「5分でいいから待ってみる」TED 創立者リチャード・ソール・ワーマンからのアドバイス

Haruo Nakayama
5 min readOct 7, 2015

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以前の僕は、ずいぶんとせっかちだった。だれがなにを言っても、思いつくことといえば「どうやって反論するか」ばかりだった。自分の考えに合わないことであれば、頑なに反論せずにはいられなかったんだ。

あのころは、「何か意見があるなら一番に言わねば!」と張り切っていたのだと思う。そうすることに意義がある、とでも信じていたのだろう。けれど、実態はというと、問題をじっくりと考えていないだけけのことだった。早く反応しようとすれば、考える時間は短くなってしまう。もちろん、いつもそうではないけれど、たいていの場合はそうなるものだ。

そして、このような条件反射的な行動を他人事と片付けてしまうのは簡単だけど、実際はだれにでも、もちろんあなたにだってそういったことはある。まわりの人たちが条件反射してしまうわけだから、あなたもきっと同じだよね、というわけだ。

ではここで、僕自身に起こった話を紹介しよう。話は2007年にまでさかのぼる。ロードアイランド州プロヴィデンスで開催された、Business Innovation Factory のカンファレンスで講演をしたときのことだ。そのときは、TED カンファレンスの創立者である、リチャード・ソール・ワーマンもスピーカーの1人だった。そこでの僕の講演が終わったあと、彼はわざわざこちらまで来て自己紹介をしてくれ、さらに僕の講演をほめてさえもくれた。本当にありがたいことだ。本来、そこまでする必要なんて彼にはなかったわけだから。

で、そこで僕がどんなリアクションをとったと思う?なんと、彼の講演内容について反論を始めてしまったのだ。彼が自分の主張をステージで説明してくれている間に、納得できなかったことは全部メモしてあった。そして、いざ彼と話せることになって、取った行動が「彼のアイディアを批判する」ことだったのだ。きっと、空気の読めない最低な奴だと思われたに違いない。

けれど、彼の返答のおかげでハッと目が覚めたんだ。言われたことはとても単純で、「まあまあ、5分でいいから待ってみてよ」だった。何を言わんとしているのかピンと来なかった僕に真意を問われた彼は、さらにこう続けた。「同意できなくて結構、反論も結構。強い信念があること自体はすばらしいことだ。だけどね、本当に反論したいんだと確信する前に、相手の主張と少しは向き合ってみたほうがいい」。彼の「5分待て」の真意は、すぐには反応せずにまずは「考えろ」、だったんだ。まさにおっしゃるとおり、ぐうの音も出ない。あのときの自分には何かを示そうという意気込みだけがあって、何かを学ぼうという気持ちが欠けてしまっていた。

この体験は、それ以降の僕の人生を変えてしまったといってもいいほどの、貴重な気づきを得られた瞬間だった。

それもそのはず、リチャードはその生涯をかけて、自身の主張を深掘りし続けてきた人だ。彼はそれに30年という時間を費やしている。一方の僕はと言えば、たかだか数分だ。もちろん、彼が間違っていて僕が正しいことだってありえる。とはいえ、自分の主張に確信を持つ前に、まずはじっくりと考えてみたほうがいいことに変わりはない。

また、「質問すること」と「反論すること」は違うということも覚えておこう。反論するということは「自分は答えを知っていると思い込む」ことだけど、質問をするということは「知りたいと願う」ことだ。どんどん質問したほうがいい。

そして、条件反射的に反応するのをやめて、まずは考えてみることを習慣づけるには、生涯を通じて努力する必要があるのだ。そのくらい大変なことだし、僕自身、思わずカッとなってしまうことがいまでもたまにある。けれども、そうならずに済ませられたたびに、そのありがたみを実感してもいる。

まずは考えてみることに意味があるかどうかわからない?もしそうなら、ジョナサン・アイブがこんなことを言っているので、一度考えてみるといい。彼によれば、スティーブ・ジョブズはこんなふうにしてアイディアに敬意を払っていたそうだ。

スティーブはアイディアを、そしてモノづくりを愛していました。また、人が何かを生み出そうとする過程とも、類まれなる愛情と敬意をもって接していました。アイディアは本来とても強力なものです。ですが、そのきっかけはとてもはかなく、輪郭さえもあいまいで、あっという間に見過ごされたり押しつぶされてしまうものだと、彼はきっとだれよりもよくわかっていたのだと思います。

これは実に思慮深い発言だと思う。アイディアははかなくて、はじまりは弱々しいことが大半だ。かろうじてそこにあって、すぐに見過ごしたり見失ってしまうものなのだ。

そして、世の中には、いとも簡単にできることが2つある。他人のお金を使うことと、アイディアを否定してしまうことだ。

そのうち、特に後者は本当に簡単にできてしまう。否定はまさにタダ、何の苦労もないからだ。バカにして、知らぬふりをして、文字通り煙に巻いてしまうことだってできる。楽なものだ。一方、大変なのは、アイディアを大切にすることだ。じっくりと考えたり、時間をかけて寝かせてみたり、可能性を探ったり、実際に試してみたりするのは本当に難しい。結果的には正解だとわかったアイディアが、はじめは間違いだと思えることもあるからだ。

だから、今度だれかが自分のアイディアについて話していたりプレゼンしているのを耳にしたら、5分でいいから待ってみよう。「無理だよ」「大変すぎる」などと反論する前に、少し考えてみて欲しいんだ。確かに無理なのかもしれないけれど、そうでないかもしれない。だからこそ、「待ってみる」ことに価値はあると思うんだ。

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Haruo Nakayama

ex-Medium Japan translator. Trying hard not to get “lost in translation”. 元Medium Japan翻訳担当。