苔のむすまで

Yukiyo Matsuzaki Smith
Kamakura Mind
Published in
6 min readMay 31, 2020

吹雪は去った
2020年5月25日。東京、神奈川含む全国で緊急事態宣言が解除されました。さてどうしましょう?嬉しい反面、もっと籠っていたい気持ちが大きいのも正直なところ。でもそんな甘っちょろい事は言ってられません!

このお籠り気分は、アメリカ、バーモント州に住んでいた時の吹雪や大寒波がやってきた時と似ています。私の住んでいた村はバーモント州の北部、カナダの国境まで車で45分。年の半分以上が冬ではないかと感じる程寒さが厳しい場所。真冬は氷点下20度まで下がり、氷の張った湖上はトラックが通れるほど。鼻毛や眉毛も凍る厳しい寒さです。

雪に覆われた家の前の松林

そんな北国の村で、大雪警報が出ると、村に一軒しかないお店で必要な買い物を済ませ、籠る準備をする。そしてその日はとにかく家に籠り吹雪が去るのをじっと待つ。除雪車がすぐやってくるので、ほぼ1、2日で活動再開できるようになるのですが、その時の「仕方ない、諦めて家にいるしかない」と潔く諦め、家に籠もれる。そして不謹慎ながら、心おきなく休めるちょっと嬉しい気持ちが今回の自粛期間と重なります。違ったのはその長さだけ(笑)

懐かしのバーモントの家

鎌倉石と苔
今回の”自粛”という都合の良い理由で、私は外に行くことを諦め、今まで目を背けていた家の片付けや、自分の事、そしてコロナとは関係なくいつも通り季節の進む自然に目を向ける事ができたわけです。尺取り虫が這う様子を眺めたり、鳥の声に聞き入ったり、散歩の途中で出会う苔に目を向けたり。まるで子供ですね。
そして毎日の散歩の途中、その美しさに惹かれて写真を撮っていたのが苔。特に雨の日の翌朝、苔の緑が格段に美しいのです。

旧華頂宮邸入り口の苔

苔は他の植物と違い、根から水分を補給するのではなく、体の表面全体から水や栄養分を吸収するそうです。なので水分ををたっぷり含んだ雨上がりの苔はぷっくりと膨らみ美しい、と鎌倉に苔専門店「苔むすび」を構える苔博士、園田純寛さんに教えて頂きました。梅雨の前後は紫陽花が主役の鎌倉ですが、苔も美しい季節。紫陽花も好きですが苔も好き。鎌倉の山に囲まれ、湿気の多い谷戸は苔にとって格好の環境といえるようです。

美しい報国寺の苔

特に好きなのが鎌倉石と呼ばれる石に生した苔。古いお寺の石段や柱の礎石の上にむした苔は、古刹の風情を出しています。切り出したあとの斜めに引っかいたような模様が特徴です。先日ご紹介した旧華頂宮邸の塀の土台にも使われています。緑のベルベットカーペットのように美しく敷き詰められた苔も好きですが、この鎌倉石の引っかいたような模様に生した苔も好きです。

旧華頂宮邸、塀の土台に使われている鎌倉石

苔とさび
鎌倉石は、柔らかく火に強いのが特徴。加工のしやすい反面、経年劣化も早く、水を吸いやすい性質を持っているので苔が生えやすいようです。
一見マイナスに見える鎌倉石の特徴も、経年変化を美とする「さび」の世界観、古寺の雰囲気とぴったりあって、石材として好まれていたようです。禅宗のお寺が多い鎌倉では、禅のふるさと、鎌倉の風情を醸し出しています。
平安時代の日本では、貴族中心の華やかな文化が主流で、桜、紅葉など花や紅葉が美しい植物が好んで鑑賞されていたようですが、武士が初めて政権を握った鎌倉時代頃からは禅や茶の湯などの影響もあり、豪華さよりも質素さに美しさを見いだす日本文化の美意識「わび・さび」が生まれたようです。この経年変化に美を感じる心の現れが、苔を愛でるという事なのかも知れませんね。

私の住んでいたアメリカ、バーモント州の家の裏山にも”Mossy Trail”(苔の道)と呼ばれていた苔の美しい山道がありました。そこを通る度に日本思い出し、何だか懐かしい気持ちになったものです。

Mossy Trail
Mossy Trailの苔
小人や妖精が住んでいそうな世界

鎌倉石は鎌倉市周辺に分布する凝灰質砂岩で、現在鎌倉の山の景観を保護するため採掘禁止となっているようですが、かつての採石場がいろいろな所に残っています。私の散歩ルートから少し足を伸ばした先にその一つを見つけました。家から徒歩圏内に歴史の足跡が垣間見れる鎌倉。お籠り期間中、その鎌倉の魅力を改めて認識しています。
鎌倉にいらっしゃる際は是非、鎌倉石にむす苔をご覧ください。

法性寺(逗子)近くの鎌倉石が採石された跡

苔のむすまで
そして言うまでもありませんが、「君が代」にも苔は登場します。

君が代は千代に八千代に
さざれ石の巌(いわほ)となりて
苔のむすまで

「苔のむすまで」。。
国歌の歌詞として世界最古、そして歌詞に唯一「苔」を詠った国歌。その解釈には諸説あるようですが、苔が一面に生すまでに時間がかかることから、”長い時の流れ”を表現しているようです。

さあ、「苔のむすまで」家に籠っておりましたので、そろそろ動き始めようかなと思います。(笑)

お読み頂き、ありがとうございます。また次回!

Kamakura Mind Blog
photo credit: Alexander O. Smith

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Yukiyo Matsuzaki Smith
Kamakura Mind

Director of Kamakura Mind — Experience Japan in Kamakura, ancient capital of Japan, 1 hr from Tokyo, cradle of Zen. 米国に約10年居住。米国人の夫・2児と共に8年前鎌倉に移住。日本文化体験事業経営。