Interview with Detrytus (前編)
俺らがカッコイイなと思うバンドはみんなそれぞれのルーツの音楽を辿っている。(亀井)
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孤高のDischordantサウンドを作り上げたDetrytusが2015年に発表した2ndアルバム『THE SENCE OF WONDER』。正直私自身もまだまだわからない事が多いと感じているが、本作のアルバムだけでなく未だ謎の多いバンドの全貌に迫るべく亀井氏(Bass)にインタビューを敢行しました。twolowでは共に音を鳴らし深い付き合いをしているがDetrytusとしてはここまで深く踏み込んだ話をしたのは初めてなのでぜひ最後まで読んで頂きたい。
Q:本日よろしくお願いします。
亀井(以下、亀):よろしくお願いします。
Q:DePonのインタビューを読んで、このインタビューはちょっと初心者向けではないなと思ったんですよ。既にバンドを知っていて、っていう人向けのような気がしていて。ウチでやるならDetrytus知らない人とか名前知っていても聞いたこと無いという人が多いと思うから最初はありがちな質問とかもして後半のほうで新作、バンドのコアな部分を聞きたいなと思います。
僕はDetrytusについては一番わかってない人、完全にDetrytus素人みたいな感じなんですけどDetrytusってどんなバンドなんですか?よく目にするキーワードとしては『Dischord』(※1)っていうのがあるんですけど。でもメンバーがそのDischord感をガンガンだしているわけではないじゃないですか。
亀:確かに始まりは「みんなでひとつのものに憧れて集まった」という共通項はもちろん皆ある。そこがDischordとTouch&Go(※2)とか…。
Q:それはもう結成の時点で?
亀:そう。それが好きで、そこでひっかかって皆で集まったからそれは誤解ではない。始まり方はそこ。
Q:始まった時点でそういう音楽性でやりますみたいなのは出来ていたってことですか?
亀:いや、音っていうよりは「一貫した雰囲気」というのは想い描いていた。
Q:そもそもメンバーはどうやって出会ったんですか?
亀:それはもう…mixiですよmixiページのプロフィールに好きなバンド書いてたら「俺も最近上京してきました。俺も好きなバンド似てるんで」ってギターの奴が連絡してきて。それと同じタイミングで俺は俺で別の人にもメールしてたら俺にメールしてくれた人と俺のメールした人が実は高校からの同級生で繋がってて。要は、仙台から別々のタイミングで上京してきた顔見知りの二人が「バンド一緒にやろうぜ」って言ってたところに俺が加入したという感じ
Q:それいつごろの話ですか?
亀:2007年の6月くらいかな。Mixi全盛期。Twitterとかもあるかなかったかくらいの。
Q:その当時のmixiのコミュニティとか結構交流とかありましたもんね。あれーすごい面白かった。初期のmixiは俺相当評価してます。
亀:距離感がちょうど良かったかもね。今と違って。近すぎず遠すぎず。
Q:で、結成したのが2007年で…。
亀:初スタジオは7月くらいじゃないかな。Joe Lally(※4)来日してすぐに入ってたのを覚えている。最初のライブは2008年の2月2日、明治大学の広いところ…document not foundの福里君(現asthenia(※5))が明治大学の学生で卒業前に企画をやってくれて、でDetrytusも出なよって誘ってくれて。
Q:その時点で既にそのシーンと繋がってたんですか?
亀:その時のDetrytusのドラムはDocumentのドラムだったんですよ。要は身内のパワーで初ライブに出るという。
Q:そうか。じゃ今のメンバーはオリジナルメンバーじゃないんだ。
亀:そう。その前のドラムは今、THE SUNSETBOULEVARD(※3)とかelicaとかやってる。
Q:最初から結構ジャパニーズエモなあの辺のシーンに躍り出たって感じだったんですか?
