ブラッドリー・ホロウィッツが語る。Google PhotosとGoogle+の未来

「Google Photosは画像にとってのGmailだ。そしてGoogle+は死んでいない」

IGNITION Staff
IGNITION 日本版
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14 min readJul 21, 2015

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取材・文:Steven Levy

ブラッドリー・ホロウィッツ(Googleのストリーム、フォト、シェア担当副社長)にとって、Google Photosは単なる新サービスではない。画像処理技術に関わってきた彼の25年間の総決算だ。

ホロウィッツは大学院でコンピュータビジョンを専攻していたが、やがて中退し、同分野を扱う会社Virageの共同創設者となった。1990年代後半、Yahoo!に勤めていた頃には、幹部としてFlickrの買収にも貢献している。その後、Googleでの7年間で同社のさまざまな写真アプリ開発に携わってきた。

しかしGoogle Photosは、検索を牛耳る同社のこれまでで最も大きく、強烈な一手であり、自らの影響力を人々が携帯やカメラでひっきりなしに撮影する画像にまで拡大しようとする試みである。

「Googleがフォトの分野に参入してからずいぶん経つが、Google Photosは初めていちから作り上げたスタンドアローン型のサービスだ」と彼は言う。

6月に開発者向けカンファレンス(I/Oカンファレンス)で発表されたGoogle Photosがホロウィッツにとって重要である理由はもうひとつある。

Google Photosは、同社が賛否両論のソーシャルサービスGoogle+の見直しを図っていることを明らかに示すものなのだ。これまではGoogle+内に写真サービスが組み込まれていたが、今回は、氏の発言にもあるように、スタンドアローン型である(このGoogle+からの分離の流れはすでにGoogleハングアウトから始まっていた)。

この流れは、数年前に起きたGoogleの「ソーシャル」への熱が冷めてきていることを示唆している。2011年のサービス開始からGoogle+は、検索界の巨人が長らくないがしろにしてきた「人間」に目を向けるイノベーションだという触れ込みだった(そしてFacebookなどの企業との競争に参入した)。一度などは、ラリー・ペイジが全社員にソーシャル分野での成功を祝してボーナスを支給している。

ホロウィッツはGoogle+の共同責任者だったが、もう一人の共同責任者ヴィック・ガンドトラの二番手だった。今年になって初めてホロウィッツが責任者の地位に就き — Googleという宮殿のなかでGoogle+を比較的目立たない位置へと移行させる作業を監督することとなった。

彼の肩書きには「ストリーム」「フォト」「シェア」という行為だけが記されていて、「プラス」という言葉が見当たらないことも重要だ。この言葉は社内ではまだ使われているものの、絶頂期に比べるとだいぶマイナスの印象がある。

Google Photosは、アップルやFlickr、種々のストレージサービスとの苛烈な競争に晒されているが、Googleは自らの強みを活かしてユーザーがGmailの画像版だと見なしてくれるような製品を生み出すことに力を注いでいる。

スタンドアローン型のフリーサービスで、プレミアムオプションには超高解像度のストレージ付きだ(通常の解像度であれば好きなものをすべて保存できる)。欠かせない編集機能のみならず、期待している人もいるように、SNSへのシェア機能も兼ね備えている。ピンチ&ズーム操作も可能で、簡単に特定の画像を見つけることができる。なかでも最も印象的なのは、膨大なコレクションの中から検索できる機能と、自動でカテゴリごとに分類される機能だろう。顔だけでなく、木や花、誕生日パーティなども認識する。

Google Photosのサービス開始直前に、同サービスやGoogle+の未来についてホロウィッツに話を訊いた。

アップル、Flickr、さらにはRealNetworksらと信頼できるフォトサービスをめぐってあらゆる競争が繰り広げられています。Googleが選ばれるためにはどうするのですか?(スティーブン・レヴィ)

メール管理の分野でGmailが獲得した地位を、写真管理の分野でGoogle Photosが獲得することを目指している。Gmailは一番最初のEメールサービスではなかった。だが受信ボックスの管理法にまったく新しいパラダイムをもたらすことができた。それを写真管理についてもやりたい。安心できるストレージの量を提供して容量についての心配をなくし、十分な整頓機能を備えてデジタルギャラリーの管理に煩わされないようにする。整頓はユーザーの手を煩わすことなく、バックグラウンドで行われる。この要求に応えられる会社は世界中探しても他にないと思う。(ブラッドリー・ホロウィッツ)

Google Photosはどのような問題を解決するのでしょうか?

