いつでも,どこでも,環境にやさしい電気を

Michiki Nakano
Inside Hitachi Design
Mar 30, 2021

持続可能な社会を実現するために個人でできる事で何があるだろうか。ボランティアや地域活動など実際にアクションを起こす以外にも,天然素材や再利用可能な素材でできた洋服や靴を購入するといった事で貢献する人も増えてきている。

一方で,空気のように日々当たり前に消費している電気について,環境に良いものを使いたいと意識することはあるだろうか?国や企業がCO2排出量削減のため再生可能エネルギーの普及に向け努力しているところに,もっと消費者を巻き込む必要があるのではないだろうか。確かに,自宅の屋根に太陽光発電を導入したり,再エネ100%の電力プランへ契約変更すれば環境に優しい電力を利用することができる。しかしこれだけでは導入できる環境も限られ,より多くの人にはなかなか行き渡らない。もっと簡単に手軽に始められるサービスがあれば,消費者の意識も変えられるはず。

そこで注目したのが,日々の生活のなかで常に手元にあるノートPCやスマートフォンの充電に使うACアダプターである。常に持ち歩くACアダプターを改良し,再エネ由来の電気を充電できる仕組みを持たせてはどうか。そうすれば,常に手元にあるデバイスが再エネ由来の電気で動いていると日々実感できるようになると考え,コンセプトモデルを開発した。

風力由来の電力を使用
5つの発電タイプ
電気の供給もとがわかる

発電所のアイコンを印字し,種類ごとに色を変えることで,一目でどんな発電所からの電気を利用しているかわかるデザインにした。また,ディスプレイを使いどこの地域からの電気かも一目でわかるようにした。スマートフォンなどのアプリにしてしまうと,スマートフォンを取り出しアプリを開くという手間がかかるためアプリを見なくなると考えたためである。物理的にすぐ見える仕組みを持たせることで,「そういえば,どこの電気を使っているのかな」と日々意識できる事を狙っている。「顔の見える野菜」ならぬ「顔の見える電気」である。

特定の再エネ発電所からの電気を選んで利用するという仕組みをどうやって実現するか。自宅だけでなく,外出先でも電気を選んで利用することはできるのか。

電力小売事業者が提供する再生可能エネルギー由来の電気を供給するプランを契約している場所であれば,特定の再エネ発電所を選択する仕組みを導入できる。しかし,そのような電気プランを契約している場所はまだまだ限られており,「いつでも,どこでも」というコンセプトが実現できない。そこで,CO2削減という環境価値の活用を検討している。

日本ではCO2削減事業を促進するために、国が認証・発行する「J-クレジット」を売買できる制度がある。例えば太陽光発電や風力発電などを導入した企業や自治体がJ-クレジット創出者となり、削減したCO2量に応じてJ-クレジットを売ることができる。大企業などは自社努力だけでは削減できないCO2排出量を、J-クレジット購入によりオフセットできる。

このACアダプターを通して利用された電気に対して,購入したJ-クレジットを割り当てることで,利用している電気のCO2排出量を個人でもオフセットできるようにするのである。「どこの発電所の電気を使っている」と見せるかわりに,「どこの発電所がCO2を削減してくれている」と見せるのである。

ACアダプター利用者は,自身の代わりに再エネ発電導入によりCO2排出量を削減してくれる企業や自治体からJ-クレジットを購入することで,その企業や自治体を応援することができる。

日々使う電気を,まずは手元から少しずつ環境にやさしい電気に変えていく。普段使っているACアダプターを変えるだけで実現できる。CO2オフセットに対する対価が,環境負荷を低減するために頑張っている人に届くのがわかる。導入のハードルを下げ,支払う対価が誰に届くのか見えるのであれば,より多くの賛同者が増えるのではないかと考えている。

このアイデアを実現するためにA.L.I.Technologiesユビ電のご協力のもと検討を進めている。環境貢献とは,もはやボランティアではなく,しっかりと事業に結びつけ,継続的に社会を変えていくものでなければならない。一過性のものでは意味がなく,持続的な事業とするためにも様々なステークホルダーを巻き込み,収益の見込める事業モデルを構築して行きたい。

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Michiki Nakano
Inside Hitachi Design

Hitachi, Ltd. Global Center for Social Innovation Senior Researcher