亀:俺以外は、というかギターの奴は仙台でCrime Against HumanityっていうバンドやっててそれはSleepytime Trio(※6)みたいな感じだったかな。多分そのバンドでMedications(※7)が来たときに仙台で対バンもしてるはず。だから割と仙台バードランドでちゃんとやってきた奴だから、あながち全員初めて、みたいな感じじゃなくて。俺だけ初めて。俺は本当にDetrytusが初めて本格的なバンド活動。大阪時代は少しやったりしたけど本格的な感じじゃなかった。ドラムがいないから俺が仕方なく叩く、みたいな不本意な感じ。その間フリーターで、親のメシを喰うのも嫌になって。それで東京に出て来て、25歳くらい。
Q:就職とか転職でもなく。
亀:何にもなし。本当にバンドのメンバー募集しに東京に来た。
Q:クソ熱い。
亀:しかもバンドでプロになりたいとかじゃないからね。ただ単にバンドやるためにっていう・・・。大阪にもシーンはあったけど何故か俺はそこには居なかった。いや、大阪に居たんだけど情報もなくて俺はそれを知らなくて。で、雑誌とか読むと東京の話がいっぱいあるから、東京に行けば何とかなるかなと。東京来なかったら人生ヤバかった。
Q:東京に来てすぐにバンドができて、ライブも決まって。
亀:その初ライブが明治大学でkillieとかheaven in her armsとかも出ててお客さんも100人くらいいて。
Q:ヤバいじゃないですか。映像ないんですか?
亀:あるよ。ベース始めて6ヶ月くらいのライブ。Detrytusでベース始めてるから半年くらいでライブしてるんだよね。元々ギターを弾こうと思って、ギターだけ持って東京来たから。それで宅録用にベースも買ってた。で、ベース募集してたからベースで入ろうって。需要があるから。俺は楽器云々じゃなくてバンドができたら良かったから。巡り合わせも良かった。ギターの奴の上京したタイミングも俺の数ヶ月後で近かったし。
Q:初ライブが2008年で、1stアルバムまで少し時間ありますよね?
亀:2011年かな。
Q:その1stに僕の持ってるDetrytusのイメージの音みたいなのがある。
亀:割と最初からあの方向性だったかな。1stアルバムの頃ってすごく素直に憧れたバンドの音に近づきたいみたいな感じで、憧れが強いままやっていたから、最初に持っていたイメージを音にしていた。
Q:その当時似た様なバンドって周りにいました?居たのかもしれないけど俺は全然知らんかった。
亀:「Dischord」って書かれることあるけどDischordってめっちゃ幅広いからね。実はつかみ所がない。80年代、90年代、00年代で全然違うから。80年代のDischord好きな奴と好きなところを言い合って全然話し通じなかったりするし。
Q:segwei(※8)もそういう書かれ方するけど違いますもんね。
亀:うちもDischordめっちゃ好きだけど、それだけが好きなわけじゃないし完全にそのものになれないし。Dischordの何もかも全てが大好きってよりはすごく狭くてピンポイントな部分に自分たちにとって物凄く大事なものが詰まってて、そこに魅了されて、そのピンポイントに焦点を絞っているという感覚。だからそう書かれる事(Dischordの影響うんぬん)は間違ってはいないし否定もしない。読んだら「あーそうかなー」と思うくらい。あと「90年代」っていうキーワードもよく言われるけど、バンド内ではそういう「○○年代が」って話はしたことない。
Q:僕の中では「Detrytusって何なんだ」っていうのがあって、つかみ所というところでなんとか自分の中で知っているものと照らし合わせていくと分かり易いところというと、そういう言い方になるんだけど。多分違うじゃないですか。要素としてはあるけれど、それだけで言い切れないところがあって。何を目指しているんだろうという。
亀:たぶん一番最初から今も一貫してあるテーマというか理想の形って、激しく無い音楽なのにもの凄い緊張感に包まれている、そういうものを今も求めている。激情、オルタナみたいな落ちるところ上がるところ素直な起伏がある音楽じゃなくて、一見クリーントーンなのに凄い緊張感と言葉にできない激しさが入ってるみたいな。そういうのを皆で共有しようと思って頑張ってた。
Q:そこはメンバーで話し合って?
亀:なんか自然とそこの興味がメンバー皆同じだった。それは最初から「それが良いよね」っていう共通言語みたいな感じ、それは今もそんなにブレていない。迷う時期とかもいっぱいあるけど。曲の出来ない時期とか。でも結局やりたいことはずっと皆同じというか。Dischordで好きなバンド、Hoover(※9)とかあの辺のバンドってフレーズとかはたいしたことないのに、なぜか独特の緊張感があって・・・それをどうやって出しているんだろうというのを探って、追い求めていたっていうのはあった。
Q:それが1stアルバムだったと。というか今も?
