「編集力」で地域、都市、企業の未来を創る――Tokyo Work Design Week 2016レポート

2013年から毎年「勤労感謝の日」に合わせて開催されている働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」。2016年は「リーダシップ」をテーマに置き、数々のトークセッションやワークショップを通じて、新しい時代のリーダー像を探っていくイベントとなった。

11月21日に開催されたセッション「リーダーには『編集力』が必要だ。」には、編集者・ジャーナリストの江口晋太朗氏、エディター・ライター・スピーカーとして活躍する長谷川賢人氏、inquire incの代表をつとめるモリジュンヤが登壇。

3名の登壇者は、「複雑化する時代において、リーダーには編集者のように考えることが求められている」と語る。「編集」の対象が書籍や雑誌、ウェブメディアから、プロジェクトやコミュニティなどに広がりつつある中で、広義の「編集」がリーダーシップにどう貢献できるのかを探っていく。

地域の人と人をつなぐ「編集力」

トークセッション後半のテーマは「ソーシャル × 編集力」。江口氏が最近手がけている、滋賀県彦根市のプロジェクトの話からセッションは始まった。

長谷川:江口さんは、ちょうどこのセッションの直前に彦根から帰ってきたばかりなんですよね。彦根ではどういうプロジェクトを手がけているんですか?

江口晋太朗氏(編集者/ジャーナリスト)

江口:地元の材木屋さんと一緒に、彦根の未来をともに考えるプロジェクトに携わっています。これまでのように「家を建てるための木を提供する」だけではなく、木という手段やこれまで培ってきた技術、企業が持つ不動産などさまざまなリソースを使い、未来に対して地域に何を還元できるのかを考えていく取り組みです。

長谷川:材木屋のみなさんが主導となって地域の未来を考えているのが面白いですね! 江口さんはそれらのプロジェクトを通じて、地域に対してどのような課題を感じているのでしょうか?

江口:移住者と地元で長年暮らしている人たちが接点を持てていないことですね。実は最近、彦根は移住者が増えていて、比較的若い人たちも多いんです。彼らは民芸品や工芸品を売るお店だったり。他にも地元ながら面白いことをやっている20代30代の人が意外と多い。

けれども、なかなか普段は忙しくて他の世代の方との接点が少ない。両者をつなぐ仕掛けを考えながら、その地域の「らしさ」が生まれてる地域の未来をつくっていけたら。

長谷川:まだつながっていない当事者同士をつなぐことは「編集」に近い考え方ですよね。今まで交流がうまれていなかった理由はあるんですか?

江口:色んな理由があると思います。例えば、地方は車社会で歩くことが少ないですよね。車があると現在地と目的地をつなぐだけになってしまう。そうすると、移動という行為のなかで生まれる偶然の出会いや発見が少なく、地元の商店に誰も行かなくなるという構造が生まれます。

また、若者が車で移動しているのに対し、おじいちゃんやおばあちゃんたちは歩いたり自転車で移動したりしています。普段の行動様式や移動の範囲が違うことで彼らが出会う機会が少ないという状況が生まれています。

長谷川:僕は東京出身なのですが、東京だと車に乗る機会が少ないので、自然と街を「歩く」ことになります。すると、駅単位で街の顔色が違うので、変化に気づきやすいなとも思います。ちなみに、具体的にはどのような手法でそのプロジェクトを進めているんですか?

江口:今回のプロジェクトでは、まずはフィールドワークを行っています。彦根の方に地元の面白いスポットやよく行く場所を丁寧に聞き、地図にその情報をマッピングしていく。自分たちだけでなく、街のおもしろスポットを探すためのツアーをやりながら街歩くをしたり、そこから対話につなげたり。

街の面白い場所って、意外と住んでいる人たち自身が気が付かなかったりします。そこから導き出した「地域の姿」を浮き彫りにしていきながら、まちがもつ価値や文化を可視化する。そこに対して、材木屋のリソースを使って何ができるかを考えながら次のプロジェクトを走らせていく。

地方で、こうした民俗学的、考現学的なフィールドワークをもとに関係性をつくっていくのは、時間はかかるかもしれませんが目に見えない価値がそこにはあります。泥臭い方法かもしれませんが、こうして丁寧に地域を耕すことが、未来の文化をつくる第一歩だと思います。

地方都市の魅力を外部に発信する、ローカルメディアの可能性

長谷川:地域といえば、モリさんは名古屋のローカルメディア『IDENTITY名古屋』を立ち上げていますよね。多くのメディアが東京に主体を置き、大都市偏重になりがちな中で、地方とメディアという2つのキーワードをつなげたのはなぜですか?

モリジュンヤ(inquire inc CEO)

モリ:僕は地元が岐阜県美濃加茂市で、浪人生時代は名古屋で過ごしたんです。

今でも実家に帰る際に新幹線で名古屋まで行き、ローカル線に乗り換えるんですけれど、名古屋に立ち寄った際にスマホで名古屋の情報を検索しても、求めている情報が出てこないという課題を抱えていて。

グルメサービスにおいても、東京のお店は口コミが集まり、詳細な情報がわかるのに対して、地方都市はその情報が充実していないんです。

長谷川:地方都市に住んでいる方は、どのように情報を摂取しているのでしょう?

