eSports に未来はあるのか

Haruo Nakayama
Oct 2, 2015 · 17 min read

第3部:eSports のスター選手は自然に生まれるものなのか、それとも生み出されるものなのか

執筆 ジョナサン・パン、ジョン・キム

マイケル・ジョーダンにまつわる数ある逸話のなかから、筆者のお気に入りを1つ紹介しよう。ポートランド空港でのことだ。チームの選手と一緒に荷物が出てくるのを待っていたジョーダンが、ベルトコンベアに100ドル札を突然たたきつけてこう言った。「俺の荷物が最初に出てくるほうに100ドルかける。」勝率10分の9の賭けであることに気づいたチームの選手9名はその賭けに飛びついたが、あっけなく負けてしまった。実は、ジョーダンがあらかじめ荷物係を買収していたのだ。「嬉しさのあまりゲラゲラと笑いながら掛け金を回収してまわった」というジョーダン。たかだか数百ドル、しかも彼にはまったく必要のないお金を、そこまでして欲しがった裏にはなにがあったのだろうか。

賭けに簡単に勝てそうだったから、ジョーダンはその機会を逃さなかっただけだよ。そう、同世代のなかで一番研ぎ澄まされた選手であった彼はギャンブルに夢中だったし、それになにより、勝つことに夢中だっと思う。 - ビル・シモンズ(スポーツジャーナリスト)

ジョーダンがなぜ競争に夢中であったかを理解することは、eSports 投資に関する我々の主張を読み解くために欠かせない。つまり、

  • 人は競い合うことを求めている
  • eSports はその欲求を満たす新たな仕組みだ
  • eSports の種目1つ1つの寿命は、これまでのスポーツ種目よりずっと短い
  • ゆえに、投資すべきは「競争の機会を増やす(スター選手の育成・賭けやファンタジー eSports・ネット以外で使えるご褒美)」企業だ。特定の eSports 種目ではない。

eSports になじみのない読者の方は、ぜひ eSports 市場地図を眺めてみてほしい。市場参加者が把握できるはずだ。また、本連載の第1部では、メディアによって偏ったイメージを与えられ加熱しがちな eSports をめぐる状況に水を差すような見解を述べた。第2部では、eSports の仕組みが今後も有効であるかどうかを検証している。

競い合うことへの欲求

eSports は、まさに万人のためのスポーツなのだ

精神分析の祖フロイトいわく、人が人らしくあろうとすることには「競い合うこと」も含まれているのだそうだ。生き抜くことを何億年にもわたり追い求めてきた人類は、ダーウィンがいうような進化を長い時間をかけて遂げてきた。我々が人生のあらゆる場面で競い合っていることからも、それは明らかだ。勉強・仕事・人間関係・遊び、あらゆることで競い合っているのだ。そして、人類誰もが持つ「競い合うことへの欲求」を満たす最も有効な手段として、スポーツは長きに渡り重宝されてきた。なぜかというと、単純でわかりやすい仕組みだからだ。具体的には、以下のような点が挙げられる。

  1. 目的・ルール・会場が規定された「公平な場」である
  2. 参加者が競い合った結果、勝者が決まる

試合が行われること、それはつまり人間の「競争への飢え」を満たすチャンスが新たに生まれることになる。その飢えは本当に底知らずで、PwC のリサーチによれば、全世界スポーツ市場の規模は北米での収入だけでも2018年には8兆4840億円(訳注:1ドル=120円換算。以下、金額に表記がない場合もすべて同様)に達するとみられている。

よって、持って生まれた才能のある少数の人たちだけがスポーツのトップレベルでの対戦に参加できるのも、上述のような規模になってしまえば無理もない、ということなのだ。筆者自身もそうだが、その他大半の人にとっては、つつましくスポーツ観戦に興じるか、ファンタジースポーツに参加するなどして競争欲を満たさざるをえないのが実情だ。

だが、eSports によってそんな実情は変わった。

eSports であれば、パソコンさえあれば誰でもトップレベルの対戦に参加できる。さらに、約8.5兆円というスポーツ市場の規模からすれば、実業家や投資家が eSports の可能性に沸き立つのもうなずける。では、実業家や投資家はどこに注目すべきだろうか。今後5~10年の期間でみれば、競争を増幅するような分野にこそ一番のチャンスがあると考えている。具体的には以下の3点だ。

