くらしとコミュニティが育む居住者の帰属意識

連載:タワーマンションの寿命が尽きるとき―つくる責任と看取る責任(その3)

森本修弥
建築討論
Jun 21, 2022

--

前回(その2)では、タワーマンションがその価値を失わず永続するには、住む人々が愛着を持ち世代を超えて受け継いでいけることが基本であるとした。それにはタワーマンションの居住者相互のコミュニティの創出だけでなく、そのタワーマンションが地域に愛される存在であることが重要である。コミュニティには多種多様な定義があるが、この場合には住棟内外での身近な近所付き合いや、共通の目的をもったグループ活動と考えればよいだろう。

「タワーマンションでは、小さな単位での人々の交流、多様な人を包みこむ多様な交流の機会、さらには計画性をもって管理ができる体制の構築が必要である。」★1とされている。多くのタワーマンションでは管理会社の支援があるものの、居住者の共同居住への帰属意識が薄れると、管理組合総会での重要議決事項も可決困難となり、維持管理不全に陥る危険がある。今回は居住者による維持管理やコミュニティ活動などの積極的な取組み事例に焦点を当てて議論したい。

多重に区画されたゲーテッドシティ

タワーマンションでは高度なセキュリティシステムが売り物とされる。昨今は4重のセキュリティ区画が多く、建物入り口、エレベーターホール、エレベーター内での停止階ボタン操作、住戸の玄関の4か所においてルームキーをセンサーにかざすことが求められる。同じ住棟内であっても異なる階に居住していれば、互いの住戸を気軽に訪問するわけにはいかない。

高度なセキュリティシステムは、富裕層など生活に秘匿性を求める居住者や投資目的の非居住所有者には歓迎される。一方で、市街地再開発によって建てられたタワーマンションでは地域とのつながりの強い従前地権者が居住することが多く、彼らにとっては高度なセキュリティシステムはかえって互いに交流のしづらい居住環境を生むこととなる。

セキュリティの強化と近所付き合い、さらには地域との交流には、要求が相反する課題が内在する。

地域に開放された屋外空間と住民ボランティア組織による維持管理

東京都板橋区中台にあるサンシティは、1980年に旭化成研究所跡地開発により竣工した分譲住宅団地で、敷地面積124,690㎡、総戸数1,872戸の規模である。A~N棟の14棟で構成され、うち2棟が初期のタワーマンションとして知られる超高層住棟である。

この開発の特徴は、写真1のように深い樹林に囲まれた都市公園のようなランドスケープ計画であり、東京都の防災広場として位置づけられているため、地域住民も自由に出入りできる。

写真1 サンシティ(左:超高層住棟、右:散策路)著者撮影

この樹林は管理費節減のために、住民の有志により構成された組織であるSGV(Sun city Green Volunteer)の手により維持管理され、「生物多様性保全につながる企業のみどり100選」など数々の賞を受賞している。

写真2にあるように、玄関ピロティには子供たちからのSGVへの感謝のメッセージが掲示されている。

写真2 活動への感謝のメッセージ(左:全景、右:クローズアップ)著者撮影

住棟は現在の水準からみれば質素な造りであり、厳重なセキュリティ区画はないが、40年以上を経ても世代を越えて住み続けられているのは、建物の価値が存続しているからであり、それは居住者による熱意を持った取り組みによるところが大きい。

一方、建築計画面では容積率が200%を下回っていて空間に余裕があることが、居住者の活動の核となる豊かな樹林を生み出したことにも留意したい。

管理組合の代表者の牽引力

筆者が属する一般社団法人新都市ハウジング協会では、2つのタワーマンションの管理組合に、維持管理の実態をヒアリングしたことがある。

一つはタワーマンションが林立する地域として知られる神奈川県川崎市の武蔵小杉地区にあるレジデンス・ザ・武蔵小杉(設計:住環境計画、開発主体:リクルートコスモスほか、2007年竣工)で、地域全体のコミュニティ活動の立ち上げには、専門コンサルタントや行政による支援があった。

もう一つは下町の既成市街地での再開発であるリガーレ日本橋人形町(設計者:松田平田設計、開発主体:再開発組合(都市再生機構協力)、2007年竣工)で、街区内にある神社の祭礼を核とした活動が活発である(表1)。

表1 維持管理について管理組合へのヒアリング結果(筆者作成)

いずれの事例でもこれだけ多様なコミュニティ活動を行うのは、専従でない限り容易なことではなく、活動の成否は管理組合の代表者の積極性によるところが大きい。

建築計画面では、過度な内装の造り込みや設備の導入を避けることが求められている。特に子供の活動を考えると、汚損することを気にして気軽な利用がしづらくなるためである。

また共用部では他街区の居住者や地域住民の利用も可能な範囲で行っているが、これらはタワーマンションの販売側からみた商品戦略からは逆行している面がある。すなわち、高度なセキュリティシステムを売り物にする場合、居住者以外の人間の立ち入りはそれとは矛盾するからである。

空中のコミュニティ空間は成立するか

1990年代に東京都臨海部で公営や公団等により建設されたタワーマンションでは、空中のコミュニティ空間による居住者間の交流が試行された。パブリック空間である共用廊下から扉一枚でプライベート空間である住戸に入るのではなく、もう一段階のヒエラルキーとして追加された、あるまとまった単位の住戸群のテリトリーとなるコモン空間が設えられたのである。特に臨海部では市街地としては未成熟期にあった立地ゆえ、竣工当初は交流の対象となる地域住民が少なく、まず住棟内での居住者間コミュニティの創出を図ったものと考えられる。

