キオク」をより使いやすく、多くの方に見てもらえるように改良を加えていきます。また、今回得られた資料だけではなく、新たな森町の資産を順次アーカイブしていくことで、森町を知ってもらうきっかけをつくっていきます。ですので「いいぞ、もっとやれ」と言っていただけるとありがたいです。
そして、これからいろいろな方が森町で、あるいは別の地域で、古写真がどこでなぜ撮られたかを明らかにしながら記憶を記録していき、現在の地域の輪郭が過去に触れることでよりクリアになっていくことを感じてもらえたら最高です。

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Atsushi Mizuyama
howmori
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北海道森町というキーワードの元に集まったクリエイターコンプレックス 「ハウモリ」のメンバー。北海道森町に移住して10年目。任意団体Mori TRYSECTION代表理事。木育マイスター