完璧なコーヒーの発明

Aerobieの発明者はいかにして76歳でコーヒーの王者となったか

Hiroshi Takeuchi
15 min readMar 22, 2015

去年私の家の電気式コーヒーメーカーが故障した。新品の購入を考えていた矢先に、AeroPressというマシンの雑誌レビューが目に止まった — $30のシングルサービング型プラスチック製デバイス、まるでポンプ式ハンドソープのような形をしている。またコーヒー好きの玄人に言わせると、数千ドルするエスプレッソマシーンよりはるかにパフォーマンスがいいらしい。私は一台購入し、そして夢中になってしまった。コーヒーは美味しかった — なめらかでコクのある味わい — がそれにもまして素晴らしいのはセルフクリーニング機能を持っている点である。そして交換式フィルターのコストはMelittaやその他の製品と比べると数分の一である。

AeroPressの名前は姉妹製品であるAerobieから来ている — Aerobieはディナー用食器と同じサイズのリング状の、フリスビーを飛ばすデバイスで、最大で1マイル(1.6km)飛ばすことが可能だ。私もAerobieについてはよく知っている、というのも、MITのハッカーであるBill Gosperが熱心なAerobieオタクの一人として有名だからだ(ちなみにBillの車のナンバープレートは”Aerobie”だ)。彼はトランクいっぱいにAerobieを搭載した車で旅をして回った。そんなわけで、Aderobieを発明した航空力学の魔法使いがコーヒー業界に旋風を巻き起こすために発明したAeroPressに、非常に魅力を感じた。

私は最近になってパロ・アルトの101の近くにある小さな複合商用施設の後ろで、小さなソフトウェア・スイートを売るベンチャー企業を立ち上げた。そこはAerobie社とその無名の天才Alan Adlerのホームでもある。75歳であるにもかかわらず、彼は発明家としてAerobie社で今もなおせわしなく働いている。通路を挟んだ向かいの部屋には孫娘が働いていて、Alanのスケジュールを管理しているのだそうだ。今起こっているメイカームーブメントの象徴としてポストスタンプを作ることになったら、そのモデルはAlanで決まりだろう。彼はBackchannelにコーヒーやフリスビー、そして発明について語ってくれた。

どこからAeroPressのアイデアを得たのですか?

営業部のマネージャーの奥さんと話しているときに思いついたんだ。僕がドリップマシンでコーヒーをつくると水っぽかったり不味かったりするときがあって、それにもうんざりしていたんだよね。難しい挑戦になることはわかっていたけどね。まずは、シンプルな手動式のコーン(カップの上に置いてお湯を注ぐ方式のもの)を使って色々実験を始めたんだ。

それ以前にコーヒーについて知っていたことについて教えてください。

水の沸点より低い温度のお湯を注ぐとコーヒーが美味しくなる、ということかな。20年以上前に買ったChemex製コーヒーメーカーを使っている時に学んだよ。

そんなところからどのように始めたのですか?

最初はまずコーヒーのテイスティングから始めて、上から注ぐ方式であれば175°F(約80℃)のお湯で作ったコーヒーが一番美味しいってことを発見したよ。当時ドリップ式だとドリップの時間(お湯がコーヒー豆を通過してカップに到達するまでの時間)に4–5分かかるという事実に頭を痛めていたんだよね。その時こう考えたんだ — 低い温度のお湯でコーヒーが美味しくなるんだから、ドリップの時間を短くしたら同じことが起こるんじゃないかってね。それからいろんなものを使ってこのアイデアを推し進めてみたけど、全然だめだったよ。豆をプレスしてみたけどドリップの時間は全く変わらなかった。そして、どうやら密閉空間を作ればドリップの時間を短縮できる、ということに気づいたんだ。急いでスケッチして、試作品を作ってみた。そしたらすごく美味しいコーヒーができたんだ。レギュラードリップコーヒーなんかより全然苦くなかったよ。

そこにたどり着くまでにどれくらい試行錯誤を繰り返したのですか?