その後、同様の取り組みは都心部立地のものにもみられ、表2のように東京都内で8例がある。通常、タワーマンションでは住棟の南面の住戸が最も分譲価格や賃料が高額になり、東面や西面の住戸がそれに次ぐ。ところが、トミンタワー台場三番街(設計者:日本設計、開発主体:東京都住宅供給公社、1996年竣工)、同東雲二丁目(設計者:日本設計、開発主体:東京都住宅供給公社、1996年竣工)、ファミーユ西五反田(設計者:山下設計、開発主体:品川区、2004年竣工)では南側の、シーリアお台場三番街4号棟(設計者・開発主体:都市再生機構(鹿島・長谷工JVの実施設計・施工)、1996年竣工)ほか、では西側のほとんどすべての階がホールや空中庭園などと称するコミュニティ空間に充てられていて、開発利益を最大限に追求する民間の計画ではあり得ない構成となっている。すなわち、分譲価格が最も高額あるいはそれに次ぐ方位にある部分を、売れる住戸ではなく、共用スペースの配置に充てているからである。

一方で公共住宅でも事業性が全く無視されるわけではないが、民間ほどにシビアではない。むしろタワーマンションの急増を控えてプロトタイプとしての使命を担っていたのではないだろうか。

これら空中のコミュニティ空間の配置を立体的に見ると、各階に配置したものや、吹抜を2層おきに配置し螺旋階段などを設けて2層単位で利用できるようにしたもの、また同様に3~5層おきに配置したものなどの例がある。民間のタワーマンションでは、自己の居住しない階への進入を制限するセキュリティシステムもみられるので、このように2層おきに居住者が行き来すると階単位でのセキュリティ区画は成立しないことになる。

通常、数百戸クラスのタワーマンションでは、全住戸を対象とした集会室などの共用部は、主にロビー階や別棟などに配置され、他の居住者のテリトリーを侵さないように配慮される。一方、このような共用空間の設置とは異なり、上述してきた空中のコミュニティ空間の利用形態としては、身近な場所でのもう少し細かい単位での住戸のまとまりを意図したものといえよう。

表2 空中のコミュニティ空間の事例(筆者作成)

では、これら空中のコミュニティ空間が実際にコミュニティ創出の場となっているのだろうか。

前述のシーリアお台場三番街4号棟では、設計者自身もこの空間の効用について懐疑的な見方をしている★2。曜日や時間帯にもよるが、これらを筆者が観察した限りでは人影もなく閑散とした空間であり、ボール遊びやスケートボード、飲食の禁止を告げる張り紙があるなど子供だけでなく大人にとっても窮屈な運用となっている。これらのコミュニティ空間には住戸が近接しているため、騒音防止などの観点からの措置であろう。

ところが、災害発生後の生活継続性の面からみると、この空中のコミュニティ空間は威力を発揮するかもしれない。災害発災後の停電によりエレベーターの停止が長期に及ぶと、生活継続性が大きく低下する。5階建て以下の共同住宅をみると、エレベーターのないものもある。これを肯定的に捉えて5階以内の階段の昇降を限度とすれば、最低でも10層おきに節のようなかたちで空中のコミュニティ空間を設けると、非常時には救難の拠点として、飲料水や非常食の供給、あるいは住民同士の励まし合いの場としての機能が期待できる。このような空間に対しては、容積率制限の対象から外すなど、実行可能な誘導措置が必要であろう。

次回の連載に向けて

タワーマンションの価値存続という課題に対して、居住者の立場からは居住者相互の、そして地域とのつながりを育むことで永く愛着を持って住み続けられる住空間とすること、さらには計画者の立場からはそれを促す試みがあった。日常の人と人とのつながりの延長には災害時での助け合いがある。

それでは、激甚化する災害に対してタワーマンションはどのように対応していくべきなのか、それを次号でみていきたい。

_


★1 : 齊藤広子:タワーマンションではコミュニティ形成は難しい? 齊藤広子/浅見泰司:タワーマンションは大丈夫か⁈, p.124, プログレス, 2020.4
★2 : 浜(1992)では、当時の住宅・都市整備公団東京支社都市再開発部東京臨海開発課長の浜恵介は、「空中庭園であるとか、スカイガーデンであるとか、いろんな名前を付けて住棟内の遊び場をつくったのですが、これが成功した例は事実上ありません。」と述べている(浜恵介:東京臨海副都心での「台場地区33F」1棟 超高層住宅最新事例, p.70, ジャテックインターナショナル・出版部, 1992.2)。

--

--

森本修弥
建築討論

もりもと・しゅうや/1959年東京都生まれ、東京工業大学大学院理工学研究科修了。日本国有鉄道を経て日本設計勤務。専門は高層・超高層住宅。博士(工学)。受賞歴に茨城県建築文化賞優秀賞(水戸プラザホテル)、グッドデザイン賞(釜石市上中島町災害復興公営住宅Ⅱ期)、都市住宅学会論文コンテスト博士論文部門優秀賞など。