新型コロナウイルスの算数(15)

「数字だから」という理由で信用してはいけません

首相演説原稿を読み直す(1)

岡田 康之
岡田康之のブログ

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コチラの記事 でもし私が高級官僚だったら、安倍首相の演説原稿はこう書く、という試みをしました。

この原稿の書くにあたって、私が心がけたのは

どのようにして、突然の小中高校の休校要請(=実質は命令)をもっともらしく思ってもらえるか?

でした。

そもそも、突然の小中高校の休校要請には合理的な理由付けは不可能です。政治的判断なのですから。

その理由が合理的で、新型コロナウイルスの感染拡大を止めるために確実に有効だ、と思われるものであるのなら、わざわざ「政治的判断」だと言う必要はありません。医療関係者や専門家からも積極的かつ全面的な協力を得られるからです。

そうはならない決断だから「政治的判断」なのです。その裏には何らかの理由があるはずです。私には想像もできませんが。

そんな「英断」を、多くの国民に納得してもらおうと思えば、信用できそうなスピーチが必要です。

それには数字を使うの一番もっともらしい

と考えました。

まだ読んでいらっしゃらない方は、コチラの記事 に一度目を通していただいたあとで、この記事を読んでいただけると嬉しいです。

そしてもし、前回の記事を読んで

全国一斉休校も悪くない

という思いが、読む前より多少でも増したのであれば、私のねらいは成功したということになります。

考えられる最大の数字を出す

今、日本で一番関心が高い数字は、新型コロナウイルスの感染者数でしょう。そこで、最初に私がしたことは、この数字が一番大きくなる試算です。

記録のある限り、これまでに一番多くの人が感染したパンデミック(世界的な感染症の流行)はスペインかぜです。そこで国立感染症研究所の資料 から、

1918年〜19年にかけて5億人が感染したと言われています。

という数字を引っ張ってきました。その上で

当時の世界人口は約20億人ですから、世界中で4人に1人が感染したことになります。

として、感染者数を試算するための数字を 25% とする根拠にしました。

しかし実はこの数字は、2シーズンにわたってのデータなのです。でも、言われなければ、ついうっかり1シーズンのことかと思いますよね?

ですから、最初の年の方が流行するとしても、今年、日本で新型コロナウイルスに感染する人は、 20% にもならないでしょう。ましてや、4月、あるいは5月までの試算であれば、10% に届かない可能性もあります。

にもかかわらず、さり気なく 30% にかさ上げし、現在の日本の人口をかけ合わせ、

感染者 38,040,000 人

という数字を出しました。こう書けば、自分の周りでも、文字通りあっという間に感染が広がるような気分になりますよね?

感染者 ≠ 感染確認者のからくり

ところで、この感染者という言葉は、たいていの人は誤認、あるいは混同しています。

政府やマスコミで感染者と表現されているのは、感染したと確認できた人のことです。もう少し厳密に言うと、検査で陽性になった人のことです。

現状では、感染していて検査をしても、30% 〜 70% くらいの人が陽性になるだけです。裏を返せば、感染していて検査を受けても 70% 〜 30% の人は陰性になるのです。

感染した人が全員検査を受けたとしても、陽性になって感染が確認できる人は、間を取れば 50% なのです。仮に本当に感染者が 4000 万人いても、陽性になり「感染者」という数字になるのは 2000万人 くらいです。

これくらいのからくりは、少し自分の頭が使える人なら、すぐに見抜くかもしれません。でも首相が堂々と語れば、3600万人という数字はインパクトがありますよね。

しかし実際にはおそらく、最も感染が広がったとしても、いわゆる感染者 = 感染が確認された人の数は、今年いっぱいで考えれば、

(日本の人口)×(感染する割合)= (感染した人)
(感染した人)×(陽性になる割合)= (いわゆる感染者)

なので

126,800,000 × 0.2 =25,360,000
25.360,000 × 0.5 = 12,680,000

そんなわけで、日本で 1,300万人 くらいの人が新型コロナウィルスに感染したことが確認される可能性はあります。

新型コロナウイルスの死者は6万人か?

専門家の間では、感染した人の内の0.2% くらいが亡くなるという人が多いので、今年中に実際に感染する人を、少し多い目に見積もって、3000万人だとすれば

30,000,000 × 0.002 = 60,000

ですから、6万人くらいの方が亡くなることになる計算になります。

けれども実は、日本では、毎年10万人程度の方が肺炎でなくなっています。お年寄りが食べ物を誤って気管支に入れて肺炎になる、嚥下性肺炎(えんげせいはいえん)をのぞいてです。

仮に今年、10万人の方が新型コロナウイルスに感染して肺炎で亡くなったとしても、その半分くらいの方は、新型コロナウイルス感染症が流行しなくても、亡くなっていたことでしょう。

人の致死率は 100% ですから。

というわけで、前回の記事に書いた「首相演説原稿案」はとんでもなく大きな数字を根拠にして、コケオドシして、強弁したものだったのです。

その種明かしままた次回。

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岡田 康之
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(おかだ やすゆき) 高校数学を教えて計算力の重要性に気づき、計算力の向上に尽力したら生きていく力を培う必要性に行きあたった。600人の個人指導を続けてきたら、自分自身を育てることの欠落に気づき、学び方を再構築している。