IDCウェビナー#1 #2開催報告【後編】

本記事は,2020年度に開催された2回の開催報告の後編です.

本レポートは,先日開催された2回のウェビナーを視聴された「法政大学デザイン工学部・都市環境デザイン工学科の有志学生」の方からお寄せい ただいた要旨と感想文を前・後編に分けて掲載したいと思います.

学生の皆さんの専門性や内容から,主に第2回のウェビナーについてまとめていただきました.本レポートをご覧になって動画を見たいという方は,下記のYouTubeアーカイブでぜひご視聴ください!

記事執筆にご協力頂いた皆さん,ご指導頂いた今井龍一先生(法政大学教授/土木学会土木情報学委員会インフラデータ・サービス共創研究小委員会・幹事)にお礼申し上げます.

「インフラ画像&動画を大解剖」IDC2020ウェビナー#2

「道路損傷データセットの特徴と活用事例の紹介」 東京大学生産技術研究所/株式会社アーバンエックステクノロジーズ・前田紘弥さん

「道路損傷データセットの特徴と活用事例の紹介」 東京大学生産技術研究所/株式会社アーバンエックステクノロジーズ・前田紘弥さん

概要:道路のひび割れ損傷といった損傷画像データセットの作成と活用の取り組みについて紹介していただきました。データセットは2018年から公開されており、国内の道路損傷がラベル分けされています。2019年には、生成モデルであるPG-GANというフレームワークを用いて、サンプル数の少なかったデータに対して擬似的な損傷画像を作成し、データセットに追加することで精度向上がなされています。また、学習済みのモデルも公開されているため、新しい画像を読み込んで損傷判定することもできるとのことです。このデータセットは、道路路面の簡易点検アプリやMy City Reportの道路損傷検出サービスにも活用されているとのことです。さらに、データセットを公開しているため有志による実験や検証が盛んに行われているとのことでした。

感想①:伊藤大悟さん

これまで新たな分野において深層学習を活用する際、障壁となる課題としてデータ数があげられてきたが、このような近年の深層学習の学習データ十分なデータ数であり、高精度な道路損傷検出結果が得られるのではないかと関心を持った。

自分自身でも同様な道路維持管理への深層学習の適用に関する研究に取り組んでおり、実際にデータの作成に労力がいることを知る身として非常に便利なデータセットであると感じた。またアプリに関してもこれまで目視で実施されてきた道路点検もこのような技術により点検者の作業負担を大幅に削減できるのではないかと感じた。

データセットの公開や世界を巻き込んだデータチャレンジなど目先の利益や業績だけでなく、より業界としての成長を促すことができる取り組みであることが分かった。

感想②:岡崎智仁さん

今回紹介していただいた道路損傷データセットは、2018年に最初のデータセットが公開されてからも、2019年と2020年に新たな教師データを追加したデータセットが公開されており、継続的にアップデートが行われているため、開発意欲が高く今後もデータセットが更新されるという期待がもてると感じました。また、2019年に公開されたデータセットでは、機械学習の生成モデルであるPG-GANを用いて教師データを追加して精度向上につなげているという点が非常に興味深く、もっと詳しいお話を聞いてみたいと感じました。

2020年には日本国外の損傷画像を追加したデータセットを公開したことや、IEEE Bigdataの国際コンペティションに継続して参加されている点から、日本国内にとどまらず国外にも展開される意欲の高さを感じました。さらに、作成されたデータセットが道路損傷を検出する点検アプリにも活用されているとのことで、データセットを実務で利用するためのハードルの低さに驚きを感じました。

今回、データセットを公開したことで、有志による検証が行われているとのことで、道路損傷の検出という機械学習の界隈では比較的ニッチな分野ながら、世界的に高い需要が存在していることを痛感しました。

