深センのメーカームーブメントから見えた日本のイノベーション生態系の向かう道

1. ID World Tourとは?

人間中心デザイン、いわゆる「デザイン思考」の老舗イリノイ工科大学のIDが今年から始めた ID World tour

今まで欧米圏+ BRICというスコープでデザインのトレンドを見ていたアメリカのデザインスクールが、アメリカに人を呼び込むだけではなく、より積極的に世界各地に出て行ってデザインイノベーションの先端を理解し、そのエッセンスを新たなデザインのメソッドとして取り入れようとしています。

大きなテーマは、 Maker Movement(サンフランシスコ、香港深セン)Local発のSocial Innovation(デトロイト、ムンバイ)

いずれも、デザインがより広義の文脈で活躍する今まさに大きくなろうとしている分野と言えるでしょう。

その香港+深センラウンドに参加してきたので、その中のエッセンスをレポートします。IDの世界中に張り巡らされたOBネットワークを活用し、今回のツアーは、在香港、深センに加え、台湾、日本の OBを中心に集まりました。

2. IoT時代のイノベーション生態系としての深セン、香港

無数の製造拠点が存在する深セン市

(引用:Seeed Studio Eric Pan氏のプレゼンテーション)

中国の景気減速がニュースなどで囁かれる中、全体として感じたのは香港ー深センが、 ハードウェアのインターネット時代、いわゆるIoT時代における Openなイノベーションエコシステムを最も享受出来る一つのエコシステムとなっていることでした。 “ハードウェアのシリコンバレー”という言葉があるようですが、それは決して誇大広告ではありません。中華圏に集まる資本の大きさと香港という金融拠点、中華圏のインターネット人口の大きさという市場の大きさ、人材の誘致、そして、世界の工場を周辺クラスターに抱えるという地理的な環境を活かしたユニークな生態系の存在を見た時、世界はシリコンバレー一極集中のイノベーションから、ローカルのイノベーション拠点としての都市および周辺に集まるクラスター間の競争であり、イノベーションの担い手としては逆にどのエコシステムを選択して世界に出て行くか、というのも選択肢が生まれている時代ということです。

3.コピー商品(山寨機)から、 Open Hardwareのプラットフォームへ進化している深セン

Made in Chinaといえば、世界の闇市場で見つかる “SonyならぬSomy”などの偽物の商品のイメージが強いですよね?

香港に近接し、バスで1時間もあれば行くことができる立地の深セン。もともとその歴史は、人口5000人程度とほとんど人が住んでいなかった地域が、1980年に政府の経済特区に指定されたところから始まりました。当初は、製造拠点として整備され、世界の工場として工場が集積。山塞機と呼ばれるいわゆるノンブランドのパクリ商品の製造拠点として、ノンブランドのハードウェアを作る上では部品の品揃え、量ともにすでに世界最大の場になっている。そのような商品は、非常に安い価格でインド、アフリカなど10億人市場とも言えるグローバルのローエンド商品市場に流れてきた歴史もあり、中国市場を加えると莫大な市場との接点を持っているのもその強みとなっています。

一方で、今回のツアーを通じて見えてきたのが、「世界の工場」というイメージとは裏腹に、工場機能はすでに東莞などのさらに内陸に移動し、香港深センはオープンソースハードウェアのデザインの拠点になっています。

今回は、香港、深センで見えてきた IoT時代のイノベーションエコシステムについてレポートしたいと思っています。

4. Open Hardware Acceleratorとしての Seeed Studio

(引用:Seeed studio HP https://www.seeedstudio.com/depot/index.php?main_page=about_us)

今回のツアーの一番のメインディッシュ、それは、深センのOpen Hardwareの潮流を作ってきたと言っても過言ではない深センの Seeed Studioの訪問でした。 Seeed Studioとは、 Eric Panによって 2008年に設立された Makerのためのハードウェアイノベーションプラットフォームを目指しており、 アイデアを持ったMakerの設計、製造、販売の支援を行っています。

(引用:Seeed studio HP https://www.seeedstudio.com/depot/index.php?main_page=about_us)

設計においては、Arduino互換のseeeduinoやGroveなどの各種センサーオープンハードウェアのモジュールをどんどん開発して開発をしやすい環境を作っていたり、自社ビル内に電子基盤、パッケージの製造設備を持って小ロットの生産を自前で支援できる環境を整えていたり、自社オンライン販売プラットフォーム Bazarや Kickstarterなどの米クラウドファンディングへのコンサルティング、販売チャネルの開拓などの販売支援までも行っている組織です。

実際、こちらのオフィスには、 Designed in Sweden, Made in Chinaと書かれた商品のコンテナも置かれており、アジアに関わらず世界中の Makerの仕事をしている様子が出ています。年間2000プロジェクトの支援をしており、人数も250人くらいまで拡大しています。

