師から弟子へ。「マグロの仲卸なら、自分の舌で伝えなさい」

築地で4店舗を構えるマグロ専門の仲卸「米彦」。4店舗の中でも一番の売上の誇る2号店を支える師弟関係の仲卸がいます。

仲卸インタビュー第9弾では、 米彦で約8年間、師弟関係のもと、お店を支え続ける「井上圭二」さん、「渡邊泰行」さんのインタビューをご紹介します。

㈱米彦/井上圭二(写真左):仲卸歴16年。16歳の頃、米彦の親会社にあたる大弘水産㈱に就職。その後㈱米彦に移り、現在2号店の副店長を務める。
㈱米彦/渡邊泰行(写真右):仲卸歴23年。㈱米彦の営業部長兼取締役を務める。

<目次>

第1章:親子のような関係。「マグロを捌く速さは米彦一」

第2章:師から弟子へ。「マグロの仲卸なら、自分の舌で伝えなさい」と。

第3章:マグロは私にとっての恋人でした。

■第1章:親子のような関係。「マグロを捌く速さは米彦一」

−井上さんと渡辺さんの出会いについて教えてください。

井上圭二(以下、井上):

米彦は大弘水産という埼玉を拠点に水産物を販売する会社のグループ会社で、私は初め大弘水産に就職しました。

その後、米彦へ移り、生マグロ専門の仲卸として働くことになるのですが、渡邊さんとは大弘水産に就職した頃に出会いました。当時16歳の頃でした。

渡邊泰行(以下、 渡邊 ):

当時の事は今でも覚えています。

会社の寮の部屋が隣同士だったのですが、井上の場合、部屋に友達を呼び大騒ぎするし、入居初日には部屋の鍵を無くすなど、本当どうしようもない奴でしたよ。

井上:

そんなこともありましたね。

それから、 渡邊 さんとは師弟関係になり、仕事を初め、プライベートに至るまで面倒を見て頂いていた事もあり、考えると当時の関係性は師弟関係ではなく家族のような存在でした。

−現在、お二人は米彦でどのような仕事をされているのでしょうか。

井上:

以前は仕入れも行っていましたが、現在は営業担当として朝仕入れられた本マグロをひたすら卸していきます。上場される本数にもよりますが毎朝約20本のマグロを卸しています。

渡邊

主に井上が捌いた本マグロを、私がお客様の要望に合せてカットしていきます。

毎朝戦場のように忙しい中、マグロの鮮度を保つために素早く、井上が卸して、私がカットしていくのですが、お互い16年の付き合いの中で染み付いた感覚があるので、どういう動きをして、何を思っているかはお互い言葉に出さなくても理解し合っています。

自慢ではないですが、マグロ1本捌くスピードは米彦の中でも一番だと思っています。

井上:

お互い暗黙の了解という感じですね。

朝は本当に大変で、まな板に置く所がないくらいマグロが並ぶので、逐一行動を確認し合っていては間に合いません。お互いが信頼し合っているからこそ乗り切れるのだと思います。

−マグロを卸す際に気をつけていることは何かありますか。

井上:

卸し方一つとっても人それぞれなのですが、マグロを卸す上で気をつけていることは、如何に骨の部分に身を残さないかです。

また、歩留まり(※加工においての、使用原料に対する製品の出来高の割合のこと)の量や血合い(※魚の肉で、黒ずんだ赤みを帯びた部分のこと)の部分が身の部分ときちんと分かれているかなども重要で、少し変わるだけで商品の質にも影響してしまいます。

そのため、時間との勝負の中で素早く的確に判断し卸していかなければいけないので、卸す際には人一倍神経を使っています。

渡邊

井上が言うように、如何に骨に身を残さないように卸すかも重要ですが、マグロの卸し方について言うと、個々のセンスも重要になります。

教えてできるようになるものでもないので、何回教えてもできない人間はできないですし、上手い人間は何回かやってみるとできるようになったりします。

師匠の教え方が上手いのもありますが、井上の場合は米彦内でも一番捌くのが上手いですよ。

井上:

僕なんて、まだまだですよ。

それより渡辺さん、この記事を読んだ他の社員から何て言われるか心配ですよ。

■第2章:師から弟子へ。「マグロの仲卸なら、自分の舌で伝えなさい」

−以前は仕入れを行っていたと伺いましたが、どのくらいの期間で目利きができるようになったのでしょうか。

井上:

