ストラテジックデザイン部になりました

小さな部署から見える小さなデザインの変遷

柴田吉隆
Inside Hitachi Design
May 8, 2023

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2023年4月から、自分が所属している部の名前が「ストラテジックデザイン部」に変わった。自分自身は部署を動いてはいないのだけど、この10年くらいを振り返ってみると何度か名前が変わっていて、それだけでもちょっとしたデザインの潮流というか変遷が見えるような気がして面白い。

UXからサービスデザインへ

自分のいる部署は、10年くらい前はユーザーエクスペリエンス研究部という名前だったのだけど、2015年にサービスデザイン部に変わった。このときは、デザイン本部が他のいくつかのエンジニアリング系の研究所と統合されて、社会イノベーション協創センタという組織ができたときだった。さまざまな社会インフラの事業者さんと一緒にイノベーションをめざすために、協創という仕事のスタイルをつくって広げていくことが求められていた。デザイン部門としては、社会インフラ事業者のサービスをデザインすることと、サービスという無形のものをデザインするやり方をデザインすることの両方を進める必要があった。当時はまだサービスデザインという言葉は今ほどには広がっていなかったけれど、それまでにサービスのデザインに関する研究を10年近く続けてきていて、いよいよサービスデザインという言葉を組織の名前にすることで、チーム全体で向かう方向が定まったような感じがしたのを覚えている。自分たちの活動全体にNEXPERIENCEという名前をつけたり、オフィスの中に協創スペースをつくったのもこの時期だった。

2015年にオープンした協創スペース

サービスデザインから生まれたビジョンデザイン

サービスデザインのやり方をつくり、社内外の方々との議論と実践を通じてそれらを広げる活動が軌道にのった頃、サービスデザイン部からスピンオフするような形でビジョンデザイン部という部署をつくった。当時はSociety 5.0が発信されたタイミングで、世の中で発信されている内容に「ちょっと違う」という印象を受けて、自分たちなりに未来の目指したい方向についての意思を持てるようにする、そんな活動を社内を中心に広げていく必要を感じてのことだった。自分がいた未来洞察と将来像創出の活動を行っていたチームのほかに、従業員ひとりひとりの思いを掘り下げていくような対話を得意とするブランドコミュニケーションのチームと、エスノグラフィなどのヒューマンリサーチを得意とするチームという、異色の3チームが集まった魅力的な部署ができた。自分たちの意思をかたちづくるために、当初、ビジョンデザインは事業とは少し距離を置いたところで議論をするようにしていたが、やがて、事業に直結した活動の中でも少しずつ現在の延長線上ではない将来ビジョンの必要性が理解され、求められるようになり、両者の距離を近づけていくことができそうな状況になってきた。

2020年に社内で議論されたビジョンデザインの変遷、事業への“実装”が次の段階とされた

サービスデザイン+ビジョンデザイン=ストラテジックデザイン?

そんな背景もあってビジョンデザイン部は2020年に再びサービスデザイン部と合併してサービス&ビジョンデザイン部という長い名前になったが、それがこの4月からストラテジックデザイン部となった。実は1つ上の階層でも、社会イノベーション協創センタという8年間掲げた長い名前も、デザインセンタという覚えやすい名前に変わった。社会イノベーションという目的や、協創というスタイルが日立のほかの部門へと広がったことを受けて、広義のデザインという行動様式をもって新たな価値を探索するセンターへと発展していこうという思いが込められている。

ストラテジックデザインという言葉がいつから使われているのか、ちゃんと調べることができていないのだけど、共感したのはヘルシンキデザインラボの活動だった。「社会システム」をデザインの対象として、起きている事象の問題を捉えなおし、さまざまなケイパビリティを組み合わせて効果的なソリューションを探索する活動は、これまで自分たちが行ってきたことと共通する。実証実験から社会実装へと自分たちの活動の水準を上げていかないといけないという議論も、社内でどんどん大きくなってきている。正直なところ、新たなしくみの実証実験を行う機会を得ることもかなり大変なことではあるけれど、アイデアが検証されることがゴールなのではなく、それが人々に受け入れられて普通に役に立っている状態にどのようにもっていくのか、デザインの視点でプロジェクトを組み立てていけるようになることに期待がある。

答えが出るのはこれから

部署の名前を変える前に、ストラテジックデザインについて皆で議論をした。議論のたたき台に置いたのは、自分たちがめざしているのは社会システムのトランジションだということ。現在の社会システムの厄介な状態、めざしたい状態、変わることを妨げている障壁、それを乗り越えるブレークスルー、そしてその全体観を共有するコミュニケーション、自分たちのチームを眺めてみると、トランジションの議論をすることに向いている機能が、部署を構成する6つのチームにいいバランスで揃っているようにも見える。「何のストラテジーなのか?」「企業の企みっぽい響きで、人間中心を重視していることが伝わらないのではないか」など、いろんな意見が出た。

ストラテジックデザインとは何かということに私たちは結論を出していないし、この言葉はまだ自分たちのものにもなっていない。「そんなことでいいのか」という声も聞こえてきそうだが、答えが出ていないことが組織にとってのワクワクになっていく。さまざまな得意分野を持ったチームが、持続可能な社会に向けた社会システムのトランジションという壮大な目的を共有して、隣のチームの得意技と自分のチームとの組み方を理解して、パートナーの皆さんと一緒に新しいしくみやプロダクトをぶつけてみて、変化を促し続ける。そんなことができる個性的なデザインチームができそうな気がする。

社会システムのトランジションのためのストラテジックデザインをつくれるか?

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柴田吉隆
Inside Hitachi Design

株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ 主管デザイナー