40回だね。最初の一回目はまさにこんな感じだったね(と言って彼は自転車の空気入れに似たプロトタイプを見せてくれた)。これが完成した直後に、まさにこれだ!って感じたんだ。でも自分で作ったくせにどう使えばよいかわからない代物だったよ。これをプッシュして数秒でコーヒーを作るというアイデアがあったんだ、独特な音が鳴ってコーヒーができる、みたいなね。でもその前に一般的なエスプレッソマシーンでさえ最初の一杯に25秒はかかっていることに気づくべきだったよ。

コーヒー豆をお湯に染み込ませなかったんですか?

いいや、ちょっとだけかき混ぜたけど。最初はカップの中で豆とお湯を混ぜて、それをAeroPressのなかに注いでいたよ。その後AeroPress内部でかき混ぜることができるってわかったんだ。

それはいつ頃の話でしょうか?

1994年 前半だったと思う。一度最終決定されたデザインができたので、その鋳型を注文したんだ。でもそこにたどり着く前に4つか5つくらいのプロトタイプを自分の手で作っていたと思う。僕はその製品を、僕のことを知らない誰かの手に委ねて、どうなるか見てみたかった。営業部長の奥さんが高校の校長先生をやっていたので、その学校の4人の先生に製品を渡して、これを自宅で一週間試してくれないかと頼んだんだ。そうしたら全員がその製品を最高だって言ってくれてさ。でも先生の一人が、使っているとよくテーブルの上でくるくる回るって言ったんだ。だから製品の底を八角形に改良して、それでできたのがその鋳型のデザインなんだ。

会社にとっては大きな投資だったのではないでしょうか?

まあ、$100,000は超えていただろうね。それにこのマーケットの営業部隊なんて当時は存在しなかった。僕らはスポーツ用品/おもちゃを売る会社から脱却しなければならなかった。

コーヒーの話に戻る前に、あなたが発明家となるまでの経緯を教えてください。子供の頃から機械の修理などをしていたのですか?

僕は1938年5月にデトロイトで生まれたんだけど、6歳の誕生日にLAに引っ越したんだ。子供の頃は目に付いた素朴なものを使って何かを作っていたね。釘を家の近くの線路の上に置いて、テープで止めるんだ。それで電車が線路を通った後にそのぺったんこになった釘を取りに行ってミニチュア用の剣を作っていた。それを友達と交換して別のおもちゃを手に入れていた。

ご両親から影響は受けていましたか?

父はそういう人間じゃなかったな、家の何かを修理しているところなんて見たこともない。僕が8歳くらいのとき、母が主婦向けの修繕教室に通うことにしたんだ。母はそこで電線のプラグとかワッシャーとか蛇口の交換方法を教わって、それを僕にも教えてくれたんだ。僕はその方法をまず近所の家で使って、その後には最低15セントでいろんなところの仕事を引き受けていた。

科学とエンジニアリングは学校で学んだのでしょうか?

10代後半に電気技師の仕事をもらって、そのあとすぐにエンジニアリングの仕事も引き受けるようになった。知識は仕事の中で身につけてきたんだ。

大学には行っていないのですか?

行っていないね、けど大学で教えていたことはあるよ、スタンフォードで数年間。そこでシニア向けのコースを教えていたり、機械工学科の生徒への指導もしていた。指導は今も続けている。

僕は自分に(生徒として)才能があると自分で思っていた、けどいつも教えてもらう機会には恵まれていなかった。こんなことがあった — ある平面幾何学の授業で僕がすごく突飛な証明を提言したことがあって、先生が、それを黒板で証明しろ、って言ってきたんだよね。で、証明したわけ。そしたら先生が唖然としてしまった。あとでわかったんだけど、先生はその証明は僕の父がやったと思ったらしい、もちろん僕の父はそんなことできる人じゃなかった。そういうこともあってか僕の学校の成績は大体平均だった。早くここから抜け出して自分でお金を稼ぎたいってずっと思っていたよ。

あなたの発明に使われているその洗練された原理/原則はどのように学んだのですか?

本を読み漁ったね。僕が初めてエンジニアとしての責任と、回路のデザインについて学んだ時、何週間も毎晩1時まで本を読んだいたよ。

自分自身のプロジェクトを立ち上げるようになったのはいつ頃からですか?