モリ:名古屋の場合は、フリーペーパー文化が根強く残っています。でも、紙媒体だけでは名古屋の外から来た人は情報に気軽に接することができません。人々の情報摂取経路に合わせて、適切な情報を届けるためのローカルメディアをスマートフォンに合わせたWebで始めることにしたんです。

長谷川:なるほど。『IDENTITY名古屋』は、主として名古屋以外に住んでいる人へ向けた取り組みなんですね。

モリ:もちろん、名古屋に住んでいる人に適切な情報を届けたいという意図もあります。同様に、名古屋の魅力を可視化して外部に発信していくことも重視しています。

列車の停止駅として名古屋が外される「名古屋飛ばし」という言葉があったり、名古屋市自らの調査で「行きたくない街ランキング」で1位になったりと、名古屋はネガティブなイメージで捉えられやすいんです。

実際、名古屋に住んでいる人や出身の人は地元を嫌っていない。情報発信や価値の可視化を通じて、彼らが「名古屋」を肯定的に捉えられるようにしたいんです。

江口:まちづくりの領域で「シビックプライド」という言葉があります。かつてその街に住んでいた人、今住んでいる人、そしてこれからその街に住みたい人、その都市に関わる多様な立場の人たちが、都市に対する誇りや愛着を示す考え方です。名古屋の外の人にも情報を届けることで、移住の潜在層を育てたり、外からの街への関わり方を広げたりするアプローチだと思います。

都市や企業の「ネットワークの広さ」と「寿命の長さ」

長谷川賢人氏(エディター・ライター・スピーカー)

モリ:都市における「シビックプライド」と企業における「愛社精神」には、共通している部分が多くあるのではないかと考えています。これから会社に入る人、卒業した人を含めて会社のブランドをどうつくるかには、シビックプライドの考え方を応用できそうだなと。

ビジネスSNS『LinkedIn』創業者のリード・ホフマンが、これからの時代の企業と個人の関係性について論じた『ALLIANCE』という書籍でも、卒業生ネットワークを会社に活かす重要性が指摘されています。

長谷川:都市や企業を人々の集合体と捉えることで、そこに共通点を見出すのも「編集的視点」ですよね。江口さんは「都市と企業」に、どういった共通点があるとお考えですか?

江口:都市や企業の共通点のひとつとして、寿命の長さが挙げられます。都市や企業は、人間より長生きする構造を抱えています。都市や企業は、それぞれに何かの目的や機能を内包しています。その動きは何十年何百年という時間とともに新陳代謝をしながら少しずつだけど確実に変化しています。

なので、人間の寿命の長さで物事をすべて捉えるのではなく、自分の残したものが次の世代につながる、継承されるという視点を持つことが大切です。それは、企業でいえば目の前の売上や数字を追うのではなく、将来的な価値をつくる発想をどれだけ持てるか、ということでもあります。

長谷川:「人間ひとりが人生で成せることは限られている」という前提を持ち、自分が死んだ後も想定してプロジェクトを作っていくと。

江口:自分が生きている間に評価されるよりも、300年後に評価されるくらいのもののほうが規模やスケールも大きかったりしますしね。例えば、今ドラえもんの4次元ポケットを作ろうと思っても、自分が生きている間にはムリかもしれません。

けれども、科学者が次の科学者にバトンを渡すことで、いつか完成するかもしれません。つまり、意思を継承していくことで生み出される価値があるということ。どれだけの未来を予見し、継承していくかで未来のありようも大きく変わるのではないでしょうか。

「編集的視点」はイノベーション創出にも活かせる

モリ:今の時代は江口さんのように長期的な視点を持つよりも、「すぐに使える情報をインプットすること」が優先されている気がしています。でも、自分の仕事にすぐ活きる情報ばかり摂取していては、自身の思考や行動に広がりがないんですよ。

できるだけ幅広く、面白そうな情報を拾っていくことで、セレンディピティが生まれます。幅広い情報を収集するネットワークの構築と、収集した情報からひとつの仮説を立てて、新しい見立てを発見するのも、編集者のスキルのひとつですね。

長谷川:「すぐに成果が出ないこと」を組織として許容できるか、が重要になりそうです。

江口:今は許容できていない企業は多いかもしれません。企業がイノベーションを生み出せなくなった理由も、業務の効率化を進めすぎた部分はあると思います。昔は社員自らでが「闇研」と呼ばれるような他の人からしたらよくわからない研究に熱中していたんですよ。そして、その闇研から生まれた技術や知見が別のプロダクトやサービスを生む源泉になってたりする。

モリ:一方で、企業内の仕組みだけではなく、企業外と連携を行うことも重要だと感じています。アクセンチュアが「We Economy」という考え方を打ち出したんです。激しく変化する市場において、自社だけで事業を成功させるのは難しい。なので、他社とお互いの強みを持ち寄ろうと。

このようなオープン・イノベーションの取り組みの中でも「編集的視点」は活きると思っています。他社と連携する際に、連携先の社員とネットワークを持っていたり、その組織の強みを把握していることが求められます。これは今まで編集者がやってきた仕事に近いですよね。

長谷川:社外に積極的に出て行って、多くの人と共通言語を持ってコミュニケーションすることも、これからの時代のリーダーに求められそうですね。


「ソーシャル × 編集力」がテーマとなったトークセッション後半では、地域、都市、企業といった社会を構成する様々なレイヤーへの「編集的視点」の活かし方について語られた。

セッション中にも登場した書籍『ALLIANCE』では、「社員が会社の外とネットワークを築くことで、会社にどのようなメリットがあるのか」について論じられている。

リーダーだけではなく、組織や集団の全員が「ネットワーク構築」や「幅広い情報の収集」といった編集者のスキルを身につけることで、組織や集団の成長に貢献できるのではないだろうか。

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