たった1つのバッド・プロセスで会社を破滅させないために

by bhorowitz ベン・ホロウィッツ

“Real quick, whole squad on that real sh*t
0 to 100, n***a, real quick” — Drake,
“0 to 100/The Catch Up”

私は会社を経営しているテック・ファウンダーたちの擁護者であると自負している。でも私がいつも心を悩ますことがある。それは彼らが予算編成で失敗し、深く傷つくのを見ることだ。そう、予算編成で傷つくなんてどれほどバカげていることか。なぜこんな事が起きてしまい、エンジニアたちにとってこれが特に問題となる理由はどこにあるのだろう?

まずは私の失敗談から始めよう。当時の私の会社はセールスが凄い勢いで伸びていたので、抱えていた1番の問題といえばLoudcloud(訳者注 現Opsware。マーク・アンドリーセンらと立ち上げた会社名)にサインアップするカスタマーの全員に対応できない不便をかけていたということくらいだった。この問題と奮闘して成長を加速させるため、私はチームとともに必死に働いて対応力を拡大させ、競争になる前にマーケットを押さえるべく必要なすべてを計画した。

次に下位目標とその達成のためにやるべき事をそれぞれの部門長に割り振ることにした。彼らは私のリーダー・チームと協力していたので、私はそれぞれの目標がインディケーターとメトリクスで計測やサポートがされていると確信を持っていた。それから私はチームに向かって、目標達成には何が必要で、成果を上げるのに必要なスタッフ数はどれくらいで、儲けは幾らくらいになりそうかハッキリさせるように伝えた。そして最後に、彼らの要求を私が納得できるプランになるまで業界の標準に従って(大抵は減額したが)調整した。

基本的なプロセスは以下のようなものだ。

  1. さらなる成長を可能にするゴールを決める。
  2. そのゴールを細分化し、割り当てられた各チームが明確な責任と報告義務を負う。
  3. 数値化できるターゲットに向けたゴールを絞り込む。
  4. ターゲットにヒットするのに新規人材が何人必要になるか明らかにする。
  5. このような努力にかかるコストを見積もる。
  6. 業界の基準を作る。
  7. 世界に通用するものにする。
  8. ひたすら実行する。

あなたが経験豊かなマネージャーでなければこのプロセスのどこに問題があるか気付かないかも知れない。しかし、私の会社はこれで危うく死を迎えるところだった。実際、上記のプロセスは完全にめちゃくちゃだ。自分の会社を破産の瀬戸際に追い込んだり、わざわざカオス溢れる企業文化を生み出したいような時にはぜひ実行してみるといいだろう。

必要なものが何かマネージャー達に尋ねるとき、私は知らぬ間に予算編成をゲーミフィケーション化していた。そのゲームは次のようなものだ。目標は1人1人のマネージャーができる限り部門の規模を最大化し、それによってその部門の存在価値を高めることにある。現況の推移を逐一確認し、もしそれが好転するなら自分自身の価値や重要性を高めることができる。

さて、ここまで読んであなたはこう考えるかもしれない。「自分の会社じゃあり得ない。ほとんど誰もそんなゲームやらないね」と。まぁ、そこがこのゲームの優れたところなんだが。実は初めに参加するのはたった1人でいい。なぜなら一旦誰かがゲームを始めると、誰もが参加するからだ。 — そして全員必死になる。

このゲームは、勝つチャンスを増やすためマネージャーたちが抜け目のない戦略を採り始めるとすぐに難易度が上がってしまう。マネージャーの誰もが知っているテクニックとしては、目標範囲を劇的に広げるというものがある。例えば、誰かがマーケットでの我が社の存在感を増したいと言い出せば、それは当たり前のようにグローバル展開することを意味するのだろうと受け取られる。誰もがアメリカ国内だけで満足だなどと思われたくはない。

また他にもCEOをとてつもなくやる気にさせる別の凄い方法がある。それは「もし会社が結果を残せないなら、酷くシビアな状況になる」と告げることだ。「私たちがセールスを500%まで伸ばせなくても、ライバルならそれを実現できるだろう。それで私たちはライバルの後塵を拝することになる。そうするともはや私たちはNo.1ではなくなる。もしNo.1でなくなると最高の人材を雇うことや最良価格を設定すること、優れた製品を生み出すことまでできなくなる。そして、死のスパイラルに取り込まれる」。ライバルが今年500%も成長する可能性はほとんどないだろうと楽観視なんかしてはいけない。

さらにこのプロセスにはもう1つ微妙な問題があった。チームに「ゴールを達成するため何が必要か」と尋ねると、彼らは自分たちが言ったものすべてが当然手に入ると決めてかかることがあった。その結果、チームは自分たちのアイデアを角が立たないようにうまく丸くまとめて予算を得てしまう。自分たちの要求と会社での士気をほどきがたく結びつけ、ゲームで最大限得られるものを得ようとするわけだ。