「360度画像・動画の利用紹介」 川田テクノシステム株式会社 エンタープライズ・ソリューション事業部・井上雄平さん

「360度画像・動画の利用紹介」 川田テクノシステム株式会社 エンタープライズ・ソリューション事業部・井上雄平さん

概要:360度カメラはレジャー、観光や行事スポーツなどに活用され始めており、近年では、建設分野にも建設状況の記録や点検現場での記録などで利用が増えてきている。その一方で、ファイル管理、閲覧専用のソフトが必要であることや画像で着目したい位置が特定しにくいことが課題とされており、より簡単に360度画像や動画を扱えるツールをMIRU360で実現したことを紹介いただいた。このツールは、360度画像の撮影や動画の閲覧、朱書きといった作業を管理でき、工事(業務)情報共有システムに搭載されている。その他の機能として、どの場所の画像であるのかを地図上で確認できる機能や360度画像や動画へのマッピングできる機能を持っているとのことだった。

感想①:伊藤大悟さん

このマッピングに関しては、画像自体に文字や図形をマッピングできることに加え、様々なデータファイルもマッピングできることに非常に関心を持った。このツールを使うことにより、画像とデータを一括して管理でき、尚且つ画像に映る地物ごとにデータを管理できる優れた機能であると感じた。今後このようなツールによりインフラの維持管理での定点観測などに360度カメラを導入することができれば、1台のカメラにより広範囲のモニタリング可能になることに加え、マッピング機能により、過去にどこに損傷があったかなど文字やデータのマッピングにより、より効率的な維持管理を実現できるのではないかと感じた。

感想②:難波尚樹さん

「現場での状況を記録する際に,全方位で撮影が出来ると便利だがファイルの管理やメモをしたい際に困る」という発言があった.私自身も,画像データのみの積み重ねではなく,活用しやすい形で保管・利用していく必要があると考えた.

身近にある360度カメラの活用事例として,「Googleストリートビュー」が挙げられる.「Googleストリートビュー」にも一部の店舗や施設上にアイコンが表示され,クリックするとその店舗の名称や住所,レビューなどを閲覧できる機能がある.この機能と同様に,360度カメラによる撮影成果を繋ぎ合わせて,あたかも自身がその場にいるような状況を仮想空間上に設け,空間内のあらゆる箇所に補足情報や追加情報を書き足していくと,見る側にとって,より分かりやすいデータベースになるだろうと感じた.また,今回のご講演中に,デモ画面を用いて説明されていた.その際に,手入力で「街路樹」等をラベリングしていたが,人工知能を用いて画像認識することが出来れば,ラベリングも自動化することが出来るのではないか,と感じた.

このように,撮影されたものをデータベース化し,人工知能で自動的に整理出来れば,より便利に利活用が出来るのではないか,と考えた.

「林業ICTへ向けた地方ベンチャーの取組」 株式会社BREAKTHROUGH・北原健太郎さん

「林業ICTへ向けた地方ベンチャーの取組」 株式会社BREAKTHROUGH・北原健太郎さん

概要:林業は労働災害が多く、危険と隣り合わせの職業です。林業を安全に効率化させるため、林業とICTを組み合わせたSoko-coFOREST、Log-coというサービスを開発しました。Soko-coFORESTはスマートフォン、タブレット用アプリケーションとなっています。重機などに車載して使用します。携帯電波圏外であっても専用の通信機器を介することで、位置情報の共有、オフライン地図機能、メッセージ送信機能、危険ポイント接近通知などを可能とし、安全性の向上につながります。Log-coは撮影画像から丸太を自動判別し、本数をカウントできるサービスです。スマートフォン・タブレット用アプリケーションのため、インストールするだけで容易に使用可能です。泥や雪が付着した丸太も多く学習させているため丸太が多少汚れていても検出できます。

感想:藤原祐紀さん

林業に関する知見がなかったため、非常に興味深い講演でした。今回の講演を聴講して、林業のICT化は遅れていて、林業に携わる人々の状況を学ぶことができました。

Soko-coFORESTに関して、山奥の携帯電波圏外の場所に専用の通信機を導入することでICT化を進めるということは画期的だと感じました。これにより、お互いの場所を共有できることで安全性だけでなく作業効率の向上にもつながり、労働人口減少の対策としても効果的だと感じました。また、作業範囲に人が近づいた場合に危険を通知してくれるという機能は自分の安全だけでなく、他人の安全も考慮しており安心して作業に取り組むことができ、利用者目線の製品だと思います。

