Y Combinator Startup School前半の学び15

Daisuke Ishii
Kiara Inc. Blog
Published in
17 min readSep 30, 2018

シリコンバレーの起業ノウハウナレッジベースより

“two person holding mug and pen beside turned-on MacBook” by rawpixel on Unsplash

はじめに

8月末から始まった、

Y Combinator Startup Schoolも中盤に差し掛かりました。

世界中、15000人の同期起業家と切磋琢磨して日々事業を進めています。

予想以上に学びが多かったので、

公開されているノウハウを再編集する形で、

ダイジェストをアウトプットしたいと思います。

(一般公開されてない部分は、当然ですがブログにできない事になっています)

過去2000社のスタートアップに投資している世界最大のインキュベーターだけあって、

成功例・失敗例が膨大に貯まっており

統計データから汎用的なアドバイスがフレームワークとして出来上がっています

YCの代表的な投資先

今回のStartup Schoolはその総決算をナレッジベース化しているので、

関係者ではない方も是非自社のビジネスに活かされると良いと思います

下記は弊社のステージに照らし合わせてあるので、

ベータ版ができる前後のスタートアップを想定ください。

ローンチして暫く経ったスタートアップは違う重点項目になると思います。

下記、特にビデオとライブラリが充実しています。

最も大事な5つのポイント

1 line pitch

テック業界の外の素人に、15秒で内容が伝わる様に説明せよ、というフレームワークを使います。難解だったり中身の無い専門用語は一切排除します。

弊社は;

前) Kiara — AI-powered video call with auto-transcription

後) Kiara - Video conferencing tool with translated subtitles for 120 languages

の様に変化しましたが、

実際に見知らぬ人に説明した所、

Video call? Transcription? 良くわからないね。

というリアクションを受けたからです。

カフェで知らない人を捕まえてピッチしたり、

テック業界と全然関係ない自分の母親に説明すると練習になります。

悪い例) Kiara — Totally new video call experience with AI

これは作り手側からすると正しいかもしれないですが、

例え様々なAI機能がついていたとしても、

こんな曖昧な説明では結局どんなツールなのか全く伝わりません。

AIの機能の中でも最も重要な1つに絞り込んで説明する必要があります。

これに関しては、大事なので、弊社も今後も磨き続けます。

多くのWebサービスが平易な言葉で自身を説明できておらず、

結局ユーザーがわからず成長できないケースが起きているためです。

Co-Founder

単独創業者(Solo founder)では大きな事業を成し遂げる事ができないと言われています。これは一般常識と同じですが、特に経営レイヤー(創業者の取締役チーム)の共同創業者がいるか、そのうち開発者が何人いるか、創業者同士の結束は固いか、など厳しく見られていると思います

弊社も経営レイヤー(CXO)はビジネス開発・開発・財務の3人でフォーメーションを組もうとしていますが、この様に得意領域が裏表となり、それぞれが強いリーダーシップを取って自分の一番得意なテーマだけに取り組むと良い環境を作ると、本当の意味でのチームの強さが発揮できると思います。

私の知人、Kさんは連続起業家で、共同創業者が何人か集まってからでないとビジネスをスタートさせないと断言しています。これも一つの考え方だと思います。

Word-of-mouth

ユーザーが200%満足して、

そのサービスを友人や家族に自発的に勧める状況をローンチ後早急に作る様に教えられます。

ローンチ自体は不細工なUIで大丈夫なので、

その後ユーザーインタビューを繰り返して(=Iteration)サービスを磨き、

ユーザーにとってより大事な問題解決ツールとなる事で、

ユーザーはそれに価値を感じ、

同様の問題を抱えている知人に勧める様になります。

YC PresidentのSam Altmanは、

“口コミで広がる評判の良いサービスを作れた時点で起業家の仕事は80%終わっている”と断言しています。

逆に言えば、このProduct/Market Fitを終えないまま、

口コミで広がらないサービスを営業や広告の力で成長させるのは、

当然かなりの追加経費がかかりますし、

最終的にAirbnbの様な2次曲線的な決算にならないと思います。

Focus

合理的・客観的に考え、

成長に関係ないタスクは徹底的に排除する事を教えられます。

顧客と話す、製品を作る、適度に運動するの三つだけに絞れ、

とも良く言われます。

特に前の二つは数多くの戦術を毎日大量に考え、

朝から晩まで忙しく動き回って実行します。

見方を変えれば、

これら三つにタスクを絞る事で、

その超忙しい中にも心と時間の余裕を生み出し、

燃え尽き症候群になるのを防ぎ、

創業者を長丁場の勝負で健康に戦わせるフレームワークと言えると思います。

2015年にYCではないOneTractionという米国アクセレレーターで指導を受けた際も、

Don’t work hard. Work smart.

とメンターから繰り返し言われました。

米国ではアスリートも体に無理な負担をかけて壊さぬ様、

練習も選択と集中で行い、

効率的に世界一を目指すと聞いたことがあります。

起業家のブートキャンプでも体を壊さぬためのFocusの手法が使われていると思います。

Cockroach

特に初期はゴキブリの様な会社を目指せと言われます。

すばしこく動き回り、

逆境に強くたくましく生き抜く例えとして、

ゴキブリほど適した生物はありません。

具体的には、

出費を極限まで下げ、

体裁を整えるのが目的の業務は一切やめ、

必要なタスクだけを最速のスピードでこなす小さな組織です。

とにかくしぶとく生き残る組織体制を繰り返し求められます。

この対極が、

美しいアゲハチョウと言いますか、

優雅に飛んでおり見た目もカッコイイが、

環境の変化にすぐ適応できず直ぐ死んでしまう生物になります。

具体的には、

業績が安定していないのに、

社員を多く雇ったり、

ブランドイメージの維持に多くの経費をかける様なスタートアップです。

次に大事な15個

Avoid ego boosting events

プロダクトができる前後の段階では、取材対応や登壇依頼は断る様に教えられています。理由は売上に関係ないからです。

Ego boostingとは、自己承認欲求が満たされ気持ちいい事を指しますが、明確なビジネスリターンがない場合、そこにエネルギーや時間を取られる場合ではない、と言われています。

製品ローンチ後のPRはもちろん必要なのですが、その場合も戦略的に実行する様、別途フレームワークがあります。

Talk to users

創業者自身が、1週間で話したユーザーの数をKPIとして持つ様に教えられています。デザイン思考的にかなり深い質問をする事が求められ、ターゲットユーザーの毎日の生活に関して熟知する事、その中で彼らがどんな問題を抱えているのか、そしてその優先順位はどうなっているのかをたっぷり時間を取って対面インタビュー(最低でもビデオ会議)で調査した方が良いです。

弊社も小さな方針転換を毎日繰り返していますが、ユーザーと深く対話する事で想定より大きな違う問題に気づかされる事も頻繁にあり、特に立ち上げ時は最も大切なタスクだと思います。

創業者がダイレクトに一次情報を収集する事にも大きな意味があります。部下経由の間接情報では重要なインサイトは得られません。

YC President Sam Altmanはカスタマーサポートのメルアドは軌道に乗ってからも創業者が見るべきだと断言しています。不具合やクレームの連絡を受けたら、たとえ深夜1時でも30分以内に創業者が対応すると、何が顧客の痛みなのか明確に理解する事ができます。一次情報を取ることの大切さ、と言い換える事もできるでしょう。

逆に言えば創業者がユーザーを知り尽くしていると非常に強いでしょう。

Support

Y Combinatorのコミュニティには本当に性格が穏やかで、

忙しいのに率先して仲間や他人を助ける人たちばかりで驚いています。

当然そこにお金は発生しません。

2015年に私が現地で実感し、感動した、

シリコンバレーの挑戦者を街全体で支援する仕組みの真髄を見ている感覚です。

私はまだ性格に不完全なところがあり、

時に十分他人を助けられていない点が多いですが、

自分の未熟さが恥ずかしくなりました。

日本では、

起業家=尖っている人、

というイメージが多少あると思いますが、

シリコンバレーは頭の回転が超速くてマシンガントークの起業家が多い一方、

同時に大きな器で包容力のある方、

つまり性格のバランスが取れた方が多いと思います。

この点、

まだまだ私は至らない点が多いので、

しっかり精進したいと思います。

Target user

YCでは自分自身をターゲット顧客に想定したサービスを作る様に強く勧めています。

言い方を変えれば、自分の日常の大きな不満を解消するソフトウエアを作れという事になります。

Airbnbは創業者Brian Cheskyが自分の家賃が払えなくなり、

エアベッドをネット上で貸し出して成功した所から始まるのは有名な話です。

そんなに簡単に、

偶然にアイデアなんて見つからないよ!と言われそうですね。

確かにそうです。

私も社内メンバーの身の回り悩みリスト300を作って検証したからわかるのですが、

300アイデア出ししても、

顧客が喜ぶ・自分も儲かる・市場も大きいの三つを満たすアイデアは3個ほどでした。

なので正確に言うと、

無数にアイデア出しをし、

自分と同じ様な悩みを持っている想定ユーザーの意見を深く聞き続ける事で、

最初に構築したサービスと違う形、

つまりその進化版として筋の良いプロダクトが出来てくると思います。

弊社の失敗例で言うと、

当初医療系のWebサービスも検討していたのですが、

健康になりたいとか、

人の命を救いたいとか、

病院のサービスには問題点が多いとか、

様々な仮説に基づいてアイデア出しをしたものの、

実際に業界の中の医師の意見を聞くと我々が全く見当違いな事がわかり、

かつ多忙な医師を頻繁にユーザーインタビューするのも気が憚られ、

結局尻すぼみになってしまいました。

これも、ターゲットユーザーを自分自身と遠い所に設定すると上手くいかない悪い例でしょう。

対して自分がターゲットユーザーなら、

少なくとも自分が200%満足するまでUI/UXを徹底的に作り込む事ができますよね。

しかも無料であり、真夜中でもユーザーの(つまり自分の)意見を何回でも聞けます。

今の所私は医師が創業メンバーにいないと医療Webサービスは立ち上げるべきでないと個人的に思っています。

Problem vs Solution

よく陥る起業家の錯覚ですが、

ソリューションつまりWebサービスの機能について考えるのはとても楽しい作業なので、

ついついそちら中心に考えやすいです。

ただ売れる製品にする為には、

解決しようとしている問題がユーザーにとって大切なのかどうか、

ソリューションがその問題の根本的解決になっているのかどうか、

徹底的・客観的にユーザーインタビューを通じて確かめるべきです。

コツとしては、

製品の説明をするときに、

“この製品はXという問題をYという技術で解決します”と、

問題とソリューションをセットで説明する癖をつけると、

ソリューションが一人歩きして問題の検証が抜けてしまうリスクを減らす事ができます。

YCではMarket always win(サービスの成功は市場が決める事で、起業家が決める事はできない)、という名言もあります。

Avoid fake Steve Jobs

YC CEO Micheal Seibelがビデオで、

Fake Steve Jobsを目指すな、

Real Steve Jobsを目指せと言っています。

一般のユーザーは、

天才Steve Jobsが神からの啓示を受けて、

大成功商品iPhoneをひらめきで作ったと思いがちです。

(=Fake Steve Jobs)

でも、

最初のバージョンのiPhoneは、

App Storeはないし、

ネットワーク接続も弱く、

バッテリーも持ちが悪い、

良いとはとても言えない製品だった事実があります。

Real Steve Jobsは、

そんな未完成のiPhoneから始まり、

ものすごい執念で製品のIteration(試行錯誤を通じた顧客が喜ぶソリューションの付加)を長年繰り返し行なったからこそ、

スマホ市場で大きなシェアを獲得できたとMikeは分析しています。

つまり天才でなく、凡才でも、

ひたすら努力して顧客と対話を繰り返し、

製品を執念で磨き続ければ、

iPhone並みのメガヒットを生み出せる可能性があります。

神の啓示からイノベーションはスタートしない、

という反直感的なフレームワークです。

むしろ顧客との愚直なコミュニケーションからの着想こそ、

市場シェアを拡大するプロダクトの進化に繋がると教えられています。

私は自分にも大きなチャンスが与えられている気がして勇気が湧きました。

Idea generation

弊社も努めて行動量を増やしたり、

クレージーに見える案も含めた大量のアイデア出し、

つまりデザイン思考のブレインストーミング手法に似た物を、

積極的に取り入れていますが、

まだ本場米国のOut-of-Box的な発想には負けています。

Sam Altmanが面白い指摘をしていて、

アイデアを出すのがとても得意な人をチームに入れると、

特に窮地に脱出するためのクリエイティブな手法が生まれるので企業を救う事が多いと教えています。

Airbnbの創業者たちがうまく事業が立ち上がらず困窮した際、

金がなくて毎日食べていたコーンフレークを売って売上を立てようとしたのは有名な話で、

もちろんそれが原因で事業が上向いた訳ではないでしょうが、

可能なオプションを不可能に見えるものも含めて考え抜き、

常識から逸脱したアイデアも厭わず実行に移すのは起業家にとって大切だと思います。

Frequency & Intensity

YC CEO Micheal Siebelは、

アイデアの良さを検討する際に、

対象としているユーザーの問題は頻繁に発生しているか、

悩みは大きいか(=問題解決できた際のユーザーの喜びは大きいか)を客観的に分析するように勧めています。

同様に、

Googleが買収を進める際に”歯ブラシテスト”をすると言われており、

つまり歯ブラシのように1日3回以上使うサービスでないと買収しないそうです。

Uberの起業のきっかけになった、

創業者Travisの経験は、

パリで全くタクシーが拾えず困り果てた所から来ています。

私も良く出張でパリに行っていましたが、

あの地域は流しのタクシーが全く捕まらず、

最寄りのカフェに立ち寄って、

お茶を飲んでタクシーを店から呼んでもらわないといけないので、

とても不便です。

また、Uberのお膝元サンフランシスコでは、

タクシーが不潔で、

サービスが乱暴で顧客満足度が非常に低かった事がUberにとってのチャンスになりました。

逆に日本でUberが普及しない理由として、

もちろん白タク営業が許可されてない法的な問題はあるにせよ、

タクシーサービスの品質が十分良いので、

ユーザーが問題を抱えてない、

つまり問題のIntensityが足りないと言えるでしょう。

Y Combinatorでも成功する企業の主流はSaaS(月額定額制ソフトウエア)でありますが、

スタートアップの会計上非常に有利なビジネスモデルである反面、

SaaSでビジネスを成長させるには、

ユーザーが納得して月額定額フィーを払い続ける必要があるので、

やはり頻繁(frequent)で悩みの優先度が高い(instense)問題の解決をするソフトウエアである必要があると思います。

Iteration vs Pivot

同様にMicheal Siebelは、

混同しやすいIterationとPivotの違いについて解説しています。

Iteration : 対象とする問題を変えずにソリューションを手を替え品を替え試し続けること(顧客データベースなど資産は継続して活かせる)

Pivot : 対象とする問題や顧客ターゲットを変更する事(今までの資産はほぼ活かせず、スクラッチからのやり直しになる)

YCは頻繁にIterationすることを勧めており、

Pivotは超初期には頻繁さは許されますが、

一旦顧客を決めたら6ヶ月から1年は変えない方が良いと言われています。

日本ではIterationとPivotが混同される事が多いと思いますが、

コツとしてはIterationは厭わずガンガン違う方法を毎日試しまくる、

そうすると想定顧客に最も喜んでもらえるソリューションを効率よく当てる事ができる、

という事かと思います。

また、Facebookの様に巨大なサービスになっている事例でも、

Zuckerburg社長は、

世界に2万種類の異なるバージョンのFacebookが存在し、

膨大なパターンのABテストを繰り返していると公言しています。

これも、大企業になってもIterationを繰り返す事で、

陳腐化せず進化し続けるサービスであり続ける戦略が有効な事例だと思います。

継続的イノベーションへの鍵は、

Iterationを企業の中核に据える事だと言えるでしょう。

Luck

サービスが当たるか当たらないかは運である、

とある程度言い切る事ができると思いますが、

YCをはじめとしたシリコンバレーでは、

その運をコントロールし、

好運を最大化するメソッドが普及している様に思います。

Segment創業者のPeter Reinhardtは、

YCのビデオの中で、

筋の良いアイデアを効率的に見つける方法として、

10–15個の異なるアイデアを並行に走らせ、

途中で筋が悪い事が判明したら容赦無くアイデアを潰すことによって、

一番良いアイデアが浮かび上がってくると断言しています。

YCの事例として、

codecademyが同様の手法を使い、

YCに受かったのにビジネスが鳴かず飛ばずで、

Demo Day直前になって思いついた現業のコーディング教育プラットフォームに思い切ってPivotして成功した話があります。

天才の閃きによってできたサービスは確かにあるとは思いますが、

多くの人は凡人な訳で、

平均的なスキルの起業家でも無理なく大きなイノベーションを起こそうと思えば、

多産多死で、

アイデアの数で勝負!という手法を取った方が、

成功確率は高いと思っています。

500StartupsのDave McClureも、

30ページにも及ぶパワーポイントのビジネスプランははっきり言って無駄である、

と断言しています。

東京のSaaSコミュニティ作っています

いかがでしたでしょうか?

Startup Schoolの前半のビデオでオススメは、

下記の2つです;

Sam Altman

Micheal Seibel

弊社のサービス、

Kiaraはグローバル市場に向けたSaaSモデルなので、

東京でSaaSコミュニティを作るべく、

月1回SaaS勉強会を開催しています。

双方向な議論で毎回盛り上がっていますので、

こちらからスケジュール確認して是非遊びに来てください。

残す所あと僅かになったStartup Schoolでも、

しっかり頑張って事業を成長させようと思います。

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