若干29歳にてOpen hardwareの世界的なインフルエンサーになったCEOの Ericにもお話を聞かせていただいたのですが、「スケールよりも、 Makerを支援し世の中にOpen Hardwareの文化を広げていくことが重要。従って自社の売り上げにはそんなにこだわっていない」と、急成長企業の CEOとは思えないとても謙虚な姿勢が印象的でした。彼のような人間がハブ人材として存在するため深センという場がさらにオープンで魅力的な場になり、結果としてエコシステムとして繁栄していく構図が浮かび上がってきます。

2.政府の支援による生態系の急成長

同時に、訪れたのが深セン市が主導して作っている SZOIL 深センオープンイノベーションラボというイノベーションセンターです。この場には、 MIT medialabと共同で作られたFablabも存在し、海外から誘致したデザイナーのハブなども存在します。

この場は、2014年に深センで行われたMaker Fair深センに、李活強首相が参加、深センをイノベーション拠点として支援することをトップダウンで決めて以来、わずか半年で実現した場ということです。中国のトップダウンの力の凄さを実感させられたエピソードでした。

この場には、デザインの強いオランダやフィンランドと提携し、外国人デザイナーを誘致している拠点にもなっています。この場では、オランダやスウェーデン出身のデザイナーとお話をしましたが、外国人にも住みやすくデザイナーを同じく自治体として積極的に誘致している香港を拠点とし、世界中のグローバルメーカーのイノベーションの仕事ができる環境が整っているようです。その上で、ローカル発の中国人デザイナーの支援する施設もあります。

施設内のデザイナー向けのコワーキングスペースIndareでは、20代前半と思われる若いデザイナー達が15人ほど働いており、壁にはたくさんのWearableデバイスのスケッチが貼られていました。

特に Wearableについては多くの商品が深センでデザインされているのがよく実感できます。

例えば、以下は、Vipose社の Birthstoneという妊婦向けの放射能の量を測定するガイガーカウンター入りWearable deviceです。上記Webを見ていただければわかりますが、決して質も悪くありません。

この Pay watchという商品は、 Apple Payに対応し、在深センのスタートアップ Alibabaと提携して作ったもので、 Alibabaで販売することで10万個が売れたそうです。(The bridgeにおける日本語記事はこちら)

この右側の男の子が Pay Watchのデザイナー。 Fiismart社と個人でコラボして利益シェアモデルで働いているそうです。こちらは中国大手クラウドファンディングサイトTaobaoで、4万個以上が販売され、3億円近くを売り上げているようです。

クラウドファンディングの規模も中華圏になると一桁上がります。個人でデザインしたものが売れるスケールの違いに、 Wearable系の商品を作る時の環境の良さを実感させられます。

クラウドファンディングの規模も中華圏になると一桁上がります。個人でデザインしたものが売れるスケールの違いに、 Wearable系の商品を作る時の環境の良さを実感させられます。

これらのプロダクトが決して低くはない質で簡単に作れる背景は、深センの中の華強北という日本でいう秋葉原がさらにスケールが大きくなったようないわば電子部品のマーケットに行くと実感できます。

華強北の一角にある膨大な広さの部品マーケット

ここはいわゆる山塞商品などのコピー商品と、同時に、基盤、プラグなどのあらゆる部品が手に入ります。特に印象的だったのは、i phoneのケーブル等純正の部品と比べても質にそこまで遜色はありません。今や、グローバルブランドが全て生産される環境の中で、必然的に部品に対する質も高くなっているのが伺えます。

iPhone S (パクリ商品)の質の高さに驚くIDの学長Patrcik Whitney

5.今回のツアーから見えた深センと日本の未来

ここまで、部品のクオリティが高く、組み合わせての製造ができる環境の中で、ソフトウェアと同じように組み合わせてデザイン、販売するという観点から見た時、多くのWearable系のような部品の組み合わせによって作れる商品においては圧倒的な競争力を持っているし、今後デザイン力の強化によってさらに上がっていくのことも予想されます。

質の問題がある程度解決できている上に、中国、英語両方へのマーケットのアクセスがあるため、初期ロットに対する投資回収の容易さという意味では、育てる環境が整っています。スピードとスケールで全然勝てる気がしない。

一方で、簡単なドローンや、ロボットなどもすでに山塞市場で売られていたものの、人工知能、ロボットなどの、部品の組み合わせだけでは作れない設計力、デザイン力が要求されるものについてはまだまだ時間がかかりそうという印象も持ちました。

また、このツアー中に現地の人やIDのメンバーと話をしていく中で、今後の人工知能、ロボットなどのよりハイテクなテーマにおける、大企業中心のイノベーションエコシステムについては、日本は世界でもユニークになりうるし、是非話を聞きたいと言われています。

ポイントは、深センという世界の工場であり、世界のコモディティ市場へのアクセスを強みにしたエコシステムに対し、日本、東京という大企業R&Dの集積地における新たなイノベーションエコシステムをどう確立するかということがテーマになるのかもしれないな、と感じた 香港、深センツアーでした。

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