各産業へと広がるブロックチェーン

田町 京子
Kaula Lab
Published in
Oct 16, 2020

非中央集権DXシリーズ 第一回

「非中央集権DXシリーズ」開始にあたって

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の意味が何であるかはいろいろな解釈がなされていますが、もはや ”今さら聞けない” 段階に入っているのかも知れません。経済産業省が発表した「DX推進ガイドライン Ver.1.0(2018年12月)」 においては、次のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、 製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、 競争上の優位性を確立すること」

これをITの視点から解釈すると、DXは「基盤となるITの利活用により、ビジネスモデルや組織を変革すること」であり、目的は「企業の競争優位性を確立すること」という理解ができます。
既存の IT システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化し、これに密接しているビジネスプロセスも、 現場サイドの抵抗が大きく刷新が難しい状況であることが指摘されています。 さらに、新しいIT技術が使用されていたとしても、巨大IT企業等により個人の情報が管理されて、本人の意図とは関係なく開示・使用される、あるいは一部の法人により業界ネットワーク全体の管理や方向性が決まってしまうような可能性があります。

本シリーズでは、このような中央集権的なビジネスモデルや組織の状況を変革し、よりユーザー視点でのDX実現に貢献する、新たな非中央集権的なテクノロジーおよびその実現方法や課題について、読者の方と共に考えるきっかけとなることを意図しています。特定の企業や組織への信頼に依存しないブロックチェーンが、非中央集権的なITインフラストラクチャとしてどのようにDXを支えるのかについて考え、ビジネス分野としては、今回は特に非金融分野(エネルギー、環境、モビリティ、医療など)に焦点をあてる予定です。

************ 目次 ************
【1】各産業へと広がるブロックチェーン
【1.1】ブロックチェーン技術の状況
【1.2】エンタープライズ・ブロックチェーンの使用領域
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【1】各産業へと広がるブロックチェーン

【1.1】ブロックチェーン技術の状況

米国のリサーチおよびアドバイザリ企業ガートナーが毎年提供している「ハイプ・サイクル(Hype Cycle)」という曲線は、各分野のテクノロジーとアプリケーションについて、その成熟度と採用状況や、それが実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓に、どの程度関連する可能性があるかを図示したものです。テクノロジー全般だけでなく、ブロックチェーン、セキュリティ、コネクティッド・カーとスマート・モビリティ、新興技術、など細分化された領域別のものついても発表されています(2020年のものは一部のみ公開。)対象となる国も、世界全体のものの他に、日本限定のものも発表されています。

各テクノロジーは、時間の経過とともに、次の5つのフェーズを進化していきます (図 1.1参照):
<1> 黎明期 (Innovation Trigger)
<2> 過度な期待のピーク期 (Peak of Inflated Expectations)
<3> 幻滅期 (Trough of Disillusionment)
<4> 啓発期 (Slope of Enlightenment)
<5> 生産性の安定期 (Plateau of Productivity)

図 1.1 ハイプ・サイクルの5つのフェーズ (出展: Gartner Hype Cycle)

2020年9月10日に「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」(図 1.2参照)が発表されました。これと、世界における2019年のブロックチェーン・ビジネス領域に特化したハイプ・サイクル(図 1.3)および 2020年の 世界におけるブロックチェーン・テクノロジー領域のハイプ・サイクル(図 1.4)を合わせると、 次のようなブロックチェーンへの期待が示されていると考えられます。

  1. ブロックチェーン(全般)の位置は、図 1.2, 図 1.3 では “幻滅期” の谷底の少し手前で、2020年の世界版 図 1.4では底となっています。
    2020年の日本の状況は、世界の2019年のものに近似しており、日本のブロックチェーン・ビジネスは世界全体より1年ほど遅れぎみであることが示されています。
    また、ここで ”幻滅期” は、新しい技術に対する実装が追いつかない、あるいは周辺の技術が整っていないなどにより期待外れを感じる時期です。 失敗事例を含め、「できることとできないこと」「本物と偽物」の区別が明確になります。 短期的には幻滅したとしても、中長期で見ると重要なテクノロジーや考え方が存在する状態であり、冷静な判断を行う時期でもあります。 さらに、需要側と供給側が歩み寄る現象が起こり、テクノロジーが具体的な商品やサービスになり、 市場が形成され、定番技術になる実用化段階の手前の時期でもあります。
  2. ブロックチェーン関連の個別の技術では、 トークン化、非中央集権アイデンティティ(EW-DOSとデジタルアイデンティティ【B2】参照)、ゼロ知識証明(zero-knowledge proofs)などが、”過度な期待のピーク期” にあります。
  3. 非中央集権アプリケーションのほか、石油、ガス関連や IoTへのブロックチェーンの応用は、”黎明期”にいます。
図 1.2 日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年 (出典:ガートナー
図 1.3 世界における ブロックチェーン・ビジネスのハイプ・サイクル 2019年版 (出典:ガートナー、作者が複数をマージ
図 1.4 世界におけるブロックチェーン・テクノロジーのハイプ・サイクル 2020年版 (出展・ガートナーから抜粋

【1.2】エンタープライズ・ブロックチェーンの用途の状況

エンタープライズ(法人向け)ブロックチェーン・サービス市場の規模は、2018年からほぼ 3倍に増加しています。

1) 全産業での状況
その使用用途の傾向を見ると、サプライチェーンが、最もホットなユースケースとして浮上しています。 さらに ドキュメント管理、業界固有のユースケース、貿易管理、支払い、アイデンティティ、カスタマーエクスペリエンス、 不正検知とコンプライアンス、財務会計がそれに続きます(図 1.5 参照)。

図 1.5 上位12のサービス事業者でのエンタープライズ・ブロックチェーン契約640件の用途の割合。(出典:2020年4月にHFS社により報告。)

2) 産業別の状況
産業別に見た場合、図 1.6のようになります。
「製造業」では43件のうちサプライチェーンが6割を占め、「エネルギーと公益事業」では33件のうち貿易が約半数を占めています。

図 1.6 産業別、サービス事業者でのエンタープライズ・ブロックチェーン契約640件内の用途の割合。(出典:2020年4月にHFS社により報告のものから抜粋)

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