デバイスやストレージ、そして情報処理能力は十分に拡大していて、人生のあらゆる瞬間を保存し、記録することが可能なところまできている。しかし人は自分の人生を同時進行でまとめ、振り返り、理解するもう一人の自分を持っているわけではない。だから旅の後でもう一度、Safariの写真を整理する旅に出ることになる。それが我々の解決しようとしている問題だ — プロセスを自動化することによって、ユーザーは今この瞬間に没頭できる。我々はまた、写真の質を向上させたり、そこから派生したものを作ったり、サジェストしたりできるようにコンピュータビジョンやマシンラーニングの力を総動員して、ユーザーの真のアシスタントになりたいと願っている。

人々はInstagram、Flickr、iPhoto、その他のサービスを使っています。Google Photosを最大限活用するには写真をすべてアップロードする必要がありますか?

それは決定的に重要なことだと思っている。確かにソーシャルフォトサービスは素晴らしいし、我々もシェア機能はサポートし続けるだろう。実際にシェアされる写真が少ないとしてもだ。Google+フォトのユーザーたちに聞いてみたら、我々のテクノロジーは素晴らしいが、自分たちの人生の記録をソーシャルサービスに持ち込みたくなかったと言うんだ。どんなソーシャルサービスにもね。Googleフォトは、もっとGmailに近い — Gmailと同じように「インターネットに投稿する」といったボタンはない。「Broadcast(配信)」と「Archive(アーカイブ)」はまったく別物であって、だからこそGoogle Photosの役割はユーザーの写真にとっての安全な場所を作り出すことであり、すべてを保存することに付随するあらゆる煩わしさを取り除くことだ。たとえば、私は携帯を使ってレシートや忘れたくないものの写真を撮っている。こうした写真が混ざるとフォトストリームが汚く見える可能性がある。我々はそうした写真を隠しておけるようにして、すべてを保存する際の認知的負荷がかからない仕組みを実現している。

フォトストリーム内の特定のテーマや特定の人物を検索するために人工知能を導入していますね。何パーセントほどの精度でしょうか?

十分な精度だ。完璧ではないが、5年前の音声入力が完璧ではなかったのと同じだ。足りない残りの数パーセントを埋めるカギは、大規模に展開した後に見つかるだろう。あらゆるデータが集まれば、精度が高まる良いサイクルが生まれるはずだ。

Googleに人生すべての写真を保存しておきたくないという人々の抵抗に遭うと思いますか?

それについてはまったく心配していない。我々にはとても優れた実績がある。たとえばGmail — この使用者は今でも増え続けているんだ。人々はかなり安心してGoogleにデータを預けている。悪意や下心なく適切なユーザーバリューを提供すれば、必ずユーザーの信頼を勝ち取れると思っている。

写真の情報は外部との連携をしないのですか、それとも他のサービスでGoogleのユーザー体験を強化するために活用するのですか。

写真を分析する際に集まった情報が本サービスの外に出ることはない — 今のところはね。ただしそのデータに基づいてユーザーたちへ途方もない価値を返すことができるとなれば、活用の道を模索する。たとえば、Google Photosで私がテスラの車を持っていると特定できたとして、しかもテスラが私にリコール情報を知らせたい場合、適切な管理とユーザーへの開示のもとで、そうしたサービスの提供を検討したい。Google Nowが良い例だ。飛行機に乗り遅れそうなときに、Google Nowからの通知でフライトが遅延していると分かれば、安堵の息をついて落ち着いて時間をかけることができる。

検索エンジンで人物が特定でき、その人物に関する画像のリンクが出るのと同じように、本サービスの顔認識も「実際に誰なのか」を特定できるのですか?

サービス内部ではそうなっていない。画面上の顔からGoogleが人物を特定することはない。実際は顔で分類しているだけであって、顔を認識しているわけではないんだ。だから義理の娘のシャーロットをクリックすれば、彼女の他の写真を見ることはできるが、Google Photosはシャーロットだと特定しているわけじゃない(そのため彼女のいかなる個人情報も利用できない)。

Google+の話をしましょう。あなたは始めからこのサービスに関わってきました。今後の展開は?

始まってから3年半、我々はGoogle+が何に向いているのかユーザーの意見に耳を傾け、リスクを承知でそこに力を注いできた。たとえば、Google+の特徴的な利用例の一つとして、人々は共通の関心を中心にして集まっている。私が天文学に関心を持っていたら、天文学に関心のある誰かに会いたくなる、といったようにね。それなら我々に良い解決策がある — 5月に発表したばかりの新機能「コレクション」。これが転換の最初の一手だ。それからフォトなどを独立したサービスとして分離したり、うまく機能していないと感じるところは排除し始めている。

どのような部分が排除されるのですか?

