「空港管理状況調書」を素材とした空港データの分析例

この記事は,インフラデータチャレンジ(IDC2018)における作品応募に向けた 提供データの特徴や活用方法のヒントについて,実行委員等がリレー形式で紹介 するものです.募集要項等は,Webサイトをご覧ください
http://jsce-idc.jp/

今回はインフラデータチャレンジの提供データ|空港から、「空港管理状況調書( 国土交通省航空局)」を素材として選び、現在注目されている「コンセッション(公共施設等運営権制度を活用したPFI事業)」の観点でデータの分析を行ってみたいと思います。

コンセッションは、内閣府 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)によると「利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式」と定義されています。
なお、2018年7月時点でコンセッション実施中の空港は、但馬空港(2015年1月~)、関西国際/大阪国際空港(2016年4月~)、仙台空港(2016年7月~)、神戸空港(2018年4月~)、高松空港(2018年4月~)、鳥取空港(2018年7月~)の6件です。

ここで、素材データである「空港管理状況調書」を確認してみると、提供されているのが 平成27年度(2015年)と 平成28年度(2016年)の二年分であるため、コンセッションに関しての分析が行えるのは、但馬、関西/大阪国際、仙台に限られます。
よって、本稿では「先行事例」として紹介されることが多い「仙台空港」を対象に、「空港管理状況調書」を簡単に分析してみることにします。


さて、仙台空港の運営企業である仙台国際空港(株)では、そのマスタープランにおいて、国際線乗降客数を2020年に48万人、2044年に115万人に増やすことを目標に掲げています。
また、戦略として「プライマリー・グローバル・ゲートウェイ」を掲げ、マルチモーダルハブ化(空港と仙台及び東北圏内の交通ネットワーク群を円滑に接続するための施策)、東北ブランドの発信強化(インバウンド発地側でのマーケティングやPRなど)などを推進しています。これらの目標と戦略設定の背景については、以下に引用したインタビュー記事に解説があります。

今、東北6県で海外に出ていく旅客の3分の2が成田空港と羽田空港からです。海外から東北に入ってくる旅客も、6割が成田空港か羽田空港を使っています。東北は人口が900万人もいて、ハンガリーと同じくらい多い。成田空港は滑走路をもう1本増やさなければならないほど過密な状態です。一方、仙台空港は3000mの滑走路を持ち、まだまだ容量に余裕がある。
出典:日経BP社 公民連携最前線「仙台空港・岩井社長 渋谷再開発から東北活性化へ

それでは、仙台空港がコンセッション導入後どのように変化したのか、「空港管理状況調書」で確認してみます。

図1:グラフの拡大表示app.powerbi.com

【図1】のグラフは、棒グラフで月別「国際線と国内線の乗降客数」を、折れ線グラフで「国際線乗降客数の前年同月比(増減率)」と「貨物量の前年同月比(増減率)」を示しています。
【図1】のグラフは、棒グラフで月別「国際線と国内線の着陸回数」を、折れ線グラフで月別「貨物量」を示しています。
【図1】のグラフは、月別「仙台空港の国際線乗降客数」を月別「全空港の国際線乗降客数」で除した値を示しています。

ここで、注目すべき点は、「国際線乗降客数の前年同月比(増減率)」がコンセッションが開始された 2016年7月 を境に上昇基調にあることでしょう。
つまり、国際線乗降客数については、コンセッション開始後から増加に転じていることが、ここから読み取れます。

以上から、「空港管理状況調書」から読み取れる「仙台空港の変化」は、戦略に基づく成果・効果と考えてもよさそうです。


次に、仙台空港と同規模の拠点空港/国管理空港であり、現在コンセッションを検討中の広島空港と比較してみることで、仙台空港の特長を抽出してみたいと思います。

まず、先の「国際線乗降客数の前年同月比(増減率)」について、仙台空港と広島空港で比べてみたのが下記の【図2】になります。

図2:データ出典:空港管理状況調書(平成27年度及び平成28年度)をもとに、筆者が別途算出した「国際線乗降客数の前年同月比(増減率)」を使用し作図

【図2】からは、「国際線乗降客数の前年同月比(増減率)」が2016年7月を境に、仙台空港では上昇基調であるのに比して、広島空港では下降基調にあることが読み取れます。

次に、仙台空港のマルチモーダルハブ化(空港と仙台及び東北圏内の交通ネットワーク群を円滑に接続するための施策)の効果について確認してみたいと思います。

仙台空港の2017年度事業報告を確認すると、マルチモーダルハブの取り組み状況に関して、下記のような記載があります。

空港からの地上交通ネットワークの利便性向上につきましては、民営化以降、空港と 周辺都市、観光地を直接結ぶバス路線の開設に取り組みましたが、このバス路線をより 多くのお客様にご利用いただき、路線として定着するようにバス会社などと協力して告知などに取り組んでおります。 
さらに、交流人口の増大のためには、当空港の主要なアクセス手段である仙台空港アクセス線における、更なる運転間隔の短縮と編成の増結がぜひとも必要との認識とのも と、宮城県、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、仙台空港鉄道株式会社とともに 四社の実質的な協議の場を設け、種々な働きかけを行っております。
出典: 仙台国際空港株式会社「 第3期事業報告(2017年度)」PP.2より

ここで、海外からの旅客の「入国空港と訪問地の関係」を確認するため、2017年度に仙台空港と広島空港から入国した訪日外国人の「訪問都道府県」をグラフ化してみたのが下記の【図3】になります。

図3:データ出典:観光庁 訪日外国人消費動向調査集計表平成29年(2017年)|第3表 訪問地(都道府県47区分および地方運輸局等10区分)別 回答者属性および旅行内容 より、入国空港が仙台空港及び広島空港の「訪問都道府県」を筆者が抽出し作図

【図3】からは、仙台空港より入国した訪日外国人の訪問地が「東北地方に偏在」しているのに対して、広島空港の場合は(広島県以外の訪問地が)地理的に広範かつ分散していることが確認できます。

このデータ単体でマルチモーダルハブ(空港と仙台及び東北圏内の交通ネットワーク群を円滑に接続するための施策)の効果を評価することは難しいのですが、他空港(同類系)との比較を行うことで、仙台空港の特長(東北地方に偏在)を抽出することはできます。

以上、主に「空港管理状況調書」を用いて、仙台空港のコンセッションの効果を簡単に検証してみましたが、このように「指標の経年変化」や「空港間の比較分析」を行うことで、コンセッションの導入効果を検証する「糸口」は掴めそうです。

なお、今回の投稿はあくまでも「入り口的な参考例」ではありますが、このようなアプローチを発展させて、今後コンセッションが予定されている空港の課題を抽出し、ソリューションの検討・提案を行うことなども考えられます。
※その際、既存空港の課題抽出においては「国土交通省|空港別収支」等のレポートや統計データも参考になるでしょう。


インフラデータチャレンジでは、このように「データ分析に基づいた課題抽出~ソリューション提案」を「アイデア作品」として応募することが可能です。

詳しくは「土木学会インフラデータチャレンジ応募要領」をご確認ください。

使用データ
インフラデータチャレンジ|【提供:国土交通省航空局】空港管理状況調書(2015年度、2016年度)
観光庁|訪日外国人消費動向調査 訪日外国人消費動向調査集計表(2017年)
使用ツール
・図1:Microsoft(R) PowerBI バージョン: 2.61.5192.601
・図2~3:Microsoft(R) Excel(R) 2016

( 土木学会土木情報学委員会・インフラオープンデータ・ビックデータ研究小委員会:高橋陽一)