  • 作られたスターダム
  • 賭けごと
  • ネット以外で使えるご褒美

作られたスターダム

eSports の需要と供給問題

ノースカロライナ大学ターヒールズ時代のマイケル・ジョーダン

マイケル・ジョーダンはまさに「バスケットボールの神様」と呼ばれるにふさわしい実績を残している。6回の優勝・5回のリーグ MVP・14回のオールスター選出・10回の得点王。挙げればきりがないほどだ。だが、どれ1つとして一朝一夕で達成されたことではない。彼は高校時代はチームのレギュラーであったし、ノースカロライナ大学時代には NCAA All-American First Team(訳注:全米大学体育協会に所属する大学バスケットボールの男子選手のなかから投票により選出された選手による選抜チームのこと。)に2回選ばれている。何十年もの指導・多くのサポート要員・スポンサー・スポーツ環境が、彼の傑出した才能を磨き上げたのだ。そして、マイケル・ジョーダンがスポーツ選手として成功したことで、関わった人たちは恩恵を受けたし、彼自身もそういった人たちから恩恵を受けていた。このように、スポーツの世界においては、傑出した才能の供給は低く、需要はとても高い。

だが、eSports ではこれが逆転する。パソコンと十分な時間さえあれば誰でもトップレベルの対戦に参加できるからだ。よって、傑出した才能がたくさん供給されることになるが、一方の需要はというと低い。というのも、選手個人のブランド形成よりも、チームのブランド形成を eSports チームが優先してしまうからだ。eSports の選手寿命が総じて短いことと、各 eSports 種目の将来性が未知数であることが理由として挙げられる。

だが、筆者は eSports 界もスーパースターを生み出すべきだと考えている。そういった選手は、eSports 全体をきっと大きく成長させてくれるからだ。タイガー・ウッズがゴルフ界に与えた影響をみればそれは明らかだろう。では、誰がどのようにして、スーパースターを生み出せばよいのだろうか。

スター選手を生み出す

eSports のスター選手には、コンテンツクリエイター(インフルエンサー)とアスリート、両方の要素が求められる。ゲイリー・ベイナチャックによれば、インフルエンサーになるには生まれ持った才能はもちろんのこと、膨大な時間を費やす必要があるし、誰よりもはやくファンを獲得できなければならないのだそうだ。eSports のスター選手はそれらすべてをこなしたうえで、さらに試合に勝たなければならない。プロの eSports プレイヤーに求められる時間の使い方をご存知であれば、土台無理な話に思えるはずだ。チーム練習・個人練習・ソーシャルメディアでの存在感を維持するための活動……そこで、この問題を解決するためのサポートチームが不可欠となる。スター選手が限られた時間を最大限に活用しコンテンツを生み出せるよう支援し、さらにそれらを選手に代わって売り込んでくれるサポートチームが求められるのだ。

現時点で、2種類の企業がそういった役割を担えると思う。マルチチャンネルネットワーク(MCN)とタレント事務所だ。前者は配信関連の技術・事務処理支援・広告代理店機能を提供しており、後者は一般人をスター選手へと育て上げることを生業にしている。なかでも、タレント事務所クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー(CAA) は注目すべき存在だ。

求められているのは「理髪店」以上の存在

世界最大級のタレント事務所といえば、CAA とウィリアム・モリス・エンデヴァー(WME)の2社だろう。いずれも、かなりの規模のスポーツエージェントも有している(CAA は自社開発、WME は世界最大級のスポーツエージェント IMG を買収)。また、両者ともにプライベート・エクイティ・ファンドが親会社となっており、WME 株式の51%を Silver Lake が、CAA 株式の53%を TPG Capital が所有している。

なぜプライベート・エクイティ・ファンドがスポーツ代理店と関わりあいを持つのだろうか。その理由として有名なのが、プライベート・エクイティ・ファンド業界の顔役テッド・フォーツマンの、タレント事務所事業に関する次の発言だ。「理髪店経営者のつもりで考えてみてください。収入をのばすには自分以外の美容師に働いてもらうしかないのです。美容師1人が1日10人の髪を切ればうまくいきます」。確かに、これまでであればこの考え方は有効であったかもしれない。だが、スポーツとオンラインエンターテイメントが今後成長していくには、タレント事務所の存在が鍵を握ると筆者は考えている。貴重な情報・機会を仲介することがタレント事務所にはできるからだ。そこに、これまでにないほどの人材とコンテンツが揃っている業界が合わされば、機会や商談をこの仲介役に選別しまとめあげてもらうのはまさに「最適解」といえるはずだ。