サービスのプランについては明かさない。点と点を結んでみれば何が機能していて何が機能していないか分かるはずだ。

「コレクション」の話に戻りましょう — 詳細を説明頂けますか?

トピック単位で投稿できるのが基本的な特徴だろう。ヴィンテージギターやテスラに関心がある場合、自分で記事を書いたり、ネットで検索したりして、さまざまなチャンネルから投稿する。もちろん天文学に対する見解は140字では書かないだろうし、夏に一緒にキャンプに行った天文学好きたちもそうだろう。それぞれの場所でユーザーたちは購読をしたり、しなかったりする。コレクションが解決するひとつの問題はこうだ。「君のことは好きだけど、食べ物について熱心に語るときの君は嫌いだ」。実際にはその人のフィードを購読するけれども、「食べ物」のコレクションのチェックは外しておける。同様に、相手の食べ物の投稿だけに関心があって家族で休暇中の写真は見たくないという場合、「食べ物」だけを購読することができる。そうやって共通した関心のもとに人々が集まり、のびのびと語れるサービスにする必要がある。

Mediumのように?

それについてはあなたの方がよく知っているでしょう。

GoogleはGoogle+の元々のコンセプトから離れつつあると言っても差し支えないのでしょうか?

まもなくGoogle+の大きな転換を目にするはずだと言っても差し支えないだろう。その転換はユーザーたちから教えられたことに対する反応だ。とても健全で自然なことだよ。数年前の戦略に固執するのではなく、サービスがマーケットのなかで成功するために適用し、リスクを持って進もうとしているんだ。

「+」を名前から削除することは考えましたか?

それに何の意味があるのか分からない。そのことを真剣に考えたことはなかったよ。実際のサービスに改良や転換をする。我々はこれまで、このサービスが誰のためのものであり何に向いているのかについてあまり明確でなかった。その辺りが明確になった姿を見せることができるだろうし、実際ずいぶん顧客にとっての価値が明確になった。何のために、いつ、どうしてこのサービスを使うのか、ユーザーたちに分かりやすく示すことができるようになってきた。

Google+があることで、どんな人がGoogle全般を利用しているかについて理解が進みましたか?

Google+はユーザーたちに一貫したアイデンティティを提供するという非常に大きな価値を生み出した。十年前のGoogleは、システムを共有してはいながらも、それぞれが独立したバラバラのアイデンティティを持っていた。我々はユーザーにとってのそうしたバラバラな体験を統一することに成功していると思う。Googleで名前や顔を目にしたとき、Google+のチームがインフラを提供する。そのサービスはすべてのGoogleに提供されている。だから検索でもマップでも何でも、Google+のチームはサービスの強化に一役買っている。

ある時期、Googleではニュースから個人的な情報まで必要なものがすべて提供される「完璧なストリーム」についての構想が語られていました。そのアイデアは今も生きていますか?

Googleの「世界中の情報を体系化する」という試みの中には、受け手が欲しいと意識する前であっても積極的に情報を届けるという考え方も含まれている。その好例がGoogle Nowだ。これまでは、フライトが時間通りかどうか聞こうと意識して覚えておかなければならなかった。それが今では、情報の方が私を見つけてくれる。いくつかのサービスでは、そうしたことがすでに実現しているんだ。Google+のチーム、そしてGoogle全体は、コンテンツとユーザーを理解し、それらを結びつけ、ユーザーの役に立つ形で情報を先回りして提供する優れた能力を持っていると思う。「完璧なストリーム」などという言葉を使う必要はないが、適切な瞬間に適切なユーザーに適切な情報を届けるということに関しては検討を重ねている。それは会社全体としてのミッションであって、その精神はあらゆるサービスに見て取ることができるだろう。ひとつのサービスに限った話ではなく、会社全体の話だ。

ソーシャルサービスとしてのGoogleの今後は?

我々はとてつもなく進歩してきた。インフラを統合し、Googleの「人間」に対する理解を進めてきた。一方でこれから先、適切な体験をユーザーへ届けるためにやることはとてつもなくたくさんある。だからまだ何も達成していないがミッションから後退している訳でもない。

[広報]言ってもらっていいですか? Google+は死んでない、と。

では、私から訊きましょう — Google+は死にましたか?

いや、Google+は死んでない。それどころか、前よりもずっと生命反応があるよ。

原題:Bradley Horowitz Says That Google Photos is Gmail for Your Images. And That Google Plus Is Not Dead.
ポートレート写真:Bradley Horowitz
訳:樋口武志

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