ビジネスをデザインする6つの方法

IGNITION Staff
IGNITION 日本版
Published in
9 min readJul 17, 2015

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文:kerry oconnor

私はいま、スタンフォード大学「d.school」でビジネスデザインのクラスを教えている。あるとき学生たちに、自分ならIKEAのビジネスをどうイノベーションするか、と質問してみた。

すると教室のエンジニア、科学者たちから、すぐにいくつもの手が挙がった。

「インテリアデザインのサービスを始めます!」

「高級ブランドを立ち上げます!」

「古い家具を下取りして、新しい家具をディスカウントします!」

いいアイデアばかりでよね? そこで、そのアイデアを実現するためにどんなビジネスモデルを組み立てるのかと聞いてみた。すると今度はひとつも手が挙がらない。みんな下を向き、床を見つめるばかり……。

IDEOには、ピクセルやスチールでプロダクトをデザインする人もいれば、私のように、そうしたイノベーションをサポートするシステムやキャッシュ・フロー、ストラクチャーをデザインする人もいる。

ビジネスをデザインするのは、斬新できらびやかなプロダクトをデザインすることほどセクシーではない。しかし、ビジネスシステムは、そうした輝かしいプロダクトを市場に届けるためのベースとなるものだ。ビジネスシステムがあるからこそ、プロダクトが市場で生き延び、私たちと世界の関わり方を変えることができる。

本稿では、このようなデザインの多様性に関心がある人たちのために、ビジネスモデルをデザイン(あるいはリ・デザイン)するためのチートシートを紹介する。

1. 問題を分解する

IKEAで、ゲストデザイナーによる高級家具のラインをつくることになったとする。このような場面で、どんな質問をするべきだろうか? まずは次の問いから始めることだ。

  • これは誰のためのプロダクトか?
  • このプロダクトに関心を示す消費者はどのくらいいるか?
  • クリッパン・ソファ(IKEAのソファ・シリーズ名)の上位に位置するデザイナー・ソファとして、どのような価値を付け加えられるか?
  • 高級な素材を使うなら、コストはどのくらいアップするか?

ビジネスモデルとは次のものを定義することだ。

  • サービスする対象は誰か?(顧客)
  • どのような方法でサービスを届けるのか?(チャネル)
  • 顧客に与えられるユニークな価値とは?(価値提案)
  • その価値にはどのくらいの値段がつくのか?(価格)

私はいつも、自分たちが市場に届けられるユニークな価値とは何かを定義することから始める。人間中心主義の企業として、IDEOは、デザインを届ける対象者の中に、イノベーションの機会を見出そうとする。

つまり、ユーザーが必要としているものは何か(IDEOのデザインが提供できるユニークな価値提案とは何か)にフォーカスするのだ。それから、その周囲にビジネスモデルをデザインする。

2. 制約をつくる

ビジネスモデル、ビジネスシステムを構成する要素はわかったところで、次は問題を定義するステージだ。

でも何からはじめればいいのか悩む人も多いだろう。そんなときはまず、問題領域を定めるための境界線を引く。「制約は解放だ」とディエゴ・ロドリゲス(IDEOでの私のパートナーでありメンター)も言っている。制約は、夢物語を現実に落とし込んでくれるものだ。

例えば、ビーンポール社(Bean Pole社:韓国の衣料品小売業者)のケースでは、まず、このブランドが何を表彰するのかを定義することから始めた(英国風の、高品質で、流行の衣類を届けるブランドと定義された)。

私たちはこの定義をベースに、明示的または暗黙的なブランド価値を届けるために、どのようなサービス体験が可能かを考えていった。つまり、ビジネスモデルのほかの要素は考慮せず、まず変えられないものを結晶化させたのだ(このケースではブランド属性)。これが、ビジネスのほかのパートで何ができるかを決定する。このように、変えられない要素を見極めることが、制約をつくるのだ。

3. インスピレーションを探す

ビジネスデザインを学ぶ学生が犯しがちな最大の過ちは、既存企業(特に、その企業のイノベーションが覇権を取りつつあるとき)のビジネスモデルを単純にコピーしてしまうことだ。

より良いネズミ捕りをつくろうとする姿勢自体には問題はない。しかし、プロダクトがその他大勢から抜け出すには、斬新なビジネスシステムにサポートされる必要がある。

ジップカー(Zipcar)社の事例を見てみよう。この企業は(本質的には)レンタカーサービスである。しかし、同社の価格設定と会員収益モデルが従来とはまったく異なる革新的なものであったため、レンタカー業界に大波乱を巻き起こした。