具体的には、CAA eSports という新たなジョイントベンチャーが考えられる。CAA・ゲームパブリッシャー・大手ブランドからなるジョイントベンチャーを設立するのだ。これまでは、eSports の資産を有効活用した実績のある広告代理店が存在しないことが eSports スポンサー事業の妨げとなってきた。だが、CAA は「The Scarecrow」のキャンペーンでカンヌライオンズのグランプリを獲得したこともある CAA Marketing を傘下に持っており、その問題はもはや妨げにはならない。

さらに、CAA は数度の企業買収を経て、CAA Premium Experience を設立した。イベント運営とマーケティングサービスを一気通貫で提供する企業だ。なお、買収された企業には、ボクシングのパッキャオ対メイウェザー戦やサッカーワールドカップを運営した業者も含まれている。そういった企業が有する「世界最高レベルのイベントを運営したノウハウ」は、ゲームパブリッシャーにとっては渡りに船となるだろう。イベント運営に関して頼れる外注先がこれまでは存在せず、自社でイベント運営チームを立ち上げるしかなかったからだ。もちろん、そういったチームを社内に置き続けるのはコストがかかるし、そもそもゲームパブリッシャーの中核事業ですらない。参加する企業それぞれに以下のようなメリットがあり、まさに全社にとって win-win といえるだろう。

  • CAA:eSports 代理店市場に適切な方法で参入することで、シェアを伸ばせる(WME/IMG は2015年1月に eSports 代理店を買収しており、すでに eSports チーム3つと契約済みだが、いまだスポンサー契約にはいたっていない)
  • ゲームパブリッシャー:費用のかかるイベント運営チームを外注できる。そのうえ、ライブイベントの質があがることも大いに期待できる
  • ブランド:実績があり信頼できる取引先と協業して、eSports 資産を活用できる
  • eSports チーム:代理店と協業することで、権利を売ってお金を稼げるようになるし、さらにプレイヤーに該当ブランドのトライアルや購入(アクティベーション)を促すこともできる
  • スター選手:コンテンツ作成や選手個人のブランドマーケティングを世界トップクラスの専門家たちに任せることで、試合に勝つことに集中できるようになる

賭けごと

競争を自然な形で広げていく

マイケル・ジョーダンには断固たる決意があり、とても負けず嫌いでもあった。だからこそ、彼はスポーツの象徴ともいえる存在にまで登り詰められた。さらに、これが褒められたことかどうかは意見が分かれるところだが、彼はその執拗なまでの勝負事へのこだわりをあらゆるところで発揮した。具体的には他のスポーツ種目・サイドビジネス・趣味などが挙げられるが、本人にとって最も不名誉なところでは、賭けごとがそうだ。

ジョーダンのギャンブル好きはとても有名な話ではある。ゴルフの試合に負けて積み重なった借金がウン億円になったこともあるし、クラップスで一晩に6億円負けたこともあると言われている。そういったことから、彼を「向こう見ずなギャンブラー」と呼ぶ人もいるが、著者はこの意見には賛成できない。

なぜかというと、地球上で最も苛烈なアスリートの1人であるマイケル・ジョーダンからすれば、競争に対する自分の欲を満たすために賭けごとがとても魅力的だった、というだけの話だからだ。アメリカの一般市民にとっても同様で、全米ゲーム協会によれば、競争に対する自分の欲を満たすために多くのアメリカ人が賭けごとに興じているそうだ。

たとえば、2014年のスーパーボウル関連の合法賭博には約120億円が集まったそうだ。一方、同じ試合の違法賭博に集まった金額は約4,560億円。前者の額が霞んでしまうような膨大な規模だ。具体的には、アメリカ国民1人あたり1,440円ずつこの賭けに投じたくらいの規模になる。スーパーボウル1試合でだ。

ただ、スポーツ賭博が非公式の場でどの程度行なわれているか、突き止めるのは難しい。マーチ・マッドネス(訳注:毎年3月に開催される NCAA のバスケットボール・トーナメントの熱狂ぶりを表す表現)にともなって職場で行なわれる賭けごとを思い浮かべれば、実態把握がいかに困難かわかるだろう。非公式・違法な賭博は、最低でも9.6兆円、最高では48兆円の間でその規模が推定されている。とはいえ、いずれの場合であれ、賭けの対象である「アメリカ国内のスポーツ市場」そのものの規模である約8.5兆円を上回っているのだ。

