「編集的視点」から未来を導くスキルが今、リーダーに求められている――Tokyo Work Design Week 2016レポート

2013年から「勤労感謝の日」に合わせて開催されている働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」。2016年は「リーダシップ」をテーマに置き、数々のトークセッションやワークショップを通じて、新しい時代のリーダー像を探っていくイベントとなった。

11月21日に開催されたセッション「リーダーには『編集力』が必要だ。」には、編集者・ジャーナリストの江口晋太朗氏、エディター・ライター・スピーカーとして活躍する長谷川賢人氏、inquireの代表をつとめるモリジュンヤが登壇。

3名の登壇者は、「複雑化する時代において、リーダーには編集者のように考えることが求められている」と語る。「編集」の対象が書籍や雑誌、ウェブメディアから、プロジェクトやコミュニティなどに広がりつつある中で、広義の「編集」がリーダーシップにどう貢献できるのかを探っていく。

気鋭の編集者3人の「編集観」とは?

まず、各登壇者は経歴と、自身の「編集」の捉え方について紹介した。

最初に登壇したのは、江口晋太朗氏。同氏は、フリーランスの編集者・ジャーナリストとして活動した後、2015年にTOKYObeta Ltd.を設立。同氏は、これまでにTHE BRIDGEにて立ち上げから関わり、NPOマチノコト理事としてウェブマガジン「マチノコト」の立ち上げや企画編集、雑誌『WIRED』や『Forbes』などでの企画・編集やライティングなどさまざまなメディアやプロジェクトを手がけてきた。さまざまなメディアにおける経験を通じて独自に編集やライティングに関する心得を学んできたという。

江口氏の関心テーマは、ビジネス、テクノロジー、アート、政治、都市政策、まちづくりと幅広い。それらのテーマを横断的に見ることで、次の時代の社会構造や組織のあり方を考えたいと江口氏は語る。同氏にとっての「編集」はどのようなものなのか。

江口晋太朗氏(編集者/ジャーナリスト)

江口:僕にとっての編集は「もやのかかった暗闇に指す光」のようなものです。複雑化する時代のなかで、社会、個人、組織のあり方は常に変化しています。その向かうべき方向性を指し示すのに、「編集」という視点から世の中を俯瞰的に捉えることで、社会のあるべき姿が見えてくるのではないかと。

続いて紹介するのは、inquireのモリジュンヤ。2010年に大学を卒業し、ソーシャルデザインマガジン『greenz.jp』編集部に参加。その後は『The Bridge』『マチノコト』『soar』といった媒体の立ち上げに関わる。現在は編集コンサルティングファーム「inquire」を設立し、その代表として編集・ライティングにチームで取り組んでいる。モリは「交通整理」というキーワードを用いて、自身にとっての「編集」を次のように語る。

モリジュンヤ氏(inquire inc CEO)

モリ:僕にとっての「編集」は、ワークショップのファシリテーターや、科学館のコミュニケーターに近いんです。ファシリテーターは、その場の話を交通整理して、全員がわかるようにまとめていく仕事。コミュニケーターは、専門家とそれ以外の人々で共通言語がない中で、ギャップを埋める仕事です。

イベントのモデレーターを務めたのは、長谷川賢人氏だ。長谷川氏は紙の専門商社で3年間働き、『ライフハッカー[日本版]』編集部に参加。副編集長を務めた後、『北欧、暮らしの道具店』を運営するクラシコムで勤務した。現在はフリーランスの編集者・ライター・スピーカーとして活動している。長谷川氏は「レゴブロック」を引き合いに出しながら「編集」というキーワードを以下のように読み解く。

長谷川賢人氏(エディター・ライター・スピーカー)

長谷川:編集は、レゴブロックに似ていると思います。レゴ社がつくったパーツの範囲内で、それをどう組み合わせるかを考えるのがレゴの楽しみですよね。

一見くっつかなそうなものがくっついたり、相性が悪そうなパーツ同士を組み合わせたりすると、面白い作品ができるんです。編集も同様に、遠くにあるもの同士を組み合わせることで、世の中に新しい視点を提案するのもひとつの機能だと考えています。

未来のビジョンを伝えるリーダーが「編集的視点」を活かすには?

続いて、トークセッションに。モデレーターの長谷川氏は、ふたりの登壇者に「なぜ今リーダーに編集力が求められているのか」と、その理由を問いかける。

長谷川:今回のトークセッションのテーマが「リーダーシップと編集」になった経緯について教えてください。

モリ:Tokyo Work Design Weekの横石さんとトークセッションのテーマについて一緒に考えていくなかで、リーダーシップと編集の関係に着目しました。

なぜなら、ビジネスと「編集」には多くの共通点があるのでは、と考えたからです。

編集者は、世の中の様々な事象やピースを集めて、そこから導いた世の中の兆しをコンテンツやメディアという形に落とし込む仕事。編集者が持つ未来のヒントを探るスキルは、不確実性の高い時代に組織や団体を導くリーダーと共通するものがあるのかなと。

長谷川:複雑化する時代のリーダーは、未来に対する見立てを組織に伝えることが求められるわけですね。リーダーに求められる能力は、メディアにおける編集長の仕事とも近いかもしれません。