既存のビジネスモデルをテンプレートとして使うかわりに、そこをスタート地点として使ってみよう。そして、世界を新鮮な眼で見渡し、他社がデザインしたものの中に、自分たちがイノベーションを起こせる要素がないかを探してみることだ。

他にもワービー・パーカー(Warby Parker)社の事例では、ほかの企業と同じやり方でメガネを市場に届ける(つまり、小売店で高価格で販売する)という選択肢もあった。そのかわりに、同社はEコマースのベスト・プラクティス(低価格、送料無料、返品無料)を採用した。

その結果、顧客の購買意欲を刺激し、メガネ販売のパラダイムを変革することとなった。

4. 外部の意見を聴く

私の教える学生たちが現在取り組んでいるプロジェクトは、サンフランシスコにある公立学校の給食の改革だ。あるグループは、給食を家族との夕食にもできるように、持ち帰り用の食事を販売することを提案した。

ここでひとつの疑問が持ち上がる。人々はこの食事にいくら払ってくれるだろうか?

もし、レストランでの外食と同じ価値があると認めてもらえれば、相当の額を払ってくれるはずだ。だが、外食といえばファストフードのドライブスルーだという家族ならどうだろうか?

そこで学生たちは、生徒の家族に電話をかけて、どのくらい払ってもらえそうかを調べた。この結果、この改革がうまくいきそうかどうかの感触もつかむことができた。

どんな場合でも、外部の意見を聴くのは良い考えだ。リアルな現場のニーズにもとづいて、プロジェクトを見直すことができる。また、潜在顧客や価値獲得についてデザイナーが持っている仮定を再検証することにもなるし、チームがトライ&エラーを繰り返す機会にもなる。

5. 近似値から始める

IDEOで、韓国のクライアントのためにモバイルプロダクトをデザインするチームを率いていたときのこと。私たちは、ユーザーが小売価格の40〜50%という大幅な値下げを求めていることを耳にした。一方、クライアントの財務報告書を見れば、そんな値下げは不可能であることは明らかだった。

財務モデルをいじくり回すかわりに、私たちは実際に動くシンプルな試作品をいくつか作り、ターゲットとなる人びとに渡してテストすることにした。

プロダクトを手にした人たちの反応を調べた結果、10〜15%の値下げでもまったく問題がないことがわかった。つまり、人びとが口にすることと、実際の振る舞いとの間には大きな溝があるということだ。

この事実をデザインプロセスの早い段階で知ったことで、多大な時間を節約できたうえ、ユーザー体験と価格について、長い時間をかけてコ・デザイン(co-design)することが可能となった。

6. システムをデザインしていることを忘れない

ビジネスシステムとは、「if, then(もしこうなら、こうする)」という条件文の集合体のことだ。ひとつの選択が別の選択に影響を与えるのだ。

例えば、ワービー・パーカー社が販売チャネルをオンラインに絞ったことで、必然的にマーケティング戦略(消費者にサービスを告知するキャンペーンへの投資)も決定された。

デザインの各段階で、その選択が、ビジネスモデルの相互接続的な面にどのような影響を与えるのか、また、その結果、仮定がどのように変わるのかを考えぬく必要がある。一歩引いた目線で、システムの中で各要素がどのように連動しているかを見極めるのだ。

デザイナーとしての私たちのゴールは、エレガントなシステム(パーツが流動的に連結している全体)をつくることである。

スタンフォード大学で教えながら、私はいま、未来のイーロン・マスクやマリッサ・メイヤーの前に立っているのだと確信する。きっと彼・彼女たちは、過激なほど新しいやり方で将来イノベーションを起こしてくれるだろう。

とはいえ、彼らのアイデアが市場に出るには、アイデアと同じくらい飛び抜けたビジネスシステムにサポートされる必要がある。

プロダクトデザイナーたちは、プロダクトがそれ以外にないというものになるまで、構築、破壊、再創造を繰り返す。ビジネスデザイナーも同じく、エレガントで流れるようなシステムが完成するまで、構築、テスト、微調整を繰り返し、磨きをかけるのだ。

プロダクトとビジネスがコ・クリエーション(共創)することで、人々の生活にぴたりとはまり、それなしでどうやって暮らしていたのか思い出せなくなるような何かが生まれるのだ。私は、学生たちが、次世代のすばらしいプロダクト(とビジネス)をまもなく届けてくれるものと信じている。

原題:6 Ways To Design A Business
イラスト: Tiffany Chin and Feel Hwang, 訳:伊藤貴之

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