ぼっこでっこ建築隊、つなね2–01へゆく。

建築家の自邸訪問/Bokko Dekko Kenchikutai goes to ‘Tsunane 2–01’./太田康仁

ぼっこでっこ建築隊
建築討論
10 min readSep 30, 2018

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連載第7回/2016 年 9月25 日/設計:阿久津友嗣

9月末というのに秋の気配が全然感じられず、空がまだまだやたら青い夏のある日、我々は近鉄高の原駅に集合していました。そう今回も「ぼっこでっこ建築隊」は新たな建築を目指して、やってきたのであります。ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に料理と酒を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティなのです。

今回のメンバーもいつもと同じく、ヤベ隊長を筆頭に、リョーヘイ顧問、ブン隊員、オクワダ隊員、私オオタ隊員がゾロゾロと、駅からの道を南下します。

歩くこと約7分、そこには築浅にしか見えない、コーポラティブハウスが建っていました。あの、建築の教科書に必ず出てくる、コーポラティブハウスです。今回は、3階立ての集合アパートなのですが、デザイン性が素直に表に出ています。

「築浅にしか見えない」というのは管理が隅々まで行き届いているのが一目で分かるからであり、外壁の綺麗さや、庭の手入れなど、住民全体の意識の高さが伺えます。この辺りも、住民参加型というコーポラティブハウスの良さなのでしょうか。

建物のアクセントになるくらいの赤いワーゲンの横を抜け、インターホンを押すと、建物の外にとても穏やかそうな(あえて誤解を恐れずに言えば「熊のぬいぐるみ」のような)阿久津さんが、出てきてくださいました。

外にいるということで、まずは建物全体を案内してくださることに。建物配置としては二の字型をしており、東西向きに空間が抜けています。その抜けた空間は起伏にとんだ中庭となっており、なだらかに続く緑のスロープを歩くのがとても気持ちいいです。

断面計画もその起伏を素直に受け入れて行われており、平面方向だけでなく断面方向へのつながりが楽しいのも魅力の一つでした。

ファサードは、コンクリートスラブが各層、水平に伸び、その間に限られた種類の外壁素材を使い分け、退屈にならない外観となっています。慎重にそれらの素材を選ばれているからか、カラーもグレートーンにまとめられ、所々に見られる木製鎧戸が温かみのアクセントを加えていました。サッシワークも美しく、コーナーの抜け感を演出したりするなど、デザイン性を感じられます。

各々の家にはもちろん入れないので、次に中庭に面する集会場に案内してくださりました。

このアパートに併設された集会場は、全開放できるアルミの折れ戸が南北の壁にあり、そこを開け放つと、中庭と一体となった開放感がすばらしいのです。

ここでよく住民たちの食事会などもするとおっしゃっていましたが、集う場所にはもってこいだと思いました。建築関係の方が多くかかわる建物だからか、集会場にあった、タタミスペースは箱型になっており、中から掘りごたつのように机と足を取り出すと、みんなで座れる大きなちゃぶ台にもなります。僕は、この辺の「遊ぶため」の工夫を見るのが大好きです。

全体の見学ツアーが終わり、ようやく阿久津邸へ。
阿久津邸は北棟の西側地下部分に当たる所に位置し、住居の半分は地下にあたります。

魅惑的な路地のような通路をコの字に回ると、そこには中庭テラスがあり、そこに面する木製の掃き出し窓がそのまま玄関となっています。

早速、お邪魔させて頂き、食べ物を並べ、みんなで乾杯。まだまだ暑いので、喉に落ちていくビールがうまいうまい。

食べ物を頂きながら、色々な話を伺いました。
そもそも阿久津さんはこの敷地を購入する気はなかったそうです。奥様と「ひやかし」のつもりで訪れたコーポラティブハウスの説明会では、あと4人を募集していたようでした。色々と話を聞いていた阿久津さんの琴線に触れたのは「半地下」というワードだったようで、ご自分でも「半地下と聞いて燃えた」とおっしゃってられました。この条件を克服することに建築家として、「スイッチ」が入ったそうです。

ある程度落ち着いた所で、今度は阿久津邸内部を見学。
プランとしては、「地階にあたるこのフロアーにいかに風を通すか」から検討を始められたそうです。ちょうどF型に通路・中庭を設け、南北を貫く軸線の先は地上に抜ける開口(ドライスペース)となっている為、地下通路であっても十分な通気が感じられました。しかもそのドライスペースからは、まるでダンジョン迷路のゴールのように、神々しい光が降り注いでいます。