僕がかつて働いていた会社では、編集長の役割はビジョンをつくること、そして編集部員の役割はそのビジョンを全力で叶えることと教わったんです。

モリ:編集部員は、編集長が提示するビジョンに共感しているからこそ、それを全力で叶えようとするわけですよね。僕もプロジェクトを立ち上げる時に、「自分についてこい」というリーダーシップを発揮するのではなく、共通の興味や関心を持つ人に「一緒にやらない?」と声をかけて、ビジョンに共感してもらうことから始めます。

長谷川:モリさんは、社会的マイノリティの可能性を伝えるプロジェクト「soar」を約1年前に立ち上げましたよね。NPOや市民活動の場合は、お金ではなくビジョンへの共感がとても重要になりそうです。

モリ:そうなんです。NPOや市民活動は有償の仕事ではないこともあり、共感してもらうことが大切になります。現代は昔に比べて人々がとれる選択肢が多くなりました。

色々なものを選べる時代だからこそ、何かひとつのことにコミットする理由が薄れているのかなと。自分がそのプロジェクトに関わる理由が重要になっていると感じています。

未来を予見し、それを叶えさせる「編集的視点」はリーダーシップと近いスキル

長谷川:では、江口さんはなぜリーダーに「編集力」が求められていると思いますか?

江口:未来を予見し、叶えさせる「編集的視点」は、リーダーシップと近いスキルだと感じているからです。例えば、社会学で「予言の自己成就」という考え方があります。予言、つまりは「未来はこうなる」と信じて行動することで周囲が方向付けられて、その未来が結果として叶うというもの。

長谷川:これまで新聞や雑誌をつくってきた編集者も、同じような手法で次の時代の文化づくりをしてきたわけですよね。

江口:かつてのマスメディアは文化が勃興する兆しを紹介することで、ブームやトレンドをつくってきました。流行の兆しを見つけて「今の時代にはこれが求められている」と信じて行動し、言語化し、雑誌や新聞などパッケージに落とし込む。そこで伝えられたものから次第に新しい消費が生まれて、そこからブームやトレンドとなる。

長谷川:では、未来を予見し、叶えてきた「編集的視点」は、企業や団体にどう応用できるのでしょうか?

江口:企業のリーダーに求められるのは、「未来はどうあるべきか」を自問自答しながらことだと思います。例えば、フィルムメーカーが写真フィルム事業で培った技術を活かし、化粧品事業に参入しています。

自社をフィルムメーカーであると定義してしまうと、このような事業展開は起こり得ない。けれども、未来に対して、自社はどのような価値を提供している組織なのかを考えたからこそ、新規事業をつくることができたといえます。

組織マネジメントに「編集的視点」はどう活かせるか

長谷川:江口さんは、プロジェクトを立ち上げる際にどのようなリーダーであろうとしていますか?

江口:最初はチームを引っ張っていきますが、徐々に現場に任せていくリーダーでありたいです。僕は自分の仕事を「しつらえを作り続けること」と捉えています。

世の中において次に求められる考え方や価値の土壌づくりをしているんです。なので、ある程度プロジェクトが回るようになったら、現場に任せられるようにコーディネートしていきたいと考えています。

長谷川:そして、江口さんはまた次の領域で土壌づくりをするわけですよね。具体的にはどのようにして現場に任せていくのですか?

江口:まず、一緒にプロジェクトを進める仲間のことを対話を通じて理解していきます。いきなり深い関係にはなれないので、一緒に仕事をする中で相手の性格や何に興味があるかを知っていく。準備に時間をかけることで、プロジェクトを渡しやすくするんです。

モリ:リーダーによる組織マネジメントも、編集に近いですね。優れたプロデューサーは相手のことが本人以上にわかっていて、その人の強みや魅力を引き出すことに長けていると言われています。

長谷川:「引き出す」という点では、編集者やライターもインタビュー記事を通じてその人の魅力を伝えたり、作家とともにその人の作品をつくりあげたりしますね。

チームでより大きなことを成し遂げるために

江口:「組織の編集」について考えるために、アフリカに古くから伝わることわざを紹介させてください。それは、「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」という言葉です。

これは、どちらが正しいというわけではなく、状況に応じてどちらを選び、行動していくかということです。前者は、ひとりで未知なる道を切り拓くことで、次に続く人たちに対して新たな道をつくることが出来る。

後者は、一人では辿りつけない場所もみんなで協力することで到着することができます。また、細い道であっても、その道を多くの人が歩けるように道路を整えることで、あとに続く人たちが楽に進むこともできる。

長谷川:後者の選択をする時に、リーダーが編集的視点を持っているとよいと。

江口:そうですね。社会にインパクトを与えるような大きなプロジェクトを遂行しようとすると、ひとりでは到底難しい。リーダーは参加している全員が「なぜそのプロジェクトに参加するのか」理解した上で、チームをつくらなければいけない。皆で前に進むための環境づくりは、まさしく「編集的視点」が求められてくるんです。

記事前編では、「リーダーシップ」と「編集」を軸に、組織や団体のビジョンの伝え方、組織における人のマネジメント、チームのつくり方について話は広がっていった。

記事後編のテーマは「ソーシャル × 編集」。地域において人と人をつなぐために「編集的視点」はどのように貢献できるか。都市や企業といった人々の集合体ついて考える上での「編集的視点」の持ち方について取り上げる。

(写真提供:Tokyo Work Design Week事務局)