“ナンバーワン”ではなく、“オンリーワン”の仲卸を目指して。
近年日本国民1人1人の魚介類の摂取量が減り、消費者の「魚離れ」が進行しています。
仲卸インタビュー第7弾では、仲卸でありながら、1人でも多くの人に美味しい魚を届けるため「築地お魚くらぶ」という活動を行い、今までにない、オンリーワンの仲卸を目指し続ける、島津商店の「島津修」さんのインタビューをご紹介します。
(有)島津商店 / 島津修(しまづ・おさむ)
特種物を取り扱う、築地仲卸「島津商店」の代表取締役を務める。
また、旬の魚を使ったお魚教室「築地お魚くらぶ」を主催し、仲卸業で培った魚に関するノウハウを消費者に伝授している。数々のTVやメディアに特集されるなど大人気のお魚教室となっている。
■オンリーワンを目指して始めた「築地お魚くらぶ」
-島津さんにとって仲卸業は身近なものだったのでしょうか。
元々、私の祖父が集団就職という形で、とある築地の仲卸に就職することになったのですが、その仲卸に跡取りとなる人間がいなかったことから、祖父へ暖簾を分けてもらい(※長年よく勤めた店員などに新たに店を出させ、同じ屋号を名のらせる。そのとき、資金援助をしたり、得意先を分けたりすること)、屋号を新たに「島津商店」として開業しました。その後、私の父親は祖父の跡を継ぎ、島津商店の代表として仲卸業に従事しました。
その父親から「仲卸業はこの先伸びる商売ではない、10年、20年続けるだけならまだしも、それ以上続けるのは結果的に苦労する」と強く言われていました。
しかし、その言葉を聞いても、生まれた時から身近にあった仲卸業に魅力を感じていた私は、一般企業への就職を蹴り、仲卸として働くことを決意しました。
現在は、島津商店の代表として仲卸業を行いながら、「築地お魚くらぶ」という魚に特化した教室を行っています。
-「築地お魚くらぶ」を始めようと思ったきっかけとは。
今年の1月まで東卸組合(東京都中央卸売市場築地市場の水産物部仲卸業者の組合)の広報としても活動していたのですが、就任した年に、今の「築地お魚くらぶ」の原型となるお魚教室を他の仲卸と共に引き継ぐことになりました。
そんな時、東日本大震災が起き、「私が残せるものは何があるだろうか」「私だからできることは何があるだろうか」と考え、魚を使い継続的に活動できることはないかと思い、私独自でお魚教室を運営していく決断をしました。
それが今の「築地お魚くらぶ」です。
■「魚って美味しんだよ」と感じてもらいたい。
-「築地お魚くらぶ」では具体的にどのような活動をされているのですか。
「築地お魚くらぶ」では、私自身がきちんと目利きした魚を参加者の皆さまに捌いていただき、非日常の体験と魚本来の味を体感していただいています。
例えば、鰆(サワラ)のような普段触れる機会のない魚を自分で捌き、口にすることで「魚ってこんなに美味しんだ」と感じてもらいたいと思っています。
毎回、参加者の皆さまからは、達成感が大きい、こんな美味しい魚は初めて食べた、など嬉しい声を多数いただいています。
しかし、そういった声があるということは、世の中にそれだけ「本当に美味しい」魚に触れる機会がないということであり、私自身がこういった活動を通して、少しでも多くの方に伝えていきたいと思っています。
-メニューやカリキュラムなども島津さんが考案されているのですか。
「築地お魚くらぶ」では、子ども~高齢者まで参加が可能なカリキュラムを用意しており、魚の捌き方~料理方法までトータルサポートさせていただいています。
私の場合、魚のプロではありますが、料理については素人なので、メニュー作りなどは、料理研究家やフードコーディネーター、栄養士など、食に精通しているアシスタントと共に考案しています。
また、定期的にそういった方たちとは勉強会を行っていて、次のお魚教室で使う魚はこういうものなので、この魚を最大限に活かすためにはどういった料理にした方がいいですか、など話し合ったりしています。
私自身「築地お魚くらぶ」に限らず、仲卸業自体もお客様に対しトータルサポートすることが仕事であると思っていますので、こういった活動で得た知識などもお客様とのやり取りでお話しています。
-具体的にお客様とはどういったやり取りをされているのですか。
先日ニシンという魚を求めているお客さまがいらっしゃいました。一般的にニシンはとても美味しい魚で、他の青魚に比べ日持ちが良く、料理にしても生臭さもほとんどない魚として春先になると市場でも取引が多く行われている魚のひとつです。しかし、唯一小骨が多く、下処理に手間がかかるのがネックになる魚でもあります。
そこで私は仲卸で培ったノウハウや「築地お魚くらぶ」で得た手応えをもとに小骨の処理が必要ない料理方法などお客さまに提案しています。
また、年々日本を取り巻く海の環境の変化が大きなってきているので、この時期のこの魚はこういうものという考えは通用しなくなってきています。
そのため、私自身が一番新しい魚の状態を常に把握し、お客さまにお伝えしていき、ただ魚を販売するのではなく、美味しい魚があればそれをどう料理し、どう食べたらいいか、までサポートすることが仲卸の仕事だと思っています。
■次なるオンリーワンを探していく。
-島津さんの中で「築地お魚くらぶ」が成功したと思える瞬間とは。
母親に嫌々連れてこられ、つまらなそうにしていたお子さんが、母親が楽しそうに料理しているのを見て、ついついやって見たくなり、気づけば夢中になって魚を捌いたり、最終的に「美味しい」と笑顔で食べていたなどということがよくあります。
また、聞いた話なのですが、料理教室に参加してくれたお子さんが後日友達を呼んで、魚を捌いて振る舞っていたそうです。
私自身の活動の成果は、こういった子どもたちを増やしていくことだとも思っており、そういう出来事を目のあたりにしたり耳にしたりした時が成功したと思える瞬間かもしれません。
-今後島津さんが行って行きたい活動はありますか。
これからも活動を続け、魚食文化の成長に貢献していきたいと思っていますが、新たな取り組みにチャレンジしていきたいとも思っています。
やはり感じることは、街に出ても定番の魚しか売っていないということです。「築地お魚くらぶ」でも美味しい魚というものを消費者の方たちにお伝えてしていますが、今以上に仲卸という信用力を活かし、うまく街とリンクできるような新しい取り組みを考えていきたいと思います。
島津さん本日はありがとうございました。
■インタビューを終えて
“ナンバーワン”ではなく”オンリーワン”の仲卸を目指す島津さん。
最後に、「築地で働く仲卸が全員”オンリーワン”を目指せばもっと面白い築地になるのではないか」とおっしゃっていました。その言葉の根底には築地に集まる美味しい魚をもっと多くの人たちに食べてほしいという想いがあるのではないかと思いました。
私自身、今後の島津さんが行われる活動がとても楽しみであり、応援していきたいと思います。また、いなせりではこれからも島津さんのように様々なフィールド活動されている仲卸の方たちもご紹介していければと思っています。