リクルートのポイント経済圏は楽天経済圏を越えるのか

リクルートポイントの狙いと戦略

かをる
10 min readMar 24, 2014

最近リクルートポイントのCM攻勢がハンパないですね。

賛否両論あるCMもあるみたいですが、話題になっている時点でリクルートさん的には大成功なんじゃないでしょうか。

「すべての人生が、すばらしい」リクルートポイントCM映像の感動と違和感

ご存知のとおり、リクルートは一昨年に分社化されて、近い将来のIPOに向けて諸々準備中のご様子です。

それに伴い事業ドメインとしてWEBサービスに重点をおき、まさに「ITベンチャー」として生まれ変わろうとしていることは、漏れ聞こえる採用計画などからも伺い知ることができます。

ポイントによるリクルート経済圏の実現

ライフイベント毎のざっくりリクルートメディア(一部のみ)

いまさらな説明ですが、リクルートは紙媒体を中心としたメディア企業でした。結婚や受験といったライフイベントや衣食住など、人生の中で必ず必要になる分野でNo.1メディアを次々と立ち上げるのがリクルートの強みです。(衣は弱いですが)

ただ、近年ではリブセンスやみんなのウエディングなど、本来リクルートが抑えていた分野で新しい事業モデルを開発する企業が増えてきました。

そうした中で危機感を感じているのかもしれません。

今まで垂直型に事業を開発していたリクルートですが、紙媒体中心だったことも関係してるんでしょうか。せっかく集客力の高い事業を持っていても他サービスへの回遊施策についてはそれほど熱心ではありませんでした。

ですが最近ではWEBに軸足を移すと同時に、それらのWEBサービスで利用者を水平に横断させるような施策に力を入れているように思います。

その戦略で中心となりそうなのが、CMをして力を入れているリクルートポイントです。

ここ最近のリクルートをみていると、共通ポイントによりグループ全体を横串にすることで、利用者もお金もリクルートのサービスの外にでない「リクルート経済圏」をつくることを目指しているような気がします。

その狙いについて、少し考えてみました。(※個人の勝手な考察です)

ポイントでサービス間の横断を目指す

各事業を横断する施策として共通ポイントが有効なのは、他社の事例なんか見てても「そうだよねー」と誰もが感じるところだと思うのですが、少し掘り下げて考えてみたいと思います。

リクルートにとって主力となってきた事業は「リクナビ」「ゼクシィ」「スーモ」といった1回で動く金額がとても大きい事業です。

一方でそうした事業にはリピーターは基本的にいません。引越も転職も普通は数年に1回あるかどうかだと思いますし、ゼクシィのリピーターがいたらちょっと日本がやばいです。

でも、そうした主力事業から他の事業へのユーザ回遊が出来ないのってすごく勿体ないですよね。

そこで共通ポイントの登場です。

基本的に不動産や結婚は動く金額が数十〜数百万円規模なので、割り当てるポイントも必然的に数千円から数万円とかなり多く使うことができます。これは利用者にとっては大きなメリットです。

こんな利用イメージ

たとえば5000円もあれば通販で結構良いもの買う事ができます。「引越祝いにポイント使ってすき焼きだー!」なんてこともできますよね。

上の図でしれっとポンパレモールを出しましたが、ポンパレモールの存在意義はここにあると思ってます。

ポンパレモールはポイントの消費先

上述のとおり、リクルートの主力メディアでポイントを頻繁に使える先はそんなに多くありません。ポイントを使うためには単価が比較的安くかつ利用頻度が高いものが求められます。

結婚式で1万ポイント使っても焼け石に水ですから嬉しくないですよね。

そこであるのがポンパレモール。

利用頻度が高く、他所のサービスで貯めたポイントでお買い物ができればポイントも貯める気になりますし、ここでどんどん使ってくれれば出店者も増えてリクルートが儲かります。

なので世間では「なんで今さらECモールなの」とか言われてますが、そんなの関係なくポイントを中心としたリクルートの全体戦略においてなくてはならない存在な気がします。

ポイント事業の鍵は外部からの原資調達

さて、そこでポイントで消費するそもそものお金はどこからきているのでしょうか。

実際のリクルートではどうしてるのかは知りませんが、モールの場合によくあるのは実質店舗負担です。

店舗負担といってもポイントを消費した時に店舗が自腹を切るのではなくて、ポイント発行時に店舗がお金を負担していることを指します。

ざっくりと図にして説明しましょう。

ポイントのしくみ

お客さんがAというお店でお買い物をして100pt貰ったとします。この時ポイントはAというお店からリクルートに100円(1pt=1円)支払うことで発行されます(支払いはモールの利用料を払うタイミングに一括)。そして別のお店Bでそのポイントを使った場合、お店Bにはポイント値引き分の売上がリクルートから支払われます。※実際にリクルートがこの仕組みでやっているかは知りません※