すごく早かったよ。初めて特許を取得したのは1960年代の初めだった。蛍光灯のバルブに電気を供給するために、3ボルトのバッテリーパワーを高電圧に変換する回路が付いたポータブルランプの特許だ。でも製品化されることはなかった。たくさんの懐中電灯製造業者に話して回ったんだけど、相手にされなかったよ。結局Rayovacが僕の特許とほとんど同じ技術を使った製品を販売しだしたんだけど、彼らは僕からライセンスを買おうとはしなかった。

どのようにおもちゃ業界に入ったのですか?

Slapsieっていうおもちゃをデザインしたのがきっかけだった。たくさんのプレートが連結していて、おもちゃのSlinkyみたいな動きのするやつだった。Wham-Oにも同じライセンスを付与していた。

そのおもちゃの製品化までの経緯を教えてください。

プロトタイプを木で作って、一年くらいかけていろんな会社に売り込んだんだ、Wham-Oもその中の一つさ。ある年末に、すべての会社から拒否をくらった。なので、僕のデザインの鋳型を製造する鋳型製造会社へアプローチしてみたんだ。そこでWham-Oに電話して、鋳型で作ったプロトタイプを持っていると説明したんだ。そうしたら彼らは会ってくれることを了承したんだ。その前までは彼らはメールでの打診しか受け付けてくれなかったのにね。僕はスーツケースいっぱいに製品を詰め込んでサンフランシスコ、サンガブリエルのWham-O社に赴いた。彼らは僕の製品をすごく気に入ってくれたよ。彼らのもとにはその年10,000件もの売り込みがあったが、購入したのは僕の製品だけだと教えてくれたんだ。Wham-Oはそれを製品ラインの一つとして加えてくれたんだけど、実際に売られることはなかった。特許の権利は今は僕が持っているよ。

フリスビー関連の製品を作ることになった経緯を教えてください。

フリスビーがもっと分厚いころから僕はフリスビーで遊んでいたよ。1インチ(2.5cm)以上もあって、飛ばすためには力一杯に投げないとだめだった。だから僕はもっと薄いフリスビーを作ってみようと思ったんだ。何枚も何枚も薄いディスクを作ったけど、ちゃんとまっすぐ飛ぶ満足のいくものはできなかった。だからリングを使った実験を始めたんだ — そこで思いついたのがSkyroっていう、従来の2倍以上も遠くへ飛ぶリングだ。Skyroは会社のミリオンセラーとなって、世界記録も打ち立てた。でも理論上Skyroはスピードが決まっていて、そのスピードでしか飛べないんだ。そのスピードなら滞空時間は長いんだけど、まっすぐは飛ばない。だから僕はディスクをどんなスピードでも安定して飛ばせる製品を作ることにしたんだ。その頃までにSkyroはParket Borthers社のミリオンセラー商品となっていたので、会社は僕に権利を返してくれたんだ。最終的にできたディスクは(飛行機の翼のように)外側が少し隆起したものになった。この隆起の効果はまさに魔法のようだった。

Aerobiesは今やフリスビーより売れているのではないでしょうか?

そうでもないと思う。でも1,000万個以上は売れているね。

ではAeroPressの話に戻りましょう。あるコーヒーの専門家がAeroPressのことを「20倍、30倍高価な家庭用マシンよりも美味しいエスプレッソスタイルのコーヒーを作り出す」と評していました。この価格はどのようにして決めたのですか?

何か製品を作って、販売手数料やオーバーヘッドその他すべてのことをカバーすることを考えた場合、こういう小さい製品の価格は製造原価の約2倍くらいに設定する、それが多くの会社のやり方だ。そして小売業者が値段をさらに2倍にするわけだ。

フィルターなんてさらに安いですね。

一般的に、フィルター350個を製造した場合のコストは約$3.5だ。しかも再利用できる。

フィルターを再利用するのですか?

何年かはそうやって使っていたけどね、妻に「フィルターの再利用なんてしなくていいのよ。いくらでもあるんだから」と言われたんだ。それからはもう再利用はしてないな。

再利用していた時は何回くらい使っていたのですか?