室内プランもユニークで、通路を取り込むと回遊性のあるプランとなっており、北から仕事部屋、プライベート空間、中庭、板間の和室が細長いLDK空間で繋がっています。

収納の考え方がすばらしく、プライベート空間内に、二の字型に収納スペースを設け、全体プランの中心に配置しています。こうすることで、壁の両面を収納として使うことができ、廊下のないプランが実現できています。

今回はプライベート空間は視察できませんでしたが、二の字の収納の間にはスノコベッドがレールにのせられ、前後に動く仕組みになっているそうです。さらにトイレ・浴室などの水周りも、その二の字の空間に並列に内臓されており、中庭を臨みながら入浴可能です。本当の意味での、完璧なプライベート空間です。

キッチンも明快で、長いキッチンテーブルがあり、広い作業スペースが取れます。下部はスケルトンインフィルを意識してか、配管が何処からでも取り出せるようになっていました。

そしてこのキッチン空間は全面ガラス張りで、西向きの奈良の山々が見え、夕方には赤く美しい太陽が沈んで行きます。

ここで、忘れてはいけないのが外部に取り付けられた可動ルーバーで、どうしても厳しい時期の射光まで考えられています。(しかもこのファサードがカッコいい。)

このようにして、食べながら飲みながらの時間がいい感じに進んだ所で、そろそろギターの時間、ポロポロ弾いていたら、阿久津さんのお友達が来訪。後で聞いてみたらその方もギターが弾けたとか。「弾いて下さったらよかったのに!もっと盛り上がること間違いなし!」

話は変わりますが、今回お話を聞いていて僕が面白いと思ったのは、阿久津さんの「スイッチ」の話でした。

建築家は夢を見ます。

まず最初は、学生の時でしょう。自由に敷地を選べ、自分の建ててみたい建物をそのまま形にしていく。予算なんかお構いなし。先にあるのは「自分はできる!」という自信。これはとてもすばらしい経験だったと思います。

そのうち就職し、仕事でしたくない物件を任されている時も、「自分ならこうするのに!」と常に夢みながら、仕事をしていました。

そして独立した今、仕事でさまざまなクライアント様の「要望」を形にしていきたいとがんばります。敷地特性や、このお客様の「要望」があるからこそ、何もない更地に建物を思い描くことができます。さらに決められた予算は、計画の大きな要素です。

こういったさまざまな「制限」が、ある意味「形への答え」を見出していると言っても、過言ではないと思います。「この要望なら、浴室はここがベストの位置だな」「この隣家の窓位置なら、ここは窓を避けるか」といった「制限」による取捨選択の積み重ねが、設計の大きな流れと言えるからです。

しかし、もしその制限の一つである「要望」が建築家自身なら、これはかなり難しいのではないかと思います。

私自身、一度更地を探し、プランニングをし始めましたが、敷地特性の制限はあるものの、特段シビアな環境ではなく、やはり個人の要望がプランを決定する大きな要因であることが分かりました。

しかしながら、これが決まらないのです。
さまざまな建築を見れば見るほど、そしてコストを考えれば考えるほど、その要望はドロドロに絡み合い、結局プランが決まらず、諦めた経験があります。

この「つなね2–01」を設計された、約18年前の阿久津さんが「自邸」というものに、どのようなスタンスで向かい合われたかは分かりません。しかし、この「半地下」であるという敷地条件が、個人の「要望」を超える、魅力的な「制限」であった事は間違いないように思えました。

さて宴にもどりますと、コンパクトでありながらも、抜け感のある居心地のいい空間は、「ぼっこでっこ建築隊」の大好物。和室にもゴロリと座り、爽快な夏の空気を楽しみながら、至福の時間が過ぎていきました。

夕方7時ごろになり、阿久津さんが少し、もぞもぞし始めました。「奥さんがもうすぐ帰ってきます。」ということで、ぼっこでっこ建築隊、今日はお開き!

思い出しました。
自宅検討の時、デザイン、コストより重要な「制限」に「お嫁さん」というものがあったということを。

ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に酒と料理を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティである。
隊員:矢部達也(隊長)、岡文右衛門、奥和田健、太田康仁、石井良平(顧問)

太田康仁
1974年生まれ。1999年、名古屋工業大学修了。1999–2006年、㈱WAW渡部建築事務所勤務。(2000–01年、カナダ・カールトン大学院留学 -02年、修了。)2006年、オオタデザインオフィス開設。

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ぼっこでっこ建築隊
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ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に酒と料理を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティである。 隊員:矢部達也(隊長)、岡文右衛門、奥和田健、太田康仁、石井良平(顧問)