「鉛筆削り型イノベーション」を超えることができるか?: LETTER TWO

アメリカの教育分野の最先端にいるブレーンたちは、今何を考えているのか。リーダー二人の往復書簡を公開!

IGNITION Staff
Published in
6 min readAug 10, 2015

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by Richard Culatta

編集部注:「Build on This」は教育リーダーによる往復書簡形式の連載です。今回のシリーズは、デザインファームIDEOで教育ポートフォリオを率いるサンディ・スパイカー(Sandy Speicher)と、米国教育省におけるテクノロジーへの取り組みをリードするリチャード・クラッタ(Richard Culatta)のやりとりをお届けします。サンディからLETTER ONEを受け取ったリチャードの返信です。

サンディへ

教育やイノベーションの問題に対するあなたの考えにはいつも注目しています。特に電子メールでのやりとりにまでポストイットを使うやり方には感心しました!

最近、至るところで聞かれるようになった「イノベーション」という言葉を理解するためには、この言葉がどのような意味で使われているのかを探ることがカギになるでしょう。

教育におけるイノベーションを語るときの人々の思考が、頭の上で吹き出しになって見えればいいのにと思います。それぞれがまったく違う絵を思い浮かべているに違いないからです。それは悪いことではありません。しかし行き違いを防ぐためには、お互いが何を指して「イノベーション」と言っているのかを確認しておく必要があります。

あなたがポストイットで挙げた要素は、あるアプローチがイノベーティブであるか、そうでないかの分類として捉えることもできます。しかし見方を変えれば、あなたが書いたすべての要素がイノベーティブであると言うことができるのではないでしょうか。

イノベーションは、ボトムアップ式にもトップダウン式にも起こり得ます。そして、漸次的にも急進的にも起こります。ですから、これらの要素は、さまざまなイノベーションの位置づけを把握するための、幅を持たせた指標として捉えた方が良いのではないでしょうか。つまりポストイットは「vs.」ではなく、「アプローチ」「注力点」「主体」「インパクトのスケール」ごとに分けた下のようなものになります。

左から「アプローチ(漸次的ー急進的)」「注力点(方法ー手段)」「主体(ボトムアップ式ートップダウン式)「インパクトスケール(小規模ー大規模)

試しに、Flipped Classroom(反転授業。「宿題」を教室でやったり、家で授業を視聴したりする制度)、コモン・コア、カーンアカデミーの3つのイノベーションを位置づけてみましょう。

1. Flipped Classroom(反転授業)

「漸次的な」アプローチで、「方法」に力点が置かれた「ボトムアップ式」のイノベーションで、影響力は「中程度」。

2. コモン・コア(全米共通学力基準)

「急進的」で、「手段」に力点が置かれた「トップダウン式」のイノベーションで、「大きな影響力」がある。

3. カーンアカデミー

「急進的」で、「方法」に力点が置かれた「ボトムアップ式」のイノベーションで、「大きな影響力」がある。

各人の「吹き出し」の中にある「教育的イノベーション」を位置づけることができれば、何かトレンドが見えてくるはずです。たとえば、急進的に広がる大規模なイノベーションは少ない、といったようなことが分かるでしょう。これはある意味で残念なことです。なぜなら、急進的なイノベーションは、私たちが最も必要としているものなのですから。こうした傾向になるのはなぜでしょうか。

煎じ詰めると、問題は二つあると思います。一つ目は、教育そのものが、現状に満足してしまいがちな文化を持っていることです。たとえ現状が機能不全に陥っていても同じことです。つまり、教育と急進的なイノベーションは反りが合わないのです。

ですから教育は、私の言葉で言う「鉛筆削り型イノベーション」に行き着いてしまいます。鉛筆を削ると、書きやすくなります。また、鉛筆を削るという手段は手軽で即効性があます。ですからすべてのエネルギーを鉛筆を削ることに注げば、物事はどんどん向上していくのではないかという気分にさせられます。しかし問題は、いくら削ったところで鉛筆はペンにも、ワープロにも、Siriにもならないことです。

ある段階で、私たちは既存のモデルに手を加えることを辞める決断をし、飛躍的な恩恵をもたらすモデルへと切り替えていかなければなりません。しかし教育においては、アプローチを切り替えていくよりも、既存の習慣を研ぎ澄ます方法が好まれているようです。

二つ目の問題は、大規模なイノベーションをもたらすことは、教育の世界ではかなり難しいということです。恥ずかしながら、私たちの業界は、効果的な新しいアプローチを認識し、普及させるスピードが遅いのです。これは、全米の幼稚園から第12学年(高校卒業程度)までの学校10万校とそれ以上の高等教育施設7,000校の間で、イノベーションを共有できるような手軽な手段がないからかもしれません。他の業界では、遥かに素早くイノベーションを取り入れる方法を見つけています。

教育省は間もなく、教育者、親、そして研究者たちがさまざまな学校で起こっている急進的なイノベーションを把握することを目的とした「Example Engine」というプロジェクトを立ち上げます。イノベーションの広範囲での普及を後押することを願いますが、まだまだ他にやるべきことがあることも明白です。

では、何をするべきでしょう? そして、その効果を測定する方法はあるでしょうか?

イノベーションが広く普及したとしても、「学び」そのものに変革をもたらさないことだってあり得ます。私たちはどうすればより早く、より遠くへ行けるのでしょうか? あなたが何らかの解答を持ち合わせていることを祈ります!

リチャード

原題:How Do We Move Beyond “Pencil Sharpening” Innovation?
イラスト:Jenn Liv, 訳:樋口武志

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