亀:1stと2ndはモチベーションというか取り組んだ時の姿勢というのが違うけど、3人の追い求める理想の雰囲気みたいなものはブレてない。
Q:1st出した時の周りの反応はどうでした?俺はその時既にポストロックとか聞いてたはずだけど知らなかった。見てるシーンが少なかったかな。
亀:割と日本には居ないタイプとは言われたりした。俺らが出て来た時期にはすでにBright and dark side(※10)がライブしてなかった。俺等はそのバンドに近いと言われていて、凄くカッコいいんだけど、そのバンドがライブをやらなくなったら俺等が入れ替わりで出て来たと言われた。「このシーンにはいつも1バンドだけそういうバンドがいる、それがお前等だ」って言われた笑
Q:一子相伝みたいな。継承されちゃったのかな…。
亀:今は知ってるけどその当時は知らなかった。活動し始めた頃に凄く言われて。
Q:Dischordとかもそうですけど好きな人いるんだけど、そういうバンドが少ない。
亀:いや、たぶん俺等の聞いているポイントが、「同じもの聞いても俺等がズレているのかな」と思う事はある。絞るポイント違うのかなと。聴き方が、なんか裏側から聞いてるみたいな。
Q:それって結構Detrytusの音を考えるにおいて分かり易い説明かもしれませんね。
亀:俺等はざっくりとした全体の雰囲気とかを聴いてる。Hooverのドラムのやつが後にFunkみたいなバンドをやるんですけど、何がカッコいいのかと考えるとDischordのバンドでもそういったFunk要素を感じたりするからカッコイイんだという話になって。そっから、じゃあJB’s聴こうぜって話になる。
Q:そっちいっちゃうんだ。
亀:そう。メンバーとJB’s聴いたりしてスタジオでもっとファンキーな曲を練習しようとしたり。もっと中の方に入ったところでアプローチしたいねって話しをして。・・・Detrytusのメンバーはみんな演奏がそんなに上手いわけじゃないので、演奏上手い人達から見れば対したことは出来てないけど、でも下手なりに皆で一生懸命考えて話してた。ベースに関してもハードコア的なものを練習するんじゃなくて、Funkの音楽をもっと練習することで好きなDischordのハードコアバンドの深みに繋がるのかなという解釈を自分で勝手にして。真正面から行っていないというか。別の音楽をやっていた人がその音楽に入り込んだときの違和感とかも、緊張感に繋がると思うし。Helmetもそうじゃないですか。
Q:アカデミックな人ですもんね、あの人も(※11)。
亀:Dischordのバンドもコピーするけど、それと同じくらい他のジャンルも練習して。好きなバンドに影響を受けたとしてもそれを表面だけ頂く様なアプローチも浅いかなというか、そのバンドが何を聴いてそれを作ったのか、というところまで考えないとこっちもソレ相応のものを引っ張り出せないからという話もメンバーとしていたし。そういう捉え方をしないといけないんじゃないかと思って。なぞった様な音を出しても底の浅さは見えるじゃないですか。そのバンドの奴が何を聴いて、何を考えてその音を出していたのかというところまで考えを巡らすと、目の前のものだけを追いかけててもダメなんだなと。中にあるものをもっと引っ張り出そうと。
Q:ルーツか。
亀:俺らがカッコイイなと思うバンドはみんなそれぞれのルーツの音楽を辿っている。それが好きな理由でもある。初期衝動のもっと先に行こうとしているバンド、でも初期衝動から始まっているから面白い違和感も出ていたり、そういう情熱と探求の塊が本物を超える瞬間なんかもあって。自分達も本物だとは思わないけど、やっているうちに一瞬でもそういう瞬間があるのなら、楽しんでやれるというか。
Q:それが、バンド内の文化みたいな感じなんでしょうね。
亀;今のドラマーの奴を誘ったのもmixiでスカウトしたんですけど。「東京」「ドラム」とかで検索して、ひとりひとり足跡つけて、その人の入っているコミュニティ見て。で、今のドラマーの奴は「HARDCORE」と「Funkaderic」(※12)に入ってて。ハードコアとファンク聴ける奴だと思ったからメールして。
Q:ドラムの方はバンドやってたんですか?
