デザイン・プロセスの話はもうやめよう

Ray Yamazaki
11 min readNov 19, 2016

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photo cred: Enric Martinez on Flickr

デザインについて考える前に、料理についての話をしましょう。

初めて料理をした時、皆さんはレシピ通りに作ったのかもしれませんね。材料はどれくらい必要でどう調理すれば良いかレシピを参考にしたことでしょう。

料理が上手くなるにつれ、材料についてはざっくり確認するだけで済ませ、調味料も目分量で大体分かるようになります。オーブンの予熱についても細かく温度を調べなくとも経験をもとに設定できるようになるでしょう。かなり上達してくると、手元にたまたまあるものを上手く利用したり、興味を引く初めての材料を使ってみたり、食事を一緒に楽しむ仲間の好みを考えたり、旬の野菜を使ってみたりと様々に試して新しいレシピを考え出すはずです。

レシピに書かれている順序やプロセスは新しい料理を始めるきっかけや手ほどきにはなるかもしれません。しかし、あなたを本物の「シェフ」にしてくれるのは、何度も繰り返し作る練習や、新しいレシピの実験、そして材料が足りなくても何とか作り上げる創意工夫なのです。

私はデザイン(思考)も同じようなものだと考えています。一見するととても簡単に見えるのです。残念なことにこのような見た目の取組みやすさが誤解を与えてしまい、多くの(いや、ほとんどの?)組織はデザインを自社のカルチャーに取り込もうと苦心しながらも、問題の背後にある厳格さを本質的に理解しない為に上手くいかずにいるのです。

私たちは昨年d.schoolで千人以上の学生を教えましたが、その過程でデザインを正しく教えることに大きな責任を感じるようになりました。学生の多くが、デザイナーによる新たな視点を自分たちの組織に取り込みたいと考える企業に就職していきます。また、多くの企業が私たちd.schoolに自分たちにあった方法論をアドバイスするよう求めてきます。それで、私は今まで幾つかお手伝いをしたこともあります。

5つの六角形でデザイン思考を説明していた時代から大きく進化しました。

問題の解決プロセスを六角形のブロックで示すこのやり方がいわゆる「デザイン・プロセス」です。とても素晴らしく漏れのないプロセスに思えるかもしれませんね。ですが、これはきっかけになるほんの最初のレシピにすぎません。この六角形のブロックの背後にこそ大切なこと、すなわち試行錯誤するマインドセット、問題解決の態度や方法を理解するスターティング・ツールがあるのです。生徒たちがデザインと初めて出会ったとき、先ほどの「レシピ体験」をさせてあげるのが役に立つこともありますが、優秀な講師のほとんどはそれぞれのプロジェクトとその時々の学びのポイントにあわせたツールやエクスペリエンス・アークを用意しています。

プロセスから能力へ

d.schoolでは「8つのコア・デザイン能力」で生徒の可能性を伸ばそうとしています。それによって、クリエイティブ・コンフィデンスを高め、周りをインスパイアし、リスクを恐れることなく、人生のなかで遭遇するタフな仕事をやり遂げることができるのです。

私たちは生徒が個性豊かな「シェフ」になって欲しいと願っています。レシピに従うだけのつまらない人間にはなって欲しくないのです。そのためd.schoolでは実験的な学習スタイルをコースに採用し、生徒たちはプロジェクトを自ら実践することで前述の8つの能力を幅広いツール、メソッド、プロジェクト、マインドセット、振舞い、アーティファクト等から学んでいきます。

不確実さに方向性を見つける

これは「知らないこと」への不安を受け容れ、必要なときにそこから解決の道筋を見つけ出す能力のことです。

デザインは不確実さに満ちています。状況をしっかりと見定め、問題を再構築し、情報にパターンを見つけるといったことを学ぶのは大切なスキルに繋がります。不確実さはプロジェクト、プロセス、関わる人々といった様々な場面で問題になります。だからこそ、不確実さを鍛えられるような状況に彼らを置くと良いのです。

他から学ぶ(人やコンテクストから)

この能力は立場の異なる人々に共感し、彼らと新しいアイデアを試し、さらに異なる場所やコンテクストで観察や気付きを得るスキルのことを言います。

出会いの機会に価値を認め他者から学ぶことは、デザイン・プロジェクトの各場面でもエンドユーザーやステークホルダー、チームメンバーの関係でよくあります。この能力を伸ばすのは周りの事象へ豊かな感受性をもって接する態度です。

情報を総合する

これは得られた情報を理解し、インサイトそのものやそこから生まれる新たな機会を見つける能力のことです。

データは様々な場所から得られますし、質の面でも量の面でも様々です。ですからこの能力を磨くにはフレームワークやマップを作ったり、アブダクティブ・シンキングを活用するといったスキルが必要となります。しかし、この能力を磨くのは生徒にとって簡単ではありません。なぜならプロセスに時間がかかり、「不確実さに方向性を見つける」のと共依存関係にあるからです。

素早く実験を繰り返す

この能力はアイデアの表現形式に関わらず、それらを素早く生み出すのに役立ちます。

ブレインストーミングはこの能力に関わります。考えるよりも行動を起こすことを優先させ、実際に手を動かすことで解決の糸口が見つかるのです。

素早く実験を繰り返すために、心をリラックスさせることが必要になります。その状態だと様々なアイデアを受け容れ、新たなものを生み出し、さらには要点が曖昧で実現化が難しそうにも見えるアイデアを何でも拒絶したがる状況を乗り越えることができます。

この能力はもちろん「他から学ぶ」能力とペアになっています。多くの場合は数多くの大した出来ではないコンセプトが生まれることになりますが、時には潜在的なユーザーを意識した可能性のあるコンセプトが生まれる場合もあります。

