「ナイトタイムエコノミー」の視点で観光を考えてみる

コミュニケーション・ディレクター江口が勧める今週の一冊

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5 min readAug 13, 2017

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仕事で地方に行く度に、夜の街並みを歩くのが楽しみです。飲みに行くのもそうなのですが、夜遊びから見えてくる面白さは、すごく人間的なものを感じます。近年、「インバウント」や「地方創生」というお題目のもと、地域活性などに注目を浴びていますが、そうした取り組みのなかで、意外と見過ごされているのがまさに夜の経済圏です。

夜の経済圏とは、日没から翌朝までのさまざまな経済活動のことで、「ナイトタイムエコノミー」と呼ばれています。対して、昼の経済圏は観光やショッピングといった日中に行われる活動全般のことを指しています。例えば、自然や歴史的施設といった観光資源に人を誘致するのはそれにあたります。訪日外国人の誘致などに各地域も力をいれており、その多くもこうした観光資源をもとにしていますが、夜の視点に対しては意外と抜け落ちていたりします。

「観光」という言葉が”sight seeing”としばしば訳されるように、自然や国宝などのなにか珍しいものを「見る(観る)」ということに注力しがちですが、昼間の滞在だけでは短期の滞在になりがちです。そうではなく、長期の滞在を軸にした上での、従来の観光ではない、新たな観光への考え方をする必要があります。

観光客は「ただそこに来る」だけでは経済効果は生まず、むしろそれを受け入れる側の地域にとっては、一義的に「コスト要因」に他ならない。観光客が訪問先でゴミを発生させれば、それを処理するのは地域の自治体であり、その原資は地域に住む住民の治める税である。観光客が歩く公道、使用する公衆トイレは全て自治体財源によって維持管理される公共物であり、ましてや観光客を迎え入れる為に新たなインフラ整備を行うということになれば、当然そこには地域住民の血税が投入されることとなる。

(中略)

観光業界に生きる人、観光行政に関わる人というのは多くの場合、観光振興は「地域の魅力を発信すること」であり、同時にそれは「地域にとって喜ばしいこと」であるといった間違った考え方から論議を始めることが多いのですが、観光に関わる人達がまず自覚しなければならないのは「観光客というのは原則的に地域にとってはコスト」であり、「観光振興というのは基本的に地域にとってマイナスからのスタート」であるということなのです。

『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』の著書の木曽さんは、著書の冒頭でこうした問題点を挙げています。ここから諸外国のナイトタイムエコノミーの事例を紹介しながら分析や提言を行っています。日本においては、夜間の交通網に関する事例や、夜の経済圏を考える上で欠かせない風営法に関する一連の取り組みや提言などが記されています。

個人的には、夜の経済圏を作ると同時に、一種のワークライフバランスも考えなければいけません。まだまだ、昼間の経済圏をもとにさまざまな公共サービスの仕組みが構築されています。こうしたナイトタイムエコノミーを成り立たせるための労働環境や育児などの保育環境といった、夜の事業を営むためのさまざまな社会インフラが必要だと思います。

昨今の各地で行われている芸術祭などのアートプロジェクトにおいても、経済指標という側面で考えたとき、一般的な評価指標は来場者数などがKPIとなりますが、そうではなく、こうしたナイトタイムエコノミーの視点で考えたときの新たな指標を作ることができるかもしれません。

inVisibleメンバーとともに

NPO法人インビジブルは、アートを軸にしたクリエイティブプレイスとして「invisible to visible(見えないものを可視化する)」をコンセプトに活動を展開しています。よりよいアイデアや行動を生み出すために、inVisibleメンバーとともにアートと社会の関係について考えていきます。詳細は以下よりご覧ください。

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