ノンジェンダーファッションのこれからをSF的な視点から捉える

慶應義塾大学SFCで開講されている「メディア・アート実践(2020秋学期)」の最終課題として、私は題のテーマについてのウェブ作品を制作した。

BACKGROUND

私たちはいま、性別の境界線を無くそうとしたり、LGBTQ…に代表されるような多様なジェンダーのあり方を考え、ジェンダーという倫理的な問題に対処しようとしている。その世界的な動きはフェミニズムを始めとし、明らかに人類史の中で「性の価値観」が変動している重要な時期とされるほど熱を帯びている。ファッション業界についても同様に、「女性/男性っぽい服」という概念を無くそうとし、ニュートラルな服のデザインが増えてきている。しかし、「unisex fashion」で調べると表示されるのは、下の画像に見られるような男女のモデルが同じようなテイストの服を着ているというイメージだ。

https://youthincmag.com/unisex-fashion
https://www.menstylefashion.com/unisex-outfits-think/

私はこのイメージに非常に違和感を覚える。ここから見て取れることは、ファッション業界でジェンダー問題に対して行われていることは「今まで女性的だと思われていた服を男性が着て、その逆もする」「モノトーンな色合いやデニム生地などの男性/女性的というイメージが比較的少ない色や素材を使ったシンプルな形の同じ服を”男女のモデル”が着る」ことだ。そこには男女の概念が存在し、真の意味でのジェンダーフリーな、ユニセックスな、ノンジェンダーなファッションは存在しないように思える。

WORKS

そこで私が制作したウェブページは「今年のジェンダーフリーファッションのコンセプトイメージが発表。」というタイトルの虚構記事だ。2027年からファッション・ライフスタイル雑誌のBOGUEはその一年のジェンダーフリーファッションの指針となるコンセプトイメージを発表するようになる。StyleGANで生成されたそのイメージは非常に抽象的だが、それ故に女性/男性的という概念を曖昧にする上に、「ジェンダーフリーを意識していないデザインだ」という批判からも上手く回避している。

https://men-women-fashion-classify.glitch.me

記事内に挙がっている画像2枚は、男性のストリートスナップ写真500枚もしくは女性のストリートスナップ写真500枚をStyleGANにインプットして生成した画像になっている。 その生成された画像を、同様の写真を500枚ずつTeachable Machineにサンプルとして学習させたものに判別させ、男性か女性か曖昧な割合(記事で挙げた画像は男性46%、女性54%のものと男性45%、女性55%のもの)を示した画像を2枚ピックアップした。

男性のストリートスナップ写真500枚をStyleGANにかけて生成した画像の例
女性のストリートスナップ写真500枚をStyleGANにかけて生成した画像の例

また、そのTeachable Machineの判別器は、ユーザーの画像のインプットに対応したものが記事内にある。

SUMMARY

将来的には服も各々が自宅で作るようになるだろう。ネットからデザインをダウンロードして、自分の身体に合わせて縫合されていく。そこで大事なのは女性/男性を選択するUIが消え去るということだ。いま服屋に行って男性/女性コーナーが分かれている理由の一つは身体的な特徴の違いだ。私も女性コーナーの服を着たいと思うことがよくあるが、大抵は肩が入らない。自分の身体に合わせてデザインされるようになるということは、一番現実的なジェンダーフリーな行為なのではないか。記事内で挙げた「コンセプトイメージ」はそんな世界に非常にマッチしそうだ。

しかし、どれだけ人間を纏うものや取り扱う道具をジェンダーフリーにしようと、生殖器がある限り性別はあり続ける。私としては、生殖器などすべての人間から取り払って、オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』の世界のように子供は工場から出瓶(デカント)されればいいと思っている。もちろん100年・1000年ではなく1万年・10万年単位で考える必要があるが、Sci-Fi的に考えるとはそういうことだ。小松左京はこんなことを言っていた。「1億年もすれば人類の痕跡なんか完全に無くなってしまうんだから、環境問題なんて考える必要はない。」

ジェンダーフリーを考えるということは、倫理的な問題でありすべての人が関わっている故に非常に難しいことである。だからこそ、私たちは抽象的で曖昧な方向へと向かっていくのではないか。この作品を通して、ジェンダーフリーファッションに興味を抱き、議論が促されたら、スペキュラティブデザインをやる身としてそれほど嬉しいことはない。

真鍋創人

慶應義塾大学環境情報学部2年

「個人の幸福度を株のように取引できる世界」をテーマにスペキュラティブデザインの手法を用いた作品をつくる。

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