正直言いますと、未だに勉強する毎日です。

完璧に目利きができる仲卸はいないと思いますが、基本的な目利きは少なくとも場数を踏んでいけば身につきます。しかし、お客様の求めるマグロを目利きするためには基本的な目利きだけでは十分ではありません。

当然の如く、価格が高いマグロは質がいいのは当たり前です。

私たちがいいと思っているマグロでも、お客様にとっていいマグロであるかは別物で、お客様が求める質・値段に合うマグロを探していくことは大変です。

今では、セリ場を周っていると不思議とマグロの方から誘われていると感じ取ることができるようになりました。

そういった感覚を養うためには、少なくとも目利きする上で基本的な目利きだけではなく、常にお客様の求めるものは何かを考えて目利きしていくことが大事だと思っています。

−今までに渡辺さんから印象に残るアドバイスなどはありましたか。

井上:

渡邊 さんに以前「マグロの仲卸なら、自分の舌で伝えなさい」と、言われたことがあります。実は私、魚屋だった親父に小さい頃から毎日魚を食べさせられていたことで、魚が嫌いになり、それから生物が一切食べられなくなりました。

それを知った 渡邊 さんに「マグロの仲卸なら、自分の舌で伝えなさい」と言われました。

それは、自分が卸したマグロとはいえ、きちんと自分で味を見て、美味いと判断したものをお客様に提供していかないと

お客様は信頼して買いに来てくれない、ということでした。

その言葉を言われてからは、ひたすらマグロを食べ続けました。

今では、生物も食べられるようになり、このマグロは美味い、美味しくないと自分の舌できちんと判断した上で販売しています。

■第3章:マグロは私にとっての恋人です。

−今後お二人が目指す仲卸像とは。

井上:

築地一番のマグロの仲卸になることです!

私は人一倍負けず嫌いなので、誰にも負けないくらいの仲卸になりたいと思っています。

将来的には、 渡邊 さんのように、お客様から信頼される仲卸になりたいとも思っていますが、自分の個性を活かし、新たな米彦を作っていきたいと思っています。

渡邊

お、井上言うね!期待しているよ!

渡邊

私は何でもできる仲卸になることです。

米彦は生のマグロをメインに取り扱っていますが、生に限らずどんなマグロでも取り扱っていきたいと思っています。

築地でマグロを専門としている仲卸を見ると、生だけとか、冷凍だけとかと仲卸毎に取り扱う種類に限りがありますが、私はそういった垣根を越え、マグロに関しては上から下まで扱えるようになり、より多くのお客様に米彦のマグロを食べていただきたいと思っています。

−最後に、お二人にとってマグロとは。

井上:

私にとってマグロは恋人ですね。

16年間毎日マグロを抱いてきましたし、マグロの臭いは体に染み付いて洗っても取れません。これからもずっと一緒にいる存在ですね。

渡邊

人生の一部ですね。

23年間マグロと接してきていますが、未だにマグロは難しいと感じています。マグロは一本一本味も違いますし、お客様毎に求めるマグロの味は全然違います。

最近よく感じることは、マグロは世の中の流れと似ているということです。

時代毎にお客様のニーズに合せて販売していく、それはマグロを知るより難しいことだと感じています。

即ち、一人前のマグロの仲卸になるためには、マグロの事だけを分かっていても駄目だということです。

井上には時代のニーズを汲み取れるような仲卸になってもらい、これからの米彦を引っ張っていってほしいと思っています。

井上さん、渡邊さん本日は本当にありがとうございました!

■インタビューを終えて

実は取材当日急遽井上一人だと心配だからと渡辺さんの参加が決まりました。

お二人は本当に仲がよく、取材中、親子のように言葉を掛け合う姿が何度もあり、現場でも言葉を交わす必要のないくらい、お互いの行動を理解し合っているかのようでした。

井上には今後の米彦を引っ張ってほしいとおっしゃっていた渡邊さん、今後の米彦でのお二人の姿をこれからも注目していきたいと思います。

◎取材協力:大弘水産グループ ㈱米彦

http://www.daihiro-komehiko.com/

聞き手・構成/吉永大祐

撮影/駒ヶ嶺亮一