人口ピラミッド

koji iyota
といてら豊浦
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6 min readFeb 1, 2017

高等学園11年生2学期、「情報」の授業での一コマ。

「さあ、これが日本の人口ピラミッドです。」

11年生にもなると、今まで一度や二度は見たことがあるだろう。生徒たちも最初は「ふーん...」といった様子。

「なんだか、変な形だな...」

「君たちの世代はこのあたり。」

「えっ、少なっ!」

グラフの見方を少しずつ学びながら、自分たちの世代と比べて圧倒的に多い「団塊の世代」や、その子ども世代の「団塊ジュニア」、特定の年代がその前後より極端に少なくなった第二次世界大戦や、丙午(ひのえうま)という迷信の影響、そしてよく耳にする「少子高齢化」という言葉の意味するものが、人口ピラミッドの形から徐々に見えてくる。

日本は衰退!?

これから先、日本の未来はどうなっていくのだろう?

「これは日本の2050年の人口推計。2050年は今から36年後。みんながちょうど今の私(先生)の年齢(50代前半)になる頃。その頃は人口も1億人を下回ると予測されている。つまり、現在の日本全体が5人家族とすると、それが2050年には4人になってしまう計算。」

「えっ、なんだか寂しい...」

教室がしばらく静かになる。

「なんで、日本の人口はこれからどんどん少なくなっていくのだろう?」

「生まれる子どもの数がどんどん減っているから。」

「じゃ、どうして生まれる子どもの数は減っているのだろうか?」

「子どもはお金が掛かるから!」

いきなり、現実的な回答に私も一瞬言葉に詰まる。

人口の高齢化が世界に類を見ないスピードで上昇していく日本。超高齢化社会となり、高齢福祉サービスの受給者は増加の一途をたどっている。

11年生はちょうどこの「情報」の授業と平行して「福祉実習」を2週間体験した。人口ピラミッドを見ながら、その「福祉実習」の体験が更に重みを増してくる。まさに彼らの身体の中で、その体験がブクブクと発酵しているようだ。

「さあ、それでは隣の国を見てみよう。これは現在の中国の人口ピラミッド。」

自分たちの国と全く異なるピラミッドの形に驚きの声。1979年からこの国で始まった「一人っ子政策」。国家の政策により人口ピラミッドの形が大きく変わっていったことを改めて知る。

「さあ、そしてこれが、更にお隣、モンゴルの人口ピラミッド。」

先ほどの中国の時よりも、更に大きな歓声。なんだか他人事ではない親近感がクラス全体に漂う。

モンゴルは、自分たちが8年生の時に修学旅行で訪れた国。自分たち自身で広大な草原を馬に乗りながら旅をして、わずか1週間ほどではあるが、現地の人たちと寝食を共にしたという貴重な体験をこのクラスは共有している。統計データの単なるグラフから、情報が一つ一つ変容しながら、肌感覚として生徒1人1人に染み込んでいく。

生徒の1人が突然大声で叫ぶ。

「この国の未来は明るい!」

「どうして?」

「子どもが多いから!」

他の生徒たちも大きくうなずいているクラスの光景を見ながら、いずみの学校の生徒たちが持つ『感性』に、私もしばし喜びに浸る。

「さあ、そしてこれがインドの人口ピラミッド。」

今までのどの国よりも二等辺三角形に近く、安定感をも感じさせるインドの人口ピラミッド。生徒たちの口から思わず出た言葉は、

「この国の未来はもっと明るい!」

「人口ピラミッド」。この中にはとてつもない未来の情報が詰まっている。そして更に、生徒自身が「経済を創っているのは自分たちなんだ。」と実感することができる。生徒たちにとって、これからの日本は衰退するばかり、暗いことばかりなのだろうか?

自分たち日本人がアジアのリーダーになると自覚すると世界が変わる...

1993年から1997年までの4年間、私は東南アジアの国、マレーシアで家族と過ごした。

前職で大手電機メーカーのエンジニアとして、VTR(ビデオ・テープ・レコーダー)を製造する現地法人の設計チームを立ち上げるためだ。

当時のマレーシアは、マハティール首相の強力なリーダーシップのもと、2020年までに先進国の仲間入りを果たすことを国家目標とし、アジアの奇跡と言われた日本に追い着け追い越せと、日本からの技術移管を邁進させていた。

当時の日本とマレーシアの技術格差は、まさに大人と子どもほど。しかし、そんなギャップがあることを少しも卑下せず、私がまとめる構造・機構設計チームは、野心一杯の若きエンジニアたちで溢れ、誰もがこの国の未来は自分たちが創るのだという『志』を持っていた。そこには、学ぶことが楽しくて楽しくてしかたがなく、まさに『根拠の無い自信』に満ちあふれた人たちがいた。

そして、私もそこで大いに学ばせて貰った。このような『志』を持った1人1人が会社を成長させ、地域を育て、国を創っていくことを。

先ほどの「人口ピラミッド」の授業、もちろん暗い日本のままでは終わらせない。

「次に、この人口ピラミッドを見てごらん。これはどこの国だろうか?」
スクリーンに映し出された人口ピラミッドの形は、先ほどのインドのそれに酷似した、きれいな二等辺三角形を描いている。

「イラン!」

「バングラデシュ!」

彼らの意識は、未だ地球を西回りに旅する途中のようだ。

「いいえ、違います。これは日本。ただし、1935年(昭和10年)の人口ピラミッドです。」

皆、あっと驚く。自分たちの国日本にも、かつて今のインドのように明るい未来を彷彿とさせる、きれいな二等辺三角形の人口ピラミッドを描いたことがあったことを知る。

つまり、中国も、モンゴルも、さらに将来、インドも今の日本の様に少子高齢化が進み、いずれ衰退が始まる。その時、これらの国はどうするのだろうか?

その時こそ、日本がますますリーダーシップを発揮する時。

1990年頃に経済のピークを越え、さらに世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進む中、様々な社会問題の解決に取り組んで来た日本が、やがてアジアのリーダーとなる。そういういう未来の日本の中で、中心的役割を担うのはまさに君たちの世代。これからアジアの他の国々が困難な状況と向き合うことになる2030年から2050年にかけて、君たちは人生で最も活躍のできる30代前半から50代前半を迎える。自分たち日本人がアジアのリーダーになると自覚すると世界が変わる。『志』を持ったとたん、全く違う未来を創り出すことが出来る。

いずみの学校で学び、まもなくここを巣立っていく生徒たち。彼らには是非『志』を持ち、世界に働きかけることのできる人間として、これからも成長していって欲しい。ここで学び、素晴らしい感性を育んできた生徒たち。君たちが『生きる力』を発揮する未来はすぐそこにある。

高等部「情報」担当 井餘田 浩司

※この投稿はいずみの学校オフィシャルサイトに2014年11月に掲載されたものを再掲載したものです。

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といてら豊浦

高校で教鞭をとりながら「人を育てる」役割を担う人が学び続ける場を運営するラーニングデザイナー&ファシリテーター。toiee Lab パートナー。「学ぶことは楽しい!」を広く伝えるため奮闘中。家族は妻ひとり息子三人。妻の作る野菜と雑穀の料理にハマってます。