具体と抽象の間で動く

この能力はプロダクトの特長をよく考えたりそれを伸ばすと同時に、ステークホルダーを良く理解するためのスキルも身につきます。

全ては関わり合いを持っています。学生たちがプロダクト、サービス、実験その他で新しいコンセプトを組み上げれば、それに関わるより大きなエコシステムの中でのそのコンセプトの位置付けを考えるようになるでしょう。

私たちはレイ・イームズとチャールズ・イームズの動画でこのことについての理解を深めることが出来ます。詳細や特長といった具体的なものを見定めるために細部に注目すると同時に、意味や目標、原理原則といったより大きく抽象的なものをも検討するのです。

意図して作る

この能力は相手にとって最適と言えるまで解決法を高め、そこから役立つフィードバックが得られると判断できるまで作品を公開しない思慮に富んだ構築についての能力です。

アイデアを形にするときは、手段が段ボールであれピクセルであれ、さらにはテキストであれ細部にまでこだわることが重要です。しかも、デザインはそれぞれの分野で独特のツールやテクニックを用いて学びます。

例えば、UXデザイナーは人間中心のデジタル・インターフェースを作るのに特化したツールセットを持っています。また、建築家には新しい構造を世に送り出すためのテクニックの宝庫があります。これらと同じように、免疫学、マクロ経済学、K12教育等もそれぞれの習得のメソッドがあるのです。

この能力では、自分の分野で美しい作品を生み出すのに必要とされるツールへの豊かな感受性が求められます。

慎重にコミュニケートする

これは聞き手に向けてストーリーやアイデア、考察、コンセプト、それにラーニングをまとめ、それを伝えて、記録する能力を言います。

コミュニケーションは様々なコンテクストの下で生じます。プロジェクトを進めるチームでのあなたのパフォーマンス、見込みのある投資家にプロダクトを売り込む動画作りにも影響を与えるのです。d.schoolの実験的なラーニング・プロジェクトではコミュニケーションやストーリーテリングを最も大切にしています。

自分のデザイン・ワークをデザインする

このメタ能力はプロジェクトをデザインに関わる問題として捉え、それに取り組むのに最適なメンバー、ツール、テクニック、プロセスを選ぶことを指します。

この能力は実践を繰り返すことで伸びます。実際、より経験を積んだ生徒ほど、この能力が発現しているように感じました。ツールやテクニックを駆使しながら直感を活かすのです。

デザインのやり方にお手本はない

現代はとかく忙しいものです。でも何かを究めるには時間と忍耐と実践が必要です。時には初心者にプロセスに従ったデザインを勧めるのも理解できますが、そのプロセスは絶対的でもお手本でもないことをしっかりと理解して下さい。それによって少しはできるようになった気がするかもしれません。デザインは常に進化し続け、多かれ少なかれプロジェクトにポジティブなインパクトを与える洗練された触媒なのです。しかし、そこに至る道には決まりきったプロセスなどないのです。

FAQ / P.S. / */補遺

OK、私の言いたいことはこれでおしまいです。でも、デザインについての議論は続くわけですし、もう少し口出しさせてもらって今まで頂いた皆さんからのフィードバックを紹介させて下さい。

この話題について数ヶ月考え続けてみたところ、頭の中で少し考えがまとまってきました。頂いたフィードバックを皆さんとシェアすることで、それぞれの能力をもう少し具体的に説明しつつ、例やツール、具体的な行動の起こし方について理解をより深めたいと思います。

Q.お話のあった8つの能力の位置付けは「別のプロセス」なのですか? 順番を付けたりしないのでしょうか? それにそれぞれについてちょっとしたイラストを付けたりしないのですか?

A. 8つの能力はプロセスではありません。ですから、順番やヒエラルキーは必要ないのです。でもイラストは私も好きですよ。Natalie Whearley氏は夏のTeaching and Learning Summitで印象的なイラストを描いてくれました。よければご覧になって下さい。

Q.なぜ全てについて再発明する必要があるのですか?

A.そんな必要はありません。私はデザイン教育のあり方を少しだけ変えるべきだと言っているのです。というのも、私は現在のモデルはある分野で行き詰ってしまっていて、考え方を少し変えることが時にはアイデアを自由にし、新たな方法を生み出すと考えているからです。小さな変化ですが、 d.schoolの講師や他の人々の多くは既にプロセスを重視しなくなっているようです。

Q.今回示された方法論をどう取り入れたらよいでしょうか?何か良い例はありますか?

A.私たちは今年d.schoolのカリキュラムでここで説明した8つの能力を様々なやり方で試してみました。そして、その結果を皆さんとシェアできて喜んでいます。具体的な適用の仕方の好例は今のところ特にないのですが、ここで述べた考えをできるだけ早い段階で皆さんとシェアして他の方のお役にも立ちたいと思っています。この考えがあなたのコースや仕事等で共感を呼び起こしているか、またはどんな風に活用されているかをお聞かせ願えれば幸いです。良い活用例があれば是非ご連絡下さい。

Q.プロセスのどこがいけないのですか?

A.何も悪くありません。あなたがそれを盲信しない限りは。

下記の方々の建設的なフィードバックに感謝します。

Thomas Both, Charlotte Burgess-Auburn, Emily Callaghan, Leticia Britos Cavagnaro, Doug Dietz, Maria Doherty, Scott Doorley, Ashish Goel, Stacey Gray, Craig Griffiths, Mark Grundberg, Evelyn Huang, LaToya Jordan, Perry Klebahn, Emi Kolawole, Tom Maiorana, Bill Pacheco, Bernie Roth, Sarah Stein Greenberg, Natalie Whearley, Scott Witthoft

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