地域の「関与」をアートで探る

Future Living Lab / Hi Miuraの実践

私はビジョンデザイン部に属するデザイナーであり、2018年の冬から、神奈川県三浦地域でFuture Living Labの活動を推進している。今回、AXISに「Hi Miura」に見る“新しい公共財”をデザインするためのヒントが登場したタイミングで、これまでに三浦地域で挑戦してきた実践内容を、3つの地域の「関与」という切り口で自分たちの言葉で伝えてみたいと思う。ぜひAXISの記事とあわせて読んで頂けると嬉しい。

以前、利用から関与へという記事で、柴田主管デザイナーは「関与」は新しい社会インフラの役割ではないかと問うているが、今までの実践活動は、まさに地域の「関与」の姿を模索してきた2年半と言える。

野菜を買った人が農家や地域に思いを馳せる「関与」

あえて購入に手間のかかる“スローペイメント決済”のプロトタイプ

こちらの映像は地域の皆さんと2019年の11月にPEEKABOOの農家の石井さんと共に開催したmeet upの映像(約1分半)である。映像の途中に現れる謎の仕組みが、私たちが“スローぺイメント決済”と呼んでいるプロトタイプである。このプロトタイプでは、40個ほどのメッセージが書かれた白いカブを模したオブジェを3つ選ぶことで石井さんからのメッセージが現れ、少しだけ値引き(もしくは農家さんや地域の応援として少しだけ値上がり)する。チャリンと小銭を箱に入れるだけの無人直売所で、あえて時間と手間がかかる支払い方法に挑戦したのである。

野菜を買うときに意識する価格・鮮度に加えて、それを作った農家さんについて、農家さんの野菜への思い、農家さんの地域に対する思い、はたまた農家さんのこれからの夢などに意識を向けることができるようになると、野菜を購入するというタッチポイントが、農家や地域に思いを馳せることのできる「関与」の姿になりうるのではと考えた。

この取り組みは、自分たちが意図する思いをプロトタイプを通じて伝えることの難しさにぶつかりながらも、これからも地域の「関与」の姿を考えていきたいと決心するきっかけとなる実践となった。

地域を訪れる非日常の経験と日常をゆるくつなぐ「関与」

三浦の野菜を自宅で受け取るまで絵本が更新されていく“みらいのやさいプロジェクト”

もうひとつこちらの映像は、2020年12月に実施したみらいのやさいプロジェクトの映像(3分半程度)である。このときは、PEEKABOOの石井さんと新たに三浦観光バスの根岸さんのご協力をいただいた。三浦海岸駅前にある根岸さんのお店でレンタサイクルを借りてPEEKABOOに向かい、直売所に置かれている「みらいのやさいの種」のQRコードをスマホで読み込むと、約2週間かけて2日に1回、石井さんの野菜を育てるときの思いが描かれた絵本が更新され、最後のページが更新された次の日に、とれたての野菜が自宅に届くというしかけを登場させた。

三浦地域や農家さんを訪れた非日常の体験が、野菜配送にかかる2週間という時間を通して思い出され、日常に少しだけ染み出していく「関与」の姿に挑戦した。映像では、石井さんと根岸さんが考える地域の「関与」についてインタビュー形式でお話してもらっているので、ぜひ見てほしい。

野菜を買った人が気軽に地域の情報発信ができる「関与」

次の人のためにみんなで野菜の写真を投稿しよう! “今の直売所プロジェクト”

2021年3月20日、1日限定ではあったが、日立も参加しているkoyartのイベントが三浦地域で行われた。5軒の農家と大学の研究室などがコラボレーションをして、オリジナリティあふれる直売所を三浦半島に点在させ、野菜を販売したのだ。日立は横須賀総合高校の美術部の皆さんとタッグを組み、各直売所の隣に看板を登場させた。看板には高校生の皆さんの考えた農家のマークと、ほかの4つの直売所の地図情報を掲載した QRコード、直売所の情報を投稿するためのハッシュタグ名が記載してある。

どんな野菜が購入できるかわからないという偶然の出会いが直売所の良さでもあるが、野菜の直売所は行ってみないとやっているかわからないので、都内から日帰りの来訪者が多い三浦地域では、来訪者が三浦地域でどこにどんな野菜が今あるのかという情報にアクセスできるだけでもレンタサイクルなどで直売所がめぐりやすくなるのではと考えた。

そこで、野菜を購入した際に、次に直売所に来るかもしれない人のために、直売所の情報をシェアしてもらうことにした。使い慣れているInstagramのハッシュタグを使うことで、野菜を購入するというタッチポイントにより、購買者が気軽に地域の情報を発信する側になりうる「関与」の可能性に挑戦した。またバス停のような不思議な看板という姿で複数の直売所でゆるく繋いだことも、ハードル低く参加してもらうことを考えて工夫したポイントである。ぜひオリジナリティあふれる直売所と、三浦の青空の中、新鮮でキラキラしている野菜の様子をInstagram#コヤートで確認してみてほしい。

本記事では、私たちが挑戦してきた3つの地域の「関与」の姿をご紹介した。小さな実践を地域の皆さんとともに推進する一番の価値は、地域の皆さんにとっては違和感あるプロトタイプや取組みを目の前にして、これから何がおこるのかというワクワクした気持ちを持って、地域の皆さんと地域のこれからについて、それぞれの立場を超えて、三浦の場所で会話できることだと感じている。私たちは、社内も社外も地域の中も外も超え、地域の「関与」を模索し続けることが、いつかその地域ならではの仕組みに繋がっていくことを夢見ている。

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製品やサービス開発の背後にある思いや、表には出てきづらいプロジェクト、さらには、ひとりひとりのデザイナーや研究者がいま考えていることなど、日立のデザインの中で起きていることをお伝えします

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金田麻衣子

金田麻衣子

株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ ビジョンデザイン部 主任デザイナー