第四回 エネルギー・ブロックチェーン入門

EW-DOSで実現する再エネトレーサビリティー(1)

第2回の記事では、EWFの応用事例の概観および、ターゲット領域の1つとなっている分散型エネルギーリソース(DER)を活用した系統運用の事例を紹介しました。大量のDERを系統運用のために利活用するために必要な技術コンポーネントのデジタルアイデンティティに関して第3回の記事で説明しました。第4回の今回では、EWFのもう1つのターゲット領域となっている再生可能エネルギー(以降「再エネ」)のトレーサビリティーに関して、その背景、仕組み、EWFの取り組みの概要を紹介します。

※「トラッキング」という用語もありますが、これは電気を識別してどこに流れたかを追跡するイメージがあります。ここでポイントとなるのは由来の証明であり、「トレーサビリティー」を用います。

**************** 目次 ****************
【E6】再エネトレーサビリティー
【E6.1】企業・自治体などによる再エネ調達のニーズが増した背景
【E6.2】企業が再エネで発電した電気を調達する方法
【E6.3】再エネトレーサビリティーとは
【E6.4】再エネ電力証書の仕組み
【E6.5】EWFが手掛ける再エネ電力証書
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【E6】再エネトレーサビリティー

【E6.1】企業・自治体などによる再エネ調達のニーズが増した背景

温室効果ガスの削減は1990年代から国際的な取り組みとして行われていますが、2015年のパリ協定の前後からこの動きは世界的な「脱炭素化」として加速しています。特に、パリ協定以降、脱炭素を企業や自治体の行動目標として落とし込む動きがいままでになく本格化しています。

2014年の12月にペルーの首都リマで行われた気候変動枠組条約締約国会議(COP20)の後にリマ・パリ行動アジェンダ(LPAA, Lima-Paris Action Agenda)というイニシアチブが発表されました。LPAAでは、非政府組織、自治体、研究機関、財団、企業、投資家など国家以外のすべての主体による行動が非常に重要であることが認識されています。

LPAAでは、Non-State Actor Zone for Climate Action (NAZCA, 気候変動に対する行動のための国家以外の主体)という枠組みで組織の目標や行動を取りまとめていますが、2020年9月現在、約27,000の主体が参加しています(主体別の取り組みの数は以下、https://climateaction.unfccc.int/による[2020/09/15アクセス])。

すべての取り組みの数:26,975
主な内訳
・国: 191
・都市:10,690
・地域:242
・企業:3,973
・投資家:1,133
・組織:1,890
・企業のイニシアチブ:149

一方、We Mean Business Coalitionという企業連合は、企業と投資家に対する気温上昇を「2℃以下を達成するための行動リスト」をまとめ、企業主体の取り組みを推進しています(これらの多くは上記NAZCAにも登録されています)。それらの行動は、企業版2℃目標(SBT, Science Based Target)による排出削減、民間融資、交通、建築など12のカテゴリーに分かれていますが、カテゴリーの1つに「再生可能エネルギー」があります。

さらには、その中に自社で消費する電力の100%を再エネで調達するイニシアチブである「RE100」があります。RE100は、読者の皆様も耳にしたことがあるのではないでしょうか。

2020年9月現在で、RE100に加盟している企業は世界中で250社以上、日本で38社あります。RE100への参加企業が年々増えていることに象徴されるように、企業の再エネ調達がますます注目されています。RE100は主に多国籍企業が対象となりますが、日本においては、再エネ100宣言 RE Action協議会が主催し、主に中小企業、自治体、教育機関、医療機関などをターゲットとした再エネ100宣言RE Actionというイニシアチブもあります。

【E6.2】企業が再エネで発電した電気を調達する方法

このように、企業や自治体による再エネ調達の動きが世界中に広がっています。それでは企業や自治体などの組織が再エネをどうやって調達できるかが問題になりますが、大きく分けて、自分で発電設備を建設し、供給する方法と、他から買ってくる方法の2つがあります。これを下図に示します。

自社で発電設備を持つことができればよいですが、敷地の制限などから難しい場合も多く、その場合は他社が発電した再エネ電気を系統(既存の送配電網)経由で購入、または再エネ証書(詳細は後述)を購入して適用することになります(系統経由で再エネを他社から購入する場合と再エネ証書を購入する場合に該当するものを図の緑枠で示しました)。再エネトレーサビリティーが必要となるのは、多種多様な電源からの電気が流れる系統経由で再エネを購入する場合です。

一方、電気というのは通常いろいろな発電源(たとえば、火力、原子力、水力、再エネなど)で発電され、送配電網を通って需要地に運ばれます。通常、契約した需要家に電気を供給する小売電気事業者は複数の電源を保有または契約しておりますが、物理的にも契約的にもどの電源からの電気をどの需要家に供給するということは実施していません。

概念的には、小売電気事業者がすべての電源からの電気を「混ぜて」供給していると考えればよいです。このイメージを下図に示します。需要家は契約している小売電気事業者のウェブサイトなどで、その電源構成を知ることができます。(例えば、東京電力エナジーパートナーの場合