一方、違法賭博に対する「合法的な代替案」として期待されているのがファンタジースポーツだ。従来のファンタジースポーツを運営する企業に対する直近の投資を見れば、この市場がいかに大きいかがよくわかる。というのも、2015年8月に、FanDuel が330億円のシリーズ E、DraftKings が 360億円のシリーズ D の資金調達を実施しているからだ。

なお、eSports の分野では、賭博関連では Unikrn が、ファンタジー eSports では VulcunAlphaDraft が有名だ。参加者への払戻総額という意味では、eSports はまだまだお話にならないレベル(eSports の払戻額は1桁億円規模、スポーツは4桁億円規模。)ではあるが、eSports がもっと人気になるにつれて、この差は縮まるものと思われる。

とにかく、結論としては「見てるだけ」では物足りない、ということにつきる。だからこそ、賭けごとやファンタジースポーツを通じて eSports の「競争欲を満たす力」を上げていくことが必要となってくるのだ。

ネット以外で使えるご褒美

承認欲求が満たされて、お金ももらえる

大半の eSports ゲームにはランキング機能があり、同レベルのプレイヤー同士が競い合いながら上位ランクを目指せるようになっている。そして最高ランクともなれば、ゲームプロへの道・プレイ動画配信で大儲けする人生へのきっかけ・「最高ランクっ!」とまわりに自慢できることなど、さまざまな特典がついてくる。特に、最後の「自慢権」については、ゲームプレイヤー・ブランド・ゲームパブリッシャーにとっての価値をそこから生み出す大きなチャンスがあると筆者は考えている。

たとえば League of Legends。このゲームでは、プレイヤー向けに7つのランク(Bronze・Silver・Gold・Platinum・Diamond・Master・Challenger)が設定されており、ランクに応じてゲーム内で使える「ご褒美」が用意されている。それに加えて、もし「ゲーム外」でも使えるご褒美があったとしたらどうだろうか。

具体的には、「Platinum ランクのプレイヤーがスターバックスカードを使ってコーヒーを買うと10%割引になる」「Gold ランクのプレイヤーが iTunes Store で音楽を買うと5%割引になる」「AMC シアターの有料会員券 AMC Stubs cards を持っている Silver ランクのプレイヤーは、映画が15%オフになる」などが考えられる。そうすれば、

  • 勝つことによって更なるご褒美がもらえるので、プレイヤーはうれしい
  • プレイヤーがゲームで遊び続けるモチベーションが増えることになるので、ゲームパブリッシャーはうれしい
  • 新規顧客の獲得につながるので、ご褒美を提供するブランドはうれしい

【スタートアップのアイディア】ゲーマー向けの Apple Wallet。それを開発するスタートアップは、もれなく18~34歳男性が多数を占めるユーザー層の購買動向データを保有することになる。それはつまり、そのアプリはGoogle・Facebook・Twitter・Yahoo といった影響力の高いアプリ群の仲間入りができるかもしれない、ということだ。また、Google などが提供するアカウント連携機能を使ってそのアプリにログインできるようにすれば、それらの企業が提供するさまざまなアプリも使われる可能性が高まる。

精神的な欲求は熱狂に勝る

肝は「競争」

eSports の未来はとても明るいように思える。明るすぎて、メディアなどはすっかり加熱状態だ。一方、3記事に渡った本連載では、eSports の可能性を1から探り、評価してきた。

eSports の肝は競争であって、それを満足させようとする個人個人の精神的な欲求にこそある。ファンの多さや賞金総額では決してないのだ。よって、具体的には以下に述べるような理由にもとづき、競争を増やすような案件へ投資することをお勧めしたい。

  • 人は競い合うことを欲している
  • eSports はその欲を満たしてくれる新しい仕組みだ
  • eSports 種目(ゲーム)は、旧来のスポーツ種目と比べて寿命が短い
  • ゆえに、投資すべきは競争を増やすこと(スター選手を生み出すこと・賭けごとやファンタジースポーツ・ネット以外で使えるご褒美)に取り組む企業であって、特定のeSports 種目ではない

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Translated from original by Haruo Nakayama.

Haruo Nakayama

Written by

ex-Medium Japan translator. Trying hard not to get “lost in translation”. 元Medium Japan翻訳担当。

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