同じフィルターを大体一週間くらい使っていたから、15回くらいだと思うよ。航空機の輸送の仕事をしている海軍の男性からメールをもらったことがあるんだけど、その人は一ヶ月は同じフィルターを使うって書いていたよ。でも大体13回くらい使ったあたりでフィルターが破けるんだよね。

私はAeroPressがセルフクリーニング式という点がすごく気に入っているのですが、当初からのデザインゴールだったのでしょうか?

本当にラッキーだったよ。「偶然の大発見」というやつだね。

どのようにマーケティングしているのですか?

広告はほとんど打たない。コーヒーの記事を書く人を探し出して、とにかくその人たちに働きかけるようにしているよ。

今までにどれくらい売れているのですか?

数百万には達しているよ、正確な数字はわからないけど。調べればわかると思うけど、でも多分外部には秘密だと思うよ。

私が聞いたところによると、一部のユーザーが「inverted brewing」というのを実践しているらしいのですが — AeroPressを逆さにしてドリップの時間を長くするという — あなたはこのやり方を支持しますか?

AeroPressのコーヒーが美味しい理由はドリップの時間が短いところにある。だからその逆さにして使うっていう方法は、ドリップの時間が短くなるわけだから、苦くなっちゃうと思うな。

AeroPressはhack-ableな製品ですよね。

そうだね、そしてそれがAeroPress Championshipsっていう、僕でも絶対に思いつかないようなもう一つの「偶然の大発見」に繋がっているんだよね。

AeroPressのハッキングという点で、あなたが見つけた中でこれはクレイジーだ、というものを教えてください。

ある男性はドリップコーヒーを作って、それをAeroPressに入れていたよ — 水の代わりにドリップコーヒーをAeroPressに注ぐ — 凄く斬新だよね。AeroPressを逆さにして使う方法がWorld Championshipで優勝していた時期が一年か二年くらいあったな。最近はアメリカのChampionshipも含むすべての国の優勝者が通常の使い方で勝利しているね。実際に去年アメリカで優勝した男性は — 他のどの参加者よりも — 僕らの説明書に近い形でコーヒーを作っていた。

最近ブルーボトルコーヒーがブームですね — お湯の注ぎ方が凝っていて話題性があります。ブルーボトルを買うのを止めてAeroPressを買ったほうが良いと思いますか?

うん。AeroPressのほうが豆がお湯に浸かっている時間が短い分、苦くないからね。

ではなぜブルーボトルは人気なのでしょう?

多分豆にあると思う。彼らは良い豆を作っているよ。

AeroPressのユーザーがよく犯してしまうミスはなんでしょうか?

豆に圧力をかけすぎていることが多いね。僕は会う人みんなに優しく圧力をかけるように教えているんだ。そうすれば豆を圧縮していないのでお湯に浸かっている時間が短くなるんだ。

コーヒーはどれくらい飲みますか?

毎朝エスプレッソのダブルを一杯飲んで、週に一回くらいは二杯目を飲む日もある。でもほとんど毎朝ダブルを一杯だね。

次はどんなプロジェクトに取り組むの予定ですか?

最近考えているのはエクササイズマシンだね。使っている人が凄く楽しみながら運動できるようなデバイスだ。

何のエクササイズですか?

今作っているのははボートを漕ぐようなやつなんだ。今の製品は使っていて楽しくはないんだけど、今の段階では気にすることはない。僕が今考えているのは家具みたいな従来のものとは対照的な、持ち運びができるデバイスだ。ここ何年間かはこのプロジェクトについてオンの時もオフの時もずっと考えているし、たくさんの計算や実験を行ってきた。でもまだデザインの中間地点にも差し掛かっていないよ。

Photos by Jason Henry
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Hiroshi Takeuchi

Medium Japanでボランティア翻訳をしていました (現在は違います) 。ここに書いてある記事はすべて当時に翻訳された記事です。私個人の見解または創作物ではありません。引き続き公開はしますが、質問または訂正リクエスト等は受け付けません。ご了承ください。