亀:やってなかった。
Q:ドラムも素人なところから始まっているんですか?
亀:たしか小学生のときから少しやってて中学生のときは自分でドラム叩いてデモテープとかも作ってたらしくて、俺等とバンドやるとなって久しぶりに叩き始めたみたいな感じで。だから素人ではなくて。勘が良いというか、初めてのスタジオのときでコイツわかってるなーという。
Q:この前のSunday Bloody Sunday(※13)の冨永さんと話していたけど、海外でも日本でも分かり易いものが流行るじゃないですか。初期衝動!とか激しい!重い!暗い!とか極端な形のものが。そういう流れとは違うから、多分つかみ所がないと思われがちだけど。
亀:俺は周りのバンドのほうがもっと複雑なことやってるなと思う。うちは拍数とかはちょっと変拍子入ってたりするけど、音楽の作りはオーソドックスで、リズムはきちんと2拍4拍を大事に、リズムの表と裏をちゃんと理解しましょう、あとは意味もなく変な事はしない!という感じ。ドラムとベースはきちんと音楽的にやろうと。リズムの取り方も拍の事、リズムのノリとか、普通の考え方で作ってる。
Q:真面目っすね。
亀:真面目なんだよ。それが良くないときも、行き詰まることもあるけど。なんて評価されても良いんだけど、こんなに普通なありきたりな音楽の話をして作って出来上がったものを不思議がられるのが面白いなぁとたまに思う。自分達からしたら「変なもの出来たでしょ」みたいな感じではやってないから。普通のダンスミュージックとか作ってるのと同じ感覚だと思うし。もっと変なギター弾いて!とか、ここで変な拍で!とかそういう話はメンバー間でも全然してない。普通で、シンプルにいこうと。
Q:激しい音楽はエクストリームな方向に向かうから。
亀:うちはもう奇をてらわない。変な事はしないし、本当にストレートしか投げてないつもり。コピーしたら凄く簡単な曲だということがわかるはず。奇をてらうバンドって人間性も重要というか、本当にこいつ頭おかしいなという奴がやってたらカッコイイけど、うちは全員頭おかしくないというかみんな真面目な人間だから変なことやっても絶対ださくなると分かってるから。
Q:演じてるみたいな感じになる。
亀:そう、正直に素直にやる。それ以外やりようがない。
>>>>後編、新作『Sence Of Wonder』の話へ続く
(interviewed by Akihito.Mizutani from 3LA)
※ 1: いわずと知れたアメリカDC発のインディペンデント・レーベル。DIY思想や反商業主義の価値観を提示し、80年代のUSハードコアシーンはもちろんその後のポスト・ハードコアシーンにも大きな功績を残している。
※ 2: 80年代のUSオルタナシーンを支えた最重要レーベル。
※ 3: THE SUNSETBOULEVARD(http://thesunsetboulevard.com/)
※ 4: Fugaziのベーシスト(http://sound.jp/hardlistening/interviews/joelally_1.html)
※ 5: asthenia(https://astheniatokyo.wordpress.com/)
※ 6: スーパーレジェンド。奇跡のリユニオンを果たし、2014年に来日したのも記憶に新しい。(http://www.balloons.jp/summer-meeting/)
※ 7: ex.Faraquet. メンバー在籍。 2005年にCatuneの招聘により来日が実現。(http://www.e-vol.co.jp/hardlistening/interviews/medications_1.html)
※ 8: segwei(http://members3.jcom.home.ne.jp/4311176101/segwei/)
※ 9: 90年代Dischordを象徴するバンドの1つ。(https://www.youtube.com/watch?v=gPtEii8FL0Y)
※ 10: Bright and dark side(https://www.youtube.com/watch?v=WV4lz9uaXj4)
※ 11: HelmetのPage Hamiltonは元々ジャズギターを専攻している。
※ 12: P-FUNK、ジョージクリントン、Parliament、Funkadelicについてはwilipedia参照のこと。(http://ja.wikipedia.org/wiki/P%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%AF)
※ 13: Sunday Bloody Sunday(https://sundaybloodysunday1.bandcamp.com/)