Log-coの丸太20万本分の学習データを集め、それぞれアノテーションすることに苦労したという話を聞いて、私の研究でも同じようにアノテーション作業で苦労をしたので、その話にとても共感できました。また、海外産丸太ではなく、国産丸太を学習データとして使用し、日本に多い材木に対応しているところに好感を持ちました。

今回の講演を聞いて、今後、林業の発展のためには、このようなICT技術を幅広く活用して、人手不足を補いながら、森林という貴重な資源を守っていくことが大切だと改めて思いました。

「みんなでストビュー・Mapillaryのご紹介」OSMFukushima・目黒純さん

「みんなでストビュー・Mapillaryのご紹介」OSMFukushima・目黒純さん

概要:Mapillaryとはスマートフォンなど身近な機器を使い、ユーザーの手によって作成されるストリートレベルの写真共有を可能とするサービスです。スマホアプリや車載カメラ、360度カメラなど様々な方法で位置情報付き写真を共有できる。2014年にサービスを開始し、2020年に世界中で13億枚以上の画像がアップロードされている非常に人気のあるサービスです。MapillaryにはAIを用いた様々な機能が導入されています。AIによる物体検出技術により、アップロードされた画像の中からベンチや信号を探し出し、地図上に表示するという機能があります。また、交通標識を抽出して地図上に表示させることも可能です。その他のAIを用いた機能として、AIによるシーン検出技術により、ガソリンスタンドやトンネルの入り口、駅などを抽出し、地図上に表示させる機能があります。オープンストリートマップとの親和性が高く、オープンストリートマップの地図上にも信号などを表示させることができます。

感想①:安藤祐輝さん

Mapillaryはユーザーの手によって作成されるマップであり,地域の特徴や来訪者が見ている風景を反映しやすいため,撮影地点ごとに地域の特色が出やすく面白いと思いました.

近年,360度カメラが普及しつつあり,趣味で街なかを撮影している人も増えています.今後さらに,安価で高性能なカメラが普及することで,写真のアップロード枚数が増えていき,より内容の濃いマップが生成されていくと思うので,今後も楽しみなストリートマップアプリの一つであると思いました.

また,強みとして,他のストリートマップよりも多様な写真を収集できるという点があると思います.スマートフォンのカメラ一つで写真を撮影し共有できるため,車の入れない単路や生活道路においても撮影することができます.そのため,他のストリートマップでは補え切れない狭い道路や施設内のストリートマップを補う役目を果たせるのではないかと感じました.他にも,オープンストリートマップとの親和性があるため,検出した物体をマップ上に表示し効率的に調査することができる点も強みであると思います.交通流動などの調査で信号の位置を網羅的に知りたい際などにとても有効であるため,今後調査する際には,是非,Mapillaryを参考にさせていただきたいと思いました.

感想②:藤原祐紀さん

Mapillaryは世界中で非常に人気な地図アプリであるにも関わらず、私は今回初めて知ったので、ウェビナーに参加してとても良い経験になりました。世界中で13億枚以上も位置情報付き画像がアップロードされていることに驚きました。実際にスマートフォンにアプリをインストールしてみたところ、私の地元周辺の画像もかなりアップロードされていました。

同一の場所の異なる時期にアップロードされた画像を比較して閲覧できるというタイムマシン機能に興味を持ちました。Mapilaryはサービス開始から約6年のため現状ではあまり過去を振り返ることはできません。ですが、将来的に昔の風景を思い出すことのできるアルバムのようなサービスになる可能性があり、今後楽しみなサービスの一つとなりました。

AIを用いた物体検出機能やシーン検出機能により画像にラベル付けをしなくてもAIが自動的に認識し、地図上に施設などを表示できるというのは画期的な機能だと感じました。道路標識や信号も表示させることが可能なため、AIの技術に感心しました。

今回の講演を受けて、私もMapillaryのサービスを活用してみたいと感じました。

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