新型コロナウイルスの算数(10)

算数ができないジャーナリスト

やみくもに検査をしても意味がない理由

岡田 康之
岡田康之のブログ

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スポニチの記事によると、「ジャーナリスト」の田崎史郎氏が

政府は難しい決断を日々迫られている

と話されたそうです。

それはその通りだ、と私も思います。

でも私がそう思う理由は、田崎氏のように

下船後は一応、大丈夫であろうという前提で下りていただいたんですけど、そこから(「感染者」が)出たってことは今後、出てくる可能性があるんですね

しかしながら下船を認めないまま、あそこに留め置けたかっていうとそれも合理的な理由がないんですよ

といった、のん気な話ではありません。

検査が陰性で、下船が許可されたとしても、ちっとも大丈夫ではない

ことは、小学校で習う算数でわかるからです。

そもそもクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客と乗員の全員を検査しても、その結果が陰性だった人が感染していない保証は、どこにもありません。新型コロナウイルスに感染していても100%陽性になるとは限りませんから。

また、陽性だった人が感染していないこともあるのです。

「完璧な検査」をできる人はどこにもいないからです。

検査で感染した人が陽性になる確率を感度と言いますが、実はこの感度、絶対に100%にはなりません。

まず第一に、感染している場合でも、きわめて初期の段階であれば、ウイルスが少なすぎて見つけられないことがあるからです。他にも理由はありますが、感度100%の検査は人間業ではありません。

おまけに、新型コロナウイルス=COVID-19は、まだその存在が知られてから、それほど時間がたっていないので、感度がどれくらいあるのかの定説もありません。

私の知る限りの専門家の発言でも、30〜70%と幅があります。

今のところ、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客乗員で、感染したことが確認された人は691人です。

仮に感度が 90% だったとすると

(実際に感染している人) × 0.9 = 691

ですから、計算すると

691 ÷ 0.9 ≒ 767.7

となり、768人ほどいることになります。

768–691 = 77

の方が、陰性だったけれど実際には感染しているのです。ですからもう一度、陰性だった方々全員を検査すれば

77 × 0.9 = 69.3

となり、70 人くらいは陽性になります。新しく感染が確認されることになるのです。さらに2回目でも陰性だった人全員を検査すると

7 × 0.9 = 6.3

と計算できます。だから、まだ一人は見逃す可能性があるのです。

しかも、検査自体は陰性だった人全員をしなければなりませんから、

2回目は 3009人、3回目は 2939人、合計で9648回の検査行わなければ、その結果がだせません。

感度が 70% であれば、

691 ÷ 0.7 ≒ 987.1 …… 本当に感染しているだろう人数 =感染者数
987–691 = 296 …… 1回目の検査で陰性だった感染者数
296 × 0.7 = 207.2 …… 2回目の検査で初めて陽性になる感染者数
296–207 = 89 …… 1回目・2回目の両方で陰性になる感染者数
89 × 0.7 = 62.3 …… 3回目の検査で初めて陽性になる感染者数
89 − 62 = 27 …… 3回の検査全てで陰性になる感染者数

というわけで、3回検査しても陰性のままの感染者が27人位いることになります。

ですから、アメリカなどで検査が陰性だった人が陽性になったりしていますが、まったく驚くことではありません。

そして、実際には感度はもっと低く、60%かもしれないし、50%かもしれません。

だから、どんな人に何回検査をするのかを決めるのが、とてもむずかしいことなのです。

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岡田 康之
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(おかだ やすゆき) 高校数学を教えて計算力の重要性に気づき、計算力の向上に尽力したら生きていく力を培う必要性に行きあたった。600人の個人指導を続けてきたら、自分自身を育てることの欠落に気づき、学び方を再構築している。