研究者として草の根のデジタル革命に関与する

withコロナ時代の災害対策アプリ 在宅避難支援プロジェクト

森木俊臣
Inside Hitachi Design
Mar 24, 2021

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わたしは、IT系の研究者です。
いままで大型コンピューターや企業向けサーバー、ストレージ装置など、それこそ冷蔵庫くらいの大きさの製品の研究と開発をたくさん行ってきました。

最近では研究対象を社会システムに広げていて、あまりシステム化が進んでこなかった業界や役所といった領域にも関わっています。

ですが今までは、企業の活動でITの役割と言えばひたすら効率を上げることが目的でした。
私の仕事でも「効率を従来比何%上げる」ということを目指していました。

しかし、みなさんそんなことには普段興味がわかないですよね??

すでにデジタル技術が広く世の中に拡がり、よく知られた用途で使う限りは多くの人々のニーズは満たされるようになりました。要するに、デジタル技術は人々の要求レベルを超えてしまったということです。

求められているのはイノベーション

そしていまわたしたちに求められていることは、社会を生きるみなさんの隠れたニーズを掘り起こし、みなさんがまだ見たことがない、新しい商品やサービスを生み出していくことです。それはイノベーションとか 、DX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれるものです。

これに成功すると、その業界で唯一無二の存在になれる。
その成功例の1つがアップル社であり、iPhoneと言われます。
イノベーションを起こせというのは、”言うは易く行うは難し”の典型ですね。

地域に生活する方々と共に、デジタルで社会を良くしていきたいという活動

そしてわたしも企業に属する研究者の1人として、イノベーションを起こしていくことを任務としています。その取り組みの1つとして、わたしたち日立製作所研究開発グループでは『FLL — Future Living Lab(フューチャーリビングラボ)』を始めました。
リビングラボとは、今までは北欧の耐久消費財のメーカーが始めた活動として知られており、彼らの製品の家具や椅子をラボに並べ、消費者の生活に近い環境で使ってもらうことで改善ポイントの発見につなげようとしたものです。

わたしたちの活動は、さらにその「将来」の形を志向しています。
地域に生活する方々と共に、デジタルで社会を良くしていきたいという活動です。
対話を重ね、カタチにしてみて、実践をしてみて、その隠れた課題やニーズを浮き彫りにしていこう、というものです。

★活動のご紹介
地域から未来をつくる:フューチャー・リビング・ラボ
★こちらでもわたし森木の活動の想いを取り上げていただいています
地域コミュニティと進めるフューチャー・リビング・ラボの試み

Withコロナ時代の災害対策在宅避難支援プロジェクト

そんなFLLの活動のひとつが、Withコロナ時代の災害対策在宅避難支援プロジェクトです。
2020年10月18日に実施された東京都国分寺市の総合防災訓練において、実証実験を行い、200人を超える市民のみなさん(防災まちづくり推進地区内)に実際に使っていただきました。

このプロジェクトに取り組む背景には、昨今の台風や大雨などの異常気象に起因する風水害、地震によるライフラインの破壊など、災害リスクが顕著になってきたことがあります。また2020年初頭からの感染症の流行により、従来自治体が提供していた避難所はソーシャルディスタンスの確保により収容可能人数が大幅に不足する問題が認識され始めています。

これらの問題に対して、地域のみなさんが自宅や自動車に身を寄せる「在宅避難」や「分散避難」が現実解として浮上しつつあるものの、支援を行おうとする自治会や市から目が届かなくなる恐れがありました。

そこでわたしたちは、スマートフォンを使って地域のみなさんが自分が避難している場所を自治体に通知し、必要な物資をリクエストできるアプリのプロトタイプを作りました。
多くの世代の方が使えるよう、アプリの操作は、名前と家族の人数程度を入れるだけととても簡単なものにしました。こうした狙いの通り、80歳代の方にもアプリを実際に使っていただけたことは大きな喜びでした。
こうやって自分の避難状況をきちんと市へ伝え状況が把握できることが、安心にもつながります。

実証実験に参加した市民の年齢分布(10歳刻み)

この取り組みを通じてわたしが感じたのは、ほんとうにたくさんの方がまだ見ぬ災害に対して真剣に考え、行動されているということ。さらには新しいアプリに登録してみるというハードルを乗り越えてでも、共に試し、よりよい仕組みにしていこうとするみなさんの当事者意識でした。

これからもみんなで考え、もっともっと試したい

最初にも述べたように、これからの社会のイノベーションは、ひとつの企業が頭をひねっても到底実現できるものではなく、地域のみなさんや行政、NPOやNGOといった非営利団体、自営業者の方々など多様なステークホルダのみなさんとともに取り組めてこそ、初めて実現できるものです。

在宅避難支援プロジェクトはこれからも、みなさんと一緒に考え、みなさんの地域でもっともっと試してみたいと考えています。
災害でほんとうに困ったときのためには、普段はどうなっていたらいいのだろうか。
地域の中でもっと人と人がつながると、どんな嬉しさがあるのだろうか。

このように、地域のみなさんが密接に関わって起きる草の根のデジタル革命に関わっていくことが出来れば、いち企業の研究者としても新たな価値の出し方が見つかるのではとワクワクしています。

ぜひわたしたちと一緒により良い社会を考え、共に未来をつくっていきましょう!

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