このように発行時にポイント代を支払うことで、ポイントの原資が発生します。店舗はポイントを自分のお店で使ってもらえれば資金も回収できるわけです。

ただ、これだとポイントの発行元はリクルートのサービスを介したものばかりになってしまいます。

まぁそれでもいいんですが、このままでは経済圏とよべるほどの巨大な事業へと成長していくには弱いですよね。

ポイントを経済圏の域まで広げるには、圧倒的なポイントの流通量(=発行量&消費量)でポイント自体の価値を高める必要があります。

そこで重要になるのがリクルートカード、そしてO2O事業(AirレジAirウォレット)による外部からのポイント原資の調達です。

リクルートカードの使命はポイント原資の外部調達

CMやってたわりにあまり知名度が上がってない?印象のリクルートカードですが、リクルートのポイント戦略でとても重要な役割を担っています。

参考までにポイントの大先輩である楽天の流通内訳をみてみましょう。

下図のとおり、カードなど決済手段からの外部流通が多く、それに比例してポイントも外部調達が大きく占めているものと思われます

楽天決済資料より抜粋

クレジットカードの場合、ポイント原資はOEM元であるクレジットカード会社(JCBなど)の引当金というものからでています。先ほどの図でいうと、リクルートに当たる部分がクレジットカード会社になるということですね。

つまりカードを使ってくれれば、リクルートのサービスを介さなくても大きい金額を外部からポイント原資として調達できるようになるわけです。

この狙いは、リクルートカードで自社WEBサイトのみならず、スーパーの買い物や飲み会、光熱費や家賃の支払いなど普段の生活の中で使うお金をポイントに還元し、リクルート経済圏に組み込むことにあるのです。

ただ、それでもまだリクルートポイントを経済圏にまで育てるには足りません。もっともっと普段の実生活に根付く為のオフラインの仕掛けが必要です。

そこで出番なのが、AirレジやAirウォレットといったO2O事業。

実店舗のレジを抑えることで、オンラインに停滞しているお金の流れを一気に実店舗経済に流すことが可能になります。

Airレジで実社会を巻き込んだリクルート経済圏へ

Airレジはリクルートが抱える強力な営業力とホットペッパーの既存ネットワークで一気に拡大できるポテンシャルを秘めている事業だ思います。

これを導入する店舗が増えれば、リクルートには消費に関するありとあらゆるデータが入ってきます。

店舗の売上はもちろん、どういう顧客層が、どんな店に、どんなタイミングで、どのようなメニューを頼み、そのメニューの食材はどこからいくらで仕入れているのか等々…。

小売店鋪のお金の流れをガッチリ掴むことで、さらにスケールの大きなビジネスモデルを描くことも可能になるでしょう。

さて、話は少しそれましたがポイントの話に戻しましょう。

Airレジと連携したサービスで「Airウォレット」というサービスがあります。これはAirレジと連携して空席情報やクーポン情報を発信したり、ポイントを貯めたり使ったりすることができます。

Airレジ単体ではなく、集客ツールであるAirウォレットを一緒に売り込むことで店舗にリクルートポイントの導入もすすめる狙いなんじゃないでしょうか。

そこでポイントを貯めたり使ったりしてくれれば、ポイントはどんどんオフラインの市場にも流通していきます。

現在は熱海エリア限定らしいですが、もしAirレジとAirウォレットが全国に普及すればリクルートポイントが利用できる先はインターネットを越えてさらに広がっていきます。

そのイメージとしてはTSUTAYAカードが近い気がします。そのうちコンビニで「リクルートカードかAirウォレットはお持ちですか?」とか聞かれる日がくるかもしれません。

そこまでくるとようやく、リクルートの描くリクルート経済圏が完成に近づくんじゃないでしょうか。

リクルートの理想型が楽天経済圏?

ここまでリクルートの戦略について邪推してきましたが、これをすでにほぼ実現しているのが楽天です。

ポイントを中心としたユーザー回遊の仕組みから決済手段によるポイント原資の外部調達など、これらは全て楽天の得意としてきたビジネスモデルです。

ただ、リクルートが楽天の単なる後追いかというとそうではありません。Airレジの例であるように、リクルートには強力な営業組織とホットペッパーの実店舗ネットワークがあります。

オンラインで今から楽天を越えることは容易ではないと思いますが、オンラインの流通規模などオフラインのわずか数%しかありません。

実際、楽天もスマポや美美美コムなどリクルートが得意とするオフライン店舗のネットワークを持ったサービスを次々と買収していますし、今後この分野が主戦場となることは間違いないでしょう。

Yahoo!の動きが気になるお

最後に1つ。リクルートの戦略の中でなにか誤算が生まれるとすれば、それはYahoo!の爆速っぷりしれません。

Yahoo!ショッピングや旅行サービスの無料化、オンライン決済の開始など、リクルートの戦略上重要なポイントを「無料化」という大技でガンガン攻めてきています。

Yahoo!ロコとかもありますし、この勢いでオフラインにも本格的に切り込んでくる可能性もあるんじゃないかと思ってるんですが、どうなんでしょうか。

なにはともあれ、こうした競争が活発になればなるほど私たち消費者にお得に還ってくるものだと思うので、各社ともに頑張って欲しいですね。

個人的にはリクルートのような大きな会社が大きい絵を描いて勝負にでている姿は端から見ていてとても尊敬します。描いている絵もさることながら、しっかりとしたビジョンのようなものが戦略から見えてきてワクワクします。

この勢いで、リクルートポイントで年金と住民税が払えるぐらいになって欲しいなぁと思う今日この頃なのでした。

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