MITメディアラボの2015年

by Joi Ito

明けましておめでとうございます!2016年を迎えるにあたってメディアラボの2015年がどのようなものだったか、皆さんにほんの少しだけハイライトをお届けします。

まずラボの歴史で最も多様性に富んだ修士1年の新入生たちを迎えることができました。メディアラボに入学した女性の数が男性を上回ったのです。少数派(URMs)の入学率はいつも他のグループ(女性、男性、アメリカ国外からの志願者)よりも低く7%以下でしたが、今年は13%に増えました。

もちろんまだやるべきことは多くありますし、メディアラボが誰にとっても学びの多い場所であるため励み続けるつもりですが、ダイヴァーシティが広がりを見せることを心から喜んでいますし、今年の新学年では一層の進歩があるのではと楽しみにしています。

Left: LEGO model of the Media Lab. Right: “What a beautiful thing. What does it do?” Marvin Minksy was presented with an award for his long career of pioneering work in AI at Mind, Magic & Mischief. Photo credits: John Werner.

10/30には、メディアラボの30周年を終日”Mind,Magic & Mischief”というシンポジウムでお祝いし、その後パーティーと卒業生の懇親会が行われました。ハイライトはマーヴィン・ミンスキーとラボの共同設立者ジェローム・ウィーズナー両氏への賛辞の言葉とコフィー・アナン、スティーヴ・ピンカー、ジョージ・チャーチ、ノーラン・ブッシュネル、メアリー・ロウ・ジェプセン、それにアメリカ合衆国最高技術責任者ミーガン・スミスによるトークでした。また、今回のイヴェントはラボとLEGO社との30年にわたる協力関係を祝うものでもありました。感謝の意を込めてLEGO社は信じがたいほど素晴らしい30周年のバースデープレゼントを用意してくれました。それはメディアラボの模型です – もちろんLEGOでできています。もしケンブリッジにいらしたら、E14ロビーでご覧になることができます。

7月に開催したノッティ・オブジェクツ・サマーシンポジウムではデザイナーや投資家、学者が1つのグループとなってデザインやテクノロジーを新しく思ってもいなかったやり方で組み合わせました。特に制約や規制のない研究の取り組み方のお陰で、メディアラボはデザインとテクノロジーの交差する地点を探検するのに最適な場所となりました。

エド・ボイデンは、光遺伝学というニューロンに光を当てて科学者がコントロールできるようにする技術研究でブレイクスルー賞を受賞しました。去年、統合神経生物学研究グループとMIT マクガバーン脳研究所のエドと教え子、そして同僚たちは「膨張顕微鏡法」(物理的に組織を膨張させることによって大きな3Dオブジェクトをナノスケールの正確さでイメージ化できる新しい技術)を使って研究を進めていました。この方法は脳の特定のエリアで正確に何が起きているかを明らかにするバーコードやその他のタグを挿入するという新しい可能性を開きます。

ジョー・ジェイコブソンは、電子インクの研究でNational Investors Hall of Fame(全米発明家殿堂)に2016年新たに入会が許可されました。

Neri Oxman presents Mushtari at TED 2015.

ネリ・オクスマン率いるMITメディアラボの研究グループ「Mediated Matter」は合成生物学とデザインを組み合わせた新天地を開拓しました。「スケールに縛られないデザイン(ミージン・ユーンとラボの卒業生デイヴィッド・サン・コンも教鞭を執りました)」というコースの一部として、100名を超えるMITの学生たちがDNA分子をデザインして特定の色の組み合わせで光るバクテリアを再構成する機会を得ました。また、ネリの「ムシュタリ・プロジェクト」はシンバイオティクスとデザインが美しくデザインされた外部消化器系のプロトタイプを生み出すにあたってどれほど相性がいいかを示して私たちの想像力の限界に挑戦しました。


これらのエキサイティングな新しい分野に加えて、長期視点の研究分野でのリサーチも引き続き驚きと感嘆を与えてくれました。メディアラボはアドバンスト・ユーザー・インターフェースや新しいクリエイティヴな表現方法、子供たちの学びをサポートする新しい取り組み等をはじめとする分野で今まで多くを成し遂げてきました。2015年にラボで発表された成果のほんの一部は以下の通りです。

パティ・マースが率いる流動インターフェースの研究グループに所属する博士過程の学生ヴァレンティン・ヒューンは「リアリティー・エディター」を開発しました。これは目に見える実体の機能を操作したり繋がったりできる新しいツールです。

Tod Machover talks to Detroit Achievement Academy third-graders after a rehearsal at the Detroit Symphony Orchestra. Photo credit: AP Photo/Carlos Osorio.

トッド・マックオーバー教授はキャリアの全てを音楽の演奏の限界を追求することに捧げてきましたが、その功績を認められてミュージカル・アメリカの「今年の作曲家」に選ばれました。幸運なことに私は11月にトッドの「シンフォニー・イン・D」のプレミアに出席することができました。それはデトロイトの市民と共に作り上げ、デトロイト・シンフォニー・オーケストラと演奏した「コラボラティヴ・シティ・シンフォニー」の最新のものです。壮観なショーであることに加え、そのプロセスやイヴェントそのものがこれからも長く続く良いインパクトをデトロイトに与えるでしょう。

「カメラ・カルチャー」研究グループの大学院生で、ラメシュ・ラスカー教授や元リサーチ・サイエンティストのクリストファー・バルシと仕事をしているアユシュ・バーンダリは、10万ドルのラボの備品をたった数百ドルの部品で完全に置き換えることができる生物医学のイメージング・システムを開発しました。蛍光生の永続するイメージングを用いたこのシステムは、DNAシークエンシングやがん診断を含む生物学的なリサーチや臨床診療に影響をもたらすことでしょう。

スクラッチはミッチ・レズニックの「ライフロング・キンダーガーデン」研究グループによって開発された子供たちのためのプログラミング言語です。以前から引き続き成長を続けてきましたが、現在ではより多くの子供たちの間に広まっています。12月には「ライフロング・キンダーガーデン」と共同開発したPBS Kids ScratchJrというスペシャル・アプリがリリースされました。スクラッチは今では150カ国以上、40以上の言語で利用されています。900万を超えるユーザーによる1,200万以上のプロジェクトがスクラッチのウェブサイトでシェアされています。

メディアラボはCHI 2015およそ20の提案をして受け入れられました。その中には「アフェクティヴ・コンピューティング」、「カメラ・カルチャー」、「シビック・メディア」「流動インターフェース」「リビング・モバイル」「オブジェクト・ベース・メディア」「レスポンシブ・エンバイロメンツ」「タンジブル・メディア」「バイラル・コミュニケーション」の研究メンバーからのものも含まれます。また、SIGGRAPH 2015では同じように作品を強くアピールする展示が行われていました。メディアラボからは学生や研究者の垣根を越えて15の様々なトーク、ポスター、展示が見受けられました。私もキーノートのスピーカーとして登壇しました。

A Personal Food Computer from OpenAg.

2015年には「ディジタル通貨イニシアティヴ」をローンチしました。暗号法や経済学、プライバシー、分散システムを含む分野の世界的なエキスパートが協力し、この新しく複雑な分野を探索します。私たちはまた2番目のイニシアティヴとして「オープン・アグリカルチャー(OpenAG)」もローンチしました。こちらはフード・テクノロジーのオープンソース・エコシステムの創出に焦点を合わせたものです。これにより透明性、ネットワーク化された実験、教育、ハイパー・ローカルな食料生産が可能になります。

7月に公式スタートについて言及しましたが、2015年は驚くほど素晴らしい人々がディレクターズ・フェロー・プログラムに参加してくれました。この中には聴覚に障害のあるサウンド・アーティストのクリスティン・サン・キムやクリエイティヴなメキシコの官僚のガブリエラ・ゴメス-モン、ゲーム・デザイナーのロブ・パルド、バイオニック・マルチメディア・パフォーマンス・アーティストのヴィクトリア・モデスタ、その他の並外れて多様性に満ちた世界からの強い信念や好奇心と行動力に満ちた人々が含まれます。

3D printed glass exhibit in the E14 lobby. Photo credit: Andy Ryan.

また、ラボはロビーで3つの展示も行いました。ジェローム・B・ウィーズナーの「ビジョナリー、政治家、ヒューマニスト」は元MIT学長、メディアラボの共同設立者、ジョン・F・ケネディーの科学顧問としての人生と仕事を称えた作品です。そして、その他の2つの展示は最近のラボのリサーチにハイライトを当てたものです。まず「Mediated Matter」グループがMITの機械工学チームやthe Wyss Institute、MITガラス・ラボと協力したのがガラスの3Dプリンター「G3DP」です。また、タンジブル・メディアからはライニング・ヤオという学生が生み出した湿度に高感度な生きたバクテリアからなる「バイオ・スキン」というファブリックを用いた「bioLogic」というプロジェクトも展示されました。そのファブリックは汗や湿度に反応して一部が動きます – 反応が良くどんな形にもなる未来のインターフェースのプレビューみたいなものです。


そして待ち遠しいことに、2016年はラボにとって2015年同様に多くを勝ち得る1年になりそうな兆候があらゆるところで見受けられます。イヤッド・ラーワンが今学年度から准教授として加わっ て「Scalable Cooperation」研究グループがスタートしました。これはテクノロジーがどのように人間の協力の本質を再構築するかを研究するグループです。トゥールーズ経済学研究科のジャン・フランソワ・ボネフォンとアジム・シャリーフと共に自動運転車の倫理的問題に取り組んだ彼の研究成果はMITテクノロジー・レビューの「2015年のベスト」に名を連ねています。

そして1月には、ハーバード出身のケヴィン・エスベルトが進化形成研究グループの舵取りをしてくれることになりました。この研究グループは分子生物学の最先端の技術の幾つかと環境生態工学を組み合わせ、エコシステムの進化に影響を与える研究の新手法を生み出そうとしています。ケヴィンがメディアラボに加わってくれたのは大成功です。−彼はCRISPRジーンドライブ研究の鍵となる研究者であり、種全体を永久に変えうるテクノロジーの利用という非常に難しい議論において重要な声であるからです。

もちろん他にも皆さんにお伝えしたいことは沢山あります。しかし、すべてに言及するのは困難です。私は毎日、メディアラボの研究者が生み出し、想像し、作り上げたものに感銘を受けています。2016年がどんな年になるか今から楽しみです!


伊藤穰一(@Joi)は、MITメディアラボの所長です。