ある時マーケティング担当副社長が私のところにやって来て10人のスタッフと500万ドルの経費を要求して出て行った。それから彼はこの話をチームのスタッフとシェアしたのだが、それによってすっかりチームの方向性が変わってしまった。今や彼の計画を修正して経費や人員を少なくしようものなら、彼のチームを警戒させることになるだろう。彼らはポジティヴなシナリオに基づいて2週間も計画を立てていたからだ。「参ったな。ベンは俺たちの計画に大鉈を振るったぞ。ここを辞めて別の仕事を探すべきかな?」こんな感じで利口には程遠く思える費用の増額要求が大きな重しとなって私にのしかかって来た。マネージャー全員がこれをやり始めると、金は湯水のように流れ出て行き、会社のカルチャーも破壊されることになる。

中心的な問題は、予算編成に如何なる本物の制約もなかったことだ。私たちは非公開企業で、明確な収益目標もなく、銀行にキャッシュは山ほどあるという状態だった。費用に線引きして払わないものを決めるのはむしろ恣意的な選択に基づく態度を示すように思われた。私たちには厳しい制約がないどころか、制約そのものがなかったのだ。

予算編成を優れた制約原則に基づいて行えば、会社のカルチャーを守りその結びつきを強めることにつながる。逆に結びつきの敵となるのは爆速で社員数が増えるような場合だ。年ごとに社員数が倍以上に成長しているような会社は、たとえ新入社員の採用とトレーニングがしっかりしていても深刻なカルチャー喪失の問題を抱える傾向にある。

とはいえ、時にこの種の成長は必要で上手く扱うことができる場合もある。セールスのような特定の職務の場合だ。逆にコミュニケーションが重要なエンジニアリング、マーケティングといった分野では大抵非生産的になる。1年でエンジニア・チームの人数を4倍に増やすと、2倍に増やした時より絶対的なスループット(訳者注 「処理量」)が減りがちだ。しかもボーナスも人数分増やさなければならないので、キャッシュがもっと必要になる。さらに、ほとんどガイダンスを受けないまま新しい社員が入ってきてあなたのやり方に合わない我流を通すと会社のカルチャーの一貫性が損なわれることもある。

人数が少ない場合はこのようなことが起こらないことを気に留めて欲しい。エンジニアリング・チームを1人から4人に、もしくは2人から8人に増やすのは問題ない。しかし、50人から200人に増やすとなると、よっぽど注意しなければ大きな問題を引き起こすだろう。

会社のカルチャーを強固にするためには、幾つかの制約原則をもって予算編成を行うことでずっと上手くいく。以下にその幾つかを挙げる。

  • ランレートを高めること — 「ランレートを高める」というのを「支出を増やす」と誤解しないこと。あなたが来年と昨年の同じ月を比較検討した上で喜んで増額したがっているような項目には限界を設けるべきだ。
  • 利益/損失 — 収益を上げたなら、次は予め決めておいた利益や損失の項目について年間を通じた制約を検討すべきだ。
  • エンジニア成長率 — あなたが斬新なやり方で買収したり、別々にもしくは細分化して運営したりするのでなければ、一枚岩だったエンジニアリング・チームを年間で倍以上にしないように心がけなければならない。
  • エンジニアと他の部門の比率 — エンジニアへの制約事項を定めたなら、次に他の部門にも同様の事項を定めるため、エンジニアと他の部門に対する制約の比率を設定する。

全体にこの制約を適用し終わったら、次に挙げるステップがより良いプロセスを生むだろう。

  1. 成長の余地を作るため、必要に応じて制約すべき対象に10-25%の予算削減をする。
  2. それによって生まれた予算をあなたが適当と思う割合で各チームに分配する。
  3. チームに予算について伝える。
  4. ゴールを設定して実行し、マネージャーたちに予算内で目を見張るようなことを達成できるかどうか、彼らのスキルを示すように鼓舞する。
  5. 多くの予算があればもっと多くを成し遂げる可能性があると正当に認められるなら、そのマネージャーに削減した10-25%で生じた金のうちからこっそり追加予算を渡す。

こういうやり方をすると、読者の皆さんの何人かは私が気が狂ったと思うかもしれない。テクノロジストとして皆さんは「始める前に問題に対して過大に制約を加えるのは最悪だ」と知っていると思う。クリエイティヴィティーを殺し、真に偉大な結果を生む邪魔になると。この事がまさに、エンジニアの1人として私がこのプロセスと奮闘することになった理由だ。人が関わる要素はロジックそのものを台無しにする。とりわけ偏狭なインセンティヴは正しく扱われないと人の振る舞いを鋭く刺激し、全体のゴールを台無しにする。

しかるべき時が来る前に、あなたの小さいながらも敏捷な会社を大きくて動きの遅い会社へと変えてしまわないために、ここで述べた話を理解しておくのはとても大切だと思う。