財布よ戻れ

3月12日、語呂合わせで「財布の日」だ。私は人生で一度だけ財布を落としたことがある。落としたことに気づかなかったときを含めればそれ以上かもしれない。

忘れもしない、あれは数年前の12月4日、あるいは5日、6日、その近辺だった。6月だった可能性もある。日も落ち、すっかり辺りは夜の闇。寒々しく家に帰る途中、気づけばポケットに入れていたはずの財布がないではないか。財布の紐を緩めるのはいいが、ポケットまで緩めてしまってはいけない。

これはまずい。冬の寒さにもかかわらず額から流れ落ちる冷や汗。財布を落とし、汗を落とし、もちろん気分も落ちる。いまだからこうしてのんびりと書いていられるが、当時の心境はまさに地の底だった。先の見えない不安が一気に押し寄せる。

いますぐにでも探したい気持ちだったが、暗い中ではどうすることもできない。昔話に出てくるような心優しいおじいさんに拾われることを祈って、不安なまま、仕方なくその日は家に帰った。

家に帰ってからも心は落ち着かない。警察に連絡を終えてから一度冷静になって財布の中に入っていたものを思い出す。なくなって困るものは何か? 現金、免許証、保険証、カード類。まあそれは何とかなるとして、何より一番困るのが図書館の貸出カードだ。あれがないと本が借りられない。そればかりか、悪用されると勝手に本を借りられかねない。これは非常に困ったことになる。もうこうなったら、私の日頃の行いのよさを信じて、運命を天に任せるしかない。

ちなみに財布の中には数日前に父が旅行先で引いてきた「大吉」のおみくじが入っていた。大吉のおみくじを財布に入れた直後の悲劇。やはりおみくじなんてあてにならない。

財布を落としたとはいえ、冷静に考えると別に命をとられたわけではない。財布を落としただけで何も悲観することはない。ポケットから財布が落ちても、受験に落ちても、目から鱗が落ちてもどうってことはない。目からコンタクトが落ちたらさすがに慌てるかもしれないが。

翌日、普通に財布は手元に戻ってきた。拾って警察に届けてくれた方、名前を残さないで届けてくれたので誰かは分かりませんが、このブログを見てくれていると信じて、この場を借りてお礼を申し上げます。本当にあざーす!

無事生還を果たした財布をしげしげと見る。中に入れてあった大吉のおみくじを眺める。「落し物、出にくい」と書かれていた。

室内に私の満を持した「なんでやねーん!」の声が鳴り響いた。