トレーサビリティーがない通常の電力供給のイメージ(大幅に単純化)出典:著者作成)

【E6.3】再エネトレーサビリティーとは

電気に色をつけることはできませんので、特定の電源で発電した電気を特定の需要家に供給しようとすると、仕組みが必要となります。この仕組みがトレーサビリティです。主に再エネが対象ですが、対象となる電源は何でも可能です。ただし最も社会的ニーズがあるのは再エネです。

特定の電源(または電源の種類)からの電気の購入を希望する需要家に電気を供給するイメージを下図に示します。通常の電力供給(上図)では、すべての電気は「混ざって」しまっていましたが、この図では、ある電源で発電した電気は他と混ざらず、特定の需要家の需要に紐付けられています。(下図、緑色と青色の矢印)

大前提の確認ですが、自営線(自社で構築する専用線)ではなく、一般送配電事業者の送配電網を使用する限り、A地点で発電した電気を物理的にB地点に供給するという物理的なトレーサビリティーというものはありません。実際の電気の物理的な流れはどうなっているか分かりませんが、「A地点で発電した電気をB地点に供給したことにする」という仕組みの話になります。

電力供給におけるトレーサビリティーのイメージ(大幅に単純化)出典:著者作成

これを実現する方法は複数ありますが、基本は、設定したある期間(30分のときもあるし、数ヶ月のときもあります)において発電設備Aで発電したX kWhの電力量が、その電源からの電気の購入を希望する需要家(複数の場合もあり)の消費電力量 Y kWhと同じかそれよりも大きいことを確認することにあります。

電気そのものを対象にトレーサビリティーを確保する場合と、「再エネで発電した」というその電気の属性を電気から分離させてトレーサビリティーを確保する場合があります。現在の制度上、前者は主に小売電気事業者が需要家向けのメニューとして提供されることが多く、後者は、電力証書・REC(Renewable Energy Certificate)と呼ばれており、小売電気事業者とは別に流通経路があります。このイメージを下図に示します。また、上記の「属性」は「価値(再エネで発電したという価値)」と読んでも差し支えありません。

下側の図ですが、発電した時点で再エネで発電した電気は「再エネで発電したという属性」と「再エネで発電した属性が抜けた電気」に分離されます。この場合、属性の二重使用はできないため、属性が分離された後の電気は再エネで発電した電気とは見なされません。属性は、証書発行事業者により証書化され、需要家に販売されます。需要家は通常通り購入した電気に別途購入した属性を適用し、「再エネを調達した」とできるのです。

電気そのもののトレーサビリティーと電気から分離した証書 出典:著者作成

電気そのものにトレーサビリティーを付与して販売する一般需要家向けの商品の事例を以下に列記します。ただし、この中には個別の電源のトレーサビリティーを取るのではなく、「水力発電所X箇所の合計」「水力発電所Y箇所と太陽光発電所Z箇所の合計」など、特定の種類の電源を集約しているものもあります。

<旧一般電気事業者>
アクアプレミアム(東京電力エナジーパートナー)
アクアエナジー100(東京電力エナジーパートナー)
水力ECOプラン(関西電力)
再エネプレミアムプラン(四国電力)
再エネECOプラン(九州電力)
カーボンFプラン(北海道電力)

<新電力>
ENECT RE100プラン(みんな電力)
SE100プラン(自然電力)

再エネ証書に関しては、日本では民間の制度である「グリーン電力証書」と、国が運営するカーボン・オフセット(温室効果ガスの削減量や吸収量を認証し、取引可能なクレジットとする仕組み)の制度、「J-クレジット制度」のうち、「プログラム型」の太陽光発電の案件があります(それ以外は「通常型」)。その他、2018年から取引が始まった非化石価値証書(再エネ指定)という証書もあるのですが、小売電気事業者しか購入することができず、小売電気事業者は、上記の再エネメニューを需要家に提供する場合に非化石価値証書を使用することがあります。

世界の再エネ電力証書は以下の通り整理できます。大きく分けると、欧州のGO北米のREC新興国を中心としたそれ以外の国のI-RECが世界の3大再エネ電力証書の制度と言えます。日本の制度はこれらのいずれにも入っていない独自の制度です。

【E6.4】再エネ電力証書の仕組み

EWFが取り組んでいるのは、上記2つの区分のうち、再エネ証書になります。再エネ証書の仕組みは制度によって違いはありますが、一般化して簡単に説明します。再エネ証書の発行と流通には、通常、以下の組織が関わります。

①再エネ発電設備の登録者(設備のオーナーまたはその代理)
②証書発行者
③第三者認証機関
④証書の管理機関(③と同じ場合もあり)
⑤証書の購入者(再エネを調達したい企業)

