IDEOの「センス・メイキング」に役立つノート作り

ノートを走り書き、アステリスク、線で飾ると「センスメイキング」のプロセスも輝きます。

Ray Yamazaki
10 min readJul 13, 2016

By Kate Burn

「ちょっとコレを見てよ。」と言ってケリーは私にiPhoneの写真を見せてくれました。「このレギンス、絵文字の柄が入ってるのよ。これで彼は私のお尻を眺めながら言葉を学べるわ。」

彼女のパートナーは読み書きをまともに習ったことがなかったのですが、この突拍子もない話は彼女の一家が意思疎通において如何に絵文字を上手く取り入れたかを伝えてくれています。レギンスが言葉を学ぶツールへと変貌したのです。

私は彼女のストーリーをノートに走り書きして、大きな太字のアステリスクを付けておきました。彼女の話は深い洞察へのきっかけになりそうです。読み書きが出来ない人とその家族が問題解決に敢えて正面から取り組まず、イノベーティブなやり方で上手くそれを乗り越えようとしたのです。

読み書きが出来ない人たちを如何に手助けするか

上に紹介したケリーとの会話は、私が現在取り組んでいる最もインスピレーションに富んだプロジェクトの一部です。私たちのクライアントのPearson社は、Project Literacyと呼ばれるキャンペーンの一環として、「共感体験」を通じてダボスの世界経済フォーラムに出席するグローバル・ポリシーのインフルエンサーに読み書きが出来ない人たちへの関心を持ってもらうにはどうすれば良いか相談を受け持ちかけて来たのです。

すなわち、政治家たちに読み書きが出来ない人の立場になってもらうことで共感を呼び起こし、彼らの状況を改善するのに役立つ行動を取ってもらおうとしたのです。

それはいつもと違って、私たちの誰も直接体験したことがない、特別なリサーチが求められるものでした。

本物の体験と呼べるようなものを見つけたかったので、私たちは読み書きの出来ない成人向けクラスで教える先生やオーストラリアの難民施設のソーシャルワーカー、読み書きに不自由する5人のイギリス人から話を聞きました。ケリーのパートナーもその中の1人であるため、私は絵文字のレギンスを見せてもらうことになったのです。

フィールドでのノート作り

太字で大きめのアステリスクは、私のノートに不可欠なシンボルの1つです。フィールドに出てリサーチした相手との対話をまとめる時、言葉の上にカラフルな線や図形、走り書きを記します。少し変に思うかも知れませんが、自分の頭に浮かんだことをイラスト化すると上手くまとまります。

デザイン・リサーチャーとして、私は常々、繋がりや流れを意識してきました。そのため、観察や洞察、主題が面白いと直感したなら、その横に図形やアノテーションで印をつけるようにしています。

IDEOでのデザイン・プロセスは際立っています。まず、リサーチが最初、それから私たちが「synthesis(総合)」と呼ぶセンス・メイキングの期間が続きます。

これはリサーチをまとめる時に首尾一貫したものにするのが目的です。私はチームをまとめ、ストーリーをシェアしますが、その時に学びによって得たキーポイントをイラスト化し、観察から深い理解を導き、デザインのきっかけになるようなパターンに注目するようにしています。

私たちは多くの事実から要旨を見出そうとするので、プロセスは基本的に混沌として多義的なものになります。そのためリサーチの最中、主題や機会に刮目して集中することによって、後に呆然と困り果てることもなくなるわけです。

それはちょうど霧に差し掛かる前に小さなランタンの明かりを灯すのに似ています。

「センス」の源泉

デザイン・リサーチのノート作りに「正しい」やり方なんてありません。ですが私は自分なりに情報を役立つかたちでまとめる方法を見つけました。その方法だと「synthesis(総合)」に至る源泉を見つけることや直感を得ること、「点と点を結ぶ」きっかけを手に入れること等がたやすくなります。ちょうどこんな感じです。

パッと見ただけでは分かりづらいかもしれませんがシンプルです。

  • 左の列には、会話の内容を記します。 — 「絵文字レギンスを買ったの!家族の秘密の暗号みたいでしょ?」のように。
  • そのすぐ右の列には、その会話から思い浮かんだ内容を書きます。例えば「このような新しい学び方をすれば、読み書きもずっと取り組みやすくなる。」といった感じです。
  • 丸や三角、四角といった様々な図形は会話で繰り返されるテーマを示しています。縦の線は力強く含蓄のある言葉に、ハイライトされて塗り潰されたところは絶対見逃せない内容に。会話の途中にチェックするものもありますが、残りは後で仲間とセッションをする時に仕上げます。

これらのアノテーションは、深い学びに至るための手がかり同士を結びつけてくれるので、最終的には「synthesis(総合)」の時間に、走り書きをしたポストイットを繋げてアイデアのきっかけを生み出すのに役立つことになります。

わかりました。では実際はどんな風に見えるのでしょう?

私たちは読み書きについて幅広く本物の理解を得ることを目標としており、様々な人々の意見や観点に共感を抱きつつも関わりを持っています。例えばサリマ*やアルフィー*との会話から、私たちがチームとして尋ねたこと、学んだこと、理解してきたこと等の仮説を説明できるでしょう。

サリマとのディスカッションのノート。彼女は生徒が難問に取り組んだり、哲学概念を理解するのを手助けしています。

直感、ハイライト、インサイト

はじめの頃、私たちはどれだけ読み書きできるかが、周りの世界をどれだけ理解できるかを左右すると考えていました。それで、読み書きが苦手な人を相手にする専門家を探していたのです。

サリマ*は特別学級のティーンエイジャーに哲学を教えていました。彼女は私たちに何故読み書きが苦手な子は複雑な概念を初めは理解しづらいのかを教えてくれました。読み書きの能力は知識と知識を比較する構造を与えてくれるのです。それに読むスピードが遅ければ理解は捗りません。ものを読み、それを言葉で記すことで私たちは内なる声を育むことができるのです。この点、読み書きの出来ない人はその瞬間その瞬間を生きている傾向にあります。そのためこの特別学級ではマンツーマン指導の必要が増えています。

この話を元にした私のノートでは、◯はサリマが自分の教育理論を元に試行錯誤した結果についての説明、□は生徒の感情、△は学びの助けとなるツールやデバイス、線は特に関心を引いたり含蓄のある引用や抜粋を示しています。

これらの観察は理論的・感情的な観点から、読み書きのできない人々がどんな経験をするか理解するのを手助けし、話のシナリオを組み立て直すインスピレーションをすぐさま与えてくれるのです。例えば、読むのが遅すぎて何が書かれているか理解できない時にフラストレーションをどう感じるかのように。

アルフィーとの会話の広がり。人間の基本的欲求であるコミュニケーションと自己表現の探究過程。

私たちは読み書きのできない人たちが、他のコミュニケーションに障害を抱えている人たち(例えば耳が不自由な人たち)と比べて日々どのように困難を抱えつつ暮らしていて、自己表現をしているのかを興味を持ち、それを理解しようと努めています。

アルフィー*はパフォーマンス/ドラァグ アーティスト兼ミュージシャンの仕事をしており、耳が聞こえない両親の元に生まれたのですが、彼自身は手話が出来ません。彼は、両親とコミュニケーションを取ることが如何に難しくフラストレーションが溜まるか、そして大人になってからどのように表現に工夫しているかについて語ってくれました。

例えば、均質的・同質的な関係の中にいると自分の物の見方や思考法がより強固でブレなくなること。母語を流暢に話せるか否かで必然的に人の集団の結束力に変化が生じること。そうして分断されてしまえば、グループがお互いの「世界」を理解するために翻訳や仲介をする人が必要となること。耳が聞こえないからと言って、感情のはけ口や刺激を求めていないわけではないこと。語彙が限定されることでかえって世界を「白か黒か」で見る傾向が強くなることなどです。

このケースの私のノートでは、アステリスクが会話で繰り返されるテーマを、線は関心を引く観察や注目すべき引用を、クレヨンで書かれた強調部分は鍵となる要点となりつつある部分をそれぞれ示しています。こういった記号等が社会的・感情的ダイナミクスを追求する手がかりになるのです。それらはコミュニケーションや表現、経験の共有といった事象への欲求が共通言語の欠落によって阻害された場合に人はどう感じるのかといったものです。

インタビューが全て終わった後、私たちは要点を抽出してポストイットにまとめたり、彼らの話を生き生きとしたものにする共通の経験やニュアンスに焦点を合わせた年代記風の「ライフライン」に沿って逸話をまとめたりします。

これらから私たちは洞察に富んだデザインやもの語りの原則を生み出し、実際にデザインを始める基盤を作るのです。例えばthe Project Literacyの展示のプロトタイプや、最後の作品を撮ったデジタル・ストーリーテリング・スタジオSecret Locationの説明資料等です。

エスノグラフィーは何より胸躍るストーリーを見せてくれます。小さなディテールが本当に味わい深いのですが、実はそういったものはフィールドノートからデザイン段階に至る過程で簡単に失われてしまいます。

ちょうどケリーが絵文字レギンスを家族の「秘密の暗号」と称したように、ここで説明した私のアノテーション言語は私自身の秘密の暗号です。それは単なる「興味深いもの」から「重要なもの」を見つけ出したり、人から見聞きした内容に忠実であり続ける手助けとなるのです。

ダボスでのthe Project Literacy展示に向けてVRデバイスのプロトタイプで撮ったスクリーンショット
  • * このストーリーに登場する人物の名前は本名ではありません。それぞれの話をここに載せることを許してくれた「ケリー」「アルフィー」、そして「サリマ」に感謝します。

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