新型コロナウイルスの算数(14)

首相演説原稿を書いてみた

数字でウソをつくことができる

岡田 康之
岡田康之のブログ

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全国一斉の学校閉鎖要請は、さまざまな立場からいろいろな人による批判の嵐にあっています。その原因は、発表の仕方ではないか、と私は思います。

そこでもし、私が高級官僚で、安倍首相の発言のゴーストライターだとして、国民に対するテレビ演説の原稿を書いてみました。

国民の皆さん

緊急の全国一斉の小中高校の休校により、多大の苦労をおかけいたしております。

しかし、これは日本の将来を左右する未曾有の危機を回避する唯一に近い選択だったのです。みなさんにご説明するのが少し遅くなりましたが、基本的なところだけでもわかっていただきたいと、NHKでお話させていただくことにいたしました。

まず確認しておきたいことがあります。それは、危機管理の鉄則は、最悪の事態を想定してそれに備えること。すなわち、できる限りの対応を、できる限り速く行うことだということです。

科学的根拠いわゆる「エビデンス」を示してから政策を実施せよ、という方もいらっしゃいますが、確かな科学的根拠が出る頃には、事態は終わっているからです。

ですから「いろいろやってみたけど、結果としてはそれほど大変なことにならなかった」というのは最高の危機管理ができたということなのです。

もし、この学校閉鎖要請をしたにも関わらず、新型コロナウイルスの感染がとんでもない勢いで拡大したのなら、遠慮なく私を断罪し、罷免していただきたい。

しかし、大きな被害が出なければ、学校閉鎖してよかったと考えていただきたいのです。なぜなら、最悪の事態を予想して、それに備える。それが危機管理だからです。

新型コロナウイルスの感染拡大は、まだ本格化しているとは言えません。わが国ではこれから市中感染が拡大していく手前だと考えております。

中国では沈静化の方向になってきているようですが、まだまだ予断を許しません。そして中国以外では、これから感染が拡大していくことになるでしょう。

今後どうなるのか?

はだれにも断言できないのです。

そこで、今ある情報で、最悪の事態を予測してみましょう。

まず、死者を予測してみます。

感染していない人は、新型コロナウイルスに対する抗体を持っていないわけですから、何も手を打たなければどれくらい感染が広がっていくかは科学的には予想できません。

現実的ではありませんが、国民全体が感染する可能性も否定はできません。

けれども、参考になりうるデータとして、スペインかぜがあります。1918年〜19年にかけて5億人が感染したと言われています。当時の世界人口は約20億人ですから、世界中で4人に1人が感染したことになります。

もちろん時代も違えば、状況も違います。また、世界中の人々にまんべんなく感染したわけもありません。しかし日本は世界に先駆けて感染が始まった国です。

そこで仮に手を打たないとして、今回日本で、新型コロナウイルスに感染する人の割合を、少し高めの 30% と仮定します。

日本の人口は1億2680万人ですから

126,800,000 × 0.3 = 38,040,000

つまり約 3804 万人が感染することになります。

いま俗に言う「感染者」とは感染が確認された人のことで、実際に感染した人の1割位だろうと言われています。3月2日時点では、世界のこの感染確認者に対する死亡率は 3.4% です。中国を除く世界の感染を確認された人の中で亡くなった人の割合は、8,763人中108人ですから、1.2%です。

そこで、今回の致死率を2%とすれば、

38,040,000 × 0.02 = 760,800

なんと76万人もの死者が出る可能性もゼロではないのです。1000人に6人、167人に1人くらいが亡くなる計算です。

しかし、専門家の方々に聞くと、実際の感染者はもっといるので、一桁は下がるだろうというお話です。そこで 0.2% とすると

38,040,000 × 0.002 = 76,080

それでも、7万6千人です。

ちなみに、現在日本で肺炎で亡くなる方は、毎年10万人前後ですから、倍近くの方が肺炎で亡くなる可能性があるわけです。

この10万人というのは嚥下性肺炎はのぞいた数です。つまり感染症やがん=悪性新生物による肺炎でおよそ10万人が毎年亡くなっています。

これだけでもけっこう大変なことなのですが、実は問題はそこではありません。

問題なのは、死者の数ではなく、重症者の数です。 重症化率は2割と言われていますから

126,800,000 × 0.3 × 0.2 = 7,608,000

ですから、何も手を打たなければ、760万人の方が重症になるかもしれないのです。

100人に6人、50人に3人、言い換えれば4、5軒に一人重症者が出るのです。

一方、日本の医療機関で手厚く入院治療できるのは1万に満たないのです。

予想の10分の1の76万人の重傷者でも確実にパンクします。重傷者は病院では見てもらえず、家族で見るしかなくなります。

仮に500万人の重症者が出れば、仕事に行ける人は激減します。看病のために1人休めば1000万人近い人が仕事を休むことになるからです。経済も物流も大混乱に陥ります。

2週間も3週間も呼吸困難に苦しむ重傷者を家族が看病するしかありません。医者にもいけず、薬もマスクも不足した状況でです。

そうなると、新型コロナの死亡率が上がる可能性も出てくる

なんとか回復したあと、勤め先はすでに倒産していたなどという家が20軒に1軒くらい出るかもしれない。

日本社会は大混乱し、コロナで死なずとも倒産自殺の嵐となることでしょう。

こういう破滅的状況だけはなんとしても回避しなければなりません。これがわが国の今の現実なのです。

感染を確認できた人が1000人以下の今こそ、市中感染にブレーキをかける。それが至上命題なのです。

治療法が対症療法と実験的な投薬しかない今、有効な手立てはいっさいの人の行き来を止めることです。

お隣の中国の場合は共産党政権なので、経済も交通も封鎖したりできて、なんとか10万人程度の感染確認で頭打ちにできているようです。

しかし日本の場合、企業は止められません。業務停止にする法的根拠はありませんし、要請するだけでは効果は期待できません。

なにか手を打たなければ大変なことになる可能性があるときこそ求められるのは、政治的英断です。そこで考え抜き、学校に休校を要請することにいたしました。

今までやったことのないことですから、有効かどうかもわかりません。その判断ができるのは来年以降の検証によってでしょう。

もちろん問題が噴出するのは確実だと考えていました。実際、アチラコチラで不満や疑問がわきあがっています。困っていらっしゃる方も大勢いらっしゃる。それは百も承知の上での決断なのです。

その一つ一つをつぶしていく覚悟と決意をしっかりともって、私は日本国首相として、この政治判断をしました。

意見や思想の違いを乗り越えて、一丸となってこの国難を乗り越えようではありませんか。

私も与党も野党も、何より国民の皆さんもワンチームになるのは、今なのです。

実は、この演説原稿にはトリックがいくつか入っています。

種明かしはまた後日。

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岡田 康之
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(おかだ やすゆき) 高校数学を教えて計算力の重要性に気づき、計算力の向上に尽力したら生きていく力を培う必要性に行きあたった。600人の個人指導を続けてきたら、自分自身を育てることの欠落に気づき、学び方を再構築している。