再エネ証書の発行と流通に関わる組織 出典:著者作成

再エネ証書が発行・販売されるプロセスとしては、次のようになります。

(1) 発電設備の登録と認定
証書発行に関わる再エネ発電設備の登録者(設備のオーナーまたはその代理)が証書発行者を選定し、証書発行者に対して登録に必要な資料(発電設備の詳細)とともに設備の申請を行う。第三者認証機関は、書類を審査し、また必要に応じて現地調査なども行い、確かに当該の発電設備が存在することを確認し、設備を認定する。

(2)発電量の認証と証書の発行
発電設備が認定され、証書発行の対象となる発電が開始された後、再エネ発電設備の登録者が証書発行者に対し、申請書と発電データをもって証書発行を申請する。第三者認証機関は、確かに指定の期間に申請された発電を行ったことを確認し、発電量を認証する。証書発行者は、発電量の認証を受けて証書を発行する。

証書には、発電期間、発電電力量、発電の種類(太陽光発電、風力発電、バイオマスなど)、発電所の位置情報などが記載される。(たとえば、欧州のGOに含まれる情報[C3.5.4]米国RECに含まれる情報日本のグリーン電力証書に含まれる情報

(3) 証書の販売
発行された証書は、証書発行者によって販売され、その所有権が購入者に移転される。購入者は、購入した再エネ証書を適用することによって、再エネで発電した電気を使用したと主張できる。そして、使用後はその証書の二重使用を防ぐため、証書を償還する。

(4) 設備・証書情報の管理
設備の情報や証書の情報は証書管理機関が管理する中央登録簿に記録され、発行、所有権の移転、償還などが起こった場合、更新されます。制度によって詳細は異なる場合がありますが、上記が基本的な流れとなります。

【E6.5】EWFが手掛ける再エネ電力証書

EWFが手掛ける再エネ電力証書は欧州の制度のGOおよび国際的なI-RECの枠組みの中で実施しています。フランスのengie社、タイのPTT社、シンガポールのSP Group社などがEWFのツールキット「EW-Origin」およびデジタルインフラを用いて電力証書のソリューションを開発・展開しようとしています。これらの個別の事例の詳細は次回の記事で書きますが、ソリューションの特徴としては以下があります。

  1. GOやI-RECの枠組みの中でソリューションを構築している。これら既存の枠組みを変えることはない。
  2. 最初に発電設備を登録するときは、おそらく人力で行うしかない。(第2回・第3回で紹介したSSI/DIDを利用すればこの手続きも非中央集権的に行うことができ、管理者の手間を大幅に省くことができる可能性はあるが、おそらくI-RECなどの規定に従い、設備の認定手続を行っていると推測する)
  3. デジタルインフラの使用領域の1つは、スマートメータで計測した発電量データの取得と記録。従来は自動化されていなかったとすれば、自動化により申請に伴う手続きを簡単にできる。2018年には、計測器で取得した電力データをブロックチェーンに記録する仕組みを発表していた(下図参照)。

4. もう一つの使用領域は証書情報の管理および証書の取引。ユーザー(証書購入者)は、EW Originの参考アプリを使い、発電設備リストの閲覧や詳細の確認、購入できる証書の閲覧や購入が可能である。以下のEWFが2018年に発表したEW Originのアプリの証書一覧画面を示す。

EWFが2018年に発表した参考アプリの中の証書一覧画面。(本アプリが現在も使われているかどうかは不明)出典: https://www.youtube.com/watch?v=vmFkgQDxtAs

今回は、再エネトレーサビリティーの背景や仕組みについて説明しましたが、次回第五回の記事ではEWFのメンバー企業による事例を紹介します。

最後までお読み頂き誠にありがとうございます。
記事へのご意見やご質問などがございましたらお気軽に下記までご連絡ください。(カウラ株式会社はEWFの会員企業です。)
info@kaula-lab.com
カウラ株式会社HP: kaula.jp

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■EWF, EW-DOS, EW Chainの最新の詳細については、以下のサイトをご参照ください。
Energy Web Foundation
EW-DOS White Paper Part 1, Vision & Purpose
EW-DOS White Paper Part 2, Technology Details
EW Chain White Paper

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Kaula Lab (連載記事一覧)
第一回 エネルギー・ブロックチェーン入門:EWF概要 / ブロックチェーンの基本概念
第二回 エネルギー・ブロックチェーン入門:EW-DOSのユースケース概観と事例紹介
第三回 エネルギー・ブロックチェーン入門:EW-DOSとデジタルアイデンティティ
第五回エネルギー・ブロックチェーン入門:EW-DOSで実現する再エネトレーサビリティー(2)

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非金融分野ビジネスの関係者が、ブロックチェーン技術についての調査、導入検討、実証実験やアプリケーション開発を実施するために参考となる最新の情報を提供することを目的としています。

Yasuhiko Ogushi 大串 康彦

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Business development of energy technologies | blockchain | utility | energy storage | H2 + fuel cells | renewables | int‘l business; yasuhiko.ogushi@gmail.com

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