インハウスデザイナーとしてCOPに関わる

池ヶ谷和宏
Inside Hitachi Design
Jan 22, 2023

2022年11月7日~19日、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された気候変動対策の国際会議であるCOP27「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議」に参加した。2021年、英国グラスゴーで開催されたCOP26に続き、2度目の参加であった。ここでは、企業に所属するインハウスデザイナーとして、このCOP参加で得た気づきを共有したいと思う。

多様なデザインで埋め尽くされるパビリオン・エリア

まず、COPとは、毎年11月頃に開催される、国連が主催する気候変動対策の国際会議のことである。別名「気候サミット」とも呼ばれ、世界各国から、政府代表団、NPO、NGO、企業、アカデミア、科学者、環境団体などの人々が集まる。開催都市は、議長国によって決定され、2022年はアフリカ大陸の代表国として、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された。近年、環境危機に対する世界的な意識の高まりから、参加者数が3~4万人程度と増加傾向にある。

COPには、国連が発行するパスを持った人だけが入ることができるブルーゾーンと、事前に登録しておけば、一般の人でも入ることができるグリーンゾーンの2つの会場が存在する。ニュースでよく目にする締約国の代表団が議論・交渉をしている会議場は、ブルーゾーンの中にある。

また、テレビではあまり大きく取り上げられないのだが、ブルーゾーンの中には、多くの国・団体が出展するパビリオンも存在する。これは、いわゆる「展示博覧会」のようなスペースであり、米国、英国、ドイツといった世界の国々が、それぞれ特徴的なデザインのパビリオンを構え、気候変動対策に関わる自国の取り組みを発信している。日本も、他国と同様にジャパン・パビリオンを出展し、世界に対してアピールしているのだ。

COP27 / 各国のパビリオンの様子

技術展示に力を入れるジャパン・パビリオン

しかし、ジャパン・パビリオンと、それ以外の国のパビリオンには、大きな違いが一つある。それは、ジャパン・パビリオンが「技術展示」に力を入れている点だ。日本以外の国のパビリオンは、ネットワーキングやセミナースペースに注力をしている展示形態なのだが、ジャパン・パビリオンは半分のスペースを「技術展示」に充てているのだ。これは、昨年のCOP26でも同様であり、今回のCOP27では「今年はどんな技術を展示しているの?」と私に声をかけてくれた人もいたくらいである。展示内容は、日本の企業・団体が持つ気候変動の緩和や適応に関する技術・ソリューションだ。さらに、各展示ブースには、展示説明員が配備されており、それぞれの企業・団体から派遣された担当者が、丁寧に展示内容を解説をしてくれるのだ。他国のパビリオンにも、自国が誇る最新技術の展示スペースはあるものの、説明員がつくパビリオンは、ジャパン・パビリオン以外ではほとんど見られなかった。

かくいう私も、その展示説明員として、去年のCOP26、そして今回のCOP27に参加することができたのだ。

COP27 / ジャパン・パビリオンの技術展示の様子
COP27 / ジャパン・パビリオンにおける日立のブースの様子

世界各国の有識者との刺激的な対話、日本への期待と信頼

では、そんなジャパン・パビリオンに、実際どんな人たちが訪れるのか?

それは、前述した世界各国の政府代表団、NPO・NGO、企業、アカデミア、科学者、環境団体に所属する人々である。アフリカ、中東、欧州、アジア、北米、南米、オセアニア…世界各国の人々と、間髪入れずに直接対話することができるのだ。

私は、デザイナーであるものの、自分の想いだけで何かをデザインするということがあまり得意でなく、どちらかというと、多様な人々との対話やアイディエーションから、協創していくことに価値を感じているタイプである。

そのため、前述したような多様な人々の意見や考えというものを肌で感じることができる体験は非常に貴重で、自分だけでは思いつくことができない「未知の視点」が増えていく感覚があった。

そして、もう一つ、二度のCOP参加で得た気づきがある。それは、「日本の技術への期待と信頼」である。昨今、SNSやメディアでは、「日本の国際的な影響力は下がっている」という話をよく見聞きするが、少なくとも気候変動対策に関しては、多くの人々が、日本が持つ、水素やEV、原子力発電などの先端技術に対して、期待・信頼してくれているようだった。

日本に足りないのは環境意識ではなく、気候変動に対する危機意識?

「日本は、欧州などの西洋の国と比べて環境意識が低い」という話もよく耳にする。

しかし、欧州に住んだことがある私個人としては、空調の設定温度を1℃単位でコントロールし、待機電力を減らすために、こまめに家電製品の電源プラグを抜き差しする人が多くいる日本という国が、実際に「環境意識が低い」とはあまり思えない。

しかしながら、「“世界が直面する気候危機”に対して、日本の感度は高いか?」という質問に対しては、自信を持って「YES」とは言い切れない部分もある。例えば、近年世界的に使われるようになったclimate justice(気候正義)といった概念も、日本では、まだまだ定着してないように思える。

※気候正義:温室効果ガスの排出量が少ない途上国や、この問題に対して責任のない未来世代が、より大きな気候変動の被害を受けてしまうという不公平・不正義があり、それを正しながら地球温暖化問題を解決すべきだという概念

実際、COP27では気候変動の緩和と適応に関する議論だけでなく、先進国の途上国に対する「損失と損害」に対する補償が大きなアジェンダとなり、加害者と呼ばれてしまっている先進国と、深刻な被害を受ける途上国の対比が、これまで以上に鮮明になったように感じた。

また、二度のCOPの会場では、気候変動が進んだ将来を憂い、大人世代に対して、気候正義の重要性や自分たちの想いを必死に伝えようとする環境活動家の若者などの姿を目にする機会があり、正直、何度か心を打たれたことがある。「一人の大人、日本人、企業人、デザイナーとして、自分に何ができるのだろうか?」と自問せざる負えないような瞬間すらあった。この感覚は、残念ながら文面ではなかなか伝わらないものであるが、日本で暮らす一人でも多くの人に、“世界が感じている気候変動に対する危機感”を伝えたいと思っている。

先日、アルゼンチン代表の優勝をもって閉会した2022年のサッカー・ワールドカップにおいて、予選試合の終了後、ごみ拾いをする日本人サポーターの影響で、他国のサポーターもごみ拾いをはじめたという明るいニュースを目にした。気候危機の解決に関しても、日本は、世界に対して、技術やデザインを用いて「正の連鎖」の原点を生み出せるポテンシャルを持っていると私は信じている。

世界のニーズを起点にした研究開発とデザイン

最後に。これは私の持論であるが、デザインの基礎は、「ユーザーとの対話」、「ユーザーニーズの理解」だと考えている。環境問題の解決に関わるデジタルソリューションをデザインする私にとって、この2度のCOPで得た経験は、確実に、次なるアイデアの源泉になっている。

COP26 / ジャパン・パビリオンでの展示の様子

実際に、2021年に英国・グラスゴーで開催されたCOP26のジャパン・パビリオンで私が展示対応をした、「自治体向けの脱炭素シナリオを可視化するAIシミュレーター」に関しては、現在、国内の地方自治体とともに実証実験的なワークショップを推進している最中である。さらに、COP26の際に、得たコメントがきっかけとなり、現在、そのAIシミュレーターを、民間企業のESG経営に適用する研究にも着手している。

今後も、多様な人々と直に対話を重ねながら、環境問題の解決に寄与できるような研究やデザインに取り組みたいたいと思う。

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