人類愛

Yukiyo Matsuzaki Smith
Kamakura Mind
Published in
6 min readJun 8, 2020

約130年前、鎌倉から米国に渡った禅僧が語った人類の真理

紫・青・ピンク
先月末(2020年5月)日本全国で緊急事態宣言が解除され、古都鎌倉にも少しずつ人出が戻り、自粛中の張り詰めた空気が少し緩んできた感があった。紫陽花の名所、長谷寺や明月院の紫陽花もピンクや紫、青色鮮やかに色づき始め、私のSNSフィードには友人たちが鎌倉の様々な場所で撮影されたる美しい紫陽花の写真でうめ尽くされて行った。自粛期間中一時停止していた人間の世界が少しずつ動きだし、彩が増したように見えた。


一方で、海外に住む友人からは、#Blacklivesmatter 、アメリカの街が暴動によって炎に包まれる映像の投稿が相次いだ。6月2日(火)は#blackouttuesdayで友人のプロフィール写真も黒、投稿も真黒に塗りつぶされた。色鮮やかな鎌倉の紫陽花が消え、漆黒の闇のように塗りつぶされた投稿によって埋め尽くされた。情報を得ようとテレビをつけたが、ニュースで報道されているのは自粛解除後の学校再開の様子や、その日の感染者数の話題ばかりで、アメリカミネソタ州で起こったその事件に関しては、少し報道される程度。まあミネソタは遠い。しかしそのメディアでの取り上げられ方の少なさに疑問もあった。ネットで検索してやっとその事の大きさが少しずつわかってくると共に、”あの問題は、まだまだ解決していないのだな” と思わずにはいられなかったーアメリカでの黒人差別問題。

そして何故か思い出したのが、釈宗演老師が1893年、シカゴ万国宗教大会で行った演説だった。

釈宗演老師

釈宗演(出展:Buddhist Guide)

皆さんは釈宗演(1860年-1919年)をご存知だろうか?
鎌倉の臨済宗円覚寺、および建長寺の管長を勤め、その後東慶寺に住持された。アメリカに初めてZenを広めた禅僧。仏教学者、鈴木大拙の師にあたる。
恥ずかしながら釈宗演老師について無知だった私は、北鎌倉の禅寺、浄智寺ご住職のSNS投稿で「釈宗教演遠100年記念特別展」の開催を知り、特別展に足を運んだ。

1893年シカゴ万国宗教会議での演説
その展示で目に留まったのが、1893年(明治26年)シカゴ万国宗教会議での釈老師の英語演説原稿だった。シカゴ万国宗教会議は、コロンブスのアメリカ大陸発見400周年を記念して催さたシカゴ万国博覧会の一環として開催された。世界の宗教指導者が一堂に会する史上初の試みで、ヒンズー教、道教の代表などが集まる中、釈宗演老師はその一人として招待され、 Buddhist High Priest of the Zen Sect(禅宗の高僧)として紹介されている。 33歳、円覚寺の管長を勤めている時だった。

シカゴ万国宗教会議の日本人参加者 。右から2番目が釈宗演老師(出展:ジャパンアーカイブス)

老師は十数日にわたる会議で2度演説を行っている。展示されていたのは、 閉会前夜に演説された「戦ふに代ふるに和を似てす」Arbitration instead of Warの原稿。翻訳は当時まだ無名の鈴木大拙。展示されていた原文はタイプライターで打たれた印字が薄れ、所々鉛筆で修正の入っている生々しさが残っていた。原稿全文を紹介できないのが残念だ。

「戦ふに代ふるに和を似てす」演説原稿

人類愛
その演説では、第一次世界大戦前の不安定な情勢下、武力に依存して平和をもたらそうとするヨーロッパの情勢の虚しさが語られた。人類愛(Brotherhood)の実現は宗教の義務であること訴え、戦争を避け平和をもたらすために宗教が果たすべき役割を説いた。そして、最後に宗教、宗派、人種の違いに関係なく、人類が理解を深め、協調する事の大切さを掲げて締めくくられている。驚くことにこの演説の中でZenという言葉は1回も出てこない。平和、そして人類愛についての演説だった。


私たちは互いに戦うために生まれてきたのではありません。私たちは、知恵を出し合い、真実の導きに基づいて美徳を培うために生まれてきました。…人種と人種、文明と文明、信条と信条、そして信仰と信仰で差別してはなりません。私たちは皆兄弟であり、私たちは「真理」から生まれた賜物です…真理に賛美を! (
「戦ふに代ふるに和を似てす」抜粋。→英文抜粋

ガラス越しに見るその原稿を読見進めているだけで、約130年前、その会場で釈老師が全世界に与えたであろう影響力を感じ取る事ができ、実際に演説を聞いたような高揚感を覚えた。そして今、#Blacklivesmatterの活動が再燃する中、約130年前の釈老師の演説は、今この時代に生きる私たちに取っても陳腐なものではなく、重く響く。

自分には何ができるか
私たち家族は、半分アメリカ人、半分日本人。アメリカで暮らしていた事もあり、今は日本で暮らしている。

この1週間、私たち家族はそれぞれの立場で経験した差別や、ステレオタイプについて話し合った。いわゆる、「ハーフ」と呼ばれる子供達は、外見の違い、それに対する人々の反応を私よりも敏感に感じ取っていた。
アメリカに比べると多人種率は少ない日本。しかし、人種差別に限らず性差別、障害者、特定の国籍への差別は存在する。
娘から今月はLGBTQAプライド月間だと聞いた。
最後のAって何だ?(笑)まずは理解することから始めたいと思った。

鎌倉より愛をこめて。

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写真: Alexander O. Smith

参考資料
●「釈宗教演遠100年記念特別展 釈宗演と近代日本、資料より。
慶應義塾福澤研究センター准教授 都倉武之氏 筆 ”釈宗演は「世界にZENを紹介」したか”
オバマ前大統領、ジョージ・フロイド事件は「真の社会変革へのターニングポイント」
我々も差別問題の当事者!黒人差別の抗議活動について【せやろがいおじさん】
ビリー・アイリッシュ、Black Lives Matterを理解できない白人ファンと大統領のツイートにぶち切れる
なぜ「All Lives Matter(すべての命が大切)」と言うのをやめる必要があるのか

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Yukiyo Matsuzaki Smith
Kamakura Mind

Director of Kamakura Mind — Experience Japan in Kamakura, ancient capital of Japan, 1 hr from Tokyo, cradle of Zen. 米国に約10年居住。米国人の夫・2児と共に8年前鎌倉に移住。日本文化体験事業経営。