ストーリー
それは決して孤独なことではなく、あなたとあなた以外との間により強い一体感を与えてくれることでしょう。なぜならそれが、ストーリーの力なのだから。

Facebook で友だちの結婚報告に「超いいね!」を押した後、Instagram のハッシュタグ #ootd から芸能人のコーディネイトをチェックし、Twitter で混乱する世界情勢を追いかけながら、LINE で恋人にひよこのスタンプを送信する――今日もスマートフォンのアプリを行ったり来たり、その親指はきっと身体のなかで最もせわしないパーツに違いありません。

離散から再構築へ
メディア美学者の武邑光裕氏は「デジタルの本質は離散性と再構築である」と指摘しました。なるほど私たちは親指からそれぞれのアプリを通して目を拡張し、耳を拡張し、脳を拡張し、身体機能を断片化させて情報のインプット/アウトプットを繰り返しています。
また身体機能だけでなく、デジタルコンテントそのものが断片化していったことも指摘しています。(現在は定額制が主流ですが)音楽がCDアルバムから単曲データ販売のフェーズを経たように、動画が Vine で6秒ループとして広がりを見せたように、情報量の増大にともない、情報そのものが一口サイズに断片化されていったことは記憶に新しい変化の一つに挙げられることでしょう。
またそれゆえに断片化した情報を再構築するキュレーションという存在が重宝されるようになり、好みや気分に合わせて音を繋ぐ Radio 機能や、興味ある分野のニュースを人工知能が選出するキュレーションメディアが、いまや私たちの「親指の手間」を省く重要な役割を担っていることは確かです。
ではいまあなたがこの場で目撃している「ことば」そのものについてはどうでしょう。これはあくまで憶測ですが、1999年に Blogger を開発し、2006年にジャック・ドーシーやビズ・ストーンらと Twitter を立ち上げたエヴァン・ウィリアムズが、2012年にこの Medium を作った意図――そこにもまた、私たちに Blog から Twitter への移行で「ことばの断片化」を促したように、Twitter から Medium への移行で「ことばの再構築」にいたる道筋を用意しているのではないか、と感じてしまいます。
“テキストは驚くべき力と効率性をもっている。それは最も訴求力があり、最もアクセシブルなメディア形式だ。読み書きができれば、誰でも意味あることを表現できる”――by エヴァン・ウィリアムズ
ストーリーの母系
写真や動画、果ては非言語がキーワードに上がる現代において、一貫してことばの力を信じ続けるエヴァン・ウィリアムズ。では一体、私たちはなぜことばを綴り、またなぜことばを求めるのでしょう。Medium が掲げるストーリーの正体とは、一体何なのでしょう。
神話学の世界的権威であるジョゼフ・キャンベルは、「神話は時代を超えて受け継がれる、この広大な宇宙と人々の内部とに染み渡る、共通の音楽のようなもの」と捉え、また著書『千の顔を持つ英雄』のなかで、各地の神話に登場する主人公の構造に以下のようなパターンがあることを記しています。
- Calling|天命を受ける
- Commitment|旅が始まる
- Threshold|境界を越える
- Guardians|師と出会う
- Demon|悪魔と戦う
- Transformation|変身する
- Complete the task|課題を遂げる
- Return home|故郷へ帰る
要約すると、「主人公は天命を受け、未知なる領域へと旅立ち、多くの苦難を乗り越え、やがて成果をおさめ、故郷へ帰る」というもの。地域や時代背景によって名称や設定は異なるものの、世界に点在する神話には数多くの共通点があり、あたかも同じ人物が仮面を付け替え、違うストーリーに登場しているかのようだと指摘しているのです。
古い神話を読み返したことはなくとも、おそらくあなたもこのパターンに見覚えがあるのではないでしょうか。なぜならこれは、新作が公開されて間もない「スター・ウォーズ」を始め、「ロード・オブ・ザ・リング」や「マトリックス」などにも採用されている「ストーリーの母系」に他ならないからです。(余談ですが、スター・ウォーズの生みの親であるジョージ・ルーカスは、ジョゼフ・キャンベルの教え子であったことでも有名です)
変化する道具と変わらないストーリー
かつて神話の時代に「口伝」によって語り継がれてきたストーリーは、紙が発明されて以降「書物」として大衆に広まり、映写機が発明されてからは「映像」として同じ空間、同じ時間で共有することが可能となりました。しかし道具によってその形態は変化しているものの、そこで描かれるストーリーの本質は現代においても変わりありません。
いまもなお普遍的なストーリーが私たちを魅了し続ける理由、それはストーリーに登場する主人公が私の内部に、或いはあなたの内部に潜んでいる何よりの証拠かもしれません。

メディア化する人類
現代、私たちはインターネットという新たなる道具を手にしました。特別な階級の者たちだけに共有されてきたストーリーは、やがて少数の作者から多くの読者や視聴者に向けて一方向に与えられるようになり、スマートフォンと様々なアプリの普及以降は双方向、多方向、無方向に発信されるようになりました。
すなわち、誰もが読者や視聴者であると同時に作者となった。これはあなたがメディアそのものになったと同時に、スマートフォンを手にする人類全員がメディアになったことを意味しています。そして新たなる道具は、そのプログラムとデザインを持って私たちにこう問いかけます。
“あなたの物語は何ですか?” ――by Apple iPad Air 2014 Ad
あなたはストーリーを生きている
あなたは今日、なぜその結婚報告と出会ったのでしょう。あなたは今日、なぜそのコーディネートを気に入ったのでしょう。あなたは今日、なぜそのニュースをリツイートし、あなたは今日、なぜそのスタンプを送信したのでしょう。
日夜その親指が刹那的なコンテント消費に急ぐなかの、断片的な振る舞い、断片的な受信と、断片的な発信。それがある一定量を上回ったとき、私たちはそれらを再構築する過程で、そこに神話ともよく似たとあるリズムを発見するのかもしれません。また他者とのつながりのなかで、ハーモニーのようなちょうどいい距離感を覚えるのかもしれません。
「事実は小説より奇なり」ということばがあるように、ひょっとしたらこの日常は、神話の時代から描かれてきたストーリーのなかにあるのかもしれません。そして大げさに聞こえかねないこの仮説を証明することができるのは、私たち一人ひとり、いいえこの文字列をいま追いかけているあなたしかいないことは確かなのです。
“世界はあなたです”――by なかのひとよ
それは決して不安なことではなく、あなたの人生をより豊かで、面白みのあるものに変えてくれるに違いありません。それは決して孤独なことではなく、あなたとあなた以外との間により強い一体感を与えてくれることでしょう。なぜならそれが、ストーリーの力なのだから。
そしてストーリーには、音楽のような美しさがあって然るべきです。クオリティの高い、より深遠なコンテンツを残すことに適したプラットフォームの一つである Medium にその役割を担う可能性があることは、もはやいうまでもないでしょう